AMDは2月20日、Athlon 64 X2シリーズの最上位モデルとなる「Athlon 64 X2 6000+」を発表した。この製品は、3GHzで動作し、Athlon 64 X2シリーズでは最上位モデルとして投入されるものだ。このパフォーマンスを検証したい。 ●単体使用が可能なデュアルコア& 3GHz動作製品 まず、今回発表されたAthlon 64 X2 6000+の主要スペックをまとめたものが表1だ。最大のポイントとなるのは、やはり動作クロックが3GHzへ引き上げられたことだろう。これまで、K8コアの3GHz動作品は、シングルコア製品ではOpteronにラインナップされたほか、デュアルコア製品では先ごろ発売が開始されたQuad FX向けの「Athlon 64 FX-74」で投入されていたのみだった。つまり、Socket AM2用に提供されるシングルプロセッサ環境向けのデュアルコア製品としては、初めて3GHzの大台に到達した製品となる。 しかも、L2キャッシュの容量は1MB×2を維持しており、コンシューマ向けのシングルプロセッサ環境では、ハイエンド向けのプレミアムブランドであったAthlon 64 FXシリーズにラインナップされていたAthlon 64 FX-62を上回るスペックを持つことになる。
【表1】Athlon 64 X2 6000+スペック
そのOPNは「ADX6000IAA6CZ」となっている(写真1)。冒頭の3文字が見慣れない「ADX」という文字列になっている。ここは製品ブランドを示す部分だが、これまでのSocket AM2版Athlon 64 X2では、TDP89Wの場合「ADA」、TDP65Wの場合「ADO」、TDP35Wの場合「ADD」となっていた。今回のAthlon 64 X2 6000+は表1でも示した通り、TDPが125Wになっている。そのために新しく「ADX」という文字列が追加されたのだろう。末尾の「CZ」は、Rev.F3を示しており、すでに発売されている、Rev.F3採用製品の「Athlon 64 X2 5600+」と同じ文字列だ。CPU-Zの結果からも、Rev.F3を採用していることは確認できる(画面1、2)。 Athlon 64 X2 6000+は、クロックが上がったものの、TDPや動作電圧、T.CaseなどはAthlon 64 FX-62と同じ値を維持している。今回の製品はAthlon 64 FX-62と同じ90nm SOIプロセスで製造される製品となるが、すでに90nm SOIにも新しいリビジョンF3が登場している。このRev.F3を搭載した「Athlon 64 X2 5600+」は、Athlon 64 FX-62と同じスペックを持ちつつ、動作電圧やTDPを抑制することに成功しており、Athlon 64 X2 6000+においても、このRev.F3の恩恵を享受できている。 また、TDPや動作電圧、T.Caseが変わらないということは、Athlon 64 FX-62で利用可能な冷却パーツなどがそのまま使えることを意味する。これは、OEMベンダーに対しても、乗り換えを考えるユーザーに対しても安心感を与えることができそうだ。
●安定したパフォーマンス向上を見せるAthlon 64 X2 6000+ それでは、ベンチマークソフトを利用してAthlon 64 X2 6000+のパフォーマンスを見てみたい。テストに利用した環境は表2の通りだ。従来のハイエンド製品であるAthlon 64 FX-62に加え、メインストリーム向けブランドであるAthlon 64 X2の最上位モデルということで、同セグメントに位置付けられるインテルのCore 2 Duo E6700との比較も交えている。
【表2】テスト環境
まずは、「Sandra XI SP1」の「Processor Arithmetic Benchmark」と「Processor Multi-Media Benchmark」の結果である(グラフ1)。このベンチマークテストでは、アーキテクチャが異なるCore 2 Duo E6700との比較は難しい。Athlon 64 FX-62との比較では、クロックが約7%向上していることもあって、スコアもきっちり7%強ずつ向上しており妥当な結果といえる。
続いては、「PCMark05」の「CPU Test」の結果だ(グラフ2、3)。こちらもAthlon 64 FX-62との比較では、おおよそ7%前後の性能向上で安定しており、期待どおりのパフォーマンス向上といえる。また、Core 2 Duo E6700を相手にした場合でも、スコアは肉薄しており、一部テストでは上回る結果も散見される。
次にメモリ性能を見てみたい。テストはSandra XI SP1の「Cache & MemoryBenchmark」(グラフ4)と「EVEREST Ultimate Edition 2006 Version3.5」のCache & Memory Benchmark(レイテンシの項のみ、グラフ5)である。Athlon 64 FX-62との比較で、同じ環境を使いながらAthlon 64 X2 6000+のメインメモリが若干遅い結果になっている点は気になるが、これはプラットフォーム側の問題であると思われる。 本題のCPUについては、まず、CPU内キャッシュメモリの速度については、おおよそクロックに準じた結果となっている。併せてキャッシュのレイテンシも下がっているが、クロック周波数どおり7%前後の差となっているこの数字から、アクセスに要するクロック数は同程度と考えてよさそうである。
では、続いては実際のアプリケーションを用いたベンチマークである。テストはSYSmark 2004 Second Edition」(グラフ6)、「Winstone 2004」(グラフ7)、「CineBench 9.5」(グラフ8)、「動画エンコードテスト」(グラフ9)だ。 メインメモリのアクセス速度や、HDDなどのパーツがボトルネックとなったのか、Athlon 64 FX-62から5%前後の向上に留まるところが多いが、それでもクロックアップという、確実に性能向上につながる改良から、安定して性能向上を享受できている。 Core 2 Duo E6700との比較については、多くのテストでは相変わらずCore 2 Duo E6700のスコアが優っている。TMPGEnc 4.0 XPressのエンコーダのように、Coreマイクロアーキテクチャへの最適化も行なっているようなアプリケーションでは、かなり大きな差が見られる。その一方で、Winstone 2004やCineBench 9.5など、一部テストで同等もしくは上回るスコアを見せている点は要注目といえる。PCMark05のところでも見せた結果が、きっちり反映されているシチュエーションを見せたわけだ。Athlon 64 FX-62で苦戦していた場面でも対峙できるシチュエーションが整ったことは、AMDにとっても大きな意味を持っているといえるだろう。
次に3D関連のテスト結果を見てみたい。テストは、「3DMark06」の「CPU Test」(グラフ10)、「3DMark06」(グラフ11)、「3DMark05」(グラフ12)、「3DMark03」(グラフ13)、「DOOM3」(グラフ14)、「Splinter Cell Chaos Theory」(グラフ15)である。こちらは3DMark06や3DMark05でCore 2 Duo E6700に肉薄するシーンが見られるが、DOOM3やSplinter Cell Chaos Theoryといった実際のゲームを用いたベンチマークテストでは、CPUの性能差が出てしまった印象だ。こうした用途においては、ビデオカードがボトルネックになるような解像度で利用するのでなければ、Core 2シリーズを選択した方が無難のように思われる。
最後に消費電力のテストである(グラフ16)。ここは、Athlon 64 FX-62からクロックが上がった分、消費電力も微増する結果となっている。Rev.F3にステッピングが上がっているとはいえ、クロックが上がっていることもあって消費電力を低下させるところまではいっていない。 ただ、このデータはコンセント部に接続するタイプの簡易的なワットチェッカーで測定したものであり、グラフで見られる3Wという差は大きくはない。実際にない物を語っても意味はないが、あえてRev.F2の3GHz動作品というものが存在したと仮定するならば、こうしたほんのわずかな消費電力差という結果には終わらなかっただろう。この結果は、微増したというよりも、“同程度に維持された”という視点で捉えておきたい結果だ。
●価格面の魅力も増したAthlon 64 X2シリーズ 最後にAthlon 64 X2 6000+の価格であるが、国内の参考価格は58,600円程度がアナウンスされている。この価格は、Athlon 64 X2 5600+発売当初の価格をも下回るほどで、最近は、それに合わせるかのようにAthlon 64 X2シリーズの価格低下が起こっている。また、バリエーションの豊富さという魅力もAthlon 64 X2にはあり、一時期のPentium Dを彷彿させるような、価格とニーズに合わせた柔軟な製品選びが可能だ。 今回のテストでは、全体的にはCore 2 Duo E6700に一歩及ばない印象を受けるものの、一部テストでは上回ることもある。Core 2 Duo E6700が現状65,000円前後である点を踏まえ、パフォーマンス面と総合的に考えても、Core 2 Duo E6700より安く、しかも6万円前後が予想される価格付けは、魅力の高い設定だと思う。 このあたりは、Quad FXというプレミアムブランドが登場したことによる全体のバランスもあるのだろうが、かなり積極的な価格攻勢に感じられる。コンシューマユーザーにおいてはシングルプロセッサプラットフォームのほうがメジャーな製品であることは間違いなく、Athlon 64 X2 6000+のみならず、Athlon 64 X2シリーズの価格とバリエーションに惹かれる人も多いのではないだろうか。 □関連記事 (2007年2月20日) [Text by 多和田新也]
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