「HTC Shift」は、その発表時からPDA風のデザイン、キーボード装備、そしてWWANに対応するなど、注目を集めた製品だ。今回、このHTC Shiftのサンプル機をお借りすることができたので使用感などをお届けしよう。 なお、実際の製品とは異なる場合もあるので、ご了承いただきたい。 ●HTC Shiftとは HTC Shiftは、タッチパネルを搭載し、大きなPDA、あるいはタブレットPCのような外観だ。スライド式キーボードを備えるととともに、ディスプレイパネル側を引き起こしてノートブックに近い操作感でキーボード入力が可能。SIMカードスロットを備え、無線LAN、BluetoothとともにWWANにも接続可能。このボディに2つのCPUを搭載し、PDA風の使い方、Windows Vista PCとしての使い方という2通りの使い方が可能。こうした数々の特徴を備える製品だ。 まずは変形する外観から紹介していこう。最初の形状はタブレットPCのような大きなPDAのような形だ。 キーボードは液晶パネル部分をスライドするかたちで引き出す。スライド式を採用するものはたいていそうだが、左右がレール式であり、左右均等にスライドさせないとスムーズに引き出せない。HTC Shiftはこうした機構を持つ製品としては比較的大型なわけで、とりわけ「左右均等」であることが正確でないと引っかかりやすい いっぱいまでキーボードを引き出したところで、次は液晶パネル部のキーボード側(手前)フレームを押さえながら、パネルの上部を持ち上げるとノートブック風スタイルに変形する。複雑なギミックで力加減が難しいのだが、この作業は意外なほど堅く難しい。そしてキーボード部が完全に引き出た状態でなければ引き起こすことができない 変形を紹介したところで、スペック面に移ろう。まずディスプレイサイズは7インチワイドで、解像度は800×480ドット。タッチスクリーン式だが輝度は十分。左上には30万画素のCMOS Webカメラ。右中央には小さいながらもタッチパッド、その下に指紋認証センサーも備える。ボタンは、左上に左右マウスクリック、左下にPDA風の使い方で利用するUI「SnapVUE」を起動するためのボタン、右上にはVista上から各種通信通信機能を管理できる「コミュニケーションマネージャ(あるいは説明書ではコントロールとも呼ばれている)」起動ボタンと、その下が解像度変更ボタンとなる。 次はインターフェイスを外面から確認できるものから紹介しよう。本体左側面にはマイク入力/ヘッドホン出力兼用ジャック。右側面にはACアダプタ用のジャックとUSB 2.0が1ポート、SDカードスロット、スライド式電源スイッチ。後部にはVGA出力。これで全てだ。有線LANは、USBインターフェイスを介したアダプタが同梱されておりこれを利用する。同時にこのアダプタは3ポートUSBハブも兼ねている。 内蔵する無線ネットワークは3つ。無線LANとBluetooth、そしてワイヤレスWANだ。無線LANはIEEE 802.11b/g対応。ワイヤレスWANを利用するには本体裏面の蓋を外し、さらにバッテリを外したところにSIMカードスロットがあるので、ここにNTTドコモあるいはソフトバンクのSIMカードを挿入する。残るBluetoothは、ヘッドセットなどの利用はもちろん、HTC ShiftはSIMカードスロットが着脱しづらいところにあるため、専用に契約できない場合にはBluetooth搭載携帯電話と組み合わせて利用することも現実的だろう。
●独自OS「SnapVUE」を搭載
HTC ShiftのPDA風なところの1つがSnapVUEという独自OSの搭載だ。スペックも電力も要求するWindows Vistaでは約2時間でバッテリを使い切ってしまう。そこで搭載されたのがSnapVUE。SnapVUEならプッシュメールを有効にしていても約53時間の待ち受けが可能であり、バッテリをセーブしつつ最低限必要な情報を受け取ることができるというわけだ。イメージ的にはVista PCにPDAのハードウェアとソフトウェアを強引に詰め込んだものだが、意外と便利かもしれない。 SnapVUEはWindows CEをベースとしている様子。利用できる機能はPDAほど豊富ではなく、メールやスケジュール等の管理のみ。CPUはこれ専用に搭載されたQualcomm MSM 7200(400MHz)を、ストレージも専用の領域を使用する。 ストレージを共有できていないので、例えばSnapVUE側で受信したメールなどをそのままVista側で参照することはできない。この点についてHTCでは、MicrosoftのExchangeServerを利用することで同期させることが可能、としている。企業内ならばそれで良いかもしれないが、個人で利用するとなればどうだろう。例えばIMAPを利用したり、あるいはサーバー側でメールを2つのアカウントに分配するような仕組みを用意することが必要ではないだろうか。 SnapVUE側でワイヤレスWANの設定が終わると、(仕組みがよくわからないのだが)Vista側でもワイヤレスWAN接続が利用できるようになっている。次のスクリーンキャプチャがその状態だ。コミュニケーションマネージャからモデム(ワイヤレスWAN)を有効(無線LANは無効)にしているが、Vistaのコントロールパネルのモデムには何も認識されていない。しかし、インターネットには接続できている。
●ビジネス用途では通用するだろうVista PCとしてのスペック ここでその他のスペックを確認しておこう。まず、OSはWindows Vista Businessを採用している。この選択は、おそらくは本機がビジネス用途主体であるためと思われる。そしてVistaで利用する側のCPUはIntel A110(800MHz)。ただしEISTが効いているためか、CPU-Zからは600MHz駆動までしか確認できていない。チップセットはIntel 945GMSと思われる。メモリはPC2-3200(DDR2-400)メモリでCAS Latencyが3。メモリ容量は1GBと、Vistaを快適に利用するうえでの必要最小限といったところ。そしてHDDは40GB。1.8インチサイズの東芝製「MK4009GAL」が採用されていた。接続インターフェイスはIDEだ。
Windows Vistaを動作させてみても、クリーンな環境ではとりあえず納得できるレスポンスだ。ただしどうしてもウインドウの切替えやエクスプローラの起動、ネットワーク転送速度などでじれったさを感じる瞬間はある。おそらくタブレット機能の実装の関係で、Vistaを選んだものと思われるが、このスペックであればXPの方が現実的だったのではと思う。なお、Windows エクスペリエンス インデックスのスコアは2.1。一般的なPCレビューではあまり見ないのだが、CPUが一番低いサブスコアだったりする。当然PCMark Vantageは動かず、3DMark06はかろうじて動作したもののスコアは102だ。HTC Shiftはスペックからも想像できるように、基本的にはドキュメントやWeb、メールといったことがその作業の中心となるPCである。
なお、タブレット操作での利便性を向上させるため、「Origami」が搭載されているのも特徴の1つだ。標準での主な機能は、メディアファイルのブラウズ、インターネットエクスプローラや、各種タブレット系プログラムのランチャなど。これによってマルチメディア用途ではかなり操作性が向上するのだが、果たしてビジネスではどうだろうか。
HTC Shiftの「キーボード」にも多くのユーザーが注目しているのではないだろうか。ただ、結論から先に言ってしまうと、キーボードはあくまでも「副」である。その理由は以下のとおりだ。 HTC Shiftのキーボードは、同社によれば「QWERTYフルキーボード」。PC用のフルキーボードとは基本的に異なる。本製品ではVistaで利用するためのWindowsキーやCtrlやAlt、Capsといった操作系のキー、半角全角、変換、無変換といった日本語入力で必要なキーも備わっているが、F1~F10までは全てFnキーとの組み合わせ。そしてF11やF12、Num LockやPrintScreen、Pause/Breakなどは省かれている。当然、キーの小ささに苦労するほか、搭載されたキーも特殊な配列でこれにまた難儀する。 筆者が文書入力してみていちばんやっかいに感じたのはカーソルキーだ。通常であればカーソルキーは凸型配置なのだが、HTC Shiftでは1列で左から上下左右という配列だ。これに、液晶パネルと最上段のキーが近すぎることから受ける違和感も加わる。キーボードを備えていることが利便性を増しているのは確かだが、PCのキー入力感にはほど遠いという印象だ。もっとも、USBを備えているため、ここにPC用キーボードを接続すればこうした不満も解消できる。
他にも文書作成時に気になったことがある。HTC Shiftはタッチパネルを搭載しているためずいぶん和らいでいるのだが、タッチパッドとマウスクリックボタンの位置があまりよろしくない。 まずキーボードスライド時、バイオU(PCG-U1など)で言うところのモバイルグリップ・スタイルのように両手でホールドして親指でキーボード入力しようとする際、マウスポインタを使うためには片手でホールドしつつもう一方の手をタッチパッドなりマウスボタンへと移さなくてはならない。ノートブック風スタイルでも同様で、キーボード入力を一旦止め、手のひら全体を移動させる必要がある。ノートブックは基本的にキーボードからほとんど手を移さずに入力作業できるレイアウトが採用されているのだが、HTC Shiftはそうはいかない。 加えて本体サイズの制約からタッチパッドは極小である。従ってこれの操作もかなりシビアだ。気付くとスタイラスを指に挟んだままキーボード入力し、マウスポインタの移動はタッチパネルを利用している。他社も含めUMPCのような極小PCにタッチパッドというインターフェイスが果たしてマッチしているのか再検討してほしいと思う。 ●「現在の市場には無い新たなカテゴリの製品である」が全て まっさらなイメージでHTC Shiftを触ると、なかなか評価しづらい。PDAでもなければノートブックPCでもなく、両者の良いところをミックスしている面もあれば、両者のどちらにも敵わないところがある。そんな印象を受けた。 しかし、ビジネスにおいては、“両者の良いところ”が最大のメリットになることも考えられる。本社からのメールをSnapVUEからいつでも確認でき、必要な際にはVistaを起動し文書の確認や作成、修正、インターネット接続でホームページから情報を参照するといった具合だ。とくにPOS端末としてみると、一般的なタブレットPCよりも小型で、PDAのような非x86 CPU+Windows CEという環境と比べ開発も容易というメリットが出てくる。とくにセールス関連業務に向いているのではないだろうか。 しかし、個人でHTC Shiftを活用するとなるとなかなかシーンが浮かばない。まずExchangeServerを用意することが難しいし、Origamiを使ったマルチメディア端末としてみても価格がネックだ。では車載専用PCとして検討してみてはどうだろう。タッチパネルは車内操作にも適しているし、出先からのメール確認などはワイヤレスWANを活用できる。一般的なVista PCであることは、USB接続のGPSやワンセグチューナーによる拡張も可能。もちろんこれらは筆者の頭のなかの想像であって、実際にはアプリケーションが必要(HTML+スクリプトでも簡単なUIなら作成できると思われる)なのだが……。製品発表会では、「現在の市場には無い新たなカテゴリの製品である」との発言があったようだが、確かに新たなカテゴリであり、そのカテゴリに合った用途をユーザー側も模索しなければならないのではないだろうか。 □HTCのホームページ (2008年5月7日) [Reported by 石川ひさよし]
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