AMDは2月28日に統合型チップセットの「AMD 690」シリーズを発表した。AMDプラットフォーム向けの統合チップセットとして久々の登場となる本製品。上位モデルはHDMI出力をサポートするなど、新しいトレンドに対応させた意欲的な製品だ。そのパフォーマンスをチェックしてみたい。 ●ShaderModel 2.0対応のコアを統合したAMD 690シリーズ
今回発表されたAMD 690シリーズは、いうまでもなく旧ATIのアーキテクチャを利用した製品だ。旧ATI時代から含めても、同社のAMDプラットフォーム向け製品としては、およそ2年半ぶりの後継製品の登場となる。このAMD 690シリーズについては、発表時の記事に詳しいので、ここでは簡単にまとめるに留めたい。 AMD 690シリーズは2モデルがラインナップされており、Radeon X1250を統合する上位モデルの「AMD 690G」、Radeon X1200を統合する下位モデルの「AMD 690V」が用意される。いずれもRadeon X700をベースに、Radeon X1000相当のビデオ再生支援機能「Avivo」を統合した製品とされている。とはいえ、3Dレンダリングのパイプラインはピクセルシェーダユニットが4基のみでバーテックスシェーダユニットは実装されておらず、Radeon X700からは大幅なパフォーマンス低下が予想されるグラフィックコアになっている。 おそらく、Radeon X700と同等のアーキテクチャを採用した下位モデルが発売されていないため、ベースと呼ぶもっとも適切なGPUがRadeon X700だったのだろう。その真意は“DirectX 9.0bのフィーチャーをサポートしたグラフィックコア”という理解でいいと思われる。Radeon X700ベースという言葉だけで見てしまうと、パフォーマンス面では大きく期待を外すことになるのが明白なので注意されたい。 もっとも、このグラフィックコアの目玉は3Dパフォーマンスではなく、Radeon X1250に実装されたデジタル出力関連機能だ。とくにサウンドをノースブリッジ内に統合したうえ、HDCPのキーを内蔵させているので、チップセット内でビデオとオーディオのデータストリームを完結させた形でHDMI出力を実現できる。また、HDCP対応のDVI出力も可能で、需要が増している著作権保護されたコンテンツを再生するための環境のベースとして有力なチップセットになり得る存在といえる。 今回テストに利用するのは、AMD 690Gを搭載したASUSTeKの「M2A-VM」だ(写真1)。ASUSTeKからはAMD 690G搭載製品が2モデル予定されており、この製品は下位モデルとなるもの。上位モデルの「M2A-VM HDMI」との違いは、HDMI出力、コンポーネント出力、IEEE 1394の有無で、M2A-VMの映像出力端子はD-Sub15ピンとDVI出力のみの構成となっている(写真2)。 とはいえ、3Dグラフィック描画に関する機能については差はないので、ベンチマークの結果は参考になるだろう。なお、UMAのサイズはBIOSから選択可能で最大で256MBまで割り当てられる(画面1)。また、グラフィックコアの動作クロックは定格どおり400MHzとなっている(画面2)。
●3D描画とシステムのパフォーマンスを比較 それでは、ベンチマークテストの結果を紹介したい。環境は表1に示した通りで、比較対象にはNVIDIAのGeForce 6150搭載製品を用意した(写真3)。なお、UMAのサイズは、いずれの製品もBIOSで128MBに設定して測定している。
【表1】テスト環境
それでは、3Dグラフィック性能のテスト結果からお伝えしたい。最初に「3DMark06」をグラフ1~3、「3DMark05」をグラフ4、「3DMark03」をグラフ5に示している。AMD 690G、GeForce 6150ともに、16bit浮動小数点レンダリングに対応していないため、HDR/SM3.0テストは実行できない。 結果を見ると、全般にAMD 690Gのスコアの良さが目立つ傾向にある。3DMark03のみはアンチエイリアスを適用するとGeForce 6150がスコアを逆転させる点もあるが、ほかの結果から見れば、このアプリケーションに依存した特性とみていいだろう。 面白い結果となったのはFeature Testである。まずピクセルシェーダの結果から見ると、GeForce 6150の方が優っていることが分かる。ピクセルシェーダユニット数でいえば、AMD 690Gの4基に対し、GeForce 6150は2基しか持たないが、後者の効率の良さが目立つ結果といえる。 一方のバーテックスシェーダテストに関しては、SimpleではGeForce 6150、ComplexではAMD 690Gが優る結果となった。GeForce 6150はバーテックスシェーダユニットを1基持っていることから、簡単な処理であれば専用ハードウェアが強く、複雑な処理になるとすべてCPUで処理させてしまった方が良い結果を見せることがうかがえる。
続いては実際のゲームを利用したベンチマークである。テストは、「Splinter Cell Chaos Theory」(グラフ6)、「Call of Duty 2」(グラフ7)、「F.E.A.R.」(グラフ8)、「DOOM3」(グラフ9)である。これらは、本連載のほかの記事と同一のセッティングを施したものとなるため、全体にクオリティを重視した設定のうえでテストしている。また、スコアの傾向からフィルタ類の適用は意味をなさないと考え、ここでは省略している。 その結果は、Call of Duty 2以外はAMD 690Gが良い結果を示す。先の3DMark03も含めアプリケーションの得手不得手も多少は見られるが、全般に3Dグラフィック性能はAMD 690Gの方が高いという判断で良いだろう。 ただ、これらゲームの結果を見ると、SVGAでもゲームを利用するには苦しいといえる。もちろん、さらに解像度を下げたり、クオリティを下げた設定にすれば、少しは改善させるだろうが、やはり快適に楽しむのであればPCI Express接続のビデオカードを導入するのが無難だろう。
さて、ここで少し話を変えて、Windows Vista上でのグラフィック性能を見てみたい。Windows Vista上での3Dグラフィック性能はWindows Aeroの性能に結び付くからである。なお、ドライバはAMD 690GはXPと同じVersion.8.342のドライバパッケージ、GeForce 6150はNVIDIAのWebサイトで提供されているVersion.15.00Gのドライバパッケージを利用している。 テストは3DMark06(グラフ10)と「PCMark05」のGraphicsテスト(表2)を実施したが、3DMark06はWindows XP上でのテスト結果からスコアが少し下がっただけで、傾向には大差ない。Windows VistaはXPと比較して、全般に3D性能が下がる傾向にあるので、この結果は予想できる結果といっていい。 PCMark05の結果を見ると、ウィンドウの表示速度をテストするTransparent Windowsで、若干AMD 690Gが良いスコアを見せており、3Dグラフィック性能の各種テストで見せた結果が反映されていると判断していいだろう。 そのほかのところでは、グラフィックメモリ関連のテストではGeForce 6150が良い結果を見せている一方で、フィルレートはAMD 690Gが大幅に良いスコアを見せるという面白い結果になっている。通常、フィルレートは3Dレンダリングの最終段階で行なわれるもので、ビデオメモリのアクセス性能も反映されやすいのだが、ここでは逆のスコアになっている。 AMD 690GのテクスチャユニットやROPの仕様が公開されていないため憶測にはなるが、その性能とメモリ帯域幅のバランスが良いのだろう。GeForce 6150はROPやテクスチャユニットがボトルネックになっている可能性が高い。
【表2】PCMark05 Graphics Test - Windows Vista
システム関連のテストも行なっておきたい。このテストはマザーボード以外のハードウェア構成は同じであるため、システム性能が極端に低いことがないか、という確認の意味合いが強い。実施したテストは、PCMark05のCPUテスト(グラフ11、12)、「Sandra XI SP1」のCache&Memory Benchmark(グラフ13)、「SYSmark 2004 Second Edition」(グラフ14)、「CineBench 9.5」(グラフ15)、「動画エンコードテスト」(グラフ16)である。 この一連の結果は、いずれも誤差と判断していい範囲でしかスコアの違いは発生していない。つまり、どちらも極端なウィークポイントがないパフォーマンスを持っていると判断できる。安価なPCに組み込まれることが多いであろうチップセットではあるが、グラフィック以外の性能については両製品は同等のものとしていいだろう。 最後に両製品の消費電力のテスト結果である(グラフ17)。BIOSで上での設定を揃えてはいるものの、マザーボード自体が異なるので参考程度の結果ではあるが、AMD 690Gの消費電力の低さが目立つ結果となった。わりと明確な差がついているので、チップセット自体の消費電力はAMD 690Gの方が低いと見ていいだろう。製造された時期の違いによる根本的な設計や、動作クロックの低さが低消費電力につながっていると思われる。
●Athlon 64にとって期待のグラフィック統合型チップセット 新製品が出るたびに、トレンドを盛り込みながら進化しているIntel製の統合型チップセットに対して、GeForce 6150以来、1年以上の空白が空いていたAMDプラットフォーム向けの統合型チップセット。3Dグラフィック性能でAMD 690Gが上回るのは、後発製品としては当たり前といってもいい。Windows Aeroがちゃんと動作するスペックとパフォーマンスを持たせていることは、現在のグラフィック機能の最低条件といえるが、それは十分に満たしている。 また、このクラスの製品では幅広いニーズに応えられる機能を実装している点も選択の際の大きなポイントとなる。世界的に見ても大型TVへのデジタル出力というのは決して小さなニーズではなく、上位モデルのみとはいえ、HDMI出力をサポートできるようにしたのはアピールポイントとなるだろう。 Athlon 64 X2からSempronに至るラインナップ拡充を行なっている同社にとって、このAMD 690Gにかける期待の大きさは想像するに難くない。安価なPCを自作する上でも、OEMベンダーにとっても、有力な選択肢となり得るチップセットである。 □関連記事 (2007年3月13日) [Text by 多和田新也]
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