大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

PC de TVキャンペーンはPC業界にどんなインパクトをもたらすか




 5月9日から、夏商戦向けキャンペーン「PC de TV」がスタートした。これは、PCメーカー、周辺機器メーカー、量販店、TV局などが参加するWDLC(Windows Degital Lifestyle Consortium)が仕掛けたPC業界をあげた共同販売促進キャンペーン。Windows Vista搭載PCによるTV視聴を軸にキャンペーンを展開し、夏商戦におけるPCの販売に弾みをつけようというものだ。

 その第1弾として、ビックカメラ有楽町本館、ヨドバシカメラマルチメディアAkiba、ヨドバシカメラマルチメディア梅田、ヤマダ電機LABI 1なんばの4店舗において、PC de TVキャンペーンコーナーが設置され、6月上旬までに14社28店舗で、同様の店頭展示が行なわれることになる。

 では、WDLCが仕掛けるPC de TVキャンペーンは、PC業界にどんなインパクトを与えるのだろうか。

●PC業界のバレンタインデーを目指す

 PC de TVキャンペーンは、WDLCに参加する67社のうち、41社が参加し、共同で展開するキャンペーンだ。

マイクロソフトのOEM統括本部マーケティング本部大浦豊弘部長

 WDLCに参加するマイクロソフトのOEM統括本部マーケティング本部大浦豊弘部長は、「例えば、チョコレート業界では、バレンタインデーという業界をあげたキャンペーンを展開し、その中で、各社が、味やパッケージの工夫などの差別化で切磋琢磨し、業界を盛り上げている。PC de TVキャンペーンも、夏商戦に向けて、PCでTVを視聴するという共通のメッセージの上で自由競争をし、業界全体を盛り上げるのが狙い」と、先行する他の業界の成功事例を挙げて、共同キャンペーンの基本的な狙いを語る。

 これまでPCメーカー各社は、PCでもTV視聴が可能なことをそれぞれに訴えてはいた。しかし、訴求が各社バラバラだったこと、ターゲティングが明確ではなかったこと、デジタルチューナを搭載したPCと搭載していないPCとの価格に差があり、顧客に購入を促すにはハードルが高かったという背景もあった。

 今回のキャンペーンでは、41社が共通メッセージで訴求。さらにターゲットとして、PCおよびTVを購入したいとする211万人を想定。具体的なターゲット層には、家族と同居している20~40代の男女をあげ、リビングのTVでは、子供がゲームをしている時間には、見たい番組が視聴できない場合にも、TVを自分の好きな場所で好きな時間に見られるためのMy PC+My TVの提案を訴求。さらに、もう1つのターゲット層として、部屋が狭いため、TVとPCの両方を置きたくない、あるいは薄型TVとレコーダーの配線が面倒だというような一人暮らしの20~30代の男女を狙うとした。

●過去のアナログチューナの悪印象を払拭へ

 一方で、デジタルチューナを搭載したPCの価格が、同機能を搭載していないPCに比べて、プラス2万円程度の差にまで縮まってきたことも見逃せない。この価格であれば、TV機能を搭載しているものを購入しようという気持ちになるからだ。

 また、「かつてアナログチューナを搭載したPCでTV番組を見て、薄型TVに比べて画質が大きく劣るとの印象を持っている人も多い。デジタルチューナになって、そうした問題が解決されていることを改めて訴求できるだけでも、このキャンペーンには大きな意味がある」(マイクロソフト大浦部長)というのも本音だろう。

 さらに、ネット動画の視聴や、TVを見ながらネットに接続するといったPCだからこそできるTV視聴環境の提案を行なうことで、PCによるTV視聴需要を顕在化しようというわけだ。

●キャンペーンで挑む2つの新施策

 実は、今回のキャンペーンでは、店頭展示において、2つの新たな取り組みを開始している。

 1つは、同コーナーに展示されているPCのすべてを、インターネットに接続できる環境としたことだ。実は、量販店店頭に展示されているPCはほとんどがインターネットに接続できる環境にはなっていない。アップルの直営店であるアップルストアの展示機がすべてインターネット接続が可能になっているのに比べると、実際の利用環境を確かめるという点では改善の余地があったともいえる。

 今回のキャンペーンでは、TV視聴とともに、MSNビデオやYahoo!動画などのインターネットによって配信される映像視聴の訴求も重点ポイントとしている。そのため、店頭でのインターネット接続による展示は不可欠なものとなる。

 そこでPC de TVの展示コーナーでは、その周りに展示してあるPCとは異なり、インターネット回線を用意し、実際にネット接続し、体験できるようにしたのだ。

 2つ目は、薄型TV売り場に、PCを展示するという新たな挑戦だ。キャンペーンでは、HDMIによってPCを薄型TVに接続する展示を行なっているが、これを効果的に訴求することを狙って、薄型TV売り場にPCを持ち込み、そこにPC de TVコーナーを設置したのだ。

 「薄型TVの購入者の中からは、この薄型TVはPCに接続できるのかといった質問もある。PCをTV売り場に持ち込むことで、需要を顕在化できる可能性はある」と、ヨドバシカメラマルチメディアAkibaでTV売り場を担当する山村英彦マネージャは語る。

 ヨドバシカメラマルチメディアAkibaでは、PC売り場に加えて、4階薄型TV売り場の南側エスカレータ前にPC de TVコーナーを配置するという力の入れよう。ビックカメラ有楽町本館でも、同様に、PC売り場とは別に、1階北側入口付近の薄型TVにも、コーナーを配置した。いずれも、薄型TV売り場の一等地ともいえる場所だ。

 実際、PCメーカー1社だけでは、なかなか量販店のTV売り場に、PCを展示する提案は通りにくかったのは事実だった。今回のように複数のPCメーカーが共同でプロモーションを行なうなからこそ、こういったウルトラCが実現できたともいえる。

 だが、薄型TV売り場の店員が、PCの製品説明を細かく行なうというところまでは至っておらず、その点では、TV売り場とPC売り場との連携が前提となっている。一時的なキャンペーンとして終わらせるのではなく、TV売り場に対するPC販売ノウハウの定着も今後の課題となってこよう。

●PC売り場にも薄型TVを展示

 逆に、PC売り場に大画面薄型TVを設置するといった動きも、これまではあまり例がなかったことだ。

 「インターネットAQUOSで50型台の薄型TVをPC売り場に展示した例があったが、これはあくまでもPC本体に付属したディスプレイとして展示したもの。今回のように42型液晶TVとノートPCを接続するといった訴求は初めてのこと」(ビックカメラ有楽町店本館根岸康道主任)と語る。

 また、ヨドバシカメラでも、「ゲームの体験コーナーでは、PCと大画面TVの接続展示を行なっているが、これはあくまでもゲーム体験を訴求するもの。PCによるTV視聴やネット動画視聴を前提とした大画面TVとPCの連動展示は初めて」(ヨドバシカメラマルチメディアAkiba亀田強マネージャ代行)と異口同音に語る。

 TV売り場、PC売り場を問わず、PCと大画面TVとを結びつけた展示が、事実上、初めて行なわれたという意味で、このキャンペーンは店頭展示に大きな変革をもたらしたといっていい。

ヨドバシカメラマルチメディアAkiba亀田強マネージャ代行 ビックカメラ有楽町店本館根岸康道主任

●なぜ、赤を基調とした展示としたのか

 これらの2つの新たな取り組みとは別の観点だが、もう1つ付け加えるのならば、PC de TVコーナーに、「赤」を基調とした展示を行なったことは見逃せない要素だ。

 その意味は、実際に、店頭を訪れてみるとよく分かる。PC売り場を見回すと、NEC、富士通、東芝、松下、シャープなどのWindows PCメーカーは、青を基調とした展示となっている。また、ソニー、アップルは黒を基調とした展示。PCに隣接する売り場でも、赤を基調とした展示はソニーのBRAVIAや、イーモバイルなど数社に留まる。

 つまり、青や黒を中心とした展示環境の中に、赤い什器が置かれることになり、その存在が意外なほど目立つのだ。

 マイクロソフトでも、Windowsに関する展示は青が基調となる。「しかし、WDLCは、マイクロソフトとは別の独立した組織であることから、その制限がない。店頭で目立つ色は何かということで、今はあまり使われていない赤の基調にした展示にあえてこだわった」と、マイクロソフトの大浦部長は語る。

 赤色の採用は、PC de TVコーナーに顧客を誘導するという意味では、メリットのある色調だったというわけだ。

PC de TVコーナー(ビックカメラ有楽町店本館) 青が基調となっているPC売り場では赤い展示什器は目立つ

●短期的成果を目指す量販店と中長期的効果目論むメーカー

 では、PC de TVキャンペーンによって、PC市場には、どれほどのインパクトがあるのだろうか。それは短期的な効果と中長期的に効果の2つの側面があるだろう。

 短期的な側面としては、販売店側のメリットが大きい。「これまでPC売り場では、PCでTVを見るという視聴提案ができていなかった反省がある。また、薄型TVとPCと接続する提案も同様。今回のキャンペーンは、そうした新たな提案のきっかけになる」と、ヨドバシカメラ亀田マネージャ代行は語る。

 また、ビックカメラの根岸主任は、「PCの販売単価が低下傾向にあるなか、TV視聴やネット動画視聴を可能とするPCの販売が増えることで、単価上昇のきっかけになる」と期待を寄せるとともに、「PC de TVコーナーを見て、最新の機能を紹介でき、仮にそこまでの機能が必要ないという顧客に対しても、PC de TVの提案と比較して、製品を勧めることができる。きっかけづくりとしてのメリットは大きい」と話す。

TV売り場に置かれたPC de TVコーナー(ヨドバシカメラマルチメディアAkiba) TV売り場に設置されても、PCの販売に関してPC売り場の支援が必要

 PC de TVの展示をきっかけにして、これまでとは異なる新たなPC利用提案を行ない、そこからPC需要を顕在化できるであろうとの期待を寄せているのだ。

 一方、マイクロソフトやPCメーカーでは中長期的な観点から捉えている。つまり、今回の訴求をきっかけに、2011年までのTVの買い換え需要をPCに結びつけるきっかけになればいいというものだ。

 春モデルから、デジタルチューナを搭載したPCの販売が増加しているが、これからのオリンピック需要期に向けては、薄型TVの販売が増加するのは明白。そこに、地デジの視聴方法の1つとして、PCを印象づけるきっかけになればいいというものだ。

 2011年に向けてのTVの買い換え需要の本格化は、むしろこれから。短期的な販売増加よりも、中長期の需要獲得に向けた助走という捉え方をしているのだ。

●業界が共同展開するきっかけづくりに

 そして、WDLC全体の立場から見れば、キャンペーンによって、3つの目論見があった。

 1つは、WDLCに参加する66社のうち、30社以上の参加を得ること。つまり、半数以上の企業が、共同キャンペーンに参加してもらうことで、業界をあげて取り組むというイメージを示すことだった。これは41社の参加を得ることで、達成したといえよう。

 2つ目は、PCでTVを視聴するという新たな提案がユーザーに伝わることだ。これは、まさに2011年7月の地上デジタル放送への全面移行までに想定される大きな需要に対しての布石といっていい。

 そして、最後に、WDLCとして第1弾となる今回の活動をきっかけに、WDLCの活動がさらに加速するきっかけを作ることだ。5月7日に行なわれたWDLCの会合では、すでに開始直前となったPC de TVキャンペーンに対して、追加参加を希望する企業があったほか、分科会で検討が始まっている年末商戦向けの施策についても熱い議論がはじまっている。

 「例えば、マイクロソフトがキャンペーンの内容を提案して、それにPCメーカーや量販店の方々の賛同を得て、実施に移すということは過去にもあった。しかし、今回のキャンペーンでは、なにもないところから、共同でいくつのの選択肢を挙げ、多くの議論を経て、テーマを決めた。最初から全員が参加して実行したところが、これまでのものとは違う」と、WDLC事務局長を務めるマイクロソフト業務執行役員OEM統括本部マーケティング本部長の勝俣喜一朗氏は語る。

 また、マイクロソフトの眞柄泰利専務執行役員も、「PC de TVの実施に向けては、参加企業が驚くほど、熱い議論を繰り返してきた。コンシューマユーザーの新たな興味を引くことができ、ユーザーにメリットを提供できるのであれば、この熱い議論には大きな価値がある」とし、「これを1つのステップとして、WDLCの活動をますます加速したい。すでに冬商戦に向けてどうするのか、といった議論を開始している」と語る。

 冬商戦向けには、新たなテーマを掲げる方向で議論を進めているようだが、同時並行で「PC de TV」の訴求を継続すべきとの声もあがっているという。

 WDLCの活動は、まずは、参加企業をどれだけ広げられるか、あるいはどれだけ売れたかという「量」的な観点が注目されるだろう。だが、どれだけ参加各社がコミットし、熱い議論を行ない、ユーザーの間に新たなメッセージを浸透させることができるかという「質」的観点の方が重要といえそうだ。むしろ、これからの注目点は、質的な観点からだといえよう。

WDLC事務局長、マイクロソフト業務執行役員OEM統括本部マーケティング本部長の勝俣喜一朗 マイクロソフトの眞柄泰利専務執行役員 5月7日に行なわれたWDLCの会合ではビル・ゲイツ会長も講演した

□関連記事
【5月9日】WDLC、今日から「PC de TVキャンペーン」を開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0509/wdlc.htm
【4月11日】WDLC、PC上でのTV視聴を訴求する合同キャンペーン
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0411/wdlc.htm

バックナンバー

(2008年5月12日)

[Text by 大河原克行]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.