1月30日で、Windows Vista発売からちょうど1年を迎えた。2007年1月30日深夜0時の発売時には、主要量販店店頭に多くのユーザー、業界関係者が集まり、Vistaの発売を祝ったのは記憶に新しい。 それから1年。国内のコンシューマPC市場を俯瞰すると、昨年来、前年割れの状況が続き、需要を喚起したとはいい難いのも事実だ。しかし、その一方でWindows Vistaの機能を活用し、マイクロソフトが提案するデジタルライフスタイルの世界を体感しているユーザーも少なくない。 この1年、Windows Vista投入の成果を、マイクロソフトはどう自己分析しているのか。そして、今後はどんな展開を計画しているのか。マイクロソフト業務執行役員Windows本部本部長兼プラットフォーム戦略本部本部長の大場章弘氏に話を聞いた。 --1月30日で、Windows Vista発売からちょうど1年を経過しました。マイクロソフトでは、この1年の取り組みをどう自己評価していますか。
大場 今年1月のCESで、会長のビル・ゲイツが言及したように、昨年(2007年)12月末時点で、全世界で1億人のユーザーにVistaが利用されている。多くのユーザーに広がり、グローバルで大きな成功を収めたと判断しています。日本に関しても、量販店店頭におけるVistaへの移行は順調に進みました。現在、店頭で販売されているほとんどのPCがVistaですし、これは早い段階で移行を遂げることができた。さらに、Home Premiumの比率が高いというのも特筆すべき状況だといえます。ワールドワイドのなかでも、日本はこの比率が高い水準にあります。日本のPCメーカーから投入されるPCは、高機能であり、信頼性の高いものが中心ですから、最適なエディションがHome Premiumということになる。PCメーカーが中心となって、Home Premiumの世界を推進したといえるでしょう。 一方、ビジネス分野においては、Windows XPよりも遙かに速い速度で導入が進んでいますし、大手企業においても、Vista導入に向けた検討が進んでいます。当社の営業部門が直接聞いているだけでも、今後半年の間に、30万ライセンスの導入が見込まれています。加えて、10社の企業に対して、当社の技術コンサルティング部門が一緒になり、導入プロジェクトを推進するといった取り組みも開始している。中には、「Vistaの導入は、SP1の提供開始を待ってから」という企業ユーザーもありますが、まもなく、これも提供することができますので、導入に向けては、さらに加速がつくと考えています。 --しかし、国内のPC市場は決して上向いたわけではありませんね。業界関係者のなかには、「肩すかし」と表現する厳しい声もあります。 大場 もちろん、反省点がないわけではありません。1つは訴求方法での課題がありました。製品出荷から発売半年までは、製品のブランド訴求や機能訴求を重点に行ないました。TV CMなどを通じて、Vistaの認知度を高めるというのも、その1つです。ところが、半年経ってみると、Vistaの名前は知っているが、そのメリットは何かということが伝わりきっていないという問題が出てきた。それが原因で、Vistaへの移行が進まないという指摘も出てきた。 そこで、軸足をシナリオ訴求へと転換した。ここでは、Vistaを利用することで、どんな活用ができるのか、どんな利用シーンで効果を発揮するのか、Vistaによってもたらされる世界はどんなものか、といったことを訴求しました。「チャレンジデジタルライフ2008」といったキャンペーンもその1つです。これはこれで一応の成果を収め、量販店店頭でもシナリオ訴求からPCの購入に結びつくという例も出てきました。10月以降、PCの販売数量が上向いていることからも、それが裏付けられるといえます。しかし、Vistaそのもののインパクトやモメンタムをさらに強くすることができたかというと、やはり反省すべき部分があったといえます。そして、もう1つは互換性の問題です。 --互換性に関しては、マイクロソフトではWindows XPの発売当初よりも高い互換性を達成していると発言していましたが、ユーザーの間ではそうは捉えられず、その乖離が感じられましたが。 大場 Windows XPの発売当初に比べると、Vistaでは互換性の問題が早期に解決されていたと判断しています。また、この1年の間に、セキュリティに関するアップデートや、バグに関するアップデートも進み、互換性がさらに高まっている。問題は、この進化に関するコミュニケーションが十分ではなかったということです。つまり、ユーザーや業界内での認識が、Vista発売当初のままであり、今の状況を理解していただくための努力が足りなかった。 実は、昨年11月、報道関係者を対象にVistaの更新モジュールに関する説明会を開催しました。これまでマイクロソフトでは、サービスパックに関する説明会を実施した経緯はありましたが、通常の更新モジュールに関して説明会を開いた例はありませんでした。これは、Vistaの出荷直後の互換性や安定度のイメージを払拭していただこうという狙いから開いたものです。Vistaは常に進化しており、互換性がさらに高まり、安定度も増しているということを、こまめに情報発信していく必要性を感じています。 --Vistaの良さがメッセージとして届きにくかったことが、Windows XPからの移行の遅れにつながっていますね。 大場 裏を返せば、Windows XPに対する満足度が高いともいえます。Windows XPにおいては、SP2に関する訴求を徹底した経緯があります。これによって、XPそのものが大きくブラッシュアップされ、安心して利用できるという認知が広がった。Vistaは、それ以上に安心して利用できる環境を実現していることを、もっと訴求しなくてはならないと感じています。昨年後半から開始した「チャレンジデジタルライフ2008」では、Windows XPと比較して、Vistaに移行するメリットの訴求を開始しています。Windows XPからの移行促進は、これからの大きな課題だといえます。 --先に触れた製品訴求およびシナリオ訴求に関する対策はどうなりますか。 大場 製品訴求、あるいはシナリオ訴求のどちらかに集中していると、結果としてマイクロソフトの声が届かないということになります。Vistaの認知度向上と、メリットおよび利用シーンの提案に一貫性を持たせた施策が必要だと考えています。Vistaに関する機能やプランド認知に関しては、マイクロソフトが中心になって実施し、一方で、シナリオ提案に関しては、PCメーカーやソフトメーカー、周辺機器メーカーのほか、コンテンツホルダーや放送局、量販店など48社が参加しているウィンドウズデジタルライフスタイルコンソーシアム(WDLC)との連動によって、メッセージ性を強めていきたいと考えています。今後、半年間は、パートナーとの連動を強めながら、製品訴求、シナリオ訴求の両面から展開していくことになります。 --WDLCから訴求されるシナリオ提案は、北京オリンピックには間に合いますか。 大場 ウィンドウズデジタルライフスタイルコンソーシアム(WDLC)との連携では、4つのシナリオから提案する考えです。2月までにシナリオに関して詰めていく計画で、3月には、何かしらの提案ができるでしょう。その中には、オリンピック需要を取り込むための仕掛けも含まれます。権利の問題もあり、オリンピックを前面に打ち出した展開は難しいのですが、PCとTVとを連動させたシナリオや、書斎などの個室に設置する2台目、3台目のTVとしての需要を喚起するための施策を打っていきたい。この分野に関しては、年末商戦でも手応えがありましたから、オリンピック需要に向けてぜひ積極化させたい。6月までの期間は、「PC+TV」のシナリオが1つの軸になります。さらに、健康などの分野にフォーカスした新たなシナリオ提案も行なっていきたい。これもWDLCで検討しているところです。夏に発表される秋冬モデルでは、WDLCのシナリオ戦略に準拠し、セグメントをより明確化したPCも登場することになりそうですね。 --Vistaによる地上デジタル放送対応は、北京オリンピックには間に合いますか。 大場 それはちょっと難しいかもしれません。 --一方で、企業ユーザーに対する訴求はどうなりますか。 大場 大手企業は、数年に渡るプロジェクトで情報システムの導入を展開していますから、中にはVista発売のタイミングで、Windows XPを導入したという企業もあり、一気に入れ替えが進むという状況ではありません。ただ、Vistaの優位性を継続的に訴えていく必要があります。企業のIT投資は、2008年から2009年にかけて伸張するという予測もありますし、それはVistaにとっても大きなチャンスです。また、今年はWindows Server 2008をはじめとするサーバー関連製品が相次ぐこと、今後提供を予定しているVista SP1では、BitLockerの拡張など、企業ユーザーにとってメリットのある強化が行なわれていることから、導入に弾みがつくと考えています。 昨年10月に、都内において2日間に渡り、導入展開セミナーを実施しました。ここでは、Vistaへの移行に向けたノウハウや事例、ツールを提供することを目的としたものです。アプリケーションの移行に最適なMDOP(Microsoft Desktop Optimization Pack)の提供や、Vistaを活用した仮想化環境への移行提案なども行なっています。導入展開セミナーは、今後半年間で全国主要都市で展開する予定ですし、移行事例も数多く紹介していきたい。こうした活動を通じて、企業ユーザーに対するVistaの普及促進を図っていきたいと考えています。 この1年を振り返ると、コンシューマ領域に関しては、上位エディションの製品比率が高いなどポジティブな要素がありますが、ビジネス領域では、Windows XPからの移行をもっと促進する必要があり、その点ではネガティブな結果とも捉えることができる。ビジネス領域でもさらに移行を加速させるための施策を展開していきます。 □関連記事 (2008年1月30日) [Text by 大河原克行]
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