GeForce 8800 GTXの発表から5カ月余りが経過し、ようやく、このGeForce 8シリーズのミッドレンジ向け製品が発表された。高いパフォーマンスで話題になったGeForce 8800シリーズだけに、その性能に期待がかかる。今回、発表された製品は「GeForce 8600 GTS」、「GeForce 8600 GT」、「GeForce 8500 GT」の3製品。本稿では、この中から最上位モデルとなるGeForce 8600 GTSの性能を検証してみたい。 ●新プロセスの採用とビデオプロセッサの機能強化 GeForce 8600 GTS/GTは「G86」、GeForce 8500 GTは「G84」のコードネームで呼ばれた製品だ。まずは、今回発表されたGeForce 8600/8500シリーズの概要を紹介しておきたい。 主なスペックを表1にまとめている。新製品もGeForce 8800シリーズで採用されたStreaming Processor(SP)と呼ばれる統合型シェーダユニットを搭載。その数はGeForce 8600 GTS/GTが32基、GeForce 8500 GTが16基となっており、GeForce 8800 GTXの128基に対して、それぞれ4分の1、8分の1という数である。
【表1】GeForce 8600/8500シリーズの主なスペック
ここ最近の同社のミッドレンジ向けビデオカードは、ハイエンドの最上位モデルに対して、ピクセルシェーダユニットが半分、バーテックスシェーダが半分強といったユニット数を搭載してきた。今回は統合型シェーダユニットによるミッドレンジ向け製品という新しい手法なので単純な比較はできないが、大幅な削減と言える。 ちなみに、トランジスタ数はGeForce 8600 GTS/GTが2億8,900万個、GeForce 8500GTが2億1,000万個。これは、GeForce 8800 GTXの6億8,100万個に対して半分以下と言えるし、前世代の最上位モデルであるGeForce 7900 GTXに近い数字とも言える。 ただし、今回は新たに80nmプロセスを採用してきている。既存のGeForce 8800シリーズは統合型シェーダを採用する一方で、プロセスは従来どおり90nmプロセスに留めていた。統合シェーダという新しい試みに加え、トランジスタ数が急激に増加したこともあって、プロセスシュリンクという挑戦は見送っていた。 だが今回は、次のステップであるプロセスシュリンクへ踏み切った。ミッドレンジ向け製品は、ハイエンド向けと違いコストにあまり無理が利かないため、プロセスシュリンクも合わせて行なうことでダイサイズを小さくし、チップ製造の歩留まりを上げる必要性があったのだろう。 もう1つ、ミッドレンジ向け製品らしい新技術が、ビデオプロセッサの機能強化だ。表1中のビデオプロセッサの項に、GeForce 8600/8500シリーズは「VP2」、GeForce 8800シリーズは「VP1」と示したが、GeForce 8600/8500シリーズは新たに第2世代のPureVideo HDに対応するビデオプロセッサを採用しているのである。 その大きな特徴は逆テレシネをハードウェア支援できるようになった新ビデオプロセッサ、H.264のビットストリーム処理用エンジン、コンテンツ暗号化で利用される128bit AESの復号エンジンを搭載した点だ(図1)。
次世代DVDでH.264コーデックを採用するものは今後増えると想像されるが、いくらH.264デコードをハードウェア処理させたとしても、ビットレートが上昇してときにビットストリーム処理を行なうCPUの処理が追いつかなければ、コマ落ちが発生する。GPU側にこのビットストリーム処理の専用エンジンを設けることで、CPU負荷を下げることができるわけだ。AES復号エンジンはビットストリーム処理ほどCPU負荷に与えるインパクトは大きくないと思うが、やはり負荷軽減につながると思われる。 この新ビデオプロセッサは、前述の通りGeForce 8600/8500シリーズで新たに採用されたもので、この点ではGeForce 8800シリーズを上回る機能を持つことになった。ハイエンド向け製品が一部機能で劣るというのは不思議に思うかも知れない。だが、こうした例は過去にもあって、GeForce 6800シリーズの後に発表されたミッドレンジ向けGPUのGeForce 6600が、やはり機能強化されたPure Videoを実装した。このGeForce 6600の場合は、Pure Videoの正式発表という意味合いもあったので事情は少し異なるが、エンスージアストによるゲームユースが中心のハイエンド向け製品と一般ユーザーが多いミッドレンジ向け製品では、NVIDIAがはっきりと重視ポイントを分けている印象を感じる。 スペックから特徴的な点をもう1つ挙げておくと、GeForce 8600 GTSはコア/SPクロック、メモリは、ともにGeForce 8800 GTXよりも高いクロックで動作している。コアクロックについては、プロセスシュリンクの効果や、トランジスタ数削減によって発熱が低下したためと思われる。 メモリクロックも上昇しているが、これはメモリ価格の影響もあるのだろう。もっともインターフェイスは128bitなので、メモリアクセスの帯域幅はGeForce 8800 GTXの方が広い。また、GeForce 8800 GTX同様、GDDR4は採用されていない。コスト面からみて当然の仕様だろう。なお、GeForce 8500 GTのみはGDDR2を採用している。ちなみに、1GHz動作が可能なGDDR3メモリはSamsungやQimondaなどが1.0ns品をリリースしており、GeForce 8600 GTS搭載製品には、これらが採用されることになると思われる。 さて、今回テストするGeForce 8600 GTS搭載カードは、エルザジャパンより借用した「ELSA GLADIAC 786 GTS 256MB」だ(写真1)。これはNVIDIAリファレンスデザインとされている。 クーラーは1スロットに収まるサイズだが、GeForce 7900 GTや7600 GTに比べると大型化されている。GeForce 7800 GTXなどに搭載されたクーラーを少し短くしたような形状だ。 そして、このGeForce 8600 GTSで特に強調しておく必要があるのが、電源端子である(写真2)。すでにAMDのビデオカードではRadeon X1650 XTが電源端子を実装していたが、NVIDIAのミッドレンジ向け製品としては初めて実装された。 NVIDIAの資料によれば、リファレンスビデオカードの最大消費電力は71Wとされている。確かにPCI Express x16スロットから供給可能な75Wに対して余裕のない消費電力であり、電源端子の追加は仕方なかったのだろう。なお、今回はテストしないが、GeForce 8600 GTのリファレンスビデオカードの消費電力は最大41Wとされており、こちらは電源端子を搭載しない。 ブラケット部はDVI×2とビデオ出力の構成(写真3)。ELSAの資料によれば、DVI端子は2つともデュアルリンクに対応するという。GeForce 7600シリーズは、1ポートのみの対応だったので、ここもミッドレンジ向けビデオカードとしての機能強化点の1つと言える。 なお、nTuneを利用してクロックをチェックしたところ、ほぼ定格どおりのクロックで動作していることを確認できた(画面1)。 ●セミハイエンドのGeForce 7900シリーズを中心に性能比較 さて、ここからは、ベンチマークの結果紹介へと移りたい。用意した環境は表2の通りだ。今回はGeForce 7900シリーズを中心に、そのライバルにあるRadeon X1950 Proと、NVIDIAの前世代のミッドレンジ向け製品であるGeForce 7600 GTを比較対象として用意している(写真4~8)。
【表2】テスト環境
なお、GeForce 8600 GTSのドライバはエルザジャパンから借用したさいに同梱されていた「ForceWare 101.02」を使用している。このドライバはGeForce 8600/8500シリーズ専用だったため、そのほかのNVIDIA製ビデオカードはGeForce 7シリーズ用のWindows XP向けドライバとして最新のForceWare 93.71を利用した。 ちなみに、NVIDIAはすでにバージョン150番台のドライバも提供する用意を整えているようで、相当数のバグフィックスを行ない、パフォーマンスも向上しているらしい。実際、今回のドライバではCall of Duty 2で描画障害が発生しているので、バグフィックスへの期待は個人的にも大きい。NVIDIA製品を持っている場合や、これから購入するならば、NVIDIAのWebサイトをチェックして、より新しいドライバを入手することをお勧めしたい。 それでは、最初に「3DMark06」(グラフ1~4)、「3DMark05」(グラフ5)、「3DMark03」(グラフ6)の結果から見ていきたい。 まずは3DMark06の結果だが、ここは描画負荷が軽ければGeForce 8600 GTSがGeForce 7950 GTをも上回るスコアを発揮した。例えば、総合スコアとSM2.0テストの1,024×768/1,280×1,024ドットでフィルタの適用がなければ上のスコアを出せている。また、GeForce 7900 GTに対しては、描画負荷がかかると同程度のスコアとはなるものの、安定して同程度以上のスコアとなっている。 さらに、GeForce 8600 GTSの性格を知る上でFeature Testの結果は面白いものとなった。まず、ピクセルシェーダのテストは20~24個の独立型ピクセルシェーダを持つGeForce 7900シリーズに対して、32基のSPを持つGeForce 8600 GTSという構図になるが、この程度のユニット数の差では、さすがに1ユニットに2基ずつ演算器を持つGeForce 7900シリーズの独立型ピクセルシェーダには敵わないことが分かる。 また、12基のピクセルシェーダユニットを持つGeForce 7600 GTに対しては、12%程度のスコア上昇に留まっており、従来のピクセルシェーダユニットの倍のSPを積んでも、ピクセルシェーダ処理のパフォーマンスは劣ることになる。 ただし、バーテックスシェーダのテストであれば、32基のSPのほとんどをバーテックスシェーダ処理に割り振れる点が有利に働くようで、GeForce 8600 GTSが圧倒的なスコア差を出している。Sharder Particlesも似たような理由だろう。大量のパーティクルを処理する際に、SPの並列処理性能が効果的なのは、GeForce 8800シリーズのテストでも見られた結果である。 もちろんコアクロックの違いなどもあるので、SPの性能を直接的に示すものではない点には注意を要する。ただ、総合的にピクセルシェーダ処理の能力が落ちるにも関わらず、NVIDIAがこうしたスペックで作ってきたのは興味深い。 最後のPerlin NoiseにおけるGeForce 8600 GTSの結果はピクセルシェーダに搭載された演算器の性能やメモリ帯域幅が影響することになる。GeForce 8600 GTSのSP内の演算器と、GeForce 7900シリーズのピクセルシェーダ内の演算器は異なるものであるため、この性能の比較は難しいが、少なくともメモリ帯域幅はGeForce 8600 GTSが劣っているのは事実だ。その点からすると、意外に良いスコアを出していると言えるだろう。 次の3DMark05も、スコアの絶対値が大きいため良し悪しの差がより大きくなっているが、傾向としては3DMark06と大きな違いはないといえる。問題は3DMark03で、これだけがまったく異なる傾向を示している。GeForce 8600 GTSのスコアが伸びず、3DMark06/05で安定して上回っていたGeForce 7900 GSに対しても完全に劣る結果を出しているのだ。3DMark03はDirectX 9対応のベンチマークではあるが、DirectX 8用のベンチマークソフトといっても差し支えないテスト構成になっている。過去に行なったGeForce 8800シリーズのテストと比べても、3DMark06/05と3DMark03の差があまりに極端に出てしまっており、こうした旧来的な描画をGeForce 8600 GTSが苦手とする可能性がある。
さらに、気になるのは実際のゲームを利用したテストの結果だ。実施したのは、「Splinter Cell Chaos Theory」(グラフ7、8)、「Call of Duty 2」(グラフ9)、「F.E.A.R.」(グラフ10、11)である。このうち、Call of Duty 2はGeForce 8600 GTS使用時にアンチエイリアスを適用すると、描画が乱れ、スコアも正常なものが出なかったので割愛している。 こうした実際のゲームを利用したテストにおいても、3DMark06/05とは異なり、GeForce 7950 GTに対抗できるどころか、低描画負荷時にGeForce 7900 GTに肉薄するのがせいぜい。場合によってはGeForce 7900 GSやGeForce 7600 GTにも劣る場合があるほどスコアは伸び悩んでいる。大局的に見れば、GeForce 7900 GT以下、GeForce 7900 GS以上といったところだろうか。 これまで本連載で行なってきたビデオカードのベンチマークテストにおいても、3DMarkシリーズと実際のゲームで異なる傾向を示すことはあったが、ここまで極端に差が出ることはなかった。また、これも経験的なものだが、3DMark06とSplinter Cell Chaos Theoryが極端に違う傾向を示すということは、これまでに見られなかったものだ。 今回のこの結果は、ハードウェアのアーキテクチャ的な得手不得手ではなく、おそらくドライバの問題ではないかと筆者は思っている。Call of Duty 2以外は描画の乱れなどもなく、極端な不安定さは感じないドライバだったが、まだまだチューニング不足なのではないだろうか。 ビデオカードではドライバのバージョンによってスコアが変わるということは珍しいことではないが、統合型シェーダを採用している場合、ひょっとするとシェーダをどのように割り振るかなどもドライバからある程度は制御できるのかも知れない。仮にそうであれば、独立型シェーダよりも、さらにドライバによるパフォーマンスチューニングは重要になってくるのかも知れない。 前世代の同セグメントビデオカードであるGeForce 7600 GTからは全般に大きくスコアを伸ばす傾向にあり、3DMark06/05のようにGeForce 7950 GT/7900GTクラスの性能を発揮する場面があるものの、実際のゲームで示したスコアはかなり残念な結果である。 最後に消費電力の確認である(グラフ12)。大雑把に見ると、GeForce 8600 GTSの消費電力は、GeForce 7900シリーズに近いことが一目で分かる。電源端子を搭載したあたりで、GeForce 7600 GTよりは高い消費電力であることは推測できるわけだが、これが実証された結果といえる。アイドル時の差は、GeForce 7950 GT/7900GTが若干高い値となっているものの、誤差ともいえる程度。ピーク時の消費電力は、GeForce 7950 GTが頭1つ抜けており、GeForce 8600 GTS/7900GT/7900GSは似通っている。 ミッドレンジ向けGPUとしては高い消費電力と言わざるを得ない結果で、SPを128個の半分ではなく4分の1の32基に抑えたのも、このあたりが理由なのかも知れない。とりあえず従来セグメントでいえば、1つ上の製品であるGeForce 7900 GS程度のパフォーマンスの確保と消費電力というあたりが落とし所だったのだろう。65nmプロセスの採用が始まれば、もう少し違う動きも出てくる可能性はあるが、ミッドレンジ向けとしては、このぐらいの消費電力が現時点で受け入れられる限界という印象を受ける。
●パフォーマンスに加え機能強化の魅力が大きい パフォーマンス面では、GeForce 7950 GTクラスのポテンシャルは秘めているものの、実際のゲームではGeForce 7900 GS前後のパフォーマンスに留まっている。とはいえ、GeForce 7600 GTからは飛躍的にスコアを伸ばしており、期待が大きかったGeForce 8シリーズのミッドレンジ向け製品としてみれば、そう悪くない結果だ。 ビデオカードの買い替えという視点で見ると、GeForce 7600シリーズからなら乗り換える価値は非常に大きい。ただ、GeForce 7900シリーズを持っている人が乗り換える場合、3Dに関する面では大きな理由はないかも知れない。パフォーマンスは似通っているし、HDRバッファへのアンチエイリアスをサポートしたといっても、そうした機能を求めるユーザーならばGeForce 8800シリーズなどを積極的に選択していくだろう。 だが、新しいビデオプロセッサは期待できる機能だ。PCで次世代DVDのコンテンツを楽しんでるユーザーは現状ではそれほど多くないかも知れないが、メーカー製PCなどではドライブを組みこんでいるものも増えており、今後も増える傾向が続くだろう。そうしたコンテンツ再生支援と適度な3Dパフォーマンスを兼ね備えた製品として人気を集めそうだ。 □関連記事 (2007年4月18日) [Text by 多和田新也]
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