大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

「ゲーム機が無くなる日」を示唆したゲーム白書、
「50代のゲーム利用増加」を裏付けたCESA報告書




ファミ通ゲーム白書2008と2008 CESA一般生活者調査報告書

 この2カ月の間に、ゲーム市場に関する報告書が2つ刊行された。

 1つは、エンターブレインが発行する「ファミ通ゲーム白書2008」である。

 今年で4回目となる2008年版では、ゲームユーザー1万人を対象にした大規模なアンケート調査の結果を収録。海外調査会社9社の協力により、日本国内に限定せず、世界のゲーム市場規模までを網羅しており、資料性をさらに増したものとなっているのが特徴だ。

 そして、もう1つが、ゲームソフトメーカーなどが加盟する社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が発行した「2008 CESA一般生活者調査報告書」である。

 こちらは、同協会が設立した'96年から毎年実施してきた「一般消費者のゲーム利用動向把握」をベースにまとめたもので、2004年からは韓国の財団法人韓国ゲーム産業振興院との連携によって、日韓合同調査を実施。今回の報告書も「日本・韓国ゲームユーザー&非ゲームユーザー調査」というサブタイトルが付いている。

●ゲーム機が多様化し、あらゆるデバイスにゲームが載る

 まず、ゲーム白書2008に目を通してみた。

 実は、同白書の巻頭に示された「本書の発刊にあたって」というページを読んで驚いた。そこに記されていた言葉が、なんと「ゲーム機の無くなる日」という言葉だったからだ。ゲーム市場の動向をまとめたゲーム白書が、あえてこの言葉を使ったのには意味がある。

 ファミ通ゲーム白書の上床光信編集長は、その意図を次のように語る。

 「ゲーム機が本来のテレビゲームの域を超えた使い方をされたり、ゲーム機以外にもゲーム機能を搭載したデバイスが広がりはじめている。ゲーム機をゲームと呼ぶことが似合わなくなり、またゲームをプレイする環境がゲーム機だけではなくなるという動きを捉えて、こうした表現を用いた」と語る。

 実際、PSPは、ワンセグチューナのオプションを搭載することによりTVの視聴や、Skypeによる音声通話ができる。そして、任天堂は、Wii Fitの登場によって新たなゲームの世界を提案しながらも、体重計をはじめとする最先端の健康器具へとWiiを変身させることにも成功した。また、ニンテンドーDSは携帯性の高いゲームの世界を実現しながらも、脳トレをはじめとする学習型ソフトの世界を新たに開拓し、教育ツールへと進化した。これも、従来のゲーム機の使い方とは異なるものだ。

 一方、携帯電話や携帯型オーディオ機器でゲームをプレイするといった使い方も増えはじめている。

 同白書によると、携帯電話でゲームをすると回答したユーザーは、10代、20代では6割を突破しているのだ。そして、ゲーム機以外でのゲーム利用という点では、iPodがゲームマシンとしての機能を備えたことは、直近の代表的ケースだといっていいだろう。

 ゲーム白書は、編集後記でもこうした動きを捉えるような言葉を使い、今後の方向性を示そうとしている。

 「これから先、どのような世界が待っているのか? ゲームがどこに行き着くのか? どうやら見極める時間が近づいてきたようだ」――。

 このように今回のゲーム白書からは、ゲーム市場そのものが、あらゆる方向に広がりつつあることを、読みとることができるといえよう。

ファミ通ゲーム白書2008 上床光信編集長

●ゲーム市場は、任天堂の一人勝ち状況に

任天堂「Wii」

 もちろん、ゲーム機市場そのものの広がりも見逃すことはできない。

 同白書によると、最新データとなる2007年4月から2008年3月における日本国内におけるゲーム市場規模は、前年比3.8%増の6,769億円となり、過去最高となった2006年度を上回る結果となっている。

 日本国内におけるゲーム機の販売台数は、前年比1.0%減の1,573万8,000台となったものの、金額ベースでは前年比5.2%増の3,175億円と伸張。ゲーム機向けに開発されたソフトも、2.6%増の3,594億円と前年実績を上回った。

 なかでも特筆されるのは、任天堂の圧倒的な強さであろう。

 ゲーム機として最も販売規模が大きいニンテンドーDSは、台数では前年比29.6%減と、前年実績を大きく割り込んだが、それでも633万7,000台という規模は圧倒的である。ニンテンドーDS対応ソフトの販売本数も3,563万5,000本と、市場規模では第1位の座に君臨し続けている。

 さらに、Wii本体が、台数ベースでは前年比91.5%増の374万2,000台と大きく伸張。Wii対応ソフトも219.3%増の1,396万8,000本と、ハード、ソフトともに大幅に市場規模を拡大し、任天堂の牙城を揺るぎないものとしている。

 その牙城をより強固なものとしているのが、任天堂から発売される相次ぐ人気ソフトの存在である。

 2007年度に販売されたゲームソフト販売本数上位10製品を見ると、首位の「Wii Fit」をはじめ、2位の「マリオパーティDS」、3位の「Wiiスポーツ」、4位の「大乱闘スマッシュブラザーズX」など、8製品が任天堂によるもの。5位となった「ポケモン不思議のダンジョン 時の探検家・闇の探検家」も、任天堂グループのポケモンによるものであり、グループとしては、実に9製品を占めた。任天堂グループ以外では、唯一、8位にスクウェア・エニックスの「ドラゴンクエストIV 導かれし者たち」が入っているだけだ。対象を上位20製品に広げても、15製品が任天堂グループによるものだ。

 任天堂グループのソフトの年間販売本数は、80タイトルで2,588万本と推計されており、2007年度に国内全体で販売された7,474万本から逆算すると、実に3本に1本は任天堂グループのソフトという計算になる。

 2007年度は、ハード、ソフトともに、任天堂の一人勝ちの様相を見せたといっていもいい。

●PLAYSTATION 3、PSPも善戦

PLAYSTATION 3

 とはいえ、ソニー・コンピュータエンタテインメントが苦戦続きとは言い難い。

 例えば、ハード本体の売れ行きを見ると、PLAYSTATION 3は、前年比47.5%増となる119万7,000台を出荷。PSPは、73.8%増の342万8,000台を出荷しているのだ。

 また、PLAYSTATION 3対応ソフトは、214.8%増の358万3,000本、PSP対応ソフトは3.2%増の711万9,000本といずれも増加傾向にあるからだ。

 また、マイクロソフトのXbox 360は、台数では前年比3.6%減の23万5,000台に留まったが、対応ソフトでは、前年比43.1%増の146万3,000本と大きく増加している。

 2008年度に、ソニー・コンピュータエンタテインメントやマイクロソフトのゲーム機および対応ソフトが、どういった動きをするのか注目されるところだ。

 なお、ファミ通ゲーム白書2008では、ソフトバンクの孫正義社長が有限責任中間法人ブロードバンド推進協議会の代表理事として寄稿しているほか、国内に留まらず、海外のゲーム市場動向などについても分析している。世界的な視野からもゲーム市場を俯瞰することができる。3万円という定価は、一般読者にはちょっと手が出ない価格だが、新たな方向性を感じ取るには興味深い内容だといえる。

PSP Xbox 360

●ゲーム非受容層が着実に減少していることを示したCESA報告書

 ほぼ同時期に発行された、社団法人コンピュータエンターテインメント協会の「2008 CESA一般生活者調査報告書」は、ユーザーへのアンケートをもとに、ゲーム市場動向をまとめているのが特徴だ。

 同協会の会長を務める和田洋一氏(=スクウェア・エニックス社長)は、同書のなかで、「特筆すべきは、3~9歳、50~59歳の年齢層でゲーム参加率の上昇が見られること、60歳以上の層では、男女ともに、7%台の参加率が見られたことである。当協会では、幅広い消費者への家庭用ゲーム参加訴求に取り組み、とくに弱点とされているシニア層、女性層の取り込みを継続課題としてきた。成果が少しずつ実を結び始めている」と、市場の広がりを自己評価している。

 同調査では、現在でも継続的にゲームをしているとする回答者を、家庭用ゲーム参加者と位置づけ、これをゲーム参加率と表現している。

 男女比別では、男性の35.7%に対して、女性は25.4%と10ポイント程度の差が開いているが、それでも前年調査では、22.8%だった女性の参加率は、着実に上昇している。

 また、50~59歳の参加率が、男性では前年の7.2%から17.1%へと急上昇。女性でも4.5%から14.9%へと、参加率が急上昇している。

 同時に、「いままでをゲームしておらず、これからもゲームをしてみたいとは思わない」、「以前はゲームをしていたが、今後はゲームをするつもりがない」とする、家庭用ゲーム非受容層は、2005年調査の52.5%、2006年調査の44.0%に続き、2007年調査では39.4%と、初めて4割を切り、ゲームを受け入れない層が着実に減っていることがわかった。

 なお、ゲーム非受容層は、ゲーム業界に対して、「価格を安くしてほしい」、「残虐なもの、過激なものはやめてほしい」、「犯罪を誘発するような内容のものは作らないでほしい」、「利益にとらわれず、青少年への影響を第一に考えてほしい」などとコメントしており、こうした課題を解決することが、非受容層比率を引き下げる要素の1つになるかもしれない。

●新たな時代に向けた分岐点に?

 この2つの報告書を見て感じるのは、やはりゲーム業界が、着実に広がりを見せていることだ。

 それは、利用者層の広がりであり、ゲーム機の利用範囲の広がりであり、ゲームそのものを楽しむ場面が増加している点である。

 2つの報告書が示すように、これまでのようにハードウェアの世代交代とは異なった観点から、新たな時代に向けての転換点を迎えているといえよう。この大きな潮流は、もはや、ゲーム業界関係者、そして、新たにゲーム市場に参入することになる業界関係者にとっては、共通の認識になっているともいえそうだ。

□エンターブレインのホームページ
http://www.enterbrain.co.jp/
□CESAのホームページ
http://www.cesa.or.jp/

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(2008年7月10日)

[Text by 大河原克行]


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