現在、デスクトップ向けGPUでもっとも高性能な製品といえるGeForce 8800シリーズ。このシリーズに、さらに性能を強化した上位モデル「GeForce 8800 Ultra」がラインナップされた。従来の最上位モデルであったGeForce 8800 GTXを上回る性能を持つ本製品を見てみたい。 ●新リビジョンの採用でオーバークロック動作を実現 今回発表されたGeForce 8800 Ultraの主な仕様は表1にまとめた通り。基本的にはGeForce 8800 GTXのオーバークロック版といえる製品になっており、コアクロックが6%強、Streaming Processor(SP)が10%強、メモリクロックが20%、それぞれ高速化されている。コアはGeForce 8800 GTXと同じ90nmプロセスのものが利用され、アーキテクチャ上の違いはない。よって、ミッドレンジ向け製品に採用された第2世代のPureVideo HDはサポートしないことになる。
【表1】GeForce 8800 Ultraの主なスペック
ただし、コアのリビジョンは変更されているそうで、このことがオーバークロック製品を出せる状況を生み出したようだ。また、これによりGeForce 8800 GTXよりもクロックが高いにも関わらず、搭載ボードの消費電力は下がるとNVIDIAではアピールしている。 ここは本製品でもっとも気になる点なので、いつもとは順序を変えて、最初に消費電力のテスト結果をお伝えしておきたい。結論からいうと、NVIDIAがアピールするような結果は見られなかった(グラフ1)。後述のベンチマークテスト環境の消費電力をワットチェッカーで計測したもので、ビデオカード以外の構成はすべて統一して計測しているが、ピーク時の消費電力は7%前後上がってしまっているのだ。 コアのリビジョンが上がって消費電力が下がっていたとしても、それはGPUコアだけの話で、メモリクロックは上がっている。この動作電圧が同じだとすれば、その分消費電力は増してしまうわけで、こうしたGPU以外の面が影響しているのかも知れない。 そうした点を加味すると、コアクロック6%強とメモリクロック20%の上昇に対して、7%程度の消費電力向上で留まっていることは、好意的に解釈できなくはない値だ。ただ、NVIDIAのコメントを考慮すると、期待外れの感が拭えないのも事実である。
さて、このGeForce 8800 Ultraを搭載したボードであるが、今回はNVIDIAから借用したリファレンスボードを試用している(写真1)。見た目はクーラーの違いによって大きく変更されたように見えるが、見た限りPCB自体は共通のようで、ボードサイズなどは変更されておらず、6ピンの電源端子を2つ利用する点や、ブラケット部の構成も共通だ(写真2~4)。
冷却機構を見ると、ヒートシンクやブロアタイプのファンは共通で、回転数が上がった時のノイズの印象も変わったようには感じられなかった。変わったのは化粧カバーがボード全体を覆うようになった点と、ファンがややボード端からはみ出すように配置されるようになった点である(写真5)。 この化粧カバーの変更は、少なくとも冷却という点に関しては意味を持っていない。一見するとファンからボード末端側へも空気が逃げそうに見えるが、実はファンのボード末端側は閉じられている(写真6)。ボード上のパーツ保護やデザイン上の理由による変更と考えていいだろう。 ファン位置の変更理由は、ボード背面側からも空気を取り込めるようにすることで、冷却能力を向上させるためと考えて間違いない。NVIDIAの言によれば、消費電力は下がっているわけで、当然発熱も低下していると考えるのが自然だ。ならば、新しいクーラーを開発して冷却能力を向上させる意味はないと思うかも知れないが、より低い温度が保てれば、より低い回転数が保たれることにつながるわけで、こうした工夫は意味がある。
このリファレンスボードの動作クロックだが、nTuneをインストールした環境でNVIDIA Control Panelを使用して確認してみると、ほぼ定格通り動作していることが分かる(画面1、2)。
●GeForce 8800 GTXからの性能向上を見る それでは、パフォーマンスをチェックしてみたい。テスト環境は表2の通りで、今回は比較対象にGeForce 8800 GTXを用意している。今回はビデオカードが1枚しか借用できなかったため、シングルビデオカード環境のテストのみである。SLIのテストは、環境が整い次第、結果をお届けする予定だ。
【表2】テスト環境
まずは、3DMarkシリーズの結果である。「3DMark06」(グラフ2~5)、「3DMark05」(グラフ6)、「3DMark03」(グラフ7)の順に示している。低解像度であまり性能向上が見られないのは描画負荷が低いため。おおむね10%前後の性能向上となっている。 性能の向上度合いがもっとも大きかったのが3DMark06のHDR/SM3.0テストで、ほとんどの条件で11~12%程度のスコア向上が見られる。こうした負荷の高いテストで好結果を残したのは、コアクロックに加えてメモリクロック向上の効果が大きいと思われる。
実際のゲームにおいても、この性能は発揮されている。テストは「Splinter Cell Chaos Theory」(グラフ8、9)、「Call of Duty 2」(グラフ10)、「F.E.A.R.」(グラフ11、12)。バラつきはあるものの、ほとんどの条件で5~15%のフレームレート向上を見て取ることができる。 低解像度条件でGeForce 8800 GTXに劣るシーンが見られるものの、すべてのアプリケーションで確実にスコアが低いというわけではなく、ドライバの影響とは判断しづらい。誤差と考えていいだろう。 ●GPUメーカー公認のオーバークロックモデル 以上の通り、パフォーマンスではウィークポイントのない素晴らしい性能を見せており、特に触れたいポイントも見当たらない。アーキテクチャに変更はなく、クロックを上昇させただけの製品なので、GeForce 8800 GTXに比べ、安定して高いスコアを出すのは当然ともいえるわけだが、今回のテストでそれが確認できたといえる。 遅れてはいるものの、AMDのR600の登場が近いと噂されている中、現時点でのパフォーマンスリーダーであるNVIDIAが先手を打って、より高いパフォーマンスの製品を出荷してきたことのインパクトは小さくなく、さらにSLIでどこまでパフォーマンスを伸ばすかも興味あるところだ。余談になるが、この製品の話を聞いたとき、先日発表されたIntelのCore 2 Extreme X6800に近いイメージを持った。 ただ、パフォーマンス以外では注意しておきたいポイントが多いのも事実だ。冒頭でも触れたが、ビデオプロセッサが第1世代のPureVideo HDまでのサポートとなる点、消費電力が多少上がる点である。後者はパフォーマンスとのトレードオフといえるポイントなので、パフォーマンスを重視するユーザーであればさほど気にすることはないだろう。 だが、前者は簡単に割り切れるものでもない。価格は日本円で10万円の大台を意識することになるレベルだが、これだけの出費をもってしても、ビデオプロセッサだけを見ると、同世代のミッドレンジに劣る点があるのは寂しい。そのため、3D描画のパフォーマンスのみにこだわるユーザーに向けたプレミアム製品として捉えておくのが妥当だろう。 □関連記事 (2007年5月2日) [Text by 多和田新也]
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