山田祥平のRe:config.sys

OutlookをSafelookに変えられないMicrosoftのクラウド




 AppleのMobile Meをかまっているうちに、MicrosoftがひっそりとOutlook Connectorの新版をリリースした。ベータであることには変わりはないが、今回のリリースに伴い、「Microsoft Office Outlook 2003」または 「Microsoft Office Outlook 2007」で予定表の同期ができるのは、有償アカウントのみならず、すべてのLive、そしてHotmailアカウントが対象となるという。これは、大きな進展だ。

●ようやく一歩進んだ同期のソリューション

 どうせまたダメなんだろうと思いつつ、Microsoftのサイトから「Microsoft Office Outlook Connector 12.1 Beta」をダウンロードしてインストールした。何度も裏切られてきているので、うまくいかなくても、もう落ち込まない。

 ところが、驚いたことにインストールして実行したところ、ちょっと試した分にはうまく動いているように見えるのだ。

 Outlook Connectorは、Outlookのプラグインとして機能し、手元のPCにインストールしたOutlookを使ってWebメールサービスであるところのHotmailやWindows Liveメールを扱えるようにするためのソフトウェアだ。

 ここでいうOutlookは、Officeスウィートを構成するソフトの1つであるOutlookで、Windows XPに付属しているメールソフトのOutlook Expressではない点に注意してほしい。Outlookはメール以外に予定表、メモや仕事、連絡先といったパーソナルデータを扱うためのソフトウェアだ。Officeが付属するメーカー製のPCを購入すれば、必ず添付されているので、使っているかいないかは別にして、所有率という点ではかなり高いんじゃないだろうか。

 さて、Outlook ConnectorによるLiveメールやHotmailの読み書きについては以前から問題なくできていた。Liveアカウントを取得し、そのアカウントをOutlook Connectorを使ってOutlookに追加すると、LiveメールをOutlookを使って読み書きできるようになる。メールの実体は、サービス側にあるが、Outlookがそのコピーをローカルに持つようになり、オフライン時にもLiveのメールを読めるし、Outlookの強力な機能を使って管理ができる。具体的には、C:\Users\ユーザー名\AppData\Local\Microsoft\Outlookに、追加したアカウント専用の拡張子OSTのファイルを作り、そこにデータをキャッシュするようになっている。OSTは、Outlookのオフライン・ストア・ファイルに与えられる拡張子だ。複数のPCのOutlookでOutlook Connectorを使って同期すれば、すべてのPCでメールデータを同一に保つことができる。ここまでは、従来のバージョンでも問題がなかった。

 今回の新版リリースにより、受信トレイのメールデータのみならず、すべてのアカウントで予定表のデータを同期できるようになったという。今までは、有償アカウントのみが対象だった上に、有償のアカウントでも同期が正しく機能せず、その不具合が1年以上もの間放置されてきたので、まさに朗報だ。

 試したところ、今回は、いちおう同期だけはできるようになっている。ローカルのOutlookで予定を追加すると、ウェブのLiveカレンダーでも予定が追加される。その予定をウェブで修正すると、ローカルのOutlook上にもその修正が反映される。

●トライ・アンド・エラーでサービス側に既存スケジュールを登録

 気をよくして既存の予定表に登録されたデータを、Liveの予定表にコピーしてみた。ぼくは、Windows 3.1の「Schedule Plus」からMicrosoftのスケジュールソフトを使ってきたので、生粋のアウトルッカーといってもいい。もはや、このソフトなしでは、翌日何時に起きればいいのかもわからないくらいだ。

 既存のOutlook予定表に登録されていたスケジュールデータは約4,500件あった。これをOutlook上で、Liveカレンダーにコピーしてみた。だが、やはり同期でエラーが発生し、うまくいかない。手動で1つ、2つ予定を作って同期させたときはうまくいくので、もしかしたら件数制限にひっかかっているのかとも思い、予定を数十件に減らして試したがやはりうまくいかない。

 そこで、コピーしたデータを削除し、いったんOutlookのスケジュールデータをエクスポートし、ウェブ側でインポートする方法を試してみることにした。Outlookで予定表を開き、ファイルメニューから「名前をつけて保存」を実行すると、iCalendar形式でファイルをエクスポートすることができる。

 ファイルをエクスポートしたら、Liveカレンダーのページで、「購読」を実行すると、公開されているカレンダーを購読するか、ICSファイルからインポートするかを選択できるので、ここでインポートを選び、既存のカレンダーにインポートするようにファイルを指定する。

 この方法はうまくいったように見えたが、途中でエラーが起きた。10MBを超えるファイルはインポートできないというので、チェックしてみたら、エクスポートしたICSファイルは15MBあった。そこで、もういちど、2つの期間に分割してエクスポートをやりなおしたところ、うまくインポートでき、ウェブ上には約4,500のスケジュールデータが格納された。

 一方、Outlook側はどうなったかというと、ほどなくサイトからデータが取り込まれて同期された。ここまでうまくいったのは初めてだ。新たに予定を追加しても、きちんと同期する。

 気をよくして、もう1台のPCにOutlook Connectorを組み込み、そちらでも同期させてみた。複数台のPCでメールと予定を含む、Outlookの全データを同期させることができなければ意味がない。ところが、1台目のPCではうまくできたのに、2台目のPCでは同期でエラーが発生する。同時にログオンしていることがエラーの原因かとも思い、うまくいっている方のOutlookを終了させて、念のためにウェブからもサインアウトしてみたが、やはりうまくいかない。念のために、ウェブアクセスは、もう1台の別のPCでやっている。また、アカウントも有償と無償の2つを使って試している。先日は、AppleにWindows Vista PCがないんじゃないかと皮肉を書いたが、このサービスの振る舞いをみて、Microsoftには、テスト用のPCが1台しかないんじゃないかと思ったくらいだ。

●クラウドとパーソナル・インフォメーション・マネジメント

 ここまで執拗に、Outlook Connectorの不具合について書き続けるのは、ぼく自身が個人的に熱心なOutlookユーザーであるのはもちろんだが、この手の個人情報管理ソフトの存在は、これからのPCの使われ方において、きわめて重要な役割を果たすようになると考えているからだ。だからこそ、AppleもGoogleも熱心に取り組んでいる。Microsoftは、少なくとも、コンシューマーユーザーに対しては、その努力を怠ってきたし、今も怠っていると思う。Officeに添付することで、Outlookを半ば強制的に配布し、これだけで、メールも予定などの個人情報を効率的に管理できますと喧伝してはきたものの、肝心な同期のソリューションを提供してこなかったからだ。

 誰も、持ち出せない手帳なんて使いたくないにちがいない。自宅でデスクトップPCを使っているユーザーは、そのPCでスケジュール管理をしても、それを外に持ち出せないのなら、意味がないと思うだろう。当たり前の話である。デスクトップPCでも、会社や学校のPCでウェブサイトを開いても、あるいは、モバイルノートPCでも、いつ、どれを開いても、オンラインでもオフラインでも、同一のデータが参照できることが保証されるのなら、紙の手帳をやめて、Outlookなどの個人情報管理ソフトを使う気になるというものだが、それができない以上、意味がない。もしかしたら、この手の同期ができるだけで、持ち歩きしやすい携帯用のモバイルPCを1台追加購入するユーザーだって少なくないかもしれないのにだ。

●マイクロソフトにがんばってほしい

 世の中にはいろいろなデバイスがある。今は、UMPCが1つのトレンドになっているが、これも適材適所で使えば役に立つにちがいない。もし、そこにうまく同期のソリューションが加われば、UMPCは飛躍的に便利なデバイスになるだろう。そして、携帯電話やPDAなども同様に、クラウドを使った同期のソリューションを組み合わせることで、その便利さは加速されるはずだ。

 デバイスは競合するものではなく、これからは協調を考えていかなければならないんじゃないかと思う。どれか1つではなく、どれもこれもを考えることが重要だ。ビル・ゲイツ氏は、かつて「Any time, Any place, on Any device」を熱心に主張していたものだが、もう、Microsoftは、コンシューマーのために力を貸してはくれないんだろうか。そうだとしたら悲しいが、でも、ここであきらめずに、Microsoftにはがんばってほしいのだ。彼らの力でできないはずがないのだから。

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【3月14日】【山田】MicrosoftのPlus戦略を台無しにする内部因子
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0314/config200.htm
【7月18日】【山田】AppleにはWindows Vista PCがないというまことしやかな噂
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0718/config219.htm

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(2008年8月1日)

[Reported by 山田祥平]


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