Windows Vistaの発売から1週間が経過した。 1月30日午前0時の発売カウントダウンイベントでは、多くのユーザーたちが店頭に集まり、駆けつけた業界関係者も大いに盛り上がった。 「これでVista発売前の低迷から脱出できる」と感じた業界関係者は少なくないはずだ。 ●1年ぶりのプラス転換になるか?
とはいえ、発売時の盛り上がりだけがすべてではない。 その後の販売実績がどうか、という点が、むしろ注目すべきポイントである。そこで、Vista発売1週間の初速を調べてみた。 全国2,289店舗のPOSデータを集計しているBCNランキングによると、最新週となる1月29日から2月4日の集計では、PC本体の販売台数で前年同週比6.1%増、販売金額で4.8%増となった。 個人向けPC市場は、2006年2月にマイナス成長に陥って以来、11カ月連続での前年割れとなっていた。 年末商戦の山場である12月の集計を見ると、前年同月比18.4%減という2桁台のマイナス。薄型TVが前年同期月比40.6%増という高い成長を見せていたことに比べると、PC売り場の低迷ぶりが浮き彫りになるだろう。 1月に入ってからは、1桁台のマイナスで推移していたが、前年割れからは抜け出せないまま。それが、Vista発売によって、まずは週次集計でプラスに転換。そして、この調子でいけば、2月単月集計は、実に1年ぶりのプラス成長に転じることになりそうなのだ。 これに伴って平均単価も上昇している。 1月22日から28日の集計では、125,972円だった平均単価が、Vista発売日を含む1月29日から2月4日の集計では、139,286円へと上昇。Vista効果を証明してみせた。 業界関係者の間では、「Vista発売によって、1万円から15,000円の単価上昇が見込める」としていただけに、ほぼ見込み通りの結果になったといえよう。
●Vista Home Premiumが3割の構成比 一方、OSのエディションごとの集計を見てみよう。 これは、PC本体に標準搭載されたOSの集計であり、パッケージ版は含まれていない。 これによると、最新週の集計では、マイクロソフトがメインストリームとしていたVista Home Premiumが30.8%を占め、次いでVista Home Basicが20.4%と、この2つのエディションで50%を超えた。
だが、最も多かったのは、実は、Windows XPであった。Vista発売以降も、Windows XPを搭載した製品が人気を博し、全体の44.2%を占めていたのだ。 これは市場に旧製品の在庫が多く残っていた証ともいえるが、同時にWindows XP搭載製品が、最終在庫処分として、低価格で販売されていたことも見逃せない要素といえる。 なお、BCNランキングの集計が量販店を対象にしているということもあり、Vista Businessの比率は1.0%、Ultimateの比率は集計には出てこなかった。Ultimateは、メーカーモデルが店頭には展示されず、ネット直販で対応していたことなどが影響している。
●PC業界には安堵感が漂うが…… 前年実績を上回ったことで、PC業界にはやや安堵感が漂っているといえよう。 NECは、6日に行なった第3四半期連結決算発表において、「2月第1週は、PC市場全体では前年同期比7%増となったようだが、NECは2桁増で推移した。第3四半期のPC出荷実績は前年同期比15%減の58万台となったが、年間計画の275万台を達成するには、第4四半期に前年同月比4%増の84万台を出荷すればいい。Vista効果によって、計画達成を見込みたい」とコメントした。 また、富士通も決算発表の席上、「第3四半期は出荷台数を絞り込んだが、第4四半期には、第3四半期の1.5倍程度の売り上げを想定している。2007年度も、Vista搭載PCが個人需要を喚起し、年間を通じてプラスに転じると見ている」としている。 各社ともにVista効果で明るい兆しが見えていることを示してみせた。 だが、本当に手放しで喜んでいいのかというと、そうはいかない。 NECの年間275万台の出荷計画は、もともと前年比5%減の計画であるし、富士通も、前向きなコメントとは裏腹に、通期出荷見通しを全世界900万台の計画から、880万台に下方修正した。この数字には、好調な欧州のPC事業とは異なり、国内PC事業の下方修正分がかなり反映されていると見られる。 ●Vista効果むなしく、業界は前年割れか
JEITAが先頃発表した2006年度の通期出荷見通しによると、年度始めには、前年比5%増の1,350万台としていたものを、前年並みの1,290万台(前年出荷実績1286万台)へと下方修正した。 この予測に到達するには、第4四半期(1~3月)には、前年同期比15%増となる433万4,000台を出荷しなければならない。 つまり、Vista発売第1週の販売台数が6.1%増、販売金額で4.8%増という数字では、到底達成できないのである。 しかも、である。 企業向けのWindows Vistaは、2006年11月に出荷されたが、企業向けPCは、その後前年並みで推移しているという。 大手企業がVista導入に動くには、検証の期間などを含めて、早くても2007年後半まで待たなくてはならない。この第4四半期に、企業向けPC需要が一気にプラス成長に動くということは考えられない。 となると、第4四半期の15%増という成長は、個人向けPC需要の伸びにかかってくる。仮に、企業向けPCの出荷台数が前年並みとした場合、市場全体の4割が個人向けPCという市場構造から逆算すると、個人向けPCは、第4四半期には、前年同期比4割以上の成長が必要になるのだ。1月が前年割れであったことを加味すると、2月、3月の成長率はさらに高い数字が求められることになるともいえよう。 加えて、比較対象となる2006年1~3月が、同四半期としては過去最高の国内出荷実績だったという分母の大きさも見逃せない。 Windows Vistaの発売によって、PC市況は前年実績を上回った。これによって、業界内には、少しの安堵感があるのは事実だ。だが、実態をよく見ると、この調子では、2006年度の国内PC市場の前年割れは必至といわざるを得ない。言い方を変えれば、第3四半期までのVista発売前の買い控えを、実売へと転換できていないともいえる。 マイクロソフトのダレン・ヒューストン社長は、「Windows XPの2倍を売る」と宣言したが、初速を見る限り、その目標はかなり遠いところにある。 Windows Vistaの普及戦略は長期戦であるのは明らかだ。もちろん、2007年4月以降の2007年度は、2006年度の実績が低かった分、自然とプラス成長に転じるとの見方もできる。 だが、業界関係者は、ちょっとばかりプラス成長になったからといって安心していられる場面にはない。 これから手綱を引き締めない限り、Vista発売効果を、業界全体として形にはできそうにない。むしろ、これからのマーケティング策こそ、業界の真価が試されるとはいえまいか。
□関連記事 (2007年2月7日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
|