11月1日から、2008年用年賀はがきが発売となった。 郵便事業株式会社のスタートから、わずか1カ月。昨今のはがき離れが指摘されるものの、民営化の意欲の表れもあって、年賀はがきの発行枚数は、前年比3%増となる39億1,650万枚。年賀状需要によって、メールに流れていたはがき利用者を呼び戻す考えだ。 年賀はがきが発売になると、はがき作成ソフト、およびプリンタが本格的な需要期を迎える。PCの需要低迷もあって、プリンタなどの周辺機器、そして、ソフトウェアの販売動向は決して順調とはいえないが、この年末商戦に向けては、関連メーカーは、前年実績を上回る需要を見込んでいる。 今回と次回に渡り、年賀はがき需要に関連する、はがき作成ソフトおよびプリンタの市場動向を追ってみる。 まずは、はがき作成ソフトの市場を見てみよう。 ●盤石の体制で挑む「筆まめ」 はがき作成ソフト市場は、今年は大きな変化を迎えている。 昨年(2006年)に比べて、プレーヤーが大きく変化したのだ。まさに新たな戦いのフィールドを迎えたといっていい。 2006年実績において、43.3%(BCNランキング調べ)と8年連続のトップシェアを獲得したクレオの「筆まめ」は、今年(2007年)の製品では、Ver.18へと進化。主要メーカーでは、唯一、従来の体制を維持したままで年末商戦を迎えることになった。 クレオの土屋淳一社長は、「ITを活用することで、年賀状という日本の文化を一層豊かにしていくのがクレオの使命。顧客満足度ナンバーワンの実績をベースに、市場シェア60%、年間60万本の出荷を目指す」と、トップシェアならではのコメントとともに、昨年よりも、17ポイントのシェア拡大を目指しながら、盤石な首位固めを目指す考えだ。
クレオが強気の姿勢を見せている背景には、今年前半の動きが好調であることが見逃せない。 「今年3月以降、はがき作成ソフト市場全体では2%増の成長率であるのに対して、筆まめは18%増で推移している」と、市場全体を上回る成長を遂げていることを示す。 「筆まめは、住所録機能の簡単さや、コンテンツの豊富さなど、13項目中12項目でトップの満足度を得ている。これが筆まめが選択される理由。操作性向上を軽視し、コンテンツ配信をメインとする他社の手法には疑問がある。これまでの、かんたん、安心といった特徴に加えて、軽快に、自由自在に、満足のいく年賀状がつくれることを目指したい」と他社を牽制する。 はがき作成ソフトの王道ともいえる進化を遂げて、この年末商戦を迎えている。
●ZERO戦略で新規需要開拓を狙う「筆王」 筆まめを追う第2位のポジションにいるのが、「筆王」だ。 昨年は31.2%と、約10ポイント差まで迫っていた筆王だが、今年は体制を変えて、シェア拡大に挑む。 今年3月に、ソースネクストが、イーフロンティアおよびアイフォーから、筆王の商標権および著作権を買収。すでに、ソースネクストブランドで、筆王が販売されている。 さらに、ソースネクストは、更新料およびバージョンアップ料を無料とするZEROシリーズのなかに筆王を組み込み、「筆王ZERO」として商品化。これまでのはがき作成ソフトの常識を覆す施策を打ち出してきた。 筆王ZEROでは、一度購入すると、2017年までの間、毎年1,000~2,000点の干支素材や、郵便番号辞書などを無償でバージョンアップできる仕組みを採用している。ユーザーにとっては魅力的な機能といえるだろう。 ソースネクストが、筆王をZEROシリーズに組み込んだ理由には、同社の綿密な調査結果が見逃せない。 同社の調査によると、はがき作成ソフトを買い換える理由として、最も多かったのが「新たな干支の素材が欲しいため」というもので、全体の67%を占めている。また、「市町村合併などの新たなデータが欲しい」が33.8%となっている。これに対して、はがき作成ソフトメーカーが、毎年打ち出してくる「新機能」を使いたいとするユーザーは、20.8%と約5分の1に留まっている。 「筆王ZEROでは、インターネットを利用することで、最も利用者の要求が高い、干支のイラスト、郵便番号辞書などを常に最新版に更新できる。購入した次年度以降に年賀状を作成する際、使いたい干支の素材が少ないという不満を解決できる」(ソースネクスト 松田憲幸社長)と語る。 約10年間、無償でデータを更新することで、これまで、はがき作成ソフトを購入したことがないユーザーに対しての普及を図ることが可能としており、新規ユーザー開拓による収益確保とシェア拡大を狙う考えだ。 「はがき作成ソフト市場そのものを拡大し、同時にはがき作成ソフトの販売本数でトップシェアを目指す」(松田社長)と、今年は約4割のシェア獲得をターゲットにする。
●バンドル版での高い実績誇る「筆ぐるめ」 一方、昨年の市場シェア第3位の「筆ぐるめ」の富士ソフトは、今年から販売パートナーとしてジャングルとの提携を発表。今年は同社を通じた販売およびマーケティング施策によってシェア拡大を狙う。 「コンシューマパッケージを数多く揃え、今後、この分野で高い成長が期待できる企業に筆ぐるめを託すことで、さらなる飛躍が期待できる。ジャングルの営業力によって、量販店へのきめ細かな対応が可能になる」と、富士ソフトの吉田寛代表取締役専務は、ジャングルとの提携理由を語る。
富士ソフトでは、これまで、筆ぐるめをPCに搭載するバンドル戦略を中心に展開。年間400万ライセンスを出荷している実績がある。PCに筆ぐるめをバンドルしているメーカーは、NEC、富士通、ソニー、東芝など国内メーカーのほとんどに渡る。 「バンドルシェアでは圧倒的なナンバーワンシェア」(吉田寛代表取締役専務)という点では間違いなく、隠れたヒット製品だ。今年は、パッケージ戦略においても、さらに、力を入れていく考えだ。 ジャングルの高田晃子社長は、「PCへのプリインストール版で製品を認知し、製品版を購入するという消費行動が多い。筆ぐるめの使いやすさに対する評価は高いことから、年賀状を書く、宛名を書くという根本的なニーズを最重視していく」と、今年の基本戦略を打ち出す。 2006年のシェアは11.7%。今年の新製品である「筆ぐるめ15」では、他社ソフトよりも2万字も多くの旧漢字の印刷が可能である特徴などを強調する。 今年度は、パッケージにおいて、前年比50%増の年間20万本の販売を目指すほか、来年(2008年)には25万本を出荷。そして、3年後には、30%以上のマーケットシェアを獲得することで、トップシェアに向けた布石を打つ考えだ。
●市場撤退した「はがきスタジオ」
もう1つ見逃せない動きが、昨年まで、「はがきスタジオ」を投入していたマイクロソフトが、今年は市場からの撤退を発表したことだ。 2006年の市場シェアは3.8%。シェアは低いが、'97年の発売以来、これまでに約10年間の実績を持っており、長年、利用しているユーザーは決して少なくない。この受け皿争いも、残ったはがき作成ソフトメーカー各社にとっては、1つのポイントとなりそうだ。 マイクロソフトでは、「年賀状作成機能や、おめでとうメールなど、オンラインで提供される製品、サービスが増え、消費者の利用形態が増加している。この変化を踏まえた上で、戦略と製品をニーズおよび利用形態にあったものへと発展させていく必要があり、今回の販売終了を決定した」と語る。 はがきスタジオは、日本法人によって企画、開発されたもので、日本国内だけの限定製品。1桁台のシェアに留まっていたことを考えると、10年間という1つの区切りで、開発を休止するという判断は当然だったのかもしれない。 また、Wordの機能が進化するとともに、ネットやムック、雑誌などで数多くの年賀状用素材、テンプレートが提供されている環境を考えると、はがきスタジオを利用しなくとも、多くのPCユーザーが所有しているWordで代替できるという点も見逃せないだろう。 マイクロソフトと同様に、日本語ワープロ市場で高い実績を誇るジャストシステムも、はがき作成ソフト「楽々はがき」を投入し、今年も新製品として、「楽々はがき2008」を発売したが、昨年実績ではシェア3.6%と、やはり低迷しているのは、一太郎でも、同様に数多くのテンプレートや素材を利用して、年賀状が作成できることが影響しているといえそうだ。 なお、マイクロソフトでは、販売終了後も同社のサポートライフサイクルに則って、サポートを提供することを示しており、はがきスタジオ2007では、2010年までのサポートが行なわれることになる。 ●前哨戦の順位は前年と変わらず では、前哨戦といえる現時点での動向はどうなっているのだろうか。 BCNランキングの集計によると、10月1日から28日までの集計で、トップシェアとなったのは、クレオで54.2%。過半数シェアと、昨年よりも10ポイントもシェアを引き上げており、年間60%のシェア獲得に向けて、順調なスタートを切った。 第2位は、ソースネクストで26.2%。前年シェアよりも低いスタートとなっているが、製品別では、筆王ZEROが第2位、最新集計となる10月22~28日では製品別トップシェアとなっている。ZERO戦略のメリットが浸透すれば、さらなるシェア拡大につなげることができるだろう。 そして、第3位は、ジャングルの13.8%。こちらもクレオ同様、シェアを引き上げ、好調な滑り出しだ。
まずは、例年とは変わらない順位で始まったはがき作成ソフト市場。しかし、例年とは異なる競争環境となり、新たなメーカーによる戦いとなったことで、どんな施策やマーケティング展開が、商戦中に行なわれるかは、予想がつかない。 はがき作成ソフト市場は、いよいよこれからが戦いの本番になる。商戦終了時には、果たして、どんな勢力図になっているのだろうか。
□関連記事 (2007年11月5日) [Text by 大河原克行]
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