前回、2006年のCeBITの目玉はMicrosoftの“Origami”ことUMPC(Ultra Mobile PC)だった。今回のCeBITでも、前回ほどの盛り上がりはないものの、SamsungからOrigami UMPCの第2世代となる「Q1 Ultra」が発表になるなど、いくつかの新しいUMPCが各ブースなどに展示された。 また、Intelも、CeBIT期間中に記者説明会を開催し、UMPCへの取り組みについてアピールを行なった。そうした、CeBITで見えてきたUMPCの現状や今後についてレポートする。 ●800MHzの超低電圧版DothanベースだったTDP3Wの未発表プロセッサ 第2世代UMPCであるQ1 Ultraに、従来製品に比べてTDPが3Wと低く抑えられた、未発表のLPIAプロセッサと思われるCPUが採用されたことはすでにお伝えした通りだ。その記事の中で、これは超低電圧版のYonahではないかと予想したが、その後展示されていたQ1 Ultraを、CPUIDをチェックするソフトウェアで調べてみたところ、このプロセッサコアはDothanベースであることがわかった。 DothanはDothanでもL2キャッシュは2MB版ではなく、512KBしかないことがわかる。つまりベースになっているのは、DothanコアでもPentium M系統ではなく、Celeron Mとして利用されていたものだと考えることができる。ただ、Celeron Mとも言い切れない部分もある。というのも、このCPUはSpeedStepテクノロジに対応しているからだ。Q1 UltraでCPUの省電力機能をONにすると、CPUのクロックが800MHzと600MHzの間で可変していた。FSBは400MHzで、DothanベースのためSSE3には対応していない。 Dothanベースの超低電圧版のPentium Mは1.3GHzで5.5WというTDPだったので、先日の記事でYonahに対して行なったような同じ計算が成り立ち、800MHzにクロックを下げることで3WというTDPはそのままで十分実現可能だ。なお、CPU-Zの表示によれば、800MHz時の電圧は0.828Vで、600MHz時には0.812Vと電圧が表示されていた。 LPIAの研究自体はそれなりに前から始められていたと考えられるが、実際に事業部としてスタートしたのは実質的に2006年からだ。その中でできる限り確実で、かつ手っ取り早く低消費電力を実現できる選択肢としてDothanコアが選ばれたと考えることができるのではないだろうか。 IntelのPankaj Kedia氏(ウルトラモビリティ事業部 グローバルエコシステムプログラム ディレクター)によれば、このプロセッサの詳細、ブランド名やより細かな情報に関しては、4月に北京で行なわれるIntel Developer Forumにおいて公開される予定とのことだ。
●Q1 Ultra以外にも、UMPCが多数展示 今回のCeBITでは、Q1 Ultra以外にもいくつかのUMPCが展示された。GIGABYTE Technologyは、VIAの超低電圧版C7MベースのUMPC「U70」を展示した。U70は、CPUはVIAの超低電圧版C7-M 1GHzで、チップセットはC7用のVX700が採用されている。超低電圧版のC7-MはTDPが3.5Wと、Intelの超低電圧版プロセッサの5.5Wに比べて低くなっており、こうしたUMPCなどに適している(詳しくは2006年のCeBITレポート参照)。液晶パネルは6.5型のWVGA(800×480ドット)で、重量は2セルバッテリ込みで740gになるという。色は白ベースのものと、黒/白ベースの2種類の製品が展示されていた。 また、digital CubeのG43は、同社が“世界最小”と説明するUMPC。CPUはAMD Geode LX800を採用し、30GB HDD(1.8インチ)、IEEE 802.11b/g無線LAN、Bluetooth、4.3型WVGA液晶などを備え、Windows XPとLinuxが動作するという。ぱっと見た感じOQOの「Model01」や「Model02」の方が小さく感じたのだが、液晶が4.3型と小さいこともありコンパクトにまとまっていた。 Amtekは2006年のCeBITで初めて公開されたPBJのUMPC「SmartCaddie」とよく似た製品「T700」を扱う(つまりおそらくODM元)UMPCメーカーだが、今回はその後継となる「T770」を展示していた。T770は超低電圧版C7-M 1.2GHzを採用し、130万画素のカメラを内蔵するなど、T700と比べ機能の強化が図られている。 このほかにも、IntelのKedia氏は「今後さらに5つ程度、新しい超低電圧版CPUベースのUMPCが発表されるだろう」と述べ、今後さらに新しいUMPCが登場する可能性があることを示唆した。
●徐々に解決されていく、ウルトラモバイルなPCに向けた課題 ただ、UMPCの今後がバラ色かと言えば、まだまだ課題も残されている。前出のKedia氏は「UMPCに最適化されたソフトウェアや、液晶などの周辺部分のハードウェアには今後も改善の余地がある」と認める。 実際、UMPC専用に開発されたソフトウェアは、Microsoftの“Origami”ぐらいで、UMPC向けに設計されたソフトウェアというのはあまり多くないのが現状だ。また、UMPCではWVGAや1,024×600ドットなど、PCとしては特殊な解像度を利用しているため、ソフトウェア側で解像度を最適化する必要もあるが、それに対応したソフトウェアもまだまだ少ない。たとえば、IntelはCeBITにおいてUMPCの未来を予想するようなビデオを公開したが、その中で、自動車に持って行ってクレイドルにはめてカーナビの代わりとして利用するシーンなどが登場していた。しかし、現状でUMPCをそうした用途に使うソフトウェアはないし、今後ソフトウェアベンダなどに働きかけUMPCのタッチパネルで操作するという仕組みに最適なソフトウェアを作ってもらう必要があるだろう。 周辺部分のハードウェアに関してもまだまだ見直しの余地がある。たとえば、液晶パネルの消費電力は、システム全体に占める割合はまだまだ高い。「現在全体の消費電力の中で液晶パネルのしめる割合は非常に大きい。パネルサイズによるが、1Wを軽く超えているものも少なくない。そうしたものを今後業界全体の取り組みで減らしていく必要がある」(Kedia氏)との通り、今後はパネルメーカーと協力して、3型、4型、7型といったUMPC向けのパネルの消費電力を下げる取り組みを行なっていくという。 実際、2006年に発表されたQ1に採用されていたパネルは、もともとカーナビ用などに利用されていた7型WVGAパネルが採用されていたが、今回のQ1 Ultraには1,024×600ドットのパネルが採用され、消費電力は2006年のモデルに比べて0.3~0.4W程度削減されているという。 そのほかにも、ハードに持ち運ばれることを前提としたUMPCでは、HDDの信頼性も問題がある。ただし、これにはすでに有望な解決策が見つかっている。SamsungやSanDiskなどが、発表しているATAインターフェイスを採用したSSD(フラッシュメモリを利用したATAドライブ)だ。Samsungの製品はすでにソニーの「VAIO type U」など具体的な製品に採用されており、SANDISKはCeBITの会場において展示やデモを行なっている。 もちろん、SSDにはコストという問題が依然として存在している。現在SamsungやSANDISKはOEMベンダに対して32GBのSSDを提供しているが、価格は数百ドルレベルになってしまっているという。HDDが100ドル以下の価格であることを考えると、コスト面ではかなり厳しい。OEMベンダ筋の情報によれば、SSDベンダは2007年中には倍の容量となる64GBのSSDを提供するロードマップであると説明しているという。となれば、容量あたりの価格は下がることになるので、今後普及に弾みがつく可能性がある。
●2008年にはTDPが1Wを切る“本当の”LPIAプロセッサが登場 2008年になると、もう1つ重要なピースがそろうことになる。それがIntelの本格的なLPIAプロセッサだ。2007年のLPIAプロセッサは、誤解を恐れずに言うなら“なんちゃってLPIAプロセッサ”だ。既存のDothanコアを利用し、その中から超低電圧(0.828V~0.812V)で動作する個体を抜き出して、より小型のパッケージに入れ、さらにIntel 945GMSとDothanとの動作検証が追加されたものだと考えられるだろう。 実際Kedia氏は「2007年のプラットフォームはまだ始まりに過ぎない。我々は2008年には、従来型プロセッサの10分の1の熱設計消費電力で、実装面積は7分の1の製品をLPIAプロセッサとして投入する。これは0から作り上げた完全に新しいアーキテクチャとなる」と述べ、2008年にリリースされるLPIAプロセッサこそIntelのUMPC戦略にとって本命であるとの見通しを明らかにした。 もともとの比較対象は超低電圧版のPentium M/Core Soloの5.5Wという熱設計消費電力で、その10分の1ということになるので、この2008年のプロセッサは0.55Wということになる。ここまでくれば、PDAや携帯電話というこれまでx86プロセッサが入っていなかったエリアにも十分x86が入っていくことになる。Kedia氏は2006年秋のIntel Developer Forumでも公開されたUMPCのモックを再び公開したが、これなどは日本で言えばウィルコムの「W-ZERO3」やイー・モバイルの「EM-ONE」などの機器とほぼ同じ大きさであり、それらがx86ベースになり、フルWindowsが動作する時代が2008年に来る可能性が高いということだ。 来年、2008年のCeBITの話題の中心が、これらの製品になる可能性は高い。 □関連記事 (2007年3月20日) [Reported by 笠原一輝]
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