●ワイヤレスWAN搭載により厚みと重量がやや増加
パナソニックのLet'snoteシリーズは、携帯性と堅牢性、バッテリ駆動時間の三拍子揃ったモバイルノートPCとして人気がある。Let'snoteシリーズには、店頭で販売される通常モデルと、直販サイトの「マイレッツ倶楽部」限定で発売される直販モデルがある。 直販モデルは、1ランク上のCPUを選べたり、HDDを大容量のものにするなどのカスタマイズが可能で、特別モデルのプレミアムエディションも用意されている。今回の夏モデルでは、直販モデルに新たにSSD搭載モデルとワイヤレスWANモデルが加わった。SSD搭載モデルは、10.4型液晶搭載1スピンドルノート「Let'snote R7」のバリエーションモデルとして用意され、ワイヤレスWANモデルは、12.1型液晶搭載2スピンドルノート「Let'snote W7」のバリエーションモデルとして用意されている。SSD搭載モデルについては、すでに平澤氏がレビューを行なっているので、ここでは、ワイヤレスWANモデルをレビューすることにしたい。 Let'snote W7ワイヤレスWANモデル(以下Let'snote W7 WWAN)は、夏モデルのLet'snote W7をベースにしているが、ワイヤレスWANのアンテナを内蔵するために、天板の形状が通常モデルとは異なっている。Let'snoteシリーズでは筐体の材質に、軽くて丈夫なマグネシウム合金を採用しているが、Let'snote W7 WANでは、ワイヤレスWAN用アンテナが天板に内蔵されているため、天板の一部がプラスチックに変更されており(マグネシウム合金では電波がシールドされてしまうため)、形状も変わっているのだ。 Let'snote W7の通常モデルの筐体サイズは272×214.3×24.9~45.3mm(幅×奥行き×高さ)だが、Let'snote W7 WWANの筐体サイズは272×214.3×36~49.3mm(同)となっており、厚みがやや増している。もともと、Let'snoteシリーズは薄さよりも軽さを追求した設計であり、それほど薄いわけではないのだが、Let'snote W7 WWANは、かなり分厚い印象を受ける。 また、重量もワイヤレスWAN機能やBluetooth機能が追加されたため、通常モデルの約1.249kgから約1.375kgへと増えている。それでも、12.1型液晶搭載2スピンドルノートPCとしては軽量な部類であり、携帯性は高い。OSは、Windows Vista Business SP1を搭載。Home Premiumではなく、Businessが採用されていることからも、Let'snoteシリーズの性格を伺い知ることができるだろう。軽くて丈夫でバッテリが長持ちするLet'snoteシリーズは、ビジネスシーンにおいて強力な味方となる。
●通常モデルに比べてCPU性能が高く、HDD容量も倍増 CPUとしては、超低電圧版Core 2 Duo U7700(1.33GHz)を搭載。通常モデルでは、超低電圧版Core 2 Duo U7600(1.2GHz)が搭載されているので、CPUはワンランク上になっている。チップセットは、Intel GM965 Expressを採用。メモリは標準で1GB実装されているが、SO-DIMMスロットが用意されており、最大2GBまで増設が可能だ。HDD容量も250GBと大きい。通常モデルのHDD容量は120GBなので、HDD容量は2倍以上に増加していることになる。このクラスのモバイルノートPCとしては、基本スペックも充実している。耐衝撃性を高めるために、HDDにはかなり厚い衝撃吸収材が貼り付けられている。そのため、筐体も厚くなっているのであろう。光学ドライブとしてDVDスーパーマルチドライブを搭載。松下独自のシェルドライブ採用により、トレーの引き出しスペースが不要なことが利点だ。 筐体がコンパクトなため、キーボードには多少しわ寄せがきている。横方向のキーピッチは19mmだが、縦方向のキーピッチが16mmしかなく、キートップが横長の長方形となっている。また、右側の一部のキーピッチが狭くなっているので、慣れるまではやや窮屈に感じる人もいるだろう。半角/全角キーも2列目ではなく、最上段に配置されている。ポインティングデバイスとしては、円形のホイールパッドを採用。ホイールパッドは、Let'snoteシリーズではお馴染みのポインティングデバイスで、周囲を指でなぞることによって連続的なスクロール操作が行なえる。
●NTTドコモのFOMAネットワークに対応 液晶ディスプレイのサイズは12.1型で、解像度は1,024×768ドット(XGA)である。最近はモバイルノートPCでもワイド液晶を採用した製品が増えているが、Let'snoteシリーズではアスペクト比4:3の液晶が使われている。光沢液晶ではなくノングレア液晶なので、外光の映り込みが少なく、長時間使っていても目が疲れにくい。 Let'snote W7 WWANの最大のウリが、ワイヤレスWAN機能を内蔵していることだ。ワイヤレスWANとは、携帯電話やPHSなどの無線通信を利用して、広範囲でネットワークにアクセスする技術だ。ワイヤレスLANは、1つの基地局(アクセスポイント)でカバーできる範囲が半径数十m程度であるのに対し、ワイヤレスWANでは1つの基地局で半径数km程度をカバーする。 Let'snote W7 WWANでは、HSDPA対応通信モジュールを内蔵しており、NTTドコモのFOMAネットワークに対応する。つまり、NTTドコモのFOMAが使えるエリアなら、どこからでもインターネットにアクセスできるわけだ。通信速度は、下り最大3.6Mbps、上り最大384kbpsとなるが、あくまで理論値なので、実効速度はそこまでは出ない(テスト結果は後述)。 【お詫びと訂正】初出時に、Let'snote W7 WWANがワイヤレスWANに対応した初のLet'snoteとしておりましたが、過去にH"IN対応機がありました。お詫びして訂正させていただきます。 かつては、PCと携帯電話を繋いで通信を行なうと、パケット通信料が青天井となり、莫大な料金を請求されることが多かったが、NTTドコモは、2007年秋から「定額データプランHIGH-SPEED」というPC向けのパケット定額プランの提供を開始した。定額データプランHIGH-SPEEDでは、2段階定額制のサービスで、1カ月の利用パケットが50万パケット未満は月額4,200円、50万パケット以上100万パケット未満の場合は月額4,200円+超過パケット料金(1パケット0.0126円)、100万パケット以上は月額10,500円となる。ただし、8月末までの割引キャンペーンおよび9月から開始される「2年割引」(仮称)を利用することで、月額の上限金額が6,720円となる(最低4,200円は変わらない)。要するに、いくらパケット通信を行なっても、月額6,720円で済むわけだ。NTTドコモのFOMAネットワークは、人口カバー率100%を達成しており、一般的なところならほとんどの場所で使えることを考えると、リーズナブルな価格といえる。ただし、下り最大3.6Mbpsでの通信が可能なのは、HSDPAのカバーエリア内のみで、HSDPAエリアの外では下り最大384kbpsとなる。 FOMAでは、FOMAカードと呼ばれる契約情報などが記録された小さなICカードを端末に装着することで、通信が可能になる。Let'snote W7 WWANでは、天板の中央部にFOMAカードを装着するスロットが用意されている。当然、アンテナなどは全て内蔵されているので、移動の際にも気を遣わずにすみ、スマートに通信できることが嬉しい。
●ワイヤレスWANに加えてBluetoothにも対応 インターフェイスも、このクラスのモバイルノートPCとしては充実しており、USB 2.0×3や外部ディスプレイ(アナログRGB、ミニD-Sub15ピン)、LAN(Gigabit Ethernet)、モデムのほか、オプションのミニポートリプリケーターを接続するためのコネクタも用意されている。カードスロットとしては、PCカードスロットとSD/SDHCメモリーカードスロットを搭載。ワイヤレスLANモジュールとしては、IntelのWireless WiFi Link 4965AGNが搭載されているが、IEEE 802.11nには非対応であり、IEEE 802.11a/b/gまでのサポートとなっている。また、Let'snote W7 WWANでは、通常モデルには無いBluetoothに対応していることも魅力だ。BluetoothはVer.2.0+EDR仕様に対応しており、最大3Mbpsでの通信が可能である。本体前面には、無線機能のON/OFFを行なうワイヤレススイッチが用意されている。ワイヤレススイッチをOFFにすると、ワイヤレスWAN、ワイヤレスLAN、Bluetoothの全ての無線機能が無効になる。 Let'snoteシリーズは、バッテリ駆動時間が長いことでも定評がある。標準バッテリは6セル仕様で、公称約9.5時間の連続駆動が可能だ。通常モデルのLet'snote W7の駆動時間は約11時間なので、1.5時間短くなっているが、これだけ持てば1日たっぷり使える。また、駆動時間よりも軽さを重視するという人のために、オプションとして軽量バッテリが用意されている。軽量バッテリは、外形サイズは同じだが、セル数を減らして軽量化を図ったものだ。軽量バッテリ装着時の重量は約1.259kg(標準バッテリでの重量は約1.375kg)、駆動時間は約4.5時間となる。ACアダプタもコンパクトで軽く、携帯性は優秀だ。
●実効速度でも1.5Mbpsを超える通信速度を実現 次に、Let'snote W7 WWANのウリである、ワイヤレスWAN機能の実力を検証してみた。NTTドコモの定額データプランHIGH-SPEEDを利用するには、「ドコモ定額データプラン接続ソフト」という専用ユーティリティを使って専用アクセスポイントに接続する必要がある。接続にかかる時間は数秒で、待たされる感じはない。ドコモ定額データプラン接続ソフトでは、パケット数や料金、接続履歴などの表示が可能なので、できるだけ4,200円内に収めたいという場合は、こまめにチェックしておくとよいだろう。 台東区の自宅において、「ブロードバンドスピードテスト」を利用して、通信速度を3回計測したところ、結果は、下り1.6Mbps、上り400kbps、下り1.4Mbps、上り380kbs、下り1.6Mbps、上り390kbpsとなった。同じく、「速度測定スピードテスト」を利用して、通信速度を3回計測したところ、結果は、1.876Mbps、1.883Mbps、1.111Mbpsとなった。平均して1.5Mbps程度の実効速度は出ているようで、モバイル環境での通信速度としては十分高速といえる。YouTubeやニコニコ動画などの動画配信サイトの動画も、コマ落ちすることなく快適に視聴できた。 ただし、定額データプランHIGH-SPEEDは、全てのインターネットサービスを利用できるわけではない。Webサイトの閲覧やメールの送受信は可能だが、P2Pやストリーミング配信、FTPなどは利用できない。例えば、Gyaoなどのストリーミング動画は再生されない(Youtubeやニコニコ動画のようなFLASH動画は再生可能)。また、インスタントメッセンジャーにも非対応であり、Windows Live Messengerなども利用できない。VPNを利用すれば制限はなくなるが、VPNのオーバーヘッドによって速度が低下するという問題もあり、ワイヤレスLANなどで接続している場合と全く同じようにインターネットを利用できるわけではないので注意が必要だ。 また、「一定時間内または一回の接続で大量のデータ通信を行なった場合や長時間接続した場合、一定時間内に連続で接続した場合は、その通信が中断されたり、それ以降一定時間接続できなくなることがある」とされているのも気になるところだ。サービスエリアは狭いが、イー・モバイルの「EMモバイルブロードバンド」ではこうした制約はない。もちろん、これはキャリア(NTTドコモ)側で決められていることなので、パナソニックがどうこうできるわけではないのだが、せっかくのワイヤレスWAN機能なのだから、全てのサービスを利用できるようにして欲しいところだ(帯域を占有してしまうと困るというのも分かるが)。
●全国を飛び回るモバイルユーザーにお勧め 参考のためにベンチマークテストを行なってみた。利用したソフトは、Futuremarkの「PCMark05(Build 1.2.0)」と「3DMark06(Build 1.1.0)」、「フロントミッションオンラインオフィシャルベンチマークソフト」の3種類だ。また、Windows Vistaのパフォーマンス評価(Windowsエクスペリエンスインデックス)の結果も加えてある。省電力設定は「高パフォーマンス」モードにして行なった。比較対照用に、ThinkPad X61 Tablet、Let'snote Y7、VAIO type T VGN-TZ90Sの結果もあわせて掲載した。 結果は下の表に示した通りで、1.5kg未満のモバイルノートPCとしては、高いパフォーマンスを実現しているといえる。メモリを2GBに増設すれば、Vista Businessも快適に動作する。 【Let'snote W7 WWANのベンチマーク結果】
Let'snote W7 WWANの直販価格は283,950円であり(メモリを増設するといったカスタマイズも可能で、その場合は価格が上がる)、店頭モデルのLet'snote W7(実勢価格25万円前後)との価格差は3万円強だ。店頭モデルに比べて、CPUがワンランク上になり、HDD容量が2倍以上に増加、さらにワイヤレスWANとBluetoothに対応していることを考えると、価格的にもリーズナブルといえる。CF型端末やUSBタイプの端末を接続するのに比べて、よりスマートにインターネットに接続できることがウリだ。プロトコルやアプリケーションに制限はあるものの、定額データプランHIGH-SPEEDによって、上限6,720円で好きなだけインターネットに接続できるというのは、ノートPCを常に持ち歩くモバイラーにとっては非常に魅力的である。Let'snote W7だけでなく、他のLet'snoteシリーズ(RやT、Y)にも、ワイヤレスWANモデルが登場することを期待したい。 □パナソニックのホームページ (2008年5月1日) [Reported by 石井英男]
【PC Watchホームページ】
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