昨年(2007年)の8月にNOKIAのインターネット端末「N800」を購入した。最初は、あまりデザインが気に入らなかったのだが、使っていくうちに、それほど悪いものではないと感じるようになった。理由はLinuxベースで、いろいろとプログラムの追加などが可能なため、自分好みのマシンにカスタマイズできるからだ。シャープのLinuxザウルスが、同じような構成だったが、Qtopiaベースであったために、少しアプリケーションが特殊で、移植を待たねばならなかった。 しかし、Nシリーズで使われているLinuxは、デスクトップ用のものに近く、わりと簡単に(場合によってはコンパイルし直す程度で)、Linux用のアプリケーションを動かすことができるので、さまざまなアプリケーションが流通しはじめている。また、アプリケーションマネージャを使えば、インターネットから直接リストをダウンロードし、インストールするプログラムを選択してそのままインストールできるため、いちいち、PCを介して作業する必要がない。これは意外と便利だ。 さて、このNシリーズの最新モデルがN810である。昨年10月に発表され、年末あたりから、出荷が始まったようである。OSもバージョンアップされたし、待望のキーボードも組み込みになった。買おうかどうしようか迷っていたのだが、円高のニュースを聞いてつい、購入してしまった。メーカー希望価格は479ドルだが、通販などではもう少し安いところもあり、送料などを入れても5万円弱で入手できる。 今回は、取りあえず概要のみをお届けし、別途、分解レポートを行なうことにする。 ●筐体はコンパクトに N810のパッケージには、本体、バッテリ、ACアダプタに加え、専用のUSBケーブル(N810はMicro ABタイプのUSBコネクタを採用している)、予備のスタイラス、ソフトケース、自動車用のマウント部品が入っている。取説は、紙を折りたたんだ簡単なものが付属するのみだが、ノキアのサイトから詳しいユーザーズガイドをPDFとしてダウンロードできる。 自動車用のマウント部品が同梱されているのは、N810をPND(Personal Navigation Device)のように利用するためだと思われる。N810はGPSを内蔵しており、また地図アプリケーションが最初から組み込まれている(ただし、ルート検索などのナビゲーション機能は有料)。 N810は、一見するとかなりコンパクトである。これに対して、N800は、割と大きいという印象がある。実際には、任天堂のDS Lite程度なのだが、液晶の左右にスピーカーが配置され、全体がアルミパネルになっている。また、スタイラスと回転式のカメラを格納するため、本体後部が出っ張っている。この部分のデザインは個人的にはあまり好みではなかった。 これに対してN810は一回り程度小さく、また背面もフラット。イメージ的には一枚の板のような感じになった。ただし、カメラは正面のみしか撮影できず、撮影用というよりはテレビ電話用だろう。 N800とN810の最大の違いは、スライド式のキーボードが内蔵された点。こうした機構があるにも関わらず、N800よりも薄い。スライド式キーボードがついたために、以前の機種で液晶横にあったナビゲーションキーは、キーボード側に移動した。このため、キーボードを引き出さないとナビゲーションキーによる操作はできなくなった。もっとも、閉じた時はスタイラスや指による操作、引き出したときはキーボードによる操作、とはっきりと分かれた感じである。 ただし、キーボードは少し固めで、使いやすいとはいえないレベル。だが、URLやちょっとしたメールの入力程度なら問題はあまりない。どちらにしても、タッチタイピングが可能なサイズではないし、両手で持って、親指でキーを押すというスタイルになるからである。ただ、方向キーと実行キーであるナビゲーションキー(NOKIAの呼び方は「Scroll Keys」)がN800に比べて押しにくくなったのは残念だ。
液晶側には、プログラムを切り替えるアプリケーションスイッチャーのための「SWAP Key」と、メニューなどを取り消す「Escape Key」があるのみ。N800では「Menu Key」やナビゲーションキーが液晶の隣にあったのだが、N810では、この2つはキーボード側に移り、本体をスライドさせないと利用できなくなった。 このほかにN800と違う部分は、いくつかあって、たとえば、USBコネクタがmicro USBコネクタとなった。国内でもPHSなどが採用しているが、Mini USBよりも薄く、簡単には抜けないようになっている。ただし、ケーブルの入手性はいまのところ低い。本体には1本ケーブルが付属しているので、別途購入する可能性は低いが……。 また、メモリカードは、miniSDカードとなり、内部のSDカードスロットは廃止された。ただし、2GB相当のメモリが内蔵されており、これが内部SDカードスロットの代わりになって、ここにスワップ領域を作ることができる。 その他、CPUのクロックが向上し400MHzになった。CPU自体は、TI OMAP 2420で変更はない。(表1)は、N770~N810までのスペックを比較したものである。
【表1】N810 とM800、N770のスペック比較
●OSもバージョンアップ N810には、Internet Tablet OS 2008(以下OS2008)が搭載されている。これは、Linuxをベースにしたもの。N800のものは、OS2007と呼ばれていて、トップページのデザインなどが変更されているほか、標準のアプリケーションが一部変更になっている。基本的な操作などは、従来のOS2007と同一である。なお、このOS2008は、N800用もリリースされており、アップデートが可能だ。なお、OSなどに関してはN800の記事を参照されたい。また、OS2007同様、maemo CJK Supportで日本語表示が可能になるが、これ自体はまだβ版。しかし、Webブラウザでの表示やテキスト、PDFの表示は可能になっている。 標準アプリケーションは、基本的には同じだが、前述のMapソフトウェアやコンソールウィンドウになるX Terminalなどが追加されている(表2)。また、Webブラウザは、Operaベースのものから、Firefox系のレンダリングエンジンを使ったものに変更された。これは、Firefox 3.0となる予定のレンダリングエンジン(microなどを使って作られたもので、ユーザーインターフェイス部分は、Internet Tablet OS用になっている。とはいえ、HTMLから画面を作る方法(レンダリング)やJavaScriptの振る舞いは、Firefoxとほぼ同じであり、デスクトップ版のFirefoxのようにAJAXを使って作られたサイトなどの表示がちゃんと行なえる。 たとえば、Googleカレンダーのようなサイトの場合、Operaでは、簡易表示でないと正しく表示が行なえなかった。Google Mapも、表示がおかしかったり、ドラッグでつまみを動かして拡大率を変えるのがうまくできなかったが、OS2008のWebブラウザでは動くようになった。また、このWebブラウザには、Adobe Flash 9相当のプラグインも標準で組み込まれている。 標準でGPSが搭載されたため、地図表示ソフトウェアが搭載され、内部メモリカードスロットには、地図データが記録されて出荷される。このソフトウェアは、NaviCore社のもので、有償のサービスとしてナビゲーション機能を別途購入することができる。ただし、現状では、日本はサポート範囲ではないため、日本国内の地図も用意されていない。 その他オンラインで入手可能なソフトウェアは、OS2007用のものなどが基本的に利用できる。内蔵のアプリケーションマネージャは、無線LAN経由でインターネットから直接ソフトウェアのリストをダウンロードしてインストールできる。いちいち、PC経由でダウンロード、転送といった手間がいらない。ただし、使いこなすには、リポジトリ(インストールパッケージを登録したサイト)の設定やRed Pillモードと呼ばれる上級者向けのモードに変更する必要はある。場合によっては、動作がおかしくなるようなこともあるので、初期状態は、Linuxなどを知らなくても安全に使えるようになっているが、知識の豊富なユーザー向けの切り口はちゃんと残してある。 また、シェルを使うためのX Terminalが標準で入り、メニューにも登録されている。これまでは、別途インストールしたり、開発者モードに変更などのややこしい作業が必要だったのだが、これで簡単にシステムファイルなどが変更可能になった。
【表2】N810のアプリケーション構成
●Bluetooth内蔵なので携帯電話などの通信機能を利用できる キーボードがついたのはうれしいが、筐体が小さいため、キーボードはお世辞にも打ちやすいとはいえない。特に、最上段は、液晶の端がギリギリのところにあるのと、打鍵感というかキー自体がかなり堅く、ちょっと押しにくい。この大きさなので、最初から長文を入力しようとは思わないが、URLや検索語の入力程度までという感じだ。ソフトウェアキーボードのように画面を隠さないので、使い勝手が向上している部分もあり、トータルとしては評価できる改良点といえるだろう。どうしても長い文章を入れたいのなら、Bluetoothキーボードが利用できる。 ざっと使った感じ、N800よりも小さくてキーボード付き、ブラウザもGoogle系のサービスと相性が良くなったので、GmailやGoogle Map、カレンダー程度ならノートPCの代わりとして十分利用できる。巨大なファイルでなければ、PDFも読める。現状、EM・ONEとBluetoothで接続して外出先で利用している。psShutXPというソフトを使ってEM・ONEのディスプレイだけをオフにして、カバンの中に入れっぱなしにしてある。EM・ONEをときどきスタンバイから復帰させてやる必要はあるが、一度接続できれば、しばらくはちゃんと動く。PDAを2台も持ち歩いて少し奇妙だが、ノートPCを持ち歩くよりは軽い。 □関連記事 (2008年3月25日) [Reported By 塩田紳二 / Shinji Shioda]
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