しかし企業向け、個人向けを問わず、多くのPCがノート型へとシフトし、さらにその流れが止まりそうにない現状では、ノート型向けのプロセッサをひとくくりに分類することは難しくなっている。加えて半導体製造プロセス、および電力制御両面での省電力技術の進歩は、モバイルプロセッサに“幅広い”選択肢を与えようとしている。 どうやら2007年末に導入され、2008年から本格的に展開されるIntelの45nmプロセスでは、より柔軟な構成で多様なニーズに合致できるモバイルプロセッサが提供可能な体制が整いそうだ。 ●ノートPCにデュアルコアを超えるマルチコア化は必要か? 比較的サイズの大きなノートPCをサポートするプロセッサではなく、バッテリ持続時間やフォームファクタの小型化を意識したモバイルプロセッサは、かつてそれほどプロセッサベンダーにとって重要ではなかった。 しかしその後、ノートPC全体の市場が大きくなる中でニーズが多様化し、Intel自身のマーケティング方針の転換もあって、消費電力の枠ごとに多様な製品が提供されるようになったことはご存じの通りだ。 現在はバッテリ持続時間やフォームファクタの小型化に対し、メインストリームの製品ではないとしてあまり興味を示していなかったAMDも、Intelほどではないにしろ、モバイルプロセッサやプラットフォームに対して製品を提供している。 最終製品を使う側(つまり我々自身)は、小型/軽量機が欲しいと思えば、何が何でも望みのフォームファクタに合ったプロセッサの提供を望もうとするが、プロセッサベンダーにしてみれば、ある程度以上の市場が無ければ企業として取り組みにくい。 すなわち、特定の使い方に適した多様な製品を望むならば、それに見合う市場の大きさが必要ということだ。そして、これは逆も真である。市場が大きくなれば、それまで小さな声でしかなかった、ちょっとした望みも叶いやすくなる。 現在のIntel Coreは、ご存じのように省電力を重視し、モバイルプロセッサの設計を基礎にデスクトップPCやサーバにも展開している。これはもちろん、省電力化が求められている現在の技術トレンドに合致したものだが、加えてデスクトップPCよりもノートPCが多く売れている現在の市場環境も投影したものとも言える。 これだけモバイル市場が重要になってくると、次に向かうのは多様化だ。特にノートPCの場合、可搬性、バッテリ持続時間、筐体サイズなど、ニーズごとに変化する要素が多数存在し、ユーザーごとに最適と言えるスペックが異なる。これに伴い、プロセッサに要求される事柄も多様になるからだ。 ではどのような形で多様化するのか? Intelがマルチコア、さらにメニイコアへと向かうのであれば、現在のデュアルコアを超えて、モバイルプロセッサのコア数も増えていくのだろうか? この質問に対する1年半前の答えは「ノー」だった。そう答えたのは、Intel モバイルプラットフォーム事業部長のムーリー・エデン氏だったが、今、同じ質問をしたならば、同氏は「ノーコメント」と答えるに違いない。当時から技術トレンドとして、45nm世代で大幅な省電力化が図れると考えられていたから、エデン氏は技術的な理由で“ノー”と話したのではないだろう。当時と今でもっとも違うのは、市場環境。急激なモバイル製品へのシフトが、いろいろな影響を与えている。 ノートPCユーザーが増え、ニーズが多様化し、それによって求められているプロセッサのスペックが変わる。デュアルを超えるマルチコア化がノートPCに必要かどうか? 当然、必要なユーザーはいる。一方、不要な人も多数存在する。 ●選択肢が広がる次の世代 ずっと昔、デスクトップPC用プロセッサを流用していたノートPCの心臓部は、その後、ノートPC向けにアレンジされたプロセッサへと変化。さらにノートPC向けに設計されたプロセッサに変わり、現在はノートPC向けのプロセッサがデスクトップPCのアーキテクチャも支える。そんな変化が、今度はノートPC向けというカテゴリの中で起こる。 デスクノート(現在はあまり言わなくなったが、デスクトップPCのような利用形態で使用することを考えて設計したノートPC)なら、4コア、あるいは将来的にそれ以上の汎用コアが要求されるだろうし、それはいずれは15型クラス、14型クラスへと伝搬する。 45nm世代では、絶縁素材の変化などから、現在、大きな問題になっているリーク電流が抑えられるから、多コア化へのハードルはグッと下がる。電力管理を上手に機能させれば、多くのコアが存在してもリーク電流で無駄な電力がダダ漏れに捨てられることが(あまり)なくなるからだ。 ターゲットとするユーザー層あるいは製品のフォームファクタに合わせて、幅広い選択肢を用意できる柔軟性を、アーキテクチャに持たせることが可能になる。おそらく4コアのノートPCプロセッサも、さほど遠くない将来、登場することになるだろう。 ただ、単にコアの数が増えていくだけではない。ソフトウェアのトレンド次第では、もっと省電力性が求められるモバイルPCも、多コア化への道が残されている。 リーク電流が大幅に減れば、電力に対する処理効率をコア数の増加で向上させることが可能になるからだ。 走るソフトウェアが並列処理に向いたものであれば(あるいは同一OS上で並行して複数のタスクが走る状況が増えれば)、多数のコアで一気に短時間で処理を行ない、すぐに各コアを待機させた方が効率よくパフォーマンスを引き出せる。同じパフォーマンスを引き出すだけならば、クロック周波数を下げることも可能だ。 コア数の柔軟性を持たせるために、シングルあるいはデュアルのコアを基礎に、自在にコア数を増減できるようコア間ネットワークの設計が重要になってくる。 45nm世代の最初のうちは、現在とあまり変わらないかもしれないが、時間が経過すれば、多様なプロセッサが生まれ、それが最終製品であるノートPCの変化、発展へと波紋が広がる。 ●さらに異種コアの共存へと向かう Intelは当面、汎用のIntel Coreをネットワークで結び、多コア化していくつもりのようだが、しかし、将来は性格の異なる処理を行なう専用プロセッサを、プロセッサパッケージの中に混ぜ込んでいくのではないだろうか。 リーク電流が多いと、あまり規模の大きな専用プロセッサ回路は電力効率を大きく落とすお荷物になる。しかし、十分にリーク電流を下げられるなら、汎用Intel Coreが不得手な処理を専用プロセッサに任せることで、処理効率を向上させる余地が出てくる。 あくまでもユーザーが利用するアプリケーションや、システム全体のバランスを考えた上で注意深く検討する必要はあるが、たとえばMPEG系の圧縮やトランスコード、あるいはウィルス対策、GPUと同等の機能などを統合できる可能性はある。 こんなことを書いていると、数年後には嘘つきになっているかもしれないが、いずれにせよ、45nmプロセス世代はPCに対してさまざまな意味で大きな影響を及ぼすに違いない。 □関連記事 (2007年3月27日) [Text by 本田雅一]
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