9月28日にソーテックの新社長に菅正雄氏が就任して、ちょうど1カ月が経過した。シャープOBである前任の山田健介氏から、東芝OBである菅氏へのバトンタッチ。就任最初の目標を「10~12月の黒字化」と、短期での成果をゴールに掲げた。菅社長の就任によって、ソーテックはどう生まれ変わるのだろうか。就任1カ月の菅新社長に、今後のソーテックの戦略および方向性などについて聞いた。 --今日で就任からちょうど1カ月を経過しました。どんな1カ月を過ごしましたか。 菅 量販店をはじめとする取引先へのご挨拶まわりで、ほぼ1カ月が終わってしまったような感じです。行く先々で、「PC業界は大変ですね」、「ソーテックも大変ですね」と言われましたよ(笑)。ちょうど、日立さんがコンシューマPC事業からの撤退といったニュースが出ていたものですから、「ソーテックさんは撤退しないのですか」と聞かれる始末で(笑)。 --その質問に対しての答えは。 菅 「うちは最後までやりますよ」と。 --この1カ月で、ソーテックの良い部分と悪い部分とが見えましたか。 菅 ソーテックは、130人規模の小さな会社です。言い換えると、大きな企業に比べて現場に近いところでビジネスをしている。現場の声を吸収し、最前線で何が起こっているのかを最も理解できるPCメーカーであるともいえます。これは、ソーテックの最大の強みだと理解しています。 それと若い人たちが、よくやっている。ソーテックに来るまでは正直なところ、若干の不安がありました。ところが、若い人たちが、期待以上のレベルの仕事をしてくれている。社内からだと、なかなか自分たちの能力を把握できないものです。私は、7月に外部から入ってきて、客観的に見ることができますからね。親会社であるオンキヨーの大朏社長にも、若い社員の優秀ぶりを報告しました。その話を聞いた大朏社長からは、「ぜひ、その能力を最大限に引き出してほしい」と言われました。 一方で、悪い面というのは、組織としての動き方に課題があるという点です。目標に掲げたことが、達成できないままでいるのはその最たる例です。決めたことを必ず実行するという意識を徹底させたい。 10月1日付けで、本部制を採用しました。営業本部、マーケティング本部、管理本部、商品本部、生産・品質保証本部という5つの本部を設置し、それぞれが責任を持って事業を行なう体制とした。小さな規模の会社ですから、そこまでの組織は必要がないという言い方もできますが、本部長には、オンキヨーをはじめとする大手企業で経験のあるプロフェッショナルを据えていますので、ソーテックの若い社員に、組織としての動き方を学んでもらう狙いもある。ベンチャーとしての俊敏性と、大企業が持つ組織としての動き方を兼ね備えることで、ソーテックは一段強い企業に進化できると考えています。 --菅社長体制になって経営陣を一新しましたね。菅社長以外に東芝OBは入っているのですか。 菅 いいえ、東芝OBは私以外にはいません。経営陣を見ると、オンキヨーのカラーが強くなったとはいえます。 --ソーテックは、長年に渡って、品質問題やサポート体制の問題が指摘されています。この点はどう認識していますか。 菅 まだまだ不十分といえるところがあります。修理1つとっても、5日間で手元に返却することをコミットし、現在ではほぼ3日間で返却できる実績となっていますが、これをもっと早くする必要がある。熱い石が手のひらに乗ったような感覚で、すぐに自分の手を離れるように仕事をしていかなくてはならない、と話しています。とにかく早く対応することを徹底する。私たちにとっては、何万台のうちの1つの問題でも、そのお客様にとっては、100%の問題です。そうした理解の仕方も社員に徹底していく。 品質に関しては、これまで定性的な観点からの取り組みが多かったものを、より定量的に捉えるように進化させていく。シックスシグマの手法ではありませんが、数値で自分たちのレベルを把握し、どれだけ改善したかを示していく考えです。年内には、製造から出荷に至るまでの品質を指標化し、改善目標を打ち出す。統計手法はすでに台湾のメーカーも導入しています。これを越える指標を目指し、日本で組み立てを行なう「J-MADE」ならではの品質と付加価値を提供していきます。 一度悪い評判が立つと、なかなかそれは消えません。Webでもいろいろなことが書かれていますが、それに当社が口答えするのではなく、一歩一歩行動で示していく。まずは、社員がソーテックは変わったな、と思ってもらうことが必要です。社員自身が、いい会社、いい製品だと思ってくれれば、それは必ず行動に出ます。従業員がソーテックの良さを十分理解することから始めていきたい。 --社長としての新方針は、すでに社内で発表されたようですね。どんな方針を打ち出しましたか。 菅 10月19日に本社近くの場所を借りて、全社員を集め、10月1日から始まった新年度のキックオフをやりました。いろいろ言うよりも、絞り込んだメッセージの方が伝わりやすいと考え、2つのことだけを言いました。1つは、10~12月の四半期は、絶対に黒字にするということ。もう1つは、ヒット商品を生み出そうということです。 --先頃、決算期の変更に伴う12月末締めの9カ月間の業績予想を赤字としました。10~12月期の黒字化は実現できるのですか。 菅 山田前社長が敷いた線路がありますから、そのなかから最適なレールを選択し、それをベースに計画通りに製品を投入し、品質でトラブルを起こしたりしなければ、黒字化は達成できるはずです。自分たちで打ち出した計画ですから、まずはこれを達成する。これを達成しないことには、次がない。社員のモチベーションをあげるためにも、また、社員が自分たちで立てた目標を達成することで自信を持つためにも、これはなんとしてでも達成する。 --就任3カ月後の業績を最初のゴールを打ち出した新社長は、あまり例がありませんが(笑) 菅 私もできれば最初の数カ月は様子を見て(笑)、それからゴールを設定するというやり方をしたい。しかし、そんなことは言っていられない局面にある。社員が自信を持って、これから事業を加速させるためには、この3カ月が勝負なんです。黒字化できた場合と、そうでない場合には、今後のソーテックの勢いには大きな差ができることになる。だからこそ、まずは3カ月で成果を出したい。どのレールを選択し、どう加速をつけるかは、すでに見えています。 --もう1つのヒット商品の創出ですが、ここでのヒット商品の定義とはなんですか。そして、具体的にはどんな商品を想定していますか。 菅 ヒット商品というのは、売れる商品であり、利益を生む商品です。シェアは後からついてくるものであり、具体的なシェア目標は設定しません。分野としては、やはり、当社のメインストリームとなる製品で勝負したい。A4ノートPC、スリムタイプデスクトップ、マイクロタワーの領域です。ソーテックに求められているのはコストパフォーマンスの高い製品です。この強みを活かした製品を投入していく。また、オンキヨーとのシナジー効果も出していきたい。コストを上げずに、品質の高いオンキヨーのスピーカーをA4ノートやデスクトップに搭載できないかと申し入れをしている。来年春から夏にかけては、これをなんとか実現したいと考えています。 余談になりますが、ソニーは、'58年にソニーという社名に変更してから、50年間で高いブランド力を形成してきた。この間、ソニーのブランドを支えたエポックメイキングな製品は、私が分析する限り、ウォークマンなど10個足らずです。単純計算すれば、5年に一度のペースで、ヒット商品を生み出している。そして、そのヒット商品を軸にストリームを作ることで、ソニーのブランド力を高めていった。ソーテックもヒット商品からストリームを生み出せるような形にしていきたい。 --その点では、ヒット商品づくりは、長期戦略となりますね。 菅 まず1年後には、ヒット商品を出したい。まだ具体的なものはありませんが、私も長年、東芝でdynabookやSDメモリーカードといった商品企画を手がけてきた経験がありますから、そのノウハウも活かしたい。私がdynabookの商品企画を行ない、SDメモリーカードの企画を最初に提案したことはあまり知られていませんが(笑)、それに携わったことは大きな実績ですし、自信になる。あのPCは、ソーテックのPCだったんだ、と言われるようなヒット商品を生み出したい。 --山田前社長時代には、法人向けPC事業の拡大、そして、PCCと呼ばれる新たな領域の製品投入を今後の柱にしていましたが。 菅 法人向けPC事業に関しては、大きな期待を寄せていますが、成果につながるまでに時間がかかる。この3カ月でどうにかなるというものではありません。焦ってやるのではなく、じっくりと開拓していく必要がある。1~2年先には成果を出せればいいと考えています。 また、PCCは、まだすぐに立ち上がるものではありませんから、マーケットの動向を見ながら対応していきます。WiMAXは来年末まで待たなくてはならないでしょうし、それから普及期に至ることを考えると、インフラが整うまで2年以上はかかる。そして、PCCが求められるようになるには、あと3~5年はかかるでしょう。これも、焦らずにじっくりとやっていきます。 --ところで、なぜソーテック入りを決めたのですか。 菅 私は、東芝でdynabookの商品企画部長を務めたあと、北米やオーストラリアでデスクトップPCの事業拡大などを担当しました。帰国後に、担当したのが新規事業の開発です。東芝がやっていない事業を、新たに開拓するという仕事でした。 チームでさまざまな可能性を検討した結果、10個のプランを考え、そのうち3つを行動に移すことにした。その1つが、かつて東芝がオンキヨーに売却したオーディオ事業への再参入です。当然、時代が変化して、デジタルオーディオが対象となりますから、アナログ時代とは違った著作権問題をクリアすることが必要です。そこで、SDメモリーカードを企画し、松下電器にも提案しにいった。この一連の動きの中で、SDメモリーカードを搭載するオーディオプレーヤーの発売をオンキヨーにも提案した経緯があり、その頃から、オンキヨーの方々とはお付き合いがありました。オンキヨー入りの打診があったのは、今年初めです。オンキヨーとしてPC事業に、なんらかの形で取り組んでいきたいという考えがあったようです。 --それは、オンキヨーのオーディオPCということですか。 菅 いえ、それはまったく関係ありません。新たにPC事業をやるということだったようです。その流れのなかで、ソーテック買収の話が浮上し、私が東芝で長年PCに携わっていたということで、ソーテック入りの話が出てきました。 --ソーテック入りの時点から社長含みだったのですか。 菅 最初は、社長という話はありませんでした。私は、東芝社内でもベンチャーのような仕事ばかりやっていましたから(笑)、ベンチャー企業に対して、大変興味を持っていました。それに、いいPCを作って、世の中に投入したいという気持ちには大変強いものがある。ソーテックにはその可能性があると感じました。 --社長就任の要請に対する答えには時間がかかりましたか。 菅 いいえ、即答に近かったですね。私は、性格的にも悩まずに決断することが多い。間違ったとわかって引き返したり、反省したりすることはありますが(笑)、迷うことはほとんどありません。経営に対しても興味を持っていましたからね。東芝時代には、同僚や部下から、新しいことを一緒に開拓できた、勉強になったといわれる反面、私が厳しくいうので、一緒に仕事をすると大変だ、二度と仕事をしたくないと言われていましたからね(笑)。今回は、そうならないようにしたいとは思っていますが、もしかしたら、この仕事を辞めたときには、同じことを言われているかもしれませんね(笑)。ただ、社長は130分の1の力でしかありません。若い人たちに活躍してもらうことがソーテックが躍進する近道だと信じています。
□関連記事 (2007年10月30日) [Text by 大河原克行]
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