Nokiaの「Internet Tablet N770」については、以前簡単にレポートしたが、その後継機種である「N800」がすでに発売されている。N770/800は、LinuxをベースにしたInternet Tablet OS(IT-OSとも)を採用し、800×480ドットという横長の液晶を使うタブレットマシンである。 N770/N800は、無線LANとBluetoothを持ち、携帯電話と併用したり無線LANのある環境でのメールやWebブラウジングを前提としている。携帯電話メーカーのNokiaとしては、大きな液晶でPCに近い表示のブラウザを使うための機器という位置付けではないかと思われる。だから名称も“Internet Tablet”なのだろう。 しかし、Linuxをベースにオープンソースで開発されているため、最近では多数のソフトウェアが入手可能だ。また、日本語対応(正確には日中韓対応)のプロジェクトも動き出している。 筆者は、N770をしばらく使っていたが、少々パフォーマンス不足を感じていた。そのうちタッチパネルの調子が悪くなってしまったので使うのをやめてしまった。しかし、N800はパフォーマンスも改善され、ファイル領域不足もかなり解消し、ぐっと使いやすくなった。今回は、このN800についてレポートする。 ●銀色でシンプルな外観 N770は、黒い筐体に銀のハードカバーがセットになっていて、持ち運び時には液晶面をカバーで保護しつつ、使うときには、ひっくりかえしてカバーを装着すればカバーが邪魔にならないという特徴があった。ちなみにこのN770、最近公開された映画「ファンタスティックフォー 銀河の危機」(宇宙忍者ゴームズって言っても、最近の人にはわからないか……)にも登場している。 これに対してN800はハードカバーが省略されたが、代わりに本体背面に支持脚が付き、単体で机の上に立つようになった。N770は簡単なスタンドが付いてきたのだが、分解できるとはいえ別に持ち歩くのは不便だ。本体一体型の支持脚は、後述するようにBluetoothキーボードと組み合わせて使うときにも便利だ。 カバーは無くなったが、一応厚手の布というか合成皮革というか、手触りはバックスキンのようなソフトケースが付属している。N770には巾着みたいな薄い布の袋がついてきたが、それよりは使い物になりそうだ。 液晶は、4.5型のワイドタイプで、解像度は800×480ドットだ。解像度は、シャープのAdvanced W-ZERO3[es]と同じだが、こっちは3型。僅かなサイズ違いだが、文字などは、N800のほうが大きくて見やすく、体感的には倍ぐらいの違いを感じる。長さの比では1.5倍(4.5型と3型)だが、面積比では2.25倍となるのでそう感じるのだろう。 筐体正面の両サイドにスピーカー、左側にカーソルキーなどを備えている。本体上部にもキーが4つ(うち1つは電源ボタン)、右側面には、イヤフォンマイクにも対応したステレオヘッドフォン端子、電源コネクタがあり、支持脚をずらすと、下にUSBコネクタがある。また、SDカードスロットも支持脚の下にある。 N770とN800のサイズはほとんど同じで、利用するバッテリも携帯電話で使われる「BP-5L」と同一である。 また、VGA解像度のカメラを内蔵している。これは、本体側面に普段は収納されており、軽く押し込むと円柱型のカメラ部が飛び出してくる。回転させることもできるので、デジカメのようにも利用できるし、自分を映すのにも利用できる。 重さは約200gと、軽くはないが、持ち運びの支障になるような重量ではない。
●ハードウェアスペックは、N770から進化 CPUには、TIのOMAP2420 330MHzを利用、RAM 128MBと256MBのフラッシュメモリを備える。フラッシュは、システムとユーザーデータ用となっており、初期状態で140MB程度が利用可能だ。N770はOMAP1710 250MHzでRAM 64MBだったので、CPU/メモリともに強化されている。このあたりのスペック比較を表1にまとめておく。
【表1】N800とN770のスペック比較
OMAP1710はARM9相当であり、OMAP2420はARM11相当だ。ファミリとしても、OMAP2420はOMAP2ファミリとなり、メディア再生機能なども向上している。N800は超高速というわけではないが、N770で見られたアプリケーションの起動や切り替え時のもたつきがなく、ブラウジングもかなり快適である。 また、IEEE 802.11b/gに対応しているため、無線LANが使える環境ならかなり快適に利用できる。筆者宅のIEEE 802.11gのアクセスポイントに接続して、ダウンロード速度を測ったところ5Mbps程度は出ていた。この程度の速度が出るなら、携帯機器としては十分と思われる。実際、米国取材の折にこれでメールとWebを使ってみたが、表示は大きくて見やすく、動作も軽快で、ノートPCを出す必要を感じない程だった。 このN800は、SDカードスロットを2つ持っている。1つは本体下部にあり、簡単にメディアの交換ができる。もう1つはバッテリケース内にあるのでメディア交換は簡単ではないが、SDカードを常に差しておき、Linuxのスワップファイルを作るといった使い方ができる。 また、SDカードスロットはSDHCに対応しているため、最大で8GBのSDHCカードも利用できる(もっともまだ高価だが)。こうした機器では、PC代わりにいろいろなファイルを持ち歩こうとするとすぐにファイル領域がいっぱいになってしまうが、N800なら最大で16GBまではファイル領域を拡大できるわけだ。 USBでPCに接続したとき、この2つのカードスロットは、PC側からはマスストレージとして見えるようになる。その間は、N800側ではアンマウントされた状態となり、ファイルを不用意に変更できないようになっている。このUSBインターフェイスは、メモリカードアクセスのほか、OSのアップデートにも利用される。 ●分解してみました というわけで中身が気になったので分解してみた。まずは、お約束のご注意から。
なお、このN800だが、内部には、かなりヤワな部分があるため、分解は決してオススメしない。筆者のN800は、分解後に内部SDカードスロットが読めなくなってしまった。このカードスロットの端子部分はかなり薄いプラスチックが使われており、指を乗せただけでも簡単に割れてしまう。 N800は、正面の銀色のパネル(アルミだと思われる)がはめ込み式になっていて、ネジなどはその下にある。支持脚の下に隠れている穴からパネルのツメ部分を押して外し、液晶やメインボードを止めてあるネジを外せば簡単に分解できる。ただし、ネジは頭が六角の星形になったヘクスローブ(トルクス)ネジである。 内部は、メインボードと液晶を、本体後部側にあたる筐体と金属のフレームで挟んだ形になっている。金属のフレームは、内側に柔らかい素材が使われており、液晶部分にかかる力を吸収するような形になっている。また、ボタンやスピーカーなどは、このフレームに取り付けられている。 メインボードは、バッテリケースに相当する部分が切り取られた形で、主要な回路はバッテリの横に置かれている。 また、メインボードは複数のシールドされたブロックに分割されている。ほとんどの部品は、このシールド内に配置されている。これは、電波の漏洩対策であるとともに、無線LANや携帯電話の電波による影響を極力避けるためでもあろう。こういう機器となれば、携帯電話と一緒に片手で掴んで通信するといった使い方もありえるので、電波対策は重要だ。
シールド部分のカバーを外すと部品が見える。シールドは、大きな機能単位でブロックに分けられているようだ。カタログによると、N800はTIのOMAP2420を採用しているとのことだが、CPUらしきデバイスは見あたらない。OMAPはいくつも見てきたが、TIと表記してなくとも“OMAP TM”とか型番ぐらいは書いてあるし、他のデバイスもCPUと思われそうな大きさのものは、ほとんど素性が割れている。 考えられる可能性は1つで、CPUはSamsungのMCPメモリデバイスの下に配置されているのではないだろうか。よく見ると、デバイスの下に薄い基板が見える。カタログによれば、OMAP2420には、メモリチップをスタックすることができるMCP対応のパッケージが用意されている。しかし、TI自身は、'98年にすべてのMOSメモリの製造を中止している。なので、スタックするRAMは必ず他社のものになるはずだ。 また、このSamsungのデバイスは、メモリを表すKではじまっているものの、2文字目が「B」になる製品は同社のオーダー用のデータベースには見あたらず、特定顧客向けのデバイスであることをうかがわせる。 なので、CPUは、このメモリデバイスの下にあると考えていいだろう。OMAPファミリ用のUSBデバイス(TSUB6010B)、電源管理デバイス(TWL92230C)もあるのでOMAP2420であることは間違いないと思われる。
【表2】N800の主要デバイス
USB 2.0ブリッジコントローラ(TSUB6010B)は、On-The-Go(OTG)対応のハイスピードUSBコントローラである。機能的には、N800はUSBホストになれるのだが、本体コネクタはミニBであり、ホストケーブルを装着することはできないようだ。 無線LANは、STマイクロエレクトロニクスのSTLC4550で、カタログ通りIEEE 802.11b/g対応のもの。Bluetoothには、CSRのもの(おそらくBlueCore4シリーズのデバイスと思われる)が使われている。CSRのデバイスは、DSPとRF部に対して、ファームウェアを内蔵か、外付けか、組み込み専用かといった作り分けがされていて、カタログでは、明確に型番が記載されていないが、ドキュメント番号などから、BlueCore4に属する製品と思われる。 そのほかに変わったところとしては、Philips(現NXP)のシングルチップFMラジオ(TEA5761UK)が搭載されている。標準では、ソフトウェアがないため動作しないが、FMラジオを使うためのソフトウェアが公開されている。 正体不明のデバイスもいくつかある。うち2つは、Nokia製携帯電話に頻繁に使われるものでNokiaのカスタムデバイスであると思われる。1つは、チップのシルク印刷などからBettyと呼ばれている電力管理のデバイス(4376535)、もう1つは、AVILMA 1.05Cと呼ばれるオーディオ関連のデバイスである。前者は、バッテリがNokia製なのでその充電などの管理に使われ、後者は通話用のマイクやスピーカーなどの音声を扱うものではないかと思われる。 さらにもう1つ、EPSONのデバイスも用途が不明だ。DやFといったアルファベットが使われているが、EPSONの半導体は、“S1”に続くアルファベットでカテゴリ分けされており、DはLCDなどのドライバ関連、Fはパワーマネジメント関連であるが、記載されているような番号のデバイスが見あたらない。ASIC系なのだろうか。場所などからすると液晶関連という気がしないでもない。 また、TIのTSC2303もカタログになかった製品だ。ただし、TSC2300~2302までが同じタッチスクリーンコントローラであり、OMAP2420のリファレンスでは、タッチスクリーン用にTSC2301を使っている。この型番からすると同じくタッチスクリーンコントローラ(+オーディオCODEC)ではないかと思われる。 全体的な印象としては、PDAというよりもスマートフォンといった感じの作りである。Nokiaの携帯電話のメインボードは、だいたいこんな感じで、ブロックごとにシールドされている。 さて、比較のためにN770も分解してみた。こちらも同じようなメインボードでやはりブロックごとにシールドされている。ただしこちらは、ちゃんとCPUが見える。
【表3】N770の主要デバイス
N800とN770は似ているが、それは先行機種と後継機種というよりも、同じNokiaの製品だからという感じである。設計や作りは、携帯電話と同等であり、内部にシールドを多用するなどある程度のコストはかかっているようだ。このN800は、米国で399ドル(120円換算で約48,000円)だったが、まあ、値段相応のコストというところだろうか。 さて、分解で話が長くなってしまったので、次回は、N800のソフトウェアや日本語化などについてレポートする。
□ノキアのホームページ (2007年10月17日) [Text by Shinji Shioda]
【PC Watchホームページ】
|