発売中 価格:49,980円~ 5月末にその存在が公表され、登場が待たれていたデルのミニノート「Inspiron mini 9」が、9月に入ってついに販売が開始された。発表以来、Atom搭載ネットブックの本命と目されていたInspiron mini 9の実力はどうなのか、チェックしていきたいと思う。 ●サイズは他のAtom搭載ネットブックとほぼ同じ Inspiron mini 9は、CPUにAtom N270を採用し、1,024×600ドット(WSVGA)表示対応の8.9型液晶を搭載する、ネットブックとしてはおなじみの仕様となっている。だからというわけではないものの、本体サイズやデザインなどは、他のAtom N270搭載ネットブックとかなり似通っている。 本体サイズは、232×172×27.2~31.7mm(幅×奥行き×高さ)となっている。ライバルとなるASUSのEee PC 901-Xの225×175.5×22.7~39mm(同)と比較すると、フットプリントはほぼ同じ大きさだが、高さは若干Inspiron mini 9のほうが低いといった感じだ。とはいえ、その差はわずかで、ほぼ同じ大きさと考えて差し支えないだろう。 重量は、最小構成時で1,035g、今回試用したものでは実測値で1,051gであった。実測値で1,128gだったEee PC 901-Xよりも77gほど軽い。実際に手に持って比べると、確かにInspiron mini 9のほうが若干軽く感じる。とはいえ、こちらも大きな違いがあるというわけではなく、携帯性はほぼ同じレベルと考えていい。 デザインは、本体角にやや丸みを持たせ、前方が薄く後方がやや厚くなっているために、Eee PC 901-Xにかなり似ているという印象だ。特に、今回試用したのは、天板カラーが「オブシディアン・ブラック」という、光沢の強いブラックだったため、余計にその印象が強かったのだろう。もう1色用意されている「パール・ホワイト」も、同様の色がEee PC 901-Xにも存在するため、デザインに関しても、他のネットブックと大きく変わらないと言っていいだろう。デルは、天板カラーの多色展開が得意なので、他のネットブックと差別化を図るという意味でも、Inspiron mini 9の多色展開も実現してもらいたい。 液晶ベゼルやキーボード周辺の黒い部分と本体底面は、かなりプラスチック感が強いものの、天板部分と、液晶とキーボード周囲のシルバーの部分は光沢感が強いこともあり、見た目の印象は安っぽくはなく、そこそこの高級感も感じられる。
●液晶の表示品質は高いが映り込みが激しい 液晶パネルは、他のネットブック同様、1,024×600ドット(WSVGA)表示対応の8.9型ワイドTFT液晶を採用している。当然、表示される文字やアイコンのサイズは、Eee PC 901-Xなどと全く同じで、サイズは少々小さいという印象を受けるものの、見づらいというほどではない。 液晶パネル表面は、光沢のあるグレア処理が施されており、画像表示時など発色は非常に鮮やかだ。LEDバックライトの明るさも十分で、少々まぶしさを感じるほどの輝度がある。また、上下の視野角はそれほど広くはないものの、左右の視野角がかなり広く、多少見る角度が変わっても発色にほとんど変化が見られない点も嬉しい。ネットブックでは、ノングレア液晶を採用する例が多いが、表示品質に関してはInspiron mini 9が頭ひとつ抜け出しているという印象だ。 ただし、表面がグレア処理されているために、周囲の映り込みはかなり激しい。天井の照明などがくっきりと写り込んでしまい、使う場所によってはかなり気になってしまう。Webアクセスやメールチェック中心の用途などでは、光沢のないノングレア液晶の方が使い勝手がいいので、BTOでグレア液晶とノングレア液晶を選択できるようになると嬉しい。
●日本語キーボードの使い勝手は微妙 Inspiron mini 9では、BTOで英語キーボードと日本語キーボードを選択できるが、今回試用したマシンは日本語キーボード搭載モデルであった。英語キーボードの詳細はこちらのフォトレビューで紹介しているが、日本語キーボードは英語キーボードに比べてピッチが若干短くなっているとともに、小さなキーも増えており、かなり強引に日本語化したという印象を受ける。 まず、5段になっているという点と、ファンクションキーの列がなく、ファンクションキーはアルファベットの[A]の列とFnキーとの併用となっている点は、英語キーボードも日本語キーボードも同じだ。しかし、アルファベットキーなどの主要キーのピッチは15.6mmと、英語キーボードの17mmよりも1.4mm短くなっている。それでも、縦のピッチも約15.6mm(実測値)と、キー自体はほぼ正方形に近くなっているため、ピッチが短いために少々窮屈さを感じるものの、キー入力は比較的軽快に行なえる。 ただし、それはアルファベットや数字キーの一部のみに限ってのこと。数字の8より右、またアルファベットよりも右にあるキーの多くが、非常に短いピッチとなっている。中でも、数字の8からBack Spaceにはさまれている5つのキーと、カーソルキー周辺の8つのキーは、ピッチが実測値で約12mmしかない。これらキーを利用する場合には、隣り合ったキーと同時に押してしまったりして、入力ミスが頻発してしまう。 加えて、Enterキー付近の配列もかなり強引だ。英語キーボードと同じ、1段横長のEnterキーを採用しているために、[キーと]キーがEnterキーの上に来ている点はある程度仕方がないとしても、半角/全角キーがカーソルキーの右に、「ろ」キーと「\」キーが再下段「カタカナ ひらがな」キーの右にそれぞれ配置されており、使い勝手の上からもかなり厳しい。もちろん、これらキーがFnキーとの併用ではなく、きちんと独立して用意されている点は評価できるが、もうちょっと扱いやすい配列を考えてもらいたかったように思う。そういった意味では、キー入力のやりやすさを重視するなら、サイズに余裕のある英語キーボードの選択をおすすめしたい。 それに対し、ポインティングデバイスのタッチパッドは問題がない。カーソル操作のやりやすさは一般的なノートPCのタッチパッドと変わらず、非常に軽快だ。クリックボタンがかなりやわらかく、クリック感に乏しい点は少々気になったが、逆に本体を手でもって操作する場合でも自然に操作でき、なかなか好印象だ。
●ストレージはSSDで、容量は最大16GB Inspiron mini 9の基本スペックは、CPUがAtom N270、チップセットがIntel 945GSE Express+ICH7Mで、他のAtom N270搭載ネットブックと基本的に違いは無く、おなじみの仕様となっている。それでも、Inspiron mini 9には、BTOで仕様を変更できるという、他のネットブックにはない特徴がある。 BTOで仕様変更できるのは、メインメモリ容量、ストレージ容量、内蔵ウェブカメラの有無、キーボードの種類、Bluetoothモジュールの有無、となっている。このうち、メインメモリ容量は512MBまたは1GBの2種類となってはいるものの、実際に選択できるのは、OSがUbuntu 8.04 (DELL カスタマイズ版)の場合だけで、OSがWindows XP Home Edition SP3の場合には1GBで固定となるようだ。ネットワーク機能は、IEEE 802.11b/g対応無線LANと100BASE-TX対応の有線LANが標準搭載となる。 ストレージにはHDDではなくSSDを採用する。容量は、4GB、8GB、16GBの3種類。ただし、4GBを選択した場合には、OSはUbuntu 8.04 (DELL カスタマイズ版)のみとなる。Windows XP Home Edition SP3を利用するには、8GB以上の選択が必須だ。 ちなみに、今回試用したマシンでは、メインメモリは1GB、ストレージは8GB、内蔵ウェブカメラなし、日本語キーボード、Bluetoothモジュールあり、OSはWindows XP Home Edition SP3という仕様だった。
●ファンレス仕様で動作音は皆無 Inspiron mini 9は、冷却用のファンが搭載されない、ファンレス仕様となっている。さらに、ストレージにはSSDを採用しているために、ストレージの動作音も全く発生しない。つまり、Inspiron mini 9には、動作時に騒音を発生するデバイスが一切搭載されておらず、キーボードなどの操作音を除けば、完全に無音で利用できるわけだ。もちろん、キーボードを利用していると音はするが、ファンやHDDなどの騒音が一切しないというのは大きい。図書館など、ちょっとした騒音でも気になる場所での利用も心配の必要がない。 また、ファンレスではあるものの、動作時の発熱もそれほど大きくない。ベンチマークテストを実行し、高い負荷がかかっている状態でも、本体底面やキーボードがほんのり温かくなる程度にしかならない。加えて、ベンチマークテストを数時間連続稼働させてみても、動作が不安定になることはなかった。これなら、ファンレスでも動作に不安はないと考えていいだろう。 ●パフォーマンスやバッテリ駆動時間も大きな違いはない では、ベンチマークテストの結果を見ていこう。利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark05 (Build 1.2.0)」と、HDBENCH.NETの「HDBENCH Ver3.40beta6」、スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」、hiyohiyo氏製作の「CrystalDiskMark 2.2」の4種類。また、比較として、Eee PC 900-Xと、Eee PC 4G-Xの結果も掲載している(CrystalDiskMark 2.2は、Eee PC 901-Xのみ)。各テストは、ASUS独自の省電力機能「Super Hybrid Engine」の設定を、最大パフォーマンスとなる「Super Performance Mode」に設定した上で実行している。 結果を見ると、ストレージ以外はEee PC 901-Xとほとんど同じと言っていい結果となっている。これは、スペック面が全く同じなのだから当然だ。ただし、ストレージの結果には大きな違いが見られる。Inspiron mini 9、Eee PC 901-Xともに、ストレージにはSSDを採用しているが、Inspiron mini 9では読み出し速度はかなり速いものの、書き込み速度が非常に遅い。
HDBENCHの結果を見ると、読み出しはシーケンシャル、ランダムともにEee PC 901-X(Cドライブ)の倍以上の結果が得られている。それに対し、書き込み速度はシーケンシャルこそ若干高速なものの、ランダムでは1/4以下という非常に低い結果となっている。CrystalDiskMarkでもほぼ同様の結果が得られている。
ただ、実際に使ってみると、ベンチマークテストの結果以上に書き込み速度の遅さが気になってしまう。 例えば、USB HDDからSSDに178MBのファイル1個をコピーしてみたところ、約1分3秒かかった。また、平均約2.4MBのファイルが64個(総容量152MB)含まれるフォルダをコピーしてみたところ、こちらは約1分57秒かかった。それに対し、同じ作業をEee PC 901-Xでも行なってみたところ、178MBのファイルのコピーにはCドライブで約12秒、Dドライブで約20秒、総容量152MBの64個のファイルを含むフォルダのコピーにはCドライブで約19秒、Dドライブで約1分20秒だった。この結果からも、Inspiron mini 9のSSDは書き込み速度が極端に遅いことがわかる。とにかく、ファイルコピーなどSSDへの書き込みを伴う作業を行なう場合には非常に時間がかかってしまい、かなりイライラしてしまう。 しかも、SSDの書き込み速度の遅さは、ファイル操作以外の場面でも影響が及んでいる。例えば、YouTubeやニコニコ動画など動画サイトの動画を再生させる場合、動画がスムーズに再生できないことが多いが、これはマシンパワーが足りないのではなく、SSDの書き込み速度が遅いために発生している。YouTubeやニコニコ動画では、視聴する動画ファイルは、再生しながら裏でローカルにキャッシュされるようになっているが、書き込み速度が遅いために再生にも影響が及んでしまうのだ。事実、ローカルキャッシュが完了したあとはスムーズに再生が行なわれる。とにかく、SSDの書き込み速度の遅さはいろいろな場面でパフォーマンスに影響を及ぼす可能性が高いため、今後より高速なものに改善されることを期待したい。 それに対し、読み出し速度が速い点は好印象だ。まず、シャットダウン状態から電源ボタンを押してWindows XPの起動にかかる時間を計測してみたところ、約35秒だった。それに対し、Eee PC 901-XでのWindows XPの起動時間は約36秒だった。Inspiron mini 9では標準でGoogle デスクトップがインストールされているなど、環境が違うため、この数字を直接比較するのはあまり意味がないだろう。それでも、Inspiron mini 9のほうが、Windows XPロゴや「ようこそ」画面、デスクトップが表示されるまでの時間は明らかに短かった。また、休止状態から電源ボタンを押して復帰するまでにかかる時間を計測してみたところ、こちらも約16秒と非常に早かった。このように、読み出し速度が速いだけに、書き込み速度の遅さは非常に残念だ。
【9月26日追記】出荷時の状態ではSSDが圧縮状態になっており、それがベンチマークの結果に影響していました。圧縮解除した状態でのベンチを追試していますので、こちらもご覧ください。 次に、バッテリ駆動時間を計測してみた。今回は、Eee PC 901-Xと同じように、液晶輝度は最大に設定し、無線LANおよびBluetoothも動作させた状態で、動画ファイル(WMV9、ビットレート1,156kbps、640×480ドット)をWindows Media Player 11を利用して連続再生させることで行なった。結果は、約2時間16分で、Eee PC 901-Xよりも1時間10分ほど短かかった。それでも、Eee PC 901-Xには6セルバッテリが搭載されているのに対し、Inspiron mini 9では4セルバッテリが搭載されていることを考えると、バッテリ容量の比率通りと言える。ちなみに、バッテリ駆動時間のカタログスペックは約3時間40分で、今回の結果も妥当な数字だろう。
Inspiron mini 9は、他のAtom N270搭載ネットブックとほとんど同じ仕様ということもあり、パフォーマンスやバッテリ駆動時間などもほとんど変わらず、ある意味安心して利用できるネットブックだ。加えて、一部仕様をBTOで自由にカスタマイズできるという、他のネットブックにはない特徴があるし、最小構成で49,980円からという安価な価格も魅力的。もちろん、デルというブランドも十分魅力になるはずだ。 ただし、デザイン的に大きな特徴があるというわけではなく、キーボードの使い勝手が少々厳しい点や、SSDの書き込み速度がかなり遅い点など、気になる部分もいくつかあり、手放しでおすすめしづらいのも事実。それでも、ネットブックはもともとメインマシンとして使うものではなく、セカンドマシンとして、スペック面などにある程度妥協しながら使うもの。それがわかっていれば、ネットアクセスやメールチェック中心の用途なら、欠点もそれほど気にならないかもしれない。 万人におすすめするには、最低限SSDの書き込み速度が改善されないと難しいが、SSDへの書き込みが余り発生しないような使い方をする場合や、価格重視で欠点を妥協できるという人なら、購入しても十分満足できるはずだ。 □デルのホームページ (2008年9月24日) [Reported by 平澤寿康]
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