●公開された10個のLeopardの特徴
最初のゲストとなったのは、2年前にも登場し、会場を驚かせた人物、そうIntelのPaul Otellini社長だ。Otellini社長が壇上にいたのはわずか数分で、スピーチもなく、儀礼的な意味合いの強いものだったが、最初のゲストとして招き、謝意を表す記念品を贈呈することで敬意を払った格好だ。 Otellini社長に続いて登壇したのはゲーム関係のキーパーソン2人。 まず大手ゲームパブリッシャであるEAのBing Gordon CCO(Chief Creative Officer)、そして「Quake」や「Doom」といったFPSで知られるid SoftwareのJohn Carmack CTO(Chief Technical Officer)である。 Gordon CCOは、同社のメジャータイトル、「Command & Conquer」や「Battlefield 2142」、「Need for Speed」、さらには同社が得意とするスポーツタイトル等を、今後、ほかのプラットフォームと同時にMac用にもリリースすると約束した。またCarmack CTOは、現在開発中の新しいゲームエンジンである「id Tech 5」のデモを、おそらく初めて披露し、このエンジンがMac、Xbox 360、PS3、Windowsで共通して利用可能になることを明らかにした。 現在、ゲーム開発は、グラフィックスの高度化等による開発費の高騰に対応すべく、マルチプラットフォーム化が進んでいる。Gordon CCOの発表は、これを裏付けるものであり、Macというプラットフォームが「マルチプラットフォーム」の中にカウントしてもらえるようになった、ということを示している。Carmack CTOが披露したid Tech 5は、他社にもライセンスされるゲームエンジンであり、ゲームのマルチプラットフォーム化を促進するツールである。
●32bitと64bitを区別しない“Leopard”の戦略 こうしたゲストの紹介が終わり、いよいよ本題であるMac OS X 10.5 Leopardの紹介が行なわれた。Jobs CEOによるとLeopardの新機能は300にも及ぶという。今回のキーノートではそのうちの10個が紹介された。その10個とは次の通り。
1. New Desktop もちろん、これらの中にはすでに紹介されたものもあれば、今回初めて明らかにされたものもある。また、これらはそれぞれが独立した別個の機能というより、お互いが相互に密接に連携しており、中には個別にカウントすべきなのか良く分からないものもなくはない。だが、こうした相互連携こそがMac OS X 10.5 Leopardとしての一体感と、ユーザーインターフェイスの一貫性を感じさせる理由にもなっているのだろう。 ここではこの10個すべてについて紹介する時間もスペースもないから、特に筆者の興味を惹いたものについて紹介することにしたい。まず取り上げなければならないのは、やはりLeopardの新しいユーザーインターフェイスだ。Leopardの新しいユーザーインターフェイスを構成する主要コンポーネントは、1のNew Desktopと2のNew Finderということになるが、これらを支える技術として3のQuick Lookや5のCore Animation等も重要な役割を果たしている。 New Desktopの機能として紹介されたのは、透過表示をサポートした新しいメニューバー、3次元表示をサポートした新しいデザインのDock、Dockのアイコンに複数のファイルやアプリケーションを積み重ねておくStacks、一貫性を持ったウィンドウ表示、アクティブウィンドウに影がつくの5点。ただし新しいDockとStacksはほとんど一体化しており、ユーザーの目からは1つに見えるのではないかと思う。 複数のファイルやアプリケーションを重ねてStacksというのは、いわばDock上のフォルダのようなもの。Stacksを用いるとDockの上に複数のアプリケーションを1つのアイコン下にまとめて配置する、ということが可能になる。たとえばオフィスツールというアイコンに、ExcelとWord、Keynote(iWorkに含まれるプレゼンテーションソフト)をまとめておく、といった使い方だ。
Appleらしいのは、このStacksアイコンをクリックした時に、その内容がアニメーションによって表示されるところで、もちろんCore Animationが使われているのだろう。Dock上に複数のファイルを収めるフォルダを設けることができたことで、ファイルの標準ダウンロード先も、デスクトップからDock内のDownloadsフォルダへと変更され、デスクトップがスッキリとする。新しいDockではアイコンが3次元表示となるが、それには1つのアイコン(フォルダ)が複数のファイルを持つ様子を表現する、という狙いもあるものと思う。 Finderは、Windowsのエクスプローラーに相当するもの。個人的にはこの新しいFinderが、今回のキーノートの目玉だったと思っている。その理由は写真を見れば一目瞭然。まるでiTunesなのである。iTunesのCover Flow(CDジャケットイメージをさまざまな大きさで左右にスクロール表示する仕組み)と同じ表示が、Finderでもサポートされ、文書やコンテンツ、フォルダをスクロールすることができる。しかも、動画ファイルならアイコン状態のまま再生することができるし、PDFファイルはページ操作を行なうことができる。もちろん別ウィンドウで拡大表示したり、フルスクリーン再生へ移行することも可能だ。フォルダであれば、ダブルクリックで下の階層へ降りられるのは言うまでもない。 この新しいFinderで、コンテンツのプレビューを行なっているのがQuick Lookだ。Quick Lookのインターフェイスは公開されており、サードパーティは自社アプリケーションをFinderでプレビューするためのプラグインを開発することができる。Quick Lookの基礎にはCore Animationを含むAppleのCore技術が使われているのだろうし、Quick LookはiChatにも応用され、ビデオチャットにデータコンテンツを統合するといったことが可能になっている。
このCover Flowライク? なFinder機能が素晴らしいのは、ローカルネットワーク上の他のコンピュータにもそのまま利用できることだ。同様にMacのデスクトップ検索機能であるSpotlightも、ネットワーク内のコンピュータを検索することが可能になる。さらに.MacにダイナミックDNS機能が加わり、.Macアカウントとインターネット接続環境さえあれば、出先から自宅のMacにあるファイルを検索し、プレビューすることさえできる。もちろん統一された一貫性のあるユーザーインターフェイスの元で、である。この統一されたネットワークのサポートは、新しいバックアップ機能であるTime Machineにも共通で、1台のネットワークコンピュータ(サーバー)あるいは外付けのHDDに、ユーザーが意識することなく複数のMacのバックアップをとることができる。 さてだいぶ長くなってしまったが、もう1つ、64bit対応の話だけは前回のこともあり、触れておかねばならない。現在のMac OS X(Tiger)も、64bit化されているが、64bit化はOS下位のUnixレイヤーが中心だった。LeopardではCocoa(Macアプリケーション開発のためのフレームワーク。Windowsの.NETに相当する)を含むOS全体が64bit化される。 Windowsと違うのは、32bit版と64bit版があるのではなく、64bit環境が利用できるプロセッサ(PPC、Intelを問わず)を搭載したMacであれば、自動的に64bit環境が利用できる、ということだ。要するに1つのMacで動作するLeopardは1種類だけで、64bit環境上で32bitアプリケーションと64bitアプリケーションが同時に動く。 32bit環境のみをサポートしたMacでは、Leopardの動作は32bitモードとなり、そこでは64bitアプリケーションは動作しないが、64bit環境のみをサポートしたMacアプリケーションは存在しない(64bitアプリケーションは、すべて32bitと64bitの両方をサポートしたユニバーサルアプリケーション)から、互換性の問題は発生しない。将来的に32bitのサポートがなくなる日もいつかくるのだろうが、それは当面考える必要はないようだ。 というわけで、Macの64bit化は、ユーザーの目に見えない形で、しかし確実に進む。動作検証の手間はなくならないから、デベロッパの負担はゼロではないが、フレームワークの共通化などプログラムインターフェイスの統一で、Appleも極力配慮するということのようだ。すでにハードウェアの64bit対応(Core 2 Duo化)は完了しており、Leopardのリリースを期にプラットフォームの64bit化は一気に進むだろう。ユーザーが32bit版と64bit版のどちらにするのか悩む必要もない。
1つのLeopardということは、何も32bitと64bitの問題だけではない。今回のWWDCではLeopardの米国での提供価格が129ドル(家庭内の5ユーザーまで利用可能なファミリーパックは199ドル)と発表された。が、Leopardのパッケージはこれだけで、プレミアとかビジネス、あるいはUltimateといったSKU(製品種別)は存在しない。 Jobs CEOはこの価格について、まずBasic Versionを129ドルと発表し、次にPremium Versionの名前だけを紹介、少し間を空けてからこれも129ドルと発表した。要するに、Leopardにはエディションの違いなどなく、129ドルの1つのパッケージしかない、ということを強調したわけだが、Premium Versionは、と述べた時点で会場に失望のため息が広がり、価格が同じであると発表して喝采を浴びたことからして、この演出は大成功だったと言えるだろう(これをEnterpriseエディションまで計5回繰り返す必要はなかったように思うが)。 この価格発表で、Leopardに関するキーノートはとりあえず終了したが、それだけですべてが終わったわけではない。お得意のOne more thingでは、Windows版Safariの提供が明らかにされ、さらにOne last thingとして6月29日に発売となるiPhoneの開発環境(Web 2.0 + Ajax)が明らかにされた。このあたりの話題については、機会があれば触れてみたいと思う。
□関連記事 (2007年6月13日) [Reported by 元麻布春男]
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