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Intelが再びRambusのメモリを採用か?




●IntelがXDR DRAMを採用する可能性が

 PLAYSTATION 3(PS3)の重要な意義の1つは、高転送レートDRAMである「XDR DRAM」を現実化したことだ。3.2Gbpsから6.4Gbpsを狙うRambusのXDR DRAMは、現行で最高速のDRAM技術だ。しかし、Rambusの独自規格であるため、PS3という大型顧客が決まっていなければ、製品化までこぎつけられなかったかもしれない。

 XDR DRAMベンダーは、当初、この高速メモリが、PS3だけでなく、デジタル家電など多くの分野で使われてゆくだろうというビジョンを示していた。しかし、現在のところ、XDR DRAMは、PS3以外では大口の採用事例がない(Cell B.E.サーバーやプロジェクタ程度)。事実上、PS3のためのメモリとなってしまっていた。

 しかし、こうした状況も変わるかもしれない。IntelがXDR DRAMを採用する可能性が出てきたからだ。もしそれが実現すれば、Direct Rambus DRAM(RDRAM)以来、再びRambusのメモリがIntelのシステムに載ることになる。

XDR DRAMのロードマップ XDR DRAMのターゲット製品

●ハイスループットプロセッサLarrabeeのメモリ

 顧客がXDR DRAMの採用を躊躇する理由の1つは、JEDEC(米国の電子工業会EIAの下部組織で、半導体の標準化団体)が規格化している既存メモリとの互換設計を取りにくいことだ。

 例えば、XDR DRAMがターゲットの1つとしていたグラフィックス分野では、GPUベンダーは、通常同じGPUコア設計で、ハイエンドからローエンドまで製品を作り分けている。そのため、メモリインターフェイスはGDDR3/4やDDR2など複数メモリ規格に対して互換設計にするのが一般的だ。GPUベンダーは、XDR DRAMではGDDRやDDRとの互換設計を取りにくいと指摘。ハイエンドGPUだけ、XDR DRAMメモリを採用した製品計画は採れないと説明する。

 供給メーカーの問題もある。XDR DRAMは、もともと、エルピーダメモリ、東芝、Samsung Semiconductorの3社でライセンスを受けて供給する方針だった。しかし、東芝はDRAM外販から撤退、SamsungもRambusとの法的な係争によってPS3以外へのXDR DRAMの供給を控えた。そのために、事実上エルピーダのシングルソースとなってしまっている。セットメーカーは、CPUがシングルソースとなることは許容するが、メモリがシングルソースになることは望まない。DRAM供給の不安だけでなく価格の低下が期待しにくいからだ。

 こうした理由から、XDR DRAMの利点は認められても、採用にはなかなかつながらない状況が続いていた。しかし、ここへ来て、意外なことに、IntelがXDR DRAMを採用する話が持ち上がっているという。

 XDR DRAMが使われると見られるのは、Intelのハイスループットプロセッサ「Larrabee(ララビー)」だ。これが本当なら、Intelが再びコンピューティングプラットフォームでRambusのメモリを採用することになる。LarrabeeはDRAMコントローラをプロセッサ自体に内蔵すると見られる。すでに、Larrabeeの設計はかなり進んでいるはずで、採用するとしたら、インターフェイスの実装も進んでいるはずだ。

●Larrabee型のプロセッサに向いたXDR DRAM

 よく知られているように、IntelとRambusの組み合わせには因縁がある。Intelは、一時はJEDECで策定したメインストリームメモリではなく、RambusのRDRAMをIntelプラットフォームPCのメインメモリに据えようとした。しかし、複数の事情によりその計画は頓挫。IntelはPentium 4のメインメモリをSDRAM/DDR DRAMに切り替えなければならなかった。

 Intelは、この失敗の後、JEDECとの協調路線に戻り、JEDECがメインストリームメモリ向けに策定するメモリを採用するようになった。こうした背景から、RambusとIntelの関係は、企業政治的な意味でも、かなり微妙になっている。Intelが再びRambusメモリを採用するとしたら、過去のネガティブな要因を払拭するだけの利点をXDR DRAMに認めたことになる。

 Larrabeeについては、以前、IntelがGDDR系メモリを使うという情報があった。IntelがLarrabeeにXDR DRAMを使うとすると、それは間違えていたことになる。しかし、XDR DRAMと考えると、つじつまが合う部分も多い。

 Larrabeeは、グラフィックスをメインとするGPUとは違い、最初から非グラフィックスのハイスループットコンピューティングをターゲットとしている。グラフィックスはレイテンシトレラントだが、ハイスループットで処理する必要があるアプリケーションのすべてがそうではない。そのため、Larrabeeでは、GPUとは異なり、メモリアクセスレイテンシにも考慮しなければならない。その点で、相対的にレイテンシが短いXDR DRAMは有利だ。

 また、Larrabeeの場合、PCI Express Gen2などで、PCやサーバーにサブシステムとして連結すると見られる。その場合、メモリの容量はそれほどクリティカルではないが、高スループットマシンであるためメモリ帯域は非常にクリティカルとなる。

 そのため、Intelとしてはメモリの容量当たりの帯域をできるだけ広げたい。つまり、ピン当たりの転送レートが高く、チップ当たりの帯域が広いメモリが適していることになる。これは、メモリ帯域当たりのメモリ粒度を小さくしたいゲーム機と事情が似ており、XDR DRAMの特性にフィットする。

XDR DRAMのバンド幅と容量の関係

 例えば、XDR DRAMでは3.2Gbpsの転送レート時に、128-bitインターフェイスで51.2GB/secの帯域を実現できる。ウワサされるLarrabeeのスペックを考えると、最低でもこの程度のメモリ帯域は必要になると推定される。現在のハイエンドGPUのメモリ帯域は100GB/secに近づいているからだ。XDR DRAMの場合、50GB/secクラスの帯域を8個のメモリチップで実現できる。512Mbit品なら512MBとメモリ粒度を抑えることができる(現在供給されているのは512Mbit品のみ)。

 また、XDR DRAMは、ホスト側のメモリコントローラ面積が小さくてすむ。少なくとも、Cell B.E.の実装ではそうだ。90nmプロセス版Cell B.E.を見ると、メモリ帯域当たりに占めるダイ(半導体本体)面積が極めて小さい。また、帯域当たりのピンカウントが少ないため、ダイのエッジ長に占める割合も少ない。Cell B.E.の場合は、長方形のダイの狭いエッジの1辺だけを64-bit幅のXDR DRAMのコントローラが占めている。

 IntelがLarrabeeを、ダイ面積当たりのコンピューティングパフォーマンスが非常に高いプロセッサとして設計するとしたら、これは重要な利点となる。ハイエンドGPUはダイサイズ(半導体本体の面積)が大きいため、メモリコントローラが大きく、ダイのエッジ長のかなりを占めても問題が少ない。しかし、Larrabeeを例えば140平方mm程度のダイに納めようとすると、エッジ長に占めるメモリインターフェイスは大きな問題になる。

●将来のCPUには飛躍的に高帯域のメモリが必要

 現状では、IntelがXDR DRAMをLarrabeeに採用するのかどうか、確実な情報は入っていない。しかし、XDR DRAMの特徴とLarrabeeの要件を考えると、技術的には何も不思議はない。Larrabeeが必要とするメモリ帯域を得られるDRAM技術は、今のところGDDR3/4とXDR DRAMしか選択肢がない。そして、LarrabeeにはXDR DRAMの方が適した要素が多いからだ。

 IntelがXDR DRAMを採用すると、XDR DRAMを巡る状況がある程度変わる。先行き不鮮明な、顧客にとっては不安を抱かせる状況だったXDR DRAMに、Intelのお墨付きがつくことになるからだ。

 ちなみに、RambusはXDR DRAMの後継となるXDR2 DRAMの技術発表も行なっているが、まだライセンス先など製造計画は発表されていない。XDR2は、将来のPS3でメモリ帯域を変えずにメモリチップ個数を半減させるために使われると見られる。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)との連携のもとに開発されていたと推測されるため、万が一、PS3が揺らぐとXDR2 DRAMも揺らいでしまう。しかし、Intelなどの顧客がつけば、XDR2 DRAMも実現できる可能性が高まる。

 だが、LarrabeeとXDR DRAMの組み合わせが実現するとしたら、そこにはもっと大きな意味がある。

 CPUベンダーは、今後はCPUにGPU型のデータ並列型プロセッサコアを取り込もうとしている。Larrabeeは、IntelにとってCPUに取り込むデータ並列型プロセッサコアのひな形になるかもしれない。つまり、Larrabeeにとって有用なメモリは、将来の統合CPUでも有用なメモリになる可能性がある。つまり、進化的なアプローチで進むDDR系のJEDECメインストリームDRAMではなく、XDR DRAM型の高転送レートDRAMが、将来のCPUには適した技術なのかもしれない。

●XDR DRAMを意識した? JEDECの次のメモリ「NGM Diff」

 Rambus自身も、そうした将来を見越した開発を行なっている。例えば、RambusはXDR2 DRAMに「Micro-Threading」と呼ぶ技術を実装する。これは、言ってみればDRAMコアのマルチスレッド技術で、複数のrow/columnのデータに同時アクセスを可能にして、メモリアクセス粒度を下げる。Rambusでは、この技術が、GPU統合型CPUのような、ヘテロジニアス(Heterogeneous:異種混合)型マルチコアに向いていると指摘する。メモリアクセスパターンもメモリアクセス粒度も異なる複数のプロセッサコアからの、多くのアクセス要求をさばかなければならないからだ。技術的には、Rambusは次のCPUの動きにピタリと追従したアーキテクチャを開発している。

 もっとも、RDRAMの立ち上げ失敗の後、ADT(Advanced DRAM Technology)も取りやめにして、JEDECとの協調路線に戻ったIntelが、簡単に非JEDEC規格のRambus系DRAMを主軸に持ってくるとは思えない。

 そこで浮上するのは、JEDECで以前から議論されている「NGM(New Generation Memory)」だ。NGMのディファレンシャルシグナリング版であるNGM Diffのターゲットは、明らかにXDR DRAMだ。NGM Diffの動きは、標準規格DRAMでも、XDR DRAMのように高転送レートに振ったメモリ技術が必要だという認識が広まっていることを示している。そして、おそらくIntelなどCPUベンダーは、近い将来のCPUでそうしたメモリを必要としている。

 しかし、NGM Diffは、実現するとしてもまだ先の話で、目先のLarrabeeには間に合わない。Intelとしてはそうした中で、Larrabeeのメモリ選択を迫られている。その結論が、XDR DRAMの採用だったとしても不思議はない。

DRAM技術のロードマップ予測
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【8月10日】【海外】6.4Gbpsを狙う次々世代メモリ「NGM Diff」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0810/kaigai380.htm
【8月6日】【海外】3.2Gbpsを狙う次々世代メモリ「DDR4」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0806/kaigai378.htm

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(2007年8月21日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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