さて今回は、前回の続きでN810のハードウェア詳細レポートである。N770から始まり、今回のN810で3世代目。最初は、ほかよりも大きかった液晶も、最近では、同じものを採用する機種がいくつも登場しつつある。 ハードウェア的には、無線LANとBluetoothしかないので、Windows Mobileを搭載したスマートフォンには、やや劣るが、ノキアの携帯電話同様、Bluetoothの接続性は悪くない。NOKIAの携帯電話とは問題なく接続できる。イーモバイルのEMOneとのBluetooth接続も最初は失敗するものの、リトライで接続ができる。不思議なことに一度接続できると、その日のうちぐらいなら、2回目以降の接続はすんなりいく。N810がスタンバイから復帰したとき、EMOneも動作していれば(スタンバイ状態でなければ)、再接続も自動的にちゃんとできる。また、無線LANもアクセスポイントとの相性などは特になさそうだ。筆者の手元にあるPDAやスマートフォンの中には、アクセスポイントとの相性がはっきりでるものがいくつかある。通常設定ではOKなのに、MACアドレスのフィルタリングを始めると接続できなくなるなんてものもある。そういう意味では、外出先に安心して持って行ける機種といえる。 とりあえず、N770、N800、N810の基本スペックを(表01)に挙げておく。バッテリの容量は変わらないのに駆動時間などがだんだんと延びてきているのは、ハードウェア的な改良(バックライトなどの消費電力)もあるだろうが、ソフトウェア的な部分(電力管理ソフトやカーネルなど)もあるのだろう。N810は、音楽再生のみであれば、10時間程度の駆動が可能だ。ただ、筆者的には、少し音が小さすぎる。ヘッドホンによっては、最大にボリュームを上げても、それほど大きな音にならず、少し物足りなさを感じることがある。 さて、今度は内部を見ていくことにしよう。 【表01】「N770/800/810スペック」
●シンプルな筐体構造 N810は、いま流行りのスライド式キーボードを持つ。液晶部分と本体部分(キーボード側)は完全に分離しており、この2つをスライドレールが結びつけている。構造的には、キーボード側筐体を構成するプラスティック部品とスライド機構でメインボードを挟んでネジ止めしてある。キーボードは、メインボード上にメンブレンスイッチがあり、キートップは一体になっていて、筐体にはまっているだけである。外観からはわからないが、キーボードの上側(スライドさせても液晶の下になる部分)のメイン基板はなにも覆う構造がなく、液晶で隠してあるだけだ。 また、背面の電池蓋の上の部分は、取り外せるようになっており、ここには、アンテナ(無線LANとBluetoothだろう)とステレオスピーカが組み込まれている。これまでの機種よりも、フレキシブル基板は少なく、液晶側の接続の接続と本体上部側面にあるスイッチ類の接続にのみ使われている。それ以外のスピーカやアンテナ、右側面の電源コネクタなどは、板バネのような端子で接触しており、本体のネジによる圧力でちゃんと接触するようになっている。これは、修理などを容易にするためと思われる。構成パーツをきちんと組み合わせてネジを止めるだけでほとんどの接続が完了し、分解も容易だ。ただし、ネジには、ヘックスローブネジ(トルクス)が使われているので分解には専用ドライバが必要だ。 N770やN800よりも機能(GPSなど)や部品数も増えているものの、全体としてかなりシンプルな印象を受ける。同じようなマシンを3世代も設計したので、かなり慣れてきたという感じだ。 ●メイン基板は裏表に部品を配置 メイン基板(図01)は、ほぼ筐体と同じサイズである。キーボードの接点部分はこのメイン基板上にあり、液晶部を除くと主要な部品は、ほぼこのメイン基板に集約されている。背面のバッテリボックスカバーを開けると、バッテリボックスの横にプラスティックに覆われている部分と、バッテリケース上部の部分があるが、この下に部品が配置されている。 主要なデバイス(表02)は、ブロックごとにシールドに囲まれており、このあたりの作りは、N800と同じ(というかNOKIAの携帯電話に広く見られる構造)である。
メイン基板の裏表に部品が配置されている。ここでは、液晶を上にしたときに、上を向く面(キーボード側)を「表」、下を向く面(バッテリの有る側)を「裏」とすると、表には、フラッシュメモリやGPSデバイスが、裏側には、RAMや無線LAN、Bluetoothデバイスなどがある。 CPUは、N800同様RAMと重ね合わせたマルチチップのようだ。「ようだ」というのは、N800のときと同様、CPU自体は見ることができず、メインメモリ(RAM)と思われるSamsungのチップが2段重ねになっているのが見えるだけだからである。 スペックによれば、メインメモリは、128MBで、SamsungのKAT00F00RA-D477というデバイスがこれだと思われる。また、表側には、同じくSamsungのKMBDA0000A-S998がある。このデバイス自体は、SamsungのWebサイトには掲載されていないが、Samsungのデバイスナンバー命名規則によれば、MoviNANDとNANDのマルチチップパッケージである。MoviNANDは、簡単にいうと、マルチメディアカードと同等のコントローラと組み合わせたNANDフラッシュである。形状としては、フラットパッケージ(FBGA)のデバイスだが、インターフェイスはMMC 4.2相当になっており、ソフトウェアから見るとMMCに見える。このため、ハードウェア的には、容量や内部のフラッシュメモリの構成が変化しても、インターフェイスとソフトウェアは同一のままであり、簡単に変更が可能となる。たとえば、記憶容量で製品のラインアップを組むような音楽プレーヤーのような製品では、ハードウェア、ソフトウェアは同一のまま、MoviNANDだけを変えることで容量の違いを実現できるわけだ。 このKMBDA0000A-S998は、このMoviNANDを使ったマルチチップパッケージであることから、カタログスペックにあるフラッシュメモリ256MBがここに入っていると推測される。ほかにフラッシュメモリのようなデバイスがないからである。 CPU関連のデバイスとしては、基板表にTWL92230CというOMAP24xxシリーズ向けの電力制御デバイスがある。 N800と同じく基板上にEPSONのデバイスがあるが、これはどうやらS1D13745というモバイル向けのディスプレイコントローラ(Mobile Graphics Engine)のようだ。この製品は、1,280KBのeDRAMを持ち、LCDとTV(NTSC、PAL)に出力が可能なデバイスである。 サウンド関係のデバイスは2つ。NOKIAのAVILMAというデバイスと、TIのTLV320である。TIのチップは、ステレオコーデックで、ミキサー機能やDA/ADなどの機能を持つ。NOKIAのAVILMAは、外販されているデバイスではないのでスペックははっきりしないが、普通の携帯電話などにも搭載されているところを見ると、音声を扱うデバイスだと思われる。 N810にはGPSデバイスが組み込まれているのだが、これは、TIのGPS5300のようだ。基板の表で、カーソルキーの上、液晶の下にあたる部分にこれがある。最近の携帯電話などに組み込まれているGPSのアンテナは数mm角程度なので、このデバイスのそばにある部品がアンテナのようにも思えるが、デバイスもシールドに覆われているので、外にあるのかもしれない。それらしい小さな部品はいくつかある。なお、シールドの外に超小型の同軸コネクタがあり、外部にアンテナを接続することはできそうだ。 出荷当初、GPS制御用のソフトウェアにバグがあったため、衛星捕捉がちゃんとできなかったが、アップデート後は、ちゃんと捕捉するし感度も悪くなさそうである。 無線LANとBluetoothデバイスは、基板の裏側にある。というのもアンテナが、本体裏のバッテリカバーの上の部分(左右のスピーカーの間)に配置されているからだ。無線LANは、STマイクロエレクトロニクスのSTLC4560、BluetoothはCSR社のBluecore4相当のもので、メーカーの組合せは、N800と同じである。 また、N800ではバッテリが変更になっている。容量もサイズもN800で使っていたものとほぼ同じリチウムポリマー電池である。N800まで使っていたバッテリは、ノキアジャパンが扱うE61と同じで、国内でも入手が可能だったが、N810用のBP-4Lは、国内では扱っていないようである。 【表02】「N810の主要なデバイス」
N810はキーボードやGPSを内蔵し、ハードウェアスペック的にも十分なものがある。連続4時間しか使えないが、外出先では間欠的な利用になるだろうし、無線LANをONにしたままのスタンバイ状態でも5日間は動作し(スタンバイ中は無線LANはOFFだが、標準状態にしたときに自動的に再接続する)、無線LANなどの通信を完全にOFFにすれば、スタンバイ状態で14日間はバッテリが保つ。 ブラウザはFirefox系で、これまでのPDAに比べると格段にPCでのWebブラウズに近い環境にある。筆者は日常的にFirefoxを使っているが、JavaScriptなどの実行時間や画面解像度の差はあれ、表示に関してはかなりPC版に近い。Googleのサービスがデスクトップと同じように利用できるので、メールなどもGmailをそのまま使える。あと心配なのは通販系のサイトだが、外出先で無線LAN使ってオンラインショッピングするのは、セキュリティ上問題があり、筆者はまずやらない。なので、実質上ほとんど問題がないといえる。 β版だが、Maemo CJK Supportで日本語化もできるので、ちょっとしたメモなどの入力も可能だし、PDFの表示もできる。必要なデータはminiSDを使えば、簡単にPCとやりとりできる。 この記事を書いている間、N810はバラバラの状態で持ち歩くことができなかったのだが、ちょっと寂しい感じがした。ARM系プロセッサでここまでできれば、メールやWebなどの軽い用途だとPCを持ち出すまでもないという気がする。最近出たデバイスとしては、比較的使えるものなのではないかと思う。できれば日本のノキアでも扱って欲しい製品だ。 □関連記事 (2008年4月30日) [Reported By 塩田紳二 / Shinji Shioda]
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