山田祥平のRe:config.sys

箱入りインターネットあります




 日本通信が、接続約款に基づくドコモとの相互接続協定を締結した。これで、モバイルインターネットは、ますますおもしろくなりそうだ。仮想移動体通信事業者としてのビジネスが、これからのネットワーク社会に、どのような影響をもたらすのだろうか。

●オールインワンモバイルパッケージ

 日本通信がNTTドコモとの相互接続によるモバイルデータ通信サービス「b-mobile3G」を開始、USB通信端末と接続用ソフト、そして150時間分の通信/ISP料金をセットにしたパッケージが店頭に並ぶことになった。このパッケージを購入するだけで、ドコモのFOMAネットワークを足回りに使ったインターネット接続が可能になる。

 導入はとても簡単だ。販売店で購入したパッケージに貼り付けられたステッカーには、同梱された端末内のSIMカードの電話番号が記載されている。携帯電話かPHSを使って指定された電話番号にダイヤルし、音声案内に従って、自局番号を入力することで、開通手続きが完了し、約15分後に使えるようになる。この15分は目安に過ぎないが、実際にやってみたところ、引き続きPCの設定を終えた時点で、正常にサービスが使えるようになっていた。

 PC側の設定は、まず、同梱のCD-ROMを使ってユーティリティを起動する。そのセットアップ過程でデバイスドライバと専用接続ソフト「bアクセス」がインストールされる仕組みだ。

 専用接続ソフト「bアクセス」はシンプルな作りで、ボタンをクリックすれば接続し、もう一度クリックすれば切断される。また、残り時間や電波の状況、自局番号などを確認できるほか、Web圧縮機能のON/OFFを設定できる。

 サポートOSは、Windows XP(SP2)/Vista以降となっているが、MacにUSB端末を装着してみたところ、ドライブがマウントされ、その中に、ドライバインストール用のパッケージが入っていて、モデムとしてインストールすることができた。一方、専用接続ソフトをインストールしたWindows Vistaでは、インストールディレクトリにドライバファイルがコピーされていた。

 つまり、このファイルを使えば、専用ソフトなしでも接続できるはずだ。

●日本初のSIMフリー端末

 専用接続ソフトであるとはいえ、bアクセスはOSの作法に忠実にダイヤルアップを行なう。Windows Vistaでは接続先エントリーが作成され、その内容を確認すると、接続先電話番号とIDを知ることができる。パスワードはPHS時代のものと同じだった。

 ただし、電話番号がやっかいだ。*99***1#がダイヤルする電話番号なのだが、これは、USB端末に登録されている1番目のAPNにダイヤルしろという意味で、そのAPN名がわからない。

 日本通信によれば、このUSB端末は、日本で初めてのSIMフリー端末だという。そこで、手元の携帯電話で使っているFOMAカードを、この端末に装着して、ドコモのPC設定ユーティリティを使ってAPNを確かめようとしてみたのだが、ユーティリティが端末を認識してくれず失敗に終わった。

 原理的には、日本通信発行のFOMAカードを、ドコモ製の端末に装着すれば、通信ができるはずだが、APNがわからない以上、設定ができない。

 いずれにしても、添付のUSB端末を使う限りは、接続可能残り時間がわからないという点に目をつぶれば、専用ユーティリティを使わなくても、WindowsでもMacでも、広大なFOMAのサービスエリアで高速インターネット接続ができるというわけだ。技術仕様がわかれば、Windows Mobile機やスマートフォンなどのほかのデバイスでも使えるようになるかもしれないが、やはりAPNを明確にして、日本通信が提供するSIMとしてのFOMAカードをこれらのデバイスに装着した状態でサービスが使えるようになるのが理想だ。

 なお、このサービスでは、通信速度の明示がない。端末そのものは3.6Mbps対応だが、同社では数百kbpsが出れば十分実用になると考えているそうだ。サービスインの前日に、実際に接続してスピードテストをしてみると、ユーザーがほとんどいない状態だからなのだろう、手元の環境では2Mbpsを軽くクリアできた。少なくともドコモのネットワークがボトルネックにはなっていないことがわかる。あとは、ユーザーが増えていったときに、ドコモと日本通信間の相互接続部分がボトルネックになるかならないかで使用感が変わってくるはずだ。ちなみに、サービスイン当日の夕方、同じ場所で同じテストをしてみたところ、スピードは500Kbps程度だった。

 なお、帯域やプロトコルに関しては、P2Pや動画のストリーミングで制限を加える場合がある、となっている。が、現時点では、特にその制限は見つからなかった。動画ストリーミングもごく普通に楽しめた。日本通信によれば、ドコモ側で輻湊制御対策のために、制限が加わることがあるということだったが、状況次第ということらしい。

 ちなみに、通信は1時間でいったん切断される。150時間という時分が減算されていく以上、むしろ親切な仕様と考えることもできるが、ユーザーの判断で無効にすることができてもよかったと思う。端末そのものはコンパクトだし、実際の使い勝手は悪くないが、USB端子に装着後、基地局を捕捉するのにちょっと時間がかかりすぎるような印象もある。

●ライトユーザーにはうってつけ

 パッケージの価格は39,900円前後ということで、これで150時間分の通信ができるので、1時間あたり約266円となる。最寄りの量販店ではガラスケースの中に展示され、まさに39,900円でポイントが10%つく値付けだった。新規購入後、150時間使用後は、新たに通信時間のみを購入することになり、秋に発売予定だというチャージパッケージの価格は、今のところ3万円前後を想定しているという。3万円で150時間なら1時間あたり200円程度になるわけだ。ただし、150時間は480日以内に使い切らなければならない点に注意が必要だ。同社がPHSで提供していたサービスでは、加入者の大半が150時間を使わずに更新時期を迎えていたという。

 ちなみに、イーモバイルが提供するEMチャージは、プリペイドで1時間あたり315円でインターネット接続ができる。また、1日定額や、7日定額、1カ月定額といった多彩なプランが用意されている。チャージ金額は2,000円からで、有効期限は90日間、それを過ぎるとチャージ残高は無効になる。端末代金は別なので比較の対象になりにくいが、圧倒的なサービスエリアの差を考えれば、bアクセスが有利かもしれない。イーモバイルの場合、都市部に強いといっても、東京の地下鉄駅構内で使えない現状は致命的だ。

 「b-mobile3G」の場合、足回りはドコモのFOMAネットワークそのものなので、サービスエリアに関してはまったく問題ない。ドコモには、時分従量制のHSDPAサービスがなく、従量制では高額なパケット料金が発生し、現イーモバイルユーザーが、サービスエリア外で保険として使うには高すぎる。でも、「b-mobile3G」なら保険として十分リーズナブルな価格だし、使い方によっては、「b-mobile3G」だけで十分だという結論が出るかもしれない。

●相互接続事業者のメリット

 FOMAネットワークを使ったモバイルインターネットサービスとしては、IIJMobileがすでにサービスを提供している。こちらは、いわゆるホールセールによるもので、いわば大口割引で仕入れた在庫をユーザーに再販するという形式だ。つまり、巨大なパケットパックを卸値で購入して、それを分割販売しているイメージだ。

 それに対して「b-mobile3G」は、通信事業者としての日本通信がドコモと設備を相互接続している。ホールセールの場合、仕入れ先、すなわちドコモが卸価格を上げれば、それをそのまま料金に転嫁するか、ビジネス的に損をしてでも価格を維持するしかないが、相互接続の場合は、算定根拠資料による接続料が適用され、仕入れ先の一方的都合による値上げなどは許されない。現時点では日本通信はドコモとの間で10Mbps帯域を1カ月1,500万円で契約しているという。

 仮に10万ユーザーで10Mbpsを共有すると、一人あたり100bps。全員が同時に使うことは考えにくいので、1,000倍して100Kbpsといったところだろうか。使用状況に応じて、帯域の増強をきちんとしてくれるのであればそれでいい。残念ながら、PHS時代のbモバイルは、ウィルコムの同種のサービスと比べ、圧倒的にスピードが遅く、イライラさせられることが多かった。今回は、そのようなストレスを感じさせないようにしてほしいものだ。それだけに、サービスイン初日に500Kbpsを切る状況はちょっと気になる。ボトルネックがドコモのネットワークではないことはわかっている。

 相互接続とホールセールとの何よりも大きな違いは、FOMAネットワークに対して、ドコモが関知しない端末を接続できる点だ。今回のパッケージに添付されるZTE製端末も、ドコモとは関係なく、日本通信が独自にJATEとTELECの認証を受けて調達している。

 これが何を意味するかというと、FOMAネットワークをSIMフリーの任意端末で利用できる可能性が出てきたということだ。たとえば今、Googleは、携帯電話用のAndoroidと呼ばれるモバイルプラットフォームを推進しているが、その端末が出てきたときに、真っ先に調達して売ることができ、十分に広いサービスエリアで使えるようにできるのは、日本通信になるだろう。なぜなら、端末をドコモのコントロール下におく必要がないからだ。あるいは、別の事業者が端末を作って売り、日本通信からホールセールを受けてビジネスを行なうこともできる。

 今回のパッケージに同梱される端末がSIMフリーをアピールするなら、日本通信は、端末のAPN設定ユーティリティを提供するべきだ。そうすれば現在使用しているAPNも判明し、ドコモの端末でもこのサービスが使えるようになり、ドコモ等他キャリアのSIMでこの端末が使えるようになる。そうした上で、たとえば、欧米やアジア全域で使えるサービスとして「bアクセスワールドワイド3G」といったサービスを提供してくれれば素晴らしい。

 日本通信には、仮想とはいえ、移動体通信事業者としての名に恥じない、しっかりとした品質のサービスを、リーズナブルな価格で提供することを望むと同時に、仮想移動体通信事業者だからこそできるビジネスを積極的に推進し、モバイルキャリアの世界を大きく変えてほしいと思う。

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【8月6日】日本通信、FOMA 3G利用のプリペイド式データ通信サービス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0806/jci.htm

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(2008年8月8日)

[Reported by 山田祥平]


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