塩田紳二のPDAレポート

イーモバイル「イーモンスター S11HT」



S11HTは、液晶がチルトするスライド式フルキーボードタイプ。液晶側にはナビゲーションキーやソフトキー、アプリケーションキーが並ぶオーソドックスなPDAスタイル

 イーモバイルの「S11HT」を買った。EMONSTER(イーモンスター)という通称もあるようだが、ここでは機種名のS11HTで通すことにする。参考のため前機種であるEMone(S01SH II。今回はこちらも機種名にする)とのスペック比較を下の【表01】にまとめておく。なお、S11HTのプロセッサ名にあるMSM7200は、QualcommのHSUPA/HSDPA/WCDMA対応のチップセットの名称であり、アプリケーションプロセッサとしてはARM11相当のコアを内蔵している。

【表01】S11HT、S01SO IIスペック比較
  S11HT S01SO II
CPU Qualcomm MSM7200(ARM11) Marvell PXA270
Clock[MHz] 400 520
RAM[MB] 128 128
Flash[MB] 256 512
LCD 2.8型 QVGA(320×240) 4.1型 WVGA(800×480)
USB 2.0(Full Speed) 2.0(?)
Bluetooth 2.0+EDR 1.2
WLAN 802.11b/g 802.11b/g
カードスロット microSD miniSD
Windows Mobile 6 Professional 6 Classic
サイズ 112[H]×59[W]×19[D] 140[W]×70[d]×18.9[H]
重量[g] 190 250

●コンパクトだが使いやすい

 S11HTは、同じイーモバイルのS01SH II(EM・ONE α)に比べるとコンパクトである。日常的な使い勝手は、S01SH IIよりもよさそうだ。これは、サイズに起因するもので、S01SH IIは、液晶が4.1型で、S11HTよりも一回りは大きい。なので、手に持ったときにあんまりしっくり来ないのである。

 S11HTの液晶は、2.8型QVGA(320×240)なので、全体のサイズもコンパクトだ。また、スクロールダイヤルなどもあり、メールを読む程度なら片手で操作できるのもいい。

 キーボードは、押した感じは柔らかく、また、キーボードの最上段と液晶の間は広く、キーが押しにくいということもない。液晶を立てることができるので、机に置いたり、両手に持ったときにも見やすい角度にできるので割と使い勝手もよい。左右のソフトキーもちゃんとフルキー側にあるため、開いているときにメニューを開くのも簡単だ。

キーボードを開いたS11HT。この状態から液晶を立てることができる。キーボードはかなり柔らかいがクリック感がある。ソフトキーやカーソルキーもあり、フルキー側で操作が可能だ 本体下部。ナビゲーションキーの下にあるのがmicroSDスロット。スタイラスホルダやUSB(充電とヘッドセット端子を兼ねる)、ストラップホールがある。なお、USBコネクタ右側の2つの穴は、上がリセットボタン用、下がマイク用である 写真右からS01SH II、X01T、S11HTである。S01SH IIとX01TはともにワイドVGAで800×480ドット。S11HTがQVGA(320×240)である。Windows Mobileでは、通常表示は、QVGAに合わせるようになっているため、どれも横方向の表示文字数は同じになる

●だけどバッテリも小さい

 ただ、小型化ゆえの問題としてバッテリ駆動時間の問題がある。何もしていないときの消費電力は割と小さく、カタログスペックでは待ち受け時間は350時間になっている。しかし、30分に1回メール(GMailをIMPA4にてアクセス)をチェックするような設定にしておき、ときどきメールを見るような使い方をすると、バッテリ寿命は17~24時間程度。毎日充電が必要な点は、S01SH IIと変わらないようだ。

 また、Bluetoothで外部機器を接続して通信を連続で行なわせた場合、完全にバッテリが無くなるまでの動作時間は2時間50分程度だった(Bluetooth PAN経由でN810を接続し、インターネットラジオを連続して視聴したとき)。2時間30分でバッテリ残量が10%となり、警告が表示され、その後19分ほど動作した。残量が1%となったために充電を開始したが、リセットがかかってしまった。メモリなどを残したいのなら、残り10%で警告が出たあたりでやめておいたほうが無難だろう。

 連続通信で2時間30分は少し短すぎるような感じである。S01SH IIも短かったが大容量バッテリがあった。しかし、S01HTには、純正オプションとしては大容量バッテリは用意されていない。

 筆者としては、Bluetooth経由でノートPCやN810から利用することもあって、この機種にしたのだが、2時間30分は、使えないとまでは言わないが、ちょっと短すぎる。USB接続ならば、通信中もS11HTは充電状態になり、動作時間はもっと伸びるだろう。しかし、USB接続で使うなら、USBタイプのアダプタを使えばよく、Bluetoothによるワイヤレス接続というところにS11HTを使う意味がある。

 インターネット共有で接続している間、S11HTは自動でスリープ状態に入らない(接続待ちの状態でも、外部機器からの接続前ならばスリープ状態に入る)。ただし、電源ボタンで強制的にスリープ状態に入れることは可能で、また、接続もそのままだ。先ほどの動作時間のテストは、ずっとスリープ状態にしており、バッテリ残量を確認するときのみONにしていた。これをずっとONのままにしておいても動作時間には15分程度しか差はでなかった。

●ダイヤルアップからインターネット共有になった

 S11HTは、PCなどに接続して通信を行なわせる場合、S01SH IIとは違い、「インターネット共有」を使う。S11HTは、BluetoothならPAN(Persola Area Network)プロファイルのNAP(Network Access Point)になり、USBならば、ActiveSync経由でのアクセスとなる。これは、Windows Mobile Deviceをネットワークアダプタ(NDIS Divice)として接続するもの。このためUSB経由での接続は、原理的にはWindowsに限られる。

 また、Bluetoothでも、従来のようにDUN(Dial Up Network)プロファイルではないため、利用する機器がPANプロファイルに対応している必要がある。こういう面倒なことになった半面、他のデバイスとPANで接続し、通信を行なわせている間も、S11HT側でメールチェックなどのインターネットアクセスが可能になる。DUNやUSBにより外部機器(PCなど)がモデム接続を行なっている間は、Windows Mobile側は、通信を行なうことができない。たとえば、S01SH IIの場合、外部機器がS01SH IIをモデムとして使用している間、Windows Mobile側はこれを認識することができず、ダイヤルアップを行なおうとして失敗する。

 これはモデムというデバイスが本来共有して複数機器が同時に通信するような仕組みになっていないからである。しかし、インターネット共有の場合、TCP/IPレベルでの接続となり、外部デバイスからのパケットは、Windows Moible上のアプリケーションからのパケットと同様に処理される。このため、Windows Mobile上のアプリケーションと共存が可能なのである。

 また、接続する外部機器(PCやPDA)側もモデムインターフェイスを利用しないことで、接続時の処理負荷が下がる。モデムは、1バイトずつデータを送るシリアルポートと同じレガシーなインターフェイスで、パケットをまとめて送信できるネットワークインターフェイスよりも処理負荷が高い。また、プロトコル的にもTCP/IPをPPPでくるみ、その上でシリアルデータとして通信させるため、その分の負荷もある。

 こうしたメリットの半面、接続できるデバイスが限られる。また、後述するようにS11HTでDUNプロファイルを有効にすることも可能なのだが、この場合には、S11HTを操作する必要がない。これに対してインターネット共有では、プログラムを起動し、メニューから「接続」を選択しない限り、USBやBluetoothでの接続を受け付けない。また、一回外部機器側で通信を終了させると、インターネット共有側は非接続状態に戻ってしまう。このため、必ず接続前にS11HT側を操作しなければならない。

 実際に使ってみると、DUNでは時々接続に失敗することがあるが、PANは確実に接続できる。また、後述のベンチマークにあるようにDUNよりもPANのほうが高速である。

 それで、筆者は、いまのところPANプロファイル経由でインターネット共有を介して接続している。というのは、筆者の手元にあるノートPCやN810ではPAN経由の接続が可能であり、DUNでもときどき失敗して、結局S11HT側の操作が必要になるからである。

●Bluetooth経由でもS01SH IIよりも高速

 気になる転送速度だが、Bluetooth経由でも、USB経由でもS01SH IIよりも高速という結果だった(表02)。テストは、Windows Vistaを搭載したノートPCとUSB、Bluetooth PAN、DUNで接続し、同時にS01SH IIでもテストを行なった。

 まず、S01SH IIとの比較だが、USB、Bluetooth PAN/DUNのいずれでも、S11HTが上回った。Bluetoothは、S01SH IIがBluetooth 1.2であるのに対してS11HTは、Bluetooth 2.0+EDRとなっているため、転送レートに差がある。また、インターネット共有とモデム接続では、前述のように効率的な差が原理的に存在する。

 S11HTには、BluetoothでDUNプロファイルを利用可能にするプログラム(WM6_BT_DUN.Cabファイル)がインターネットで出回っている。これを利用してDUNプロファイルで接続したときも参考として測定してみた。まず、PANプロファイルとの差は、15%程度。これがネットワークドライバ経由とモデムドライバ経由の差なのであろう。

 しかし、S01SH IIとの比較では、同じUSB接続であっても、モデム、ネットワーク接続の方式の違いはあっても、かなり差がある。これから推測するに、無線部の性能などが違っているのではないかと思われる。S01SH IIでは、筆者の仕事部屋ではときどき圏外になり、ダイヤルアップに失敗することが多々ある。一方、S11HTの場合、どうも圏外になることはないようなのだ。「ないようなのだ」というのは、S11HTの電波状態表示は、携帯電話用のもので、データプランのSIMを入れていると電波状態が表示できないからである。しかし、これまでダイアルアップなどに失敗することがないことから、受信強度はそれほど悪くないと推測される。同じ場所なのに、受信状態が違うのは、無線部の性能が違うからと判断できそうだ。

【表02】ベンチマーク結果
  S11HT S01SH II
USB BT PAN BT DUN USB BT DUN
1 1.49Mbps 1.08Mbps 928kbps 489kbps 360kbps
2 1.41Mbps 1.13Mbps 920kbps 591kbps 338kbps
3 1.22Mbps 1.10Mbps 915kbps 533kbps 356kbps
4 1.44Mbps 1.12Mbps 935kbps 580kbps 330kbps
5 1.43Mbps 0.98Mbps 928kbps 546kbps 321kbps
平均 1.40Mbps 1.08Mbps 925kbps 548kbps 341kbps

●GPSも搭載

 S11HTのもう1つの特徴はGPSが内蔵されたこと。このGPSは、イーモバイルの通信を利用してサーバーから衛星に関する情報を入手してから衛星捕捉を行なうことができる。このため、通常のGPSよりも短時間で衛星捕捉可能という特徴を持つ。外出したときに試してみたが、衛星が受信できるような環境なら、1分以内に衛星を捕捉して緯度経度の測定が可能になった。イーモバイルだと通信料金を気にしなくていいので、これは便利な機能かもしれない。ただ、海外に行ったときにはどうなるのかがちょっと気になった。なぜなら、特に地域を指定するようなメニューがないからである。今度アメリカに行ったときに試してみることにしよう。

 GPSを使うアプリケーションとしては、Navitimeが用意されているが、これは、ケータイプラン用のSIMを入れていないと、利用できない。フリーで入手可能で、GPSを利用できるものとてはGoogleのモバイルGoogleマップがある。標準状態で、GPS中間ドライバが使えるようになっているので、モバイルGoogleマップでも、「Windowsで設定」のままでいい。

●Windows Mobileは少しバージョンアップ

 このS11HTが搭載するのは、Windows Mobile 6 Professionalである。これに対して、S01SH IIは、通話機能を持たなかったため、Classincエディションが搭載されている。S11HTに搭載されているProfessional Editionは、5.2.1944で、ソフトバンクモバイルのX01Tが搭載しているWindows Mobile 6 Professionalよりも若干新しい。

 Windows Mobileは、エディションごとにバージョン番号が振られていて、S01SH IIとの比較は無意味なので、X01Tとの比較をしてみよう。X01Tでは、購入後にOffice Mobileのアップデートを行なう必要があった。これは、Office MobileをOffice 2007のファイル形式などに対応させるもの。しかし、S11HTでは、この作業は必要なく、また、新たなOffice Mobile ソフトウェアとしてOneNote Mobileが最初から搭載されている。これは、デスクトップ用のOneNote 2007と同期可能なソフトウェアだが、単体でもメモ用に利用できる。ただ、もともとWindows Mobileは、Outlookと同期可能なメモがある。デスクトップでOneNoteを使っているならOneNote Mobileを使うほうメリットはあるが、OneNoteにはビューアが提供されていないので、OneNoteを持っていなければ、作成したファイルをデスクトップ側で利用することができない。なお、OneNote 2007には、Windows Mobile用のOneNote Mobileが付属しているので、別途インストールが可能で、最初から搭載されている必要はない。このほかの変更点としては、前述のインターネット共有程度である。

 WebブラウザがIE Mobileのみなので、GoogleなどのAjax系のフルサービスなどを利用するのは難しいが、携帯電話向けサービスや、専用プログラム(モバイルGoogleマップ)を使えばいいだろう。そう割り切れば、画面サイズと解像度のバランスもよく、割と使いやすい機種なのではないかと思う。

□イーモバイルのホームページ
http://emobile.jp/
□製品情報
http://emobile.jp/products/ht/s11ht/
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【2月25日】フルキーボード搭載のHTC製スマートフォン「S11HT」(ケータイ)
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/38669.html

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(2008年5月27日)

[Reported By 塩田紳二 / Shinji Shioda]


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