元麻布春男の週刊PCホットライン

素顔のWWDC




 WWDCは1週間にもおよぶAppleの開発者向けイベントであり、その中心に据えられるのはあくまでも開発者だ。したがって、こと取材するものにとって、決して優しいイベントではない。1週間のうち、取材が許されるのは初日の基調講演のみ。後はすべてNDA契約を結んだADC(Apple Developer Connection)メンバーのみが参加を許される、有償のイベントである。これに例外はない。

 参加者が圧倒的に男性で占められているのは、IntelやMicrosoftのイベント同様。参加者が5,000人ほどというのは、規模的にもIDFやWinHECに匹敵する。イメージからもう少し女性が多いのかと思っていたが、そうでもなかった。今年は中国からの来場者がかなり増えているということで、それなりに目に付くのだが、IDF等のイベントに比べれるとアジア人の比率はやはり少ない(相対的にアジア人に占める日本人率は高くなる)。

 その理由は1つではないだろうが、このリージョンにMacの市場がほとんど存在しない、ということが大きいだろう。北京の電子商城でも、iPodはそこら中で売っていたが、Macを見た記憶はない。Macは製造するものであっても、使うものではないのだ。地元のユーザーが少なければ、ローカルな市場の広がりは期待できず、産業としてのすそ野も限られる。

 というわけで欧米人比率の高い会場だが、みんな良く並ぶ。一般の来場者(もちろん開発者なのだろうが)が10時スタートのJobs CEOの基調講演に朝4時から並びはじめる、とかいう話を聞くとさすがに信じられない気分になるが、どうやら嘘ではないらしい。会場であるMoscone WestコンベンションセンターはIDFでも良く使われる会場だが、3Fにある基調講演を行なうホールへの順番を待つ参加者の列が、2Fのフロアの通路を埋め尽くすかのように形成される様子は、IDFではついぞ見たことがない。

受付が始まると同時にエスカレーターが動き出す そのエスカレーターには長蛇の列が続く。ただしこの時点でエスカレーターに乗っても、たどり着けるのは2Fまで。そこで基調講演会場である3Fに向かうための列を作ることになる

 幸い取材者は、朝4時から並ぶ必要はないが、それでも8時の受付開始前に会場に着くようにした。この時点でコンベンションセンターの1Fは、エスカレーターが動き出すのを待つ来場者でかなりごった返している。コンベンションセンターの扉が開く7時あたりから本格的に人が集まり始めるようだ。8時に受付が始まると、エスカレーターが動き出し、2Fに上がることが可能になるが、まだこの時点では3Fには上がれず、2Fの通路スペースを使って列を作る、ということらしい。

 こんな調子だから何時に会場に着くようにすべき、ということは分からないが、あまりに遅れると基調講演の会場に入れず、別の部屋でビデオフィードを見るハメになる。ビデオのWebキャストはリアルタイムでは行なわれないから、会場にいれば時間的には先行できる。とはいえ、見ている内容そのものは日本で見るWebキャストと大差がないから、何のために現地に行ったのか分からなくくなってしまう。

 われわれは取材者ということで、時間的に若干楽をさせてもらえるわけだが、座席位置はステージに向かって前方の左端ブロックに限られる。三脚利用者とTV関係が陣取るカメラマン席(といっても座る椅子があるわけではなく、画面に来場者の頭が映らないよう高い台になっているだけ)は、さらに左の壁際だから、Appleの広報写真等の例外を除くと、写真はみなこちらのアングルからのものばかりになっているハズだ。中央ブロックを占めるのは、少数の招待者と早起きの開発者なのである。このあたり、イベントの性格が端的に表れている。


Macの前に座りデモを行なうJobs CEO。そのまなざしは真剣だ
 基調講演会場の扉が開き入場が始まったのは、定刻の20分ほど前。これじゃ10時からのスタートなんてハナから無理だろうと思っていたら、基調講演はほぼ時間通りにスタートした。人間、やればできるものである。ビデオに続きJobs CEOが登壇すると会場は盛大な拍手が起こり、ある種の祭典のよう。これに比べればIDFやWinHECはビジネスライクなイベントだと思う。

 Jobs CEOの基調講演は、例によって終了の時間は決められていないが、2時間を超えることはほとんどないようだ。とはいえ、基調講演に占めるゲストスピーカーの割合はごく少なく、大半の時間をJobs CEOがしゃべり、そして自らデモを行なうから、個人としてはかなりの長丁場となる。これはそれだけリハーサルもやっている、ということを意味しており、いかに基調講演を大事にしているかよく分かる。

 MicrosoftのGates会長も、しばらく前までは自分でデモを行なうことがかなりあったが、最近は人任せにすることが多い。これだけ自分でデモを行なうCEOは珍しいのではないかと思う。Appleは副社長クラスもプレゼンテーション力が高いと思うが、その中にあってもJobs CEOは図抜けた存在だろう。

 まぁそんなSteve Jobs氏だから、朝から大勢の人が集まり列をなすのも理解できる。よく分からないのは、通常のテクニカルセッションにおいても、会場の扉の前に長蛇の列ができていることだ。これは時間になるまで会場を開かないこと、過去に会場に入りきれなかった「事故」が何回が発生したことが理由のようだが、1,000ドルを超える参加費をとっておいて、これはないだろうと思う。このあたり改善の余地があるのではないだろうか。

 もう1つ個人的に改善を望みたいのは、会場のドリンクである。米国で開かれるカンファレンスでは、来場者にさまざまなドリンクが無償で潤沢に供給される。WWDCも例外ではないのだが、圧倒的に甘い飲み物が多い。自分でミルクと砂糖を加減できるホットコーヒーと紅茶を除くと、コーラ等の炭酸類、ジュース、缶入りのお茶(米国では甘く味付けされたものが主流)ばかりで、この種のイベントでポピュラーなペットボトル入りのミネラルウォーターをほとんど見かけない。水は紙コップ式の給水器で飲め、ということのようだが、持ち運びができないのが難点だ。

 ちなみに来場者に提供される昼食は、米国で開催されるこの種のイベントでは平均的なもの。日本人には味覚の点でちょっと辛いが、米国人は文句を言う様子もない。彼らもおいしいと思って食べているわけではないらしいが、こんなものだと割り切っているようだ。

 さて、会場で目に付くのは、当然のことながらApple製のノートである。PowerPCベースの製品もまだかなり残っているようだが、さすがにソフトウェア開発者、主流はIntelベースに切り替わっている。17インチのMacBook Proの比率が高いのも、米国らしいところだ。ThinkPadなど、Windows機もゼロとは言わないが、相当に珍しい。IDFやWinHECの会場で見るMacBookより、さらに珍しい感じだ。

 現在、MacBookおよびMacBook Proには、大容量バッテリのオプションがない。そのせいもあってか、会場のいたるところにテーブルタップが用意され、そこにACアダプタを接続している姿が目立つ。バッテリ駆動時間の延長は重要なテーマに違いない。

 今回、筆者は初めてWWDCの現地へやってきた。特に会場で新製品の発表等はなかったが、それをやってしまうと、話題がそればかりになってしまい、カンファレンス自体として中身の薄いものになってしまいがちだ。IntelもIDFで製品の発表を行なうことはほとんどない。

 それでも今回のWWDCは、ひょっとするとAppleの将来を左右するような期待の新製品(もちろんiPhoneのことである)のリリースと、新しいOSのリリースを控えた、少し特殊なものだったのかもしれない。将来のビジョンを語るには、あまりふさわしくないタイミングだっただろう。

 今のところ次回のWWDCへ来るのかどうかは決めていないが、新しいOSのリリースのない年のWWDCも見てみたい、という気はしている。OSのリリースを控えていれば、それが話題の中心になるのは当然の話。逆にOSのリリースがない年にどんな話をして、来場者がどう受け止めるのかというのは気になるところではある。

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【6月13日】【元麻布】Appleが目指す3つのクロスプラットフォーム戦略
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0613/hot492.htm
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(2007年6月14日)

[Reported by 元麻布春男]


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