3月26日、NVIDIAはnForce 6シリーズのラインナップに「nForce 680i LT SLI」を追加した。「nForce 680i SLI」の下位モデルにあたる本製品は、一部機能は省略されているものの、nForce 680i SLIの売りであるオーバークロック機能を楽しみたいユーザーに向けた製品だ。 ●機能制限が目立つリファレンス 今回発表されたnForce 680i LT SLIは、昨年11月9日に発表されたnForce 680i SLIの下位モデルにあたる製品だ。“ちょっと安価なハイエンドモデル”という位置付けの製品で、価格帯としてはnForce 650i SLIよりは上となる。 チップセットレベルの主な機能を比較したものが表1だ。1,333MHz FSBに対応する点、SLI時にPCI Express x16×2の構成が取れる点、ネットワーク機能など、nForce 680i SLIが下位モデルに対してアドバンテージとして持っていた機能は、ほぼ網羅しており、この製品が間違いなくハイエンド向け製品であることが分かる。
【表1】nForce 680i LT SLIの主な仕様と製品比較
一方、価格が抑制された分、Link BoostとSLI-Ready Memoryへの対応が制限された。しかし、前者のLink Boostに関しては、実はそれほど大きなポイントとはいえない。Link Boostとは、NVIDIA製の特定のビデオカードを装着したときに、PCI Express x16のクロックを100MHzから125MHzへ、SPP-MCP間のクロックを200MHzから250MHzへと、それぞれ自動的に25%アップさせる機能だ。画面1は以前の記事で示した、Athlon 64用のnForce 590 SLI搭載マザーのBIOSを撮影したものであるが、Link Boostによってクロックが変化する場合は、このような動作となる。 しかし、NVIDIAリファレンスマザーであるeVGA製のnForce 680i SLI搭載マザーボードでは、Link Boostを活用するアプリケーションがないという理由で、最新BIOSの「P26」からLink Boostが無効になっており、対象ビデオカードを装着しても自動的にはクロックが上げられなくなった(画面2)。表中で△の表記にしたのもそのためだ。
もちろん、nForce 680i SLI搭載マザーすべてでLink Boostが無効にされたわけではないものの、NVIDIA自体が公式にnForce 680i SLIからLink Boostを外す方向へアナウンスを行なっており、Link Boostは今後のBIOSアップデートで機能を無効化していくメーカーが多いと思われる。そのため、nForce 680i LT SLIで制限されたとは言え、ほとんど気にする必要はない。 SLI-Ready Memoryは、SPDを拡張したEPPというパラメータを持っており、対応マザーボードで自動的にSPD以外のパラメータで動作させられるほか、メモリメーカーが動作確認しているEPPに基づいた高速動作が可能になる。 nForce 680i SLIでは「最大1,200MHz」、nForce 680i LT SLIでは「最大800MHz」までのSLI-Ready Memoryに対応する。これは、EPPが動作クロック800MHzを超えるパラメータを持っていたとしても、nForce 680i LT SLIではEPPに基づいた動作をしないということになる。 この動作の違いを2種類のSLI-Ready Memoryを用いて紹介しておきたい。いずれもCORSAIR製のDDR2 SDRAMであるが、「CM2X1024-9136C5D」はEPPに1,100MHz(1,066MHz FSBのCore 2シリーズと組み合わせた場合は1,142MHz動作となる)の動作クロックが登録されているもの(写真1、画面3)で、「CM2X1024-6400C4D」はEPPに800MHzの動作クロックが登録されているものとなる(写真2、画面4)。 前者のメモリをnForce 680i SLI搭載マザーボードに装着してSLI-Ready Memoryを有効にすると、当然ながらEPPに登録された情報を利用して動作する(画面5、6)。ただし、このメモリのEPPは1,143MHz動作のプロファイルしか持っておらず、800MHzまでしかサポートしないnForce 680i LT SLIでは、SLI-Ready Memoryとして動作させることができなかった(画面7)。 一方、後者のメモリは、EPPに800MHzのパラメータが用意されているので、SLI-Ready Memoryとして動作した(画面8、9)。この場合、EPPにはSPDと同じ800MHz動作ながらも、レイテンシを抑えたパラメータが登録されているので、より高速な動作は可能だ。メモリアクセスの高速化には、動作クロックアップと低レイテンシという2つのアプローチがあるわけだが、nForce 680i LT SLIがSLI-Ready Memoryによって得られるのは低レイテンシ化のみに制限されることになる。 もちろんBIOSによっては手動オーバークロックの可能性は残される。しかし、メモリインターフェイスが高いクロックで動作できなかったものを弾いてnForce 680i LT SLIとして発売している可能性もあるので、このSLI-Ready Memoryのサポート範囲の違いは気に留めておいたほうがいい。
さて、以上はチップセットレベルでの機能の違いであるが、実際にNVIDIAが製造しているリファレンスマザーボードでは、さらに大きな違いが設けられている。今回試用するnForce 680i LT SLIマザーはXFXの「MB-N680-ILT9」(写真3、4)。比較に用意したnForce 680i SLIマザーはeVGAの「122-CK-NF68-AR」(写真5、6)で、いずれもNVIDIAのリファレンスに従って製品化したものである。nForce 680i LT SLIのリファレンスで変更された主な点は、以下の通りだ。 ・チップセットクーラーの変更 こうしてラインナップしてみると、チップセットの機能差に比べて、大きく仕様が変更されていることが分かる。 独自設計によって3本目のPCI Express x16スロットや、Gigabit Ethernetを2ポート用意するマザーボードも登場する可能性は高いと思うが、リファレンス品は複数社から同じ仕様の製品が出るケースが多く、チップセットの製品イメージを決める重要な要素となるだろう。そのため、チップセットが持つ機能より、かなり絞られた印象となるかも知れない。 ちなみに、表中で示したNVIDIAの参考価格はリファレンス品のものだ。SPPがどの程度の価格で出荷されるかは不明だが、もしnForce 680i SLIよりも明確に低い価格で出荷されることになるならば、nForce 680i LT SLIを搭載しつつ、nForce 680i SLI搭載製品並みの機能を持たせた、より安価なマザーボードも登場するかもしれない。 ●SLI-Ready Memoryの制限による性能差をチェックする このように、nForce 680i SLIとnForce 680i LT SLIはSLI-Ready Memoryのサポートの違いが唯一といってもいいほどである。そこで、このSLI-Ready Memoryのクロックの制限がパフォーマンスにどう影響するかをチェックしてみたい。高クロック動作が可能なメモリを利用できるnForce 680i SLIに対して、低レイテンシの定格クロックメモリでどこまで迫れるかがポイントということになる。 用意した環境は表2の通りだ。nForce 680i SLIではEPPによって1,142MHz動作が可能となるCM2X-9136C5D、nForce 680i LT SLIでは800MHz動作でCL=4の低レイテンシ動作が可能なCM2X1024-6400C4Dを組み合わせて利用する。画面3、4から分かる通り、両社ともSPDの値に同一のものが登録されているので、SPDに基づいた動作を行なった場合、メモリパラメータに差はない。なお、nForce 680iシリーズ全般との比較という意味で、Intel 975Xも加えている。
【表2】テスト環境
まずは、「PCMark05」のCPUテストの結果から紹介したい(グラフ1、2)。このテストは主にCPUに負担が集中するテストであるため、各結果とも大きなバラつきは見られない。EPPを有効にした場合は若干良いスコアが出る傾向は感じるものの、明確なものではなく、ほかのベンチマークを見ていく必要がありそうだ。
続いてはメモリ性能をチェックする、「Sandra XI SP1」のCache & Memory Benchmarkの結果だ(グラフ3)。各グラフともほぼ線が重なっており、とりあえずキャッシュ性能について大きな差が出ていないのは間違いない。 ただ、メインメモリについては、nForce 680iの結果が芳しくない。シングルチャネルで動作しているかと思うほどのスコアだが、ちょっと気になるポイントなので、PCMark05のMemoryテストの結果も併せてチェックしてみた結果がグラフ4である。こちらは、むしろnForce 680iシリーズの方が良好な結果を示している。実はこうした傾向はnForceシリーズで見られるもので、Sandraの計測方法に起因するものと思われる。
メモリレイテンシの測定に用いた「EVEREST Ultimate Edition 2006 Version3.5」のCache & Memory Benchmarkでは、SPD利用時についてはIntel 975Xが良好な結果を示している(グラフ5)。SPDに基づいた動作をさせた場合の比較で4~5ns程度の差が出ており、2.96GHz動作のCPUクロックから見れば14~15クロック前後のレイテンシとなってしまう。このあたり、IntelとNVIDIAのメモリ高速化技術の違いにより、シチュエーションに応じて得手不得手が発生しているのかも知れない。 今回の主題であるSLI-Ready Memoryに関していえば、PCMark05で1,142MHzのReadに極端が落ち込みが見られるのが気にかかる。PCMark05でも、EPP動作では両チップセットとも1,142MHz動作の方が遅い結果を出ている。そのほかは順調な結果に落ち着いてはいるものの、全般に見てnForce 680i両製品のメモリコントローラはやや動作が落ち着かない印象は残しているだろう。
続いては実際のアプリケーションを利用したベンチマークの結果を紹介したい。テストは、テストは「SYSmark 2004 Second Edition」(グラフ6)、「CineBench 9.5」(グラフ7)、「動画エンコードテスト」(グラフ8)だ。 まずチップセットの比較という意味合いでは、SPDに基づいた3製品の結果で若干のバラつきが発生しており、全般にIntel 975Xが良い結果を示す傾向にある。nForce 680i両製品はSLI-Ready Memoryが有効になっている状態で、ようやく対抗できる状況になるという印象だ。 テストにもよるが、SLI-Ready Memoryの効果は決して小さくないことが分かる。特に1,142MHz動作をさせた場合のスコアの伸びは大きく、nForce 680i SLIのアドバンテージがしっかり発揮されているといえるだろう。800MHz動作のまま低レイテンシ動作させたnForce 680i LT SLIのパフォーマンスは、テストによって1,142MHz動作に肉薄するシチュエーションがあるのは心強い結果といえる。
次は3D関連のテストだ。「3DMark06」の「CPU Test」(グラフ9)、「3DMark06」(グラフ10~12)、「3DMark05」(グラフ13)、「3DMark03」(グラフ14)、「Splinter Cell Chaos Theory」(グラフ15、16)、「F.E.A.R.」(グラフ17、18)の結果を掲載している。 Link Boostへのサポートを最初から無視している、という点でPCI Express周りに何らかの変化があるかも知れないと思って多めにテストを実施したが、若干nForce 680i LT SLIが良好な結果を出す傾向にはあるものの、誤差とも取れるスコア差であり、ほとんど変わっていないと見てよさそうだ。 F.E.A.R.ではスコアがかなりバラついているが、これも低解像度の条件でのみ見られるもので、ここまでのテスト結果から推測するにCPU-メモリ間のアクセスの不安定さに起因するものではないかと思われる。 最後に消費電力のテストである(グラフ19)。各チップセットともマザーボードが異なり、特にIntel 975X搭載マザーは製造メーカーからして異なるので、チップセットの消費電力の比較は難しい。 NVIDIAリファレンスマザー同士は構成チップなども似通っているので参考になるかと思うが、SPDに基づいた動作時同士の比較で、nForce 680i LT SLIが若干ながら低消費電力であることが分かる。 とはいえ、4~6W程度の差である。nForce 680i LT SLIのリファレンスマザーボードではチップセットファンが1つ増えた代わりに、Gigabit EthernetPHYやPOST LEDなど省略された実装パーツがあるなどの違いがある。ワットチェッカーによる誤差なども含めて勘案すれば、マザーボードの仕様によって簡単に入れ替わりそうな差である。この程度の差であればチップセットの消費電力には大きな違いがないと見て良いだろう。
●位置付けは中途半端だが魅力は小さくない製品 以上の通り、nForce 680i LT SLIのパフォーマンスを紹介してきた。まず、Intel 975Xとの比較でいえば、ややパフォーマンスでは劣る印象を残すものの、SLI-Ready Memoryによってカバーできる程度とはいえる。逆にいえば、このチップセットを利用するなら、SLI-Ready Memoryは必須だろう。 問題はnForce 680i SLIとの違いだ。NVIDIAが示す参考価格では50ドル(6,000円強)の差がある。こうしたオーバークロック向けとはっきり謳っている製品にとって、より高いメモリクロックでの動作を明確にした製品の方が受けは良いだろう。nForce 680i LT SLIは、その点、オーバークロック向け製品として登場してはいるものの、オーバークロックユーザーが積極的に導入していくかどうかは怪しい。 そうした点を考えると、NVIDIAはこのnForce 680i LT SLIで、PCI Express x16×2をサポートする“nForce 6シリーズでもっと普通のチップセット”という位置付けをものを用意したかったのではないだろうかと想像される。 nForce 680i SLIのオーバークロック耐性を必要とするユーザー層はそれほど多くない。しかしこれまでは、nForce 6シリーズでPCI Express x16×2のSLIを構築しようと思ったら、これを選択するしかない状況だ。この値段に不満ならば、nForce 590 SLIなどを選択することになるが、いつまでも旧製品のラインナップを製造するのはメーカーにとって好ましいことではなく、nForce 680i LT SLIという製品をラインナップして隙間を埋めたというわけである。 ユーザーにとっても、nForce 680iシリーズを利用したPCI Express x16×2のSLIを安価に構築できるようになる点でメリットはもたらされる。また、FSBは1,333MHzをサポートしており、nForce 680iシリーズが売りとするオーバークロック耐性に魅力を感じる人には悪くない選択肢だと思う。極限にはこだわらないライトなオーバークロックユーザーにとっては、nForce 680i SLIと同じアーキテクチャの本製品は価格面で有利だ。 気になるのは、リファレンスマザーボードは、3本目のPCI Express x16スロットを持たない点やGigabit Ethernetを1つしか持たないなど、チップセットの機能を有効に使っているとは言い難い構成だ。そのため、nForce 680i SLIの機能削減版というイメージを持たれてしまうと思う。しかし、今後、ほかのマザーボードメーカーがことなる仕様の製品を出してくれば評価が大きく化ける可能性もある。 □関連記事 (2007年4月2日) [Text by 多和田新也]
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