2007年11月に行なわれたRadeon HD 3000シリーズの発表において、最大4GPUを連携させる「CrossFireX」もアナウンスされた。“Quad CrossFire”などと呼ばれたりする本機能であるが、これまでドライバがリリースされておらず利用することができなかった。今回、Radeon HD 3870 X2を2枚利用して4GPUを実現した評価キットを利用する機会を得たので、そのベンチマーク結果をお伝えしたい。 ●2GPUビデオカード×2枚で4GPU環境を実現 4個のGPUを用いてレンダリングを行う手法としては、NVIDIAが過去にQuad SLIの環境を用意していた。これは、2個のGPUを搭載したビデオカードを2枚用いて合計で4GPUという仕組みだ。これに対し、AMDが提供するCrossFireXは、1個のGPUを搭載したビデオカードを4枚用いることで4GPUを実現できるのが大きな特徴となる。 とはいえ、2GPUを搭載したビデオカード2枚を用いて4GPUを実現することも可能で、今回テストする評価キットは、まさに2GPU×2枚によるQuad CrossFireを構築したPCとなっている(写真1~3)。主なハードウェア環境は表1に示した通り。
【表1】Radeon HD 3870 X2評価機の仕様
まず、CPUはRev.DR-B2のクアッドコアPhenomで、これを2.6GHzで動作させたものとなる。以前にベンチマーク結果をお伝えしたPhenom 9900相当のES品と同じである。これと、MSIのAMD 790FXマザーボードである「K9A2 Platinum」(写真4)、計2GBのDDR2-800メモリ、Western DigitalのRaptorなどを組み合わせた構成となっている。OSはWindows Vista Ultimateの64bit版がインストールされており、比較機材として用意した3-way SLI環境も、同様に64bit版でテストを行なった。 Radeon HD 3870 X2はCrossFire用のブリッジ端子を1系統しか備えていないので、リンクケーブルも1本のみが接続されている(写真5)。電源端子は6ピンと8ピンを備えている。シングルビデオカード時は6ピン×2でも動作するが、CrossFire構築時には6ピンと8ピンの電源端子を正しく接続する必要がある(写真6)。 ドライバの設定ツールであるCatalyst Control Center上からは、2GPUのCrossFireと同様、[Enable CrossFire]欄にチェックを入れるだけで有効になる(画面1)。Quad CrossFireを意識させるような文言は表示されない。なお、Quad CrossFire構築後もRadeon HD 3870 X2の定格クロック通りで動作している(画面2)。
●3-way SLI環境とのパフォーマンス比較 それでは、ベンチマーク結果を紹介していきたい。用意した環境は表2の通りである。テストにあたっては、ナナオの29.8型液晶「FlexScan SX3031W-H」(写真7)を借用。2,560×1,600ドットの解像度もテストしている。 Radeon HD 3870 X2とRadeon HD 3870を組み合わせれば、3GPUというテストも可能なのであるが、今回は時間の関係でテストができていない。1~4GPUまでの段階的なパフォーマンス評価は、笠原氏のコラムで実施されているので参照されたい。 また、現時点でPhenomを使用可能な3-way SLIプラットフォームはnForce 780a SLIとなるが、発表はされているものの、製品は発売されていない。そのため、3-way SLI環境については、IntelプラットフォームであるnForce 780i SLI搭載マザー(写真8)と、以前の記事でPhenom 2.6GHzにパフォーマンスが近かったCore 2 Quad Q6700相当のCPU(Core 2 Extreme QX6800の倍率を変更したもの)を組み合わせた環境を利用することにした。CPUの違いもあるので公平な評価とはいかず、絶対的なパフォーマンス評価よりも、GPU数の違いによる性能推移を中心にチェックすることにしたい。 なお、普段実施しているロストプラネットについては、3-way SLI環境においてネットワークを正しく利用できないトラブルが発生したため、実施できていない。
【表2】テスト環境
さて、普段とは順序が異なるが、まずは消費電力のチェックを行なっておきたい。というのも、今回の評価キットで850W電源が使用されている点が気になったからだ(写真9)。4系統の12Vラインを持つ電源で、12Vの総出力は696W。200W超クラスのビデオカードを2枚搭載する電源としてはギリギリのラインかと思われたが、とりあえず電源が原因と思われるトラブルは発生していない。実際の消費電力も、4GPUという数字を見れば、わりと低い電力で収まっている印象を受けるだろう(グラフ1)。
SLI環境との比較は、根本的に電源ユニットからして違うため、絶対的な比較は難しい。過去のテストでは、電源やビデオカードを統一した環境でPhenomの方が消費電力が大きく、かつ、ビデオカード以外の環境を統一した状況でのRadeon HD 3870 X2とGeForce 8800 GTXとの比較ではピーク時にRadeon HD 3870 X2の方が消費電力が大きかったというデータがある。 ということは、今回のQuad CrossFireの環境は、特に負荷が高まった時に3-way SLI環境に比べてビデオカード以外の部分による消費電力は低く収まっていると見ることができる。GeForce 8800 Ultra×2枚時に比べて、Radeon HD 3870 X2×2枚時は大きく消費電力が抑制されている結果に見えるが、ビデオカードの総消費電力としてはもう少し差が小さいか、もしくはRadeon HD 3870 X2が上回る可能性もあるのではないかと推測している。 しかし、Radeon HD 3870 X2は2枚で4GPUということになるが、従来のハイエンド向けデュアルGPUプラットフォームの消費電力から極端にはみ出すことはなさそうである。3-way SLIほど電源ユニットを選ぶということがないのは安心できる要素といえる。
では、パフォーマンスに関するベンチマーク結果へと話題を移したい。この先のグラフは、左側に実際のスコアや平均フレームレートを。右側にシングルビデオカード時を100とした時の相対性能を示すグラフを掲載している。 まずは「3DMark06」(グラフ2~4)と「3DMark05」(グラフ5)の結果である。AMD、NVIDIAとも、描画負荷が高いほどマルチGPUの効果が増していく傾向は変わらない。ただし、ビデオカードを複数化した時の効果はSLIの方が大きく出ており、解像度に関係なく安定している。 ただ、絶対的なパフォーマンスでいえば、描画負荷の高いシーンで、Radeon HD 3870 X2のQuad CrossFire構成が、GeForce 8800 Ultraの2-way SLIを上回ることがある。もちろん環境がまったく異なるので確実なこととはいえないが、同じ2枚のビデオカードを利用するならば、Radeon HD 3870 X2の方が良好なパフォーマンスを得られる可能性があることを示す結果といえるだろう。
「F.E.A.R.」(グラフ6)の結果は、Radeon HD 3870 X2環境では描画負荷が低いシーンで性能の頭打ちが起きてしまった。環境の違いが大きく現れてしまったアプリケーションといえるが、やはり高解像度ではまずまずの性能の伸びを示している。CPUが同一ならば、違った結果を期待できそうな印象を受ける。
「Crysis」(グラフ7)は、NVIDIA SLI環境の強さが目立つ結果となった。ビデオカード1枚の状態ならばRadeon HD 3870 X2環境の方が優れた結果になるのに対し、マルチビデオカード化した途端にNVIDIA SLIがどんどんパフォーマンスを伸ばしていく。マルチGPUの効果が低いアプリケーションではあるものの、ドライバ側で出来ることがあるならば、さらなるチューニングが必要だろう。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ8)は、テスト条件を少し変えている。というのも、Radeon HD 3870 X2(枚数に関わらず)環境で、アンチエイリアスや異方性フィルタを有効にすると、アプリケーションがダウンしてしまう現象に見舞われた。そこで、普段の本コラムで実施している、各設定項目を”High”に指定したパターンに加え、より負荷を高めるために設定可能なものに関しては”Ultra”に指定したパターンを実施している。 結果は、Quad CrossFireの効果がまったく出ないものとなり、スコアが下がる現象が出てしまった。解像度が上がることでスコアの下がる具合が減るあたり、マルチビデオカード化によるCPUのオーバーヘッドによってスコアが下がっているのは間違いない。Quad CrossFire側の2つのビデオカードでの並列描画が行なわれていないのだろう。 NVIDIA SLIではスコアを順調に伸ばすのを見ると、アプリケーションが決してマルチGPU/マルチビデオカード環境に不向きというわけではなく、AMDのドライバ側の最適化不足と見られる。
「World in Conflict」(グラフ9)もフィルタ類の適用によってアプリケーションがダウンしてしまう状況であったため、普段実施しているHigh設定からAAや異方性フィルタは解除したパターンに加え、Very Highをベースにしたパターンを実施した。 この結果は、CPUによる頭打ちと思われる状況が発生している。AAや異方性フィルタなどを適用した時に正常動作すれば、もう少しスコア差が見られたかもしれないが、スコアの伸びが小さい傾向は3-way SLIでも同様であり、マルチGPU化がそれほど高い効果を得られないアプリケーションではある。
「Call of Juarez DirectX 10 Benchmark」(グラフ10)は、アプリケーション側で2,560×1,600ドットを選択できないので、1,920×1,200ドットのテストが最高解像度となる。 シェーダによる処理が非常に多いアプリケーションで、かつマルチGPUの効果も高い。Quad CrossFire環境が2-way SLIよりも高い伸び率を示すのも特徴的な結果だ。 この傾向は今回のテストでは唯一のものである。Radeon HD 3870 X2に向いたアプリケーションを利用した場合、2-way SLI以上のパフォーマンスの伸びを示す可能性を見ることができたテストといえる。
「Unreal Tournament 3」(グラフ11)の結果は、botを表示した場合のデモではCPUによる頭打ちが見られるため、参考にしづらい。 一方、FlyThroughの方はQuad CrossFireが非常に良いスコアを見せた。ここでは、伸び悩みを見せた3-way SLIを上回るほどのフレームレートを出しているほどで、CPUなどの環境を抜きにして、ビデオカード側の向き不向きだけの面でいえば、Radeon HD 3870 X2のQuad CrossFireに向いたアプリケーションになっている。
●もう一伸びができそうな不安定な結果 以上の通り結果を見てきた。Radeon HD 3870 X2(2GPU)とGeForce 8800 Ultra(1GPU)が良い勝負という性能から考えて、3-way SLIが際だって高いパフォーマンスを見せるという点については妥当と言える。 しかし、シングルビデオカード同士ならRadeon HD 3870 X2が速いにも関わらず、Quad CrossFire、2-way SLIとの比較において逆転されてしまうケースがあまりに目立つ。2GPU→4GPUと1GPU→2GPUという違いもあり、同じ2倍でも並列描画の効果に違いがあるのだろう。GeForce 8800 Ultra/GTXクラスの2-way SLIとは、もう少し接戦に持ち込めないと、Quad CrossFireによるハイエンド分野へのアピールは弱い。 とはいえ、現時点での性能はQuad CrossFireが持つポテンシャルの片鱗かも知れないという思いもある。というのも、例えばCompany of HeroesにおいてマルチGPUの効果がゼロであったり、一部アプリケーションでフィルタを適用するとダウンしてしまう点など、ドライバの不安定さも気になったからだ。 Radeon HD 3870 X2発表時も、ドライバによってCrysisの性能が大幅に改善した例もある。4GPUをどう活用するのかという点において、さまざまなアプリケーションに最適化できるようドライバのチューニングが進めば、性能も改善していく可能性は十分に考えられる。 電源ユニットへの要求なども含めた導入コストを考えれば、2-way SLIと同等のセグメントに位置付けられ、3-way SLIよりも広く受け入れられる製品であることは間違いない。久しく途絶えていた、ハイエンドビデオカードのパフォーマンスをさらに強化するソリューションという点においても競争が再開することは好ましく、今後に期待したい。 □関連記事 (2008年3月4日) [Text by 多和田新也]
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