さっそくだが、前回のファーストインプレッションに続き、「WILLCOM D4」(以下D4)を分解してみた。やはり、小さくても中身はPC。スマートフォンなどに比べると部品数も多い。また、Atomプロセッサでフットプリントが小さくなったとはいえ、あちこちに小型化のための工夫がしてある。 D4の筐体は、背面側からのネジで止まっている。ネジは全部で9個。うち1つは、キーボード側、もう1つがストラップホールの中(側面)にあって、バッテリカバーの下に5つ。残り2個は、背面の四角い穴のなかにある。このネジを外すだけで本体部分がキーボード側とメインボード側の2つに分かれる。ただ、バッテリカバーのネジの1つは、ヘックスローブとなっており、気軽に分解して欲しくないという意図が感じられる。また、別のネジは、キーボード面の右手前にある丸いゴムの下にある。これと別にバッテリの下にもネジがある。
バッテリ下にある黒いシールは、実はメイン基板に直接貼り付けられている。また、この部分のメイン基板の一部は切り抜いてあり、そこにW-SIMのコネクタがある。これは、本体の厚みを抑えるための処置だろう。 キーボードは、基板上にマトリックスが構成されていて、そこに直接キートップを構成する樹脂部品が貼り付けてある。その裏側には、部品やW-SIMスロットなどが配置されている。このあたりは、部品配置に苦労した跡が見える。 内蔵のHDDは、東芝の1.8インチHDDである「MK4009GAL」だ。普通のHDDなので、その気になれば、より大容量のものやSSDなどにも変更可能だろう。ちなみに、使った感じでは、D4の発熱の一端は、このHDDにもあるようだ。 本体底部は、上からみて、右側にHDD、左側にバッテリ、真ん中にファンとバックアップバッテリという構造になっており、これを上からメインボードが押さえている。 Atom Z520とSCH(US15W、チップセット)には、銅製のヒートシンクが付けられており、その先は、スリットになって、ファンの排気経路に置かれる。ファンからの風が直接このヒートシンクに当たり、それから外に出て行く構造になっている。
●メインボードは、片面に部品が集中 メインボード上には、CPUやSCHのほかにメモリ、ワンセグチューナカード、電源やサウンド関係の部品などが配置されている。また、各種スイッチやコネクタもこのメインボードに直付けとなっている。図1、図2にメイン基板の部品配置を示し、表1に主要な部品のリストを挙げておく。
【表1】主要な部品
3カ所ほど、シールドしてある場所があるが、部品などから電源関連の部品が配置されているのだと思われる。 メモリは、Hynixの1Gbit DDR2 SDRAMが8つ。ただし、4つはメインボード裏に配置されている。 前述の通り、D4で使われているAtom Z520には、1チップのSCH(US15W)が組み合わせてあり、通常の2チップ構成のチップセットに比べると格段にメモリフットプリントが小さくなっているという。ただ、基板を見るにその他の部品も多く、基板上は部品がびっしりという感じになっている。小型の機器を作るのであれば、もう少し周辺を統合したいところだ。 オーディオ関係のデバイスが多いが、これは、W-SIMを使った音声通話がPCの音声出力とは別系統になるためだ。 電源コネクタからの11Vは、直接基板に入り、CPUやメモリ用の電源電圧は、ボード上で生成されているようだ。 ワンセグチューナ部分は、子基板となっている。この子基板は両面に部品が配置されており、メインボード上では、子基板の下は四角くくりぬいてある。直接部品を実装しなかったのは、ワンセグなしのモデルを検討していたか、あとで変更が可能なようにということだろう。なお、デバイスなどから、チューナカードはピクセラ製と思われる。 メインボード裏には、チップ部品が円形に配置されているところがある。ここは、ちょうどファンの真下にあたる。おそらく、羽に当たったり、空気の流れを妨げないためにこのような配置になっているのだと思われる。通常なら、ファン側にフタをしておくところだが、このようにすることでわずかだが、厚みを減らすことができる。
●キーボード裏にも部品が配置 キーボード裏(図3)には、無線LANやBluetooth関連のデバイスが配置されている。W-SIMスロットもあることから、無線関係は別基板にまとめたという感じだ。無線LANは、Windows Vista上の表示では、「Marvell SD8686」となっているが、アンテナ部品のそばにあるQMI製デバイスがそうであろうと思われる。デバイスには、「TM100313UQ」という刻印がある。
このQMIは、ODMとして有名なQuanta Computerの子会社で、無線デバイスなどを手がける企業。デバイスに付いているロゴがQuanta Computerのものになっていたため、QMIのデバイスであろうと推測した。なぜ、表示がMarvell SD8686となるのかだが、少なくともソフトウェア側から見えるインターフェイスが同一なのであろう。Marvell SD8686が、もともとQMIのデバイスを使っているか、あるいは、QMIのデバイスが互換性をもっているのかのどちらかでることは確かだが、デバイス自体の版権が売却された可能性などもあり、詳細は不明である。
D4をデバイスマネージャを見てみると、こうしたデバイスは、すべてSDカードコントローラ経由やUSB経由で接続されているようだ。USBやSDカードの信号線を使えば、別基板への信号線数を減らすこともできる。なお、SCHには、SD/SDIOインターフェイスが合計で3つ搭載されている。うち1つは、MicroSDカードスロットに使われ、もう1つが、この無線LANコントローラ用に使われている。 Bluetoothデバイスも、デバイスマネージャでは、CSR製としか表示されない。もっとも、CSRのBluecoreシリーズのデバイスは、デバイスの刻印などからはわからないことがほとんど。Bluetoot 2.0+EDRであるため、Bluecore 4あたりと考えられる。 もう1つあるデバイスは、Prolificの「PL-2303HX」で、USB-シリアルインターフェイスの変換デバイス。これは、W-SIMの接続に利用されていると考えられる。 無線LAN、Bluetoothのアンテナは2つある。1つは基板上にセラミック製のアンテナがあり、もう1つは、同軸ケーブルで接続されている。場所はバッテリの両側で、本体左側の手前(コントロールキーの手前あたり)とその奥(DC電源コネクタの左側)あたりである。 ●液晶側にもデバイスが配置 液晶ヒンジなどの構造は、イーモバイルの「S11HT(EMONSTER)」などと同じである。キーボードをスライドさせ、最も引き出した時だけ液晶部を立てることができる。この液晶部と本体との接続は、フレキシブル基板を使っている。なお、液晶側を分解するためには、ヒンジを本体側から取り外す必要があり、そうするには、キーボード基板を外さねばならない。「W-ZERO3」などでは、本体側に穴が開けてあって、ヒンジを外さずに、穴から液晶側のネジを外すことができたのだが、今回は、そういう工夫はされていないようだ。 液晶側には、カメラモジュール、およびポインティングデバイス、インジケータ類がある。液晶右側にあるタッチパッドはSynaptics製である。 システムマネージャの表示によれば、タッチパッドは、PS/2接続、カメラはUSB接続になっている。液晶面のタッチパネルは、「Sharp Extended Interface」だと思われる。ただし、このデバイスだけは、SDでもUSB接続でもないようだ。
さすがにPCともなると部品数が多く、メイン基板1枚には収まらず、キーボード側にも部品が配置されている。バッテリケースの底がメイン基板となっているなど、厚みを抑える工夫がいくつか見られる。D4は、ノートPCと比べると遙かに小さいが、PDAやスマートフォンと比較するとかなり大きい。理由としては、部品点数が多いことが挙げられる。このD4は、Atom Zシリーズを採用した最初のマシンであり、サイズにしてはオーバースペックな部分もあるが、使い勝手を考えると、もう少し小さく、軽くなってバッテリ駆動時間も延ばす必要がある。ただ、バッテリはこれ以上小さくすることは難しそうだし、いくらCPU側が低消費電力になっても、液晶など他のデバイスの消費電力も下がらない限り、全体の消費電力を大きく下げることは難しい。 次期AtomプラットフォームであるMoorestownでは、さらに小型化が可能なようだし、SSDの低価格化も進んでいる。MID/UMPCというカテゴリが本格的に立ち上がるには、もう一世代進化する必要がありそうだ。 とりあえず、ハードウェアのレビューを終えたので、次はソフトウェア関連のレビューを行なう予定である。 なお、前回のiPhoneのレポートで、メールのプッシュについて、ソフトバンクのメールサービスとMobile.meのサービスのみ対応と書いてしまったが、米国Yahoo!のメールサービスもプッシュに対応している。ご指摘を頂いたアップルに感謝するとともに、関係者にご迷惑をおかけしたことをお詫びする。なお、このサービスは米国のYahoo!でのもので、日本のYahoo!のサービスではないことに注意されたい。 □ウィルコムのホームページ (2008年7月23日) [Reported By 塩田紳二 / Shinji Shioda]
【PC Watchホームページ】
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