CeBIT 2007レポート【Intel編】
IntelがTDP3Wのx86プロセッサを出荷
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Samsungが発表したUMPC「Q1 Ultra」。IntelのTDP3WのLPIAプロセッサを搭載 |
CeBITの会場において、Intelは記者会見を開催し、同社が“特定用途向けの超低電圧版プロセッサ”と呼称する、UMPC(Ultra Mobile PC)など向けのプロセッサを提供開始したことを明らかにした。
Intelによれば、ブランド名などは明らかにされていないこのプロセッサは、熱設計消費電力(TDP)と呼ばれる設計時に参照されるピーク時の消費電力が3Wと、これまでの超低電圧版プロセッサの5Wに比べて大幅に低減していることが大きな特徴となっている。
この製品は今後OEMメーカーへの提供が開始され、CeBITではこの製品を搭載したSamsungのUMPCが発表されて大きな注目を集めている。
また、Intelはこれまで開発コードネーム「Robson」と呼んできたフラッシュメモリを利用したPC高速化の技術を“Intel Turbo Memory”というブランド名にしたことを明らかにし、そのデモを行なった。
●以前から開発が進められていたLPIA
今回Intelが明らかにしたのは、これまでLPIA(Low Power Intel Architecture)または、LPP(Low Power Processor)として開発を続けてきた超低電圧のプロセッサだと推測される。Intelの関係者によれば、この“特定用途向け”プロセッサはシングルコアで、熱設計消費電力は3W、実装面積は従来製品の4分の1に収まっているという。今回の発表では、ブランド名や周波数、駆動電圧などの詳細は一切明らかにされず、あくまで“特定用途のプロセッサ”とだけ発表されている。
Intelは2006年秋のIDFにおいてLPIAの計画を発表しており、2007年には消費電力が半分で、実装面積が従来製品(5Wの超低電圧版プロセッサ)の4分の1になる製品を、2008年には消費電力を10分の1に抑えた完全な新アーキテクチャの製品を投入し、さらに将来的にはチップセットも含めた1チップのプロセッサを投入するという計画を明らかにしている。今回発表された製品は、その第一段階を実現する製品となる。
2006年秋のIDFで公開されたLPIAのロードマップ | LPIAのデザイン例。下段の2つの製品は実際の製品でUMPC、上段の製品はいずれもモックで、将来のデザインイメージ |
●クロックは800MHz駆動
Intelによれば、この“特定用途向け”プロセッサはSamsungへ出荷され、Samsungが同日発表したVista版Origami/UMPCデバイス「Q1 Ultra」に搭載される。
Samsungの発表会で展示されていたQ1 Ultraをチェックしたところ、プロセッサは“Genuine Intel Processor”とだけ表示されており、ブランド名はチェックできなかった。しかし、動作クロックが800MHzであることがわかった。また、内蔵GPUはIntel 945GMに内蔵のものとなっているので、おそらくIntel 945GMか、945GMの小型パッケージ版の945GMSだと推測される。
したがって、このプロセッサは、Yonahベースのシングルコアを利用したものだと推測される。そう推測できる理由は、3Wという消費電力にある。現在5.5WのTDPを実現しているYonahベースの超低電圧版Core Soloは、最上位モデルのU1400のクロック周波数が1.33GHzとなっている。これに対して800MHzはその60%の周波数にあたる。
消費電力は周波数に比例して大きくなるので、クロックを800MHzに制限することで、計算上は5.5×0.6で3.3Wという計算になる。もう少し電圧などを調整したりすれば、3WというのはYonahコアで十分実現可能なスペックなのだ。この製品のためだけにわざわざ新しいダイを起こすということは想像しにくい。
Yonahベースではあっても、Intelが言うように3Wの消費電力と、4分の1になった実装面積は大きなメリットがある。チップセットのIntel 945GMSもパッケージ角が27×27mm(幅×奥行き)と、945GMの37.5×37.5mm(同)に比べて約半分の実装面積であることを考えあわせると、ノートPCの設計者にとってのメリットは決して小さくない。なお、このCPUの詳細は、4月に北京で開催されるIDFで明らかにされる予定だ。
Intelの関係者によれば、この製品はOrigamiのUMPC専用というわけではなく、今後さまざまな製品に搭載される可能性があるという。そうすると、ソニーの「VAIO type U」のようなユニークな製品などに搭載される可能性があり、かつ現状よりもさらに基盤を小さくすることが可能であるだけに注目したいところだ。
Q1 Ultraのデバイスマネージャの表示。GPUはIntel945GMで、CPUはGenuine Intel Processorで800MHzと表示されていた |
●RobsonことIntel Turbo MemoryによりノートPCは速くなる、とIntel
また、Intelは、次世代Centrino Mobile TechnologyをSanta Rosa(サンタロサ)というコードネームで開発を続けている。これに搭載される予定のフラッシュメモリ技術「Intel Turbo Memory」のデモも行なった。
Intel Turbo Memoryは、これまでRobson(ロブソン)と呼ばれてきた製品で、Mini PCI Express形状のモジュールやマザーボードに直接実装される形で提供される。
IntelのEMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)担当ジェネラルマネージャ兼副社長のChristian Morales氏は「Intel Turbo Memoryにより、アプリケーションの起動などは2倍高速になり、レジュームやハイバネーションからの復帰は1.5倍高速になる。さらにバッテリ駆動時間も延ばすことができる」と述べた。また、Intel Turbo Memory搭載PCと、非搭載PCの比較デモも行なった。
デモの内容は、複数のアプリケーションを起動し、処理をさせ、終了するというもので、Intel Turbo Memory搭載PCが79.4秒で終了したのに対して、非搭載PCは196.7秒かかった。
なお、Intel Turbo Memoryの技術詳細に関しては明らかにされなかった。OEMメーカー筋の情報によれば、Intel Turbo Memoryは1GBと512MBの2つのSKU(製品)が用意されており、Mini PCI Expressのモジュールないしは、フラッシュメモリ単体で提供されるという。
ソフトウェア的にはWindows Vistaでスワップファイルのキャッシュメモリとして利用できるReadyBoostだけでなく、ReadyDriveとしても利用できるので、ハイブリッドHDDではないHDDのシークタイム改善にも利用することができるという。シークタイムの改善によりレジュームやハイバネーションが高速になるのだ。
Santa Rosaの投入は2007年の第2四半期を予定していることをIntelは明らかにしているが、OEMメーカー筋の情報によれば、現時点では5月の半ば頃に登場する可能性が高いという。
Intel EMEA担当ジェネラルマネージャ兼副社長のChristian Morales氏 | Intel Turbo Memoryを説明するスライド。アプリケーションの起動などは倍近くなるという。Mini PCI Express版Intel Turbo Memoryも見える | Intel Turbo Memory搭載PC(右)と非搭載PC(左)のベンチマーク結果 |
□CeBIT 2007のホームページ(英文)
http://www.cebit.de/
□Intelのホームページ(英文)
http://www.intel.com/
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【2006年10月23日】【海外】Intelのもう1つの次世代CPU「LPP」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1023/kaigai313.htm
【2006年9月29日】【IDF】IntelのUMPCは離陸寸前
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0929/idf06.htm
(2007年3月16日)
[Reported by 笠原一輝]