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読みブレ補正




 大学生の読解力の低下が問題視されているという。2003年のOECD「生徒の学習到達度調査」によれば、高校1年生の読解力が、国際的に見て平均程度しかなかったそうだ。そして調査当時の高校生は今、大学で学ぶ年齢になっている。

●『考えるヒント』の難解さ

 ずいぶん昔の話で恐縮だが、ぼくが高校生の頃に悩まされた代表的な作家が小林秀雄だった。現代国語の試験に頻繁に登場する『考えるヒント』からの引用出題は、その難解さに閉口したものだ。

 このコラムを書くために、書店で文庫本を探したら、まだちゃんと売っていたので買ってきた。そして、その『考えるヒント』(2004年文春文庫)をパラパラとめくってみると、難しいどころかとても明確だ。どうして、この文章に悩まされたのか、今から思うと不思議な感じがする。

 よくよく考えてみると、難解な文章というのは下手な文章でもあるのかもしれない。文章は本来、人に読んでもらうために書くことが多いのだから、少しでも人が読みやすいように、そして誤解のないように書くべきであり、そこに配慮されていない文章は、どんなに美文で論旨がしっかりしていたとしても、悪文の誹りは免れない。

 確かに、小林秀雄の文章は、最後まで読まないと、書き手が言おうとしていることがわからない。逆に言うと、最後を先に読むと前半がスンナリと頭に入ってくる。英語なら、トピックセンテンスというのがあるので、パラグラフごとに先頭のセンテンスを斜め読みすれば、だいたいの内容がわかるのだが、日本語の文章構造というのは、なかなかそういうふうに構成するのは難しい。何よりも、それでは読んでいて楽しくない。文章には、論旨を伝えると同時に、流れを楽しませるという要素も欠かせないからだ。とはいえ、日本語文章の構造も、時代とともに、少しずつ変わっていくのだろう。

●読解力養成ギブス

 今の高校生が小林秀雄の文章に悩まされ続けているのかどうかは別にして、国立大学法人東京大学が、マイクロソフトの寄附によって設立した「マイクロソフト教育環境寄附研究部門」において、レノボ・ジャパンの提供によるタブレットPCを使った読解力育成ソフトウェア「MEET eJournal Plus」を開発した。先日、そのソフトウェアを使った公開デモンストレーション授業があったので見学に行ってきた。

 同研究部門では、「読解力」を「文章に書かれた内容を正確に取り出すだけでなく、文章内容を評価したり、それをもとに新しい知識を構築する力」であるとし、それが「知の本質と向き合い、新たな知を生み出していく大学で学ぶ上で最も必要な力」であると定義する。

 このソフトのウィンドウは左右のペインに分かれている。上部にはツールバーが横たわり、描画やマーキング用の各種ツールボタンが並んでいる。

 基本的には、左側ペインに参照する文章を置き、右側ペインに、左側の文章の一部を引用したブロックを並べ、それらをグループ化したり、線でつないで、文章の構造をマップとして視覚化していくようになっている。

 また、このソフトは、主に、次のような機能を備えている。

・文章に対してマーキングやコメントを行なうとともに、ペンを使って直感的にマップに表現できる機能
 左側ペインの文章をペンでなぞり、それを右側ペインにドラッグしてブロックを作る。これによって文章の論点、論拠といった重要部分を正確に取り出す活動を支援し、文章の論点を明確に理解させる。

・文章の論点/論拠、自分の意見や推論の関係をビジュアル化
 構造的に文章内容を理解させ、自分の経験や意見と対比しながらコメントを書けるようになっていて「文章に書かれた事実に基づいた知識構築」を支援する。

・学生同士の意見交換のためのネットワーク共有機能
 サーバーやブログを介し、他の学生と右側ペインの内容を相互に共有することで、独りよがりの文章理解や、論理的に整合しない推論を防ぐ。

 右側にドラッグしてブロック化された引用部分は、それをダブルクリックすることで引用元が瞬時に呼び出され、その周辺の文章を参照することができる。参照される文章はXPSフォーマットのもので、アプリケーションを選ばない。開発の意図としては、あまり機能を盛り込み過ぎると、ソフトの学習に時間を取られてしまい、読解力の向上という主目的を見失ってしまうため、必要最低限の機能に絞ってあるのだという。

●最先端教室のお粗末さ

 授業を見ていて感じたのは、タブレットPCの良さが活かされきっていないことだ。学生たちは、コンバーチブルタイプのタブレットPCを普通のノートPCのようにして使っていた。結局、コメントなどを入力するためにキーボードを使うので、そのほうが使い勝手が良いからだ。その状態でペンを使って操作しようとするものだから、どうにも手の動線がぎくしゃくする。このインターフェイスなら、マウスやタッチパッドを使った方が効率がよさそうだ。

 また、タブレットPCを使うのであれば、画面を縦に使うようなスタイルも視野に入れるべきだと思う。たまたま左右のペインを並べて作業をするので、画面は横でもよさそうだが、ある程度ブロックを配置したあとは、縦位置の方が全体の構造を把握しやすいように思う。

 デモが行なわれた教室は、東京大学初のIT支援型協調学習空間「駒場アクティブラーニングスタジオ(KALS)」と呼ばれる教室で実施された。自由にレイアウトできる机や、四面に配置されたスクリーン、そして、そのスクリーンには、講師の調卓操作によって、個々の学生のタブレットPCの画面を投影できるようになっている。

 このスクリーンが横位置固定という点で、もう終わっていると思った。タブレットPCをピュアタブレットとして使う場合も、天井の蛍光灯が映り込む。こうした点が何も配慮されていないのだ。東京大学では、これを先端的ICTによる学習支援としているが、どうにもお粗末だと思う。2007年5月に教室の運用が始まり、年間、文理を含めて10コマ程度の授業で使われ、ここでの成果が全国の大学教育に波及することが期待されているようだが、研究成果をまとめるときにはこうした点も配慮してほしいと思う。

●ペンよりタッチ

 デモ授業のあと、学生の1人に使い勝手を聞いてみた。少なくとも東大の学部生である。こんな手順を踏まずとも、その読解力が低いはずがない。文章をザッと読むだけで、文章内容は理解できるだろう。案の定、手作業で同じことをやるよりはずっと効率的だが、それによって理解度が高まるとは思えないというコメントが得られた。キーボードを使わざるをえないので、マウスがあったほうが便利だとも言う。いずれにしても、ペンが有効に生かされていないように思う。

 iPod touchが出たことで、ペンではなくタッチタイプのGUIが模索され続けているが、タブレットPCのGUIは、マウスのGUIをそのままペンで使うように考えられている要素が多く、そこかしこに破綻が感じられるようになってきている。たとえば、スクロール操作などは、ペンでスクロールバーをドラッグするよりも、フリック(画面をスリスリとこする仕草)ができたほうが直感的でわかりやすい。このあたりは、マイクロソフトとしても少し前向きに考えた方が良いように思う。

 ちなみに、この「MEET eJournal Plus」だが、現在はβ2段階で、12月まで授業を利用したユーザー評価が続けられ、1月にその評価とシステム改良を施し、2月にはRC1、そして7月にはVer.1がフリーソフトウェアとして公開されるという。

 発想的に悪いソフトではないし、ほかへの応用もできそうで、完成が楽しみではある。

 いずれにしても、このようなソフトの支援が必要になる文章は、書かないようにしようと心がけることにした。それができるできないはまた別の話だ。

□MEETプロジェクトのホームページ
http://www.utmeet.jp/projects/
□KALSのホームページ
http://www.kals.c.u-tokyo.ac.jp/
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【2月15日】東京大学、タブレットPC/ストリーミング配信を用いた教育環境をデモ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0215/tokyod.htm

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(2007年12月7日)

[Reported by 山田祥平]


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