業界の予想を裏切って、PCの販売が好調だ。 全国26社2,350店舗のPOSデータを集計しているBCNによると、2008年6月のPCの販売実績は、台数ベースで、前年同月比8.5%増となった。 今年3月に前年比プラスに転じて以来、4カ月連続での前年超え。しかも、この6月が、2007年1月のWindows Vista以来、最も高い成長率となっているから驚きだ。
形状別に見ても、デスクトップPCは、前年同月比2.6%増となり、2005年年末にマイナス成長に転じて以来、約2年半ぶりのプラスとなっている。そして、主力のノートPCも10.8%増と2桁の成長に乗せるという好調ぶりだ。 「いい意味で、予想を裏切る結果になっている」と、PCメーカー各社も驚きを隠さない。 PC業界は、オリンピック商戦では、毎回のように苦戦を強いられてきた。 薄型TVをはじめとするAV機器売り場の好調とは裏腹に、2桁のマイナス成長を余儀なくされるというのがこれまでのパターンだ。 そのため、今年6月から始まるオリンピック商戦においては、商戦直前まで、業界関係者のほとんどが、前年割れを予想していた。 量販店の間からも、「よくて1桁台のマイナス。前年比プラスになるとは考えられない」という声が聞かれていたほか、PCメーカー幹部からも「焦点は、オリンピック後」と、オリンピック商戦をあきらめ、9月以降の巻き返しにターゲットを絞り込むといった様相だった。 それが、予想に反しての好調ぶりとなっているのだ。
●低価格、TV視聴などが需要を後押し
なぜ、PCの販売が好調なのだろうか。 国内最大シェアを誇るNECでは、次のように分析する。 「1つ目には、業界内で共同で行なっているPC de TVキャンペーンの影響もあり、PCでTVを視聴するといった使い方提案が浸透してきたこと」 NECをはじめとするPCメーカーや、マイクロソフトをはじめとするソフトメーカー、周辺機器メーカー、販売店、放送局が加盟するWDLCは、全国の主要販売店店頭で「PC de TVキャンペーン」を展開。PCでのTV視聴を積極的に訴求している。これにより、薄型TVには無い、PCならではのオリンピック視聴の楽しみ方を提案が浸透しはじめている。それが販売増加にプラスとなっているというのだ。 2つ目には、「デスクトップ、ノートPCともに、Vistaが快適にPCが利用できるデュアルコアCPUを搭載したPCが増加していること」を挙げる。
夏モデルでも、PCメーカー各社は、Core 2 DuoやAthlon 64 X2などのデュアルコアCPUを搭載したPCを、新製品の主力に据えた。例えば、NECでは、夏モデル26モデルのうち、25モデルがデュアルコアモデル。春モデルでは、デュアルコア搭載搭載比率が70%だったものを、夏モデルではなんと96%へと引き上げた。 そして、3つ目には、こうした高性能PCの実売価格が低下していることだ。 高性能ノートPCが10万円台前半で購入できたり、地デジチューナを搭載した大画面液晶ディスプレイ搭載デスクトップPCが20万円を切る価格で購入できるようになっており、購入のしやすさが売り上げ増加に寄与している。 BCNによると、今年5月のディスプレイ付きのデスクトップPCの平均販売単価は146,000円となっており、昨年6月に比べて、17,000円も下落している。また、ディスプレイを付属しないデスクトップでは、76,000円と、こちらも18,000円の下落となっている。 また、ノートPCは、昨年10月から今年3月までの半年間で11,000円の平均単価が下落しており、引き続き、下落傾向が維持されている。 「ガソリン高騰をはじめ、原油高、原材料高を背景にしたさまざまな製品の価格が上昇するなか、PCの価格は下落傾向にある。物価高騰のなかで、PCだけ価格が下落していることも追い風」(NECパーソナルプロダクツ)というわけだ。 また、「カラーバリエーションの増加などにより、ユーザーの選択肢が広がり、自分の欲しいPCを選びやすくなったこと」や、「Blu-ray DiscとHD DVDの次世代光ディスクの規格争いにも決着がついたことで安心して購入できる」といったことも、PC販売が好調な理由の1つとしている。 ●Macも引き続き高い成長率を維持
もう1つの理由としてあげられるのが、Macが引き続き、好調な売れ行きを見せていることだ。 今年3月には、前年同月比63.6%増という高い成長率を達成。4月は45.9%増、5月は36.9%増、そして、最新データとなる2008年6月には、前年同月比28.3%増となっている。 昨年8月に、デザインを一新したiMacを発売して以来、これで、11カ月連続での2桁成長を維持しているという好調ぶりだ。 世間の話題は、iPhoneに集中しているが、Mac本体も、1年間に渡る連続2桁増という記録に、いよいよ王手をかけている段階にある。
●駆け込み需要で販売急増のWindows XP こうしたいくつかのPC市場好調の要因が挙げられるなか、6月の需要増を支えた最大の要因として挙げられるのが、実は、Windows XPなのである。
マイクロソフトは、6月30日付けで、PCメーカー向けに出荷していたWindows XPのOEM版を終了した。 依然として在庫が残っている分については販売が可能であるほか、今後、ネットブックなどの超低価格の特定製品向けにWindows XPのOEMを継続すること、Vistaの一部エディションに搭載されているダウングレード権を利用すれば、Windows XPを利用できる新品PCが入手できることから、量販店店頭では、Windows XPの駆け込み需要にはあまり注目が集まっていなかったが、実は、これが意外なほど影響しているのである。 BCNによると、2008年6月のWindows XP搭載PCの販売台数は、前年同月比92.9%増と、驚くべき成長率となっている。形状別に見ても、デスクトップPCでは38.0%増、ノートPCでは126.3%増と2倍以上の成長率となっている。 今年1月までは、前年同月比1桁台で推移していたことと比較すると、この成長率は異常であり、まさに駆け込み需要が顕在化していることの証といえる。 構成比で見ても、Windows XP搭載PCの構成比率は、5月実績で10.7%、6月には10.6%となり、実に、10台に1台は、Windows XP搭載PCが占めているのだ。 つまり、市場全体の約1割の影響力を持つWindows XP搭載PCが、6月のオリンピック商戦の落ち込みを防いだともいえる。 これは、OSのパッケージ単体の売れ行きを見ても、同様の結果となっている。 2008年6月には、Windows XPパッケージの販売比率は49.1%となり、2本に1本が、Windows XPという異常事態となっている。また、7月1日から7日のデータでも、47.3%がWindows XPとなっており、7月に入ってからも、Windows XPパッケージを求めるユーザーが引き続き多いことを示している。
●この1カ月はどう動くか
オリンピック商戦は、7月に本番を迎える。 特需ともいえるWindows XP搭載PCの販売効果も、徐々に薄れてくることになるだろう。 これから、PC業界は、Vista搭載PCと、成長率の高いMac、そして、新興のネットブック、ネットトップという「持ち駒」で、需要を喚起していくことになる。 本当の意味で、PC業界が正念場を迎えるのは、これから1カ月間だといえる。 編集部注:データ出典、BCNランキング。 □BCNのホームページ (2008年7月14日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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