パナソニック(松下電器産業)が、Windows Vistaを搭載したLet'snoteシリーズ新製品を発表した。 新たな型番を与えられたR6に加え、W5およびT5には、CPUにCore Duoを搭載。従来からCore Duo搭載のY5は、クロックを強化し、Vistaでの快適な動作環境を提供できるようにした。 特に、R6は、Let'snoteの特徴である軽量、長時間の方向性を明確に打ち出した初代機となるR1の流れを汲む製品。Let'snote発売10周年を迎えている同社にとって、記念碑的な位置付けとなる。 2006年の段階から、「Rシリーズにおいては、10周年記念の決定版ともいえる製品を投入したい」と同社幹部が語っていただけに、今回の製品は、その意欲を結実させたものだといえよう。 具体的な仕様などについては他稿に譲るが、それだけの意欲を見せつけるスペックになっているのは明らかだ。
●ユーザーの利用現場に即した開発コンセプト 過去10年間の歴史の中で、Let'snoteは、いくつかの進化を遂げてきた。
'96年からスタートしたLet'snoteは、ノートPC事業に的を絞った製品開発を行なってきたものの、一時的に事業の縮小を余儀なくされていた。市場においては、松下電器の特徴を打ち出せずに第3位グループを抜け出せないままで、その存在感を発揮することができなかったからだ。 それが、2002年に投入したR1で一気に頭角を表す。“ビジネスモバイル”という領域にフォーカスし、重量960g、6時間連続駆動という軽量、長時間の徹底追求を図ったことが高い評価を得た。 2004年に投入したR3以降、軽量、長時間に加えて、「タフ」という要素を加えた。PCが入ったかばんを30cmの高さから落しても衝撃にも耐えうる構造を実現していたLet'snoteだが、さらにW4およびT4では、満員電車での振動圧迫に耐えうる耐100kgf級の堅牢構造を実現した。 今回の新製品では、タフの強化と、軽量/長時間の両立を進め、76cmという高さから落としても稼働する耐衝撃性を達成してみせた。76cmという高さは、机の位置。オフィスの机からPCが落下するという問題に対応したものである。 パナソニックAVCネットワークス社 ITプロダクツ事業部 高木俊幸事業部長は、「ユーザーが使用する現場に則した信頼性の確保が重要。Let'snoteが目指しているのは、単にスペック上の安心感を提供するだけではなく、ユーザーの利用環境において安心を提供することである」と語る。 ビジネスモバイルの利用環境からスペックを決めるというのがLet'snoteのモノづくりの原点といえるのだ。
●放熱設計と連続駆動時間に力注ぐ 今回の新製品で、最も苦心した点は、「放熱設計」と「連続駆動時間」だという。 Windows VistaおよびCore Duoの搭載によって、PCの性能バランスは一段階引き上げられている。 当然、放熱設計には工夫が求められ、既存製品レベルの連続駆動時間を維持するための改良が必要とされる。 「これまでの経験値からいえば、JEITA基準で8時間以上の連続駆動時間を達成できれば、ユーザーは安心して選択してくれる。ただし、R6の仕様で、デュアルコアながら8時間を維持するのは並大抵のことではなかった。液晶パネルをはじめ、1つ1つの部品の消費電力を下げることで、トータルでの電力消費を抑え、さらに、放熱設計も見直した。結果として8時間を達成できたが、まだまだ改善は必要だ」と高木事業部長は語る。 ●Vistaになって浮上する新たな課題 では、Windows Vista時代のLet'snoteは、どうなるのだろうか。 ユーザー企業においては、慎重な姿勢でWindows Vistaの導入を検討している。その点からも、ビジネスモバイルを標榜するLet'snoteにとって、Vista効果が本当の意味で発揮されるようになるのは、早くても2007年後半以降になるだろう。 また、Microsoftが打ち出すVistaのマーケティング戦略が、コンシューマ中心となっており、ビジネスシーンでのメリットが伝わりにくいという点でも、ビジネスモバイルに特化したLet'snoteには、やや不利と言わざるを得ない。 各種セキュリティ機能や、検索機能の強化というVistaの特徴は、むしろ、ビジネスシーンでこそ威力を発揮できるもの。この点をLet'snoteの事業推進の上でどう打ち出すことができるかが、Let'snoteのマーケティング戦略の上で、1つの鍵となるだろう。
そして、「R6の製品化で最も苦労した」と高木事業部長が語る消費電力の問題も、Vista時代のLet'snoteにおいては大きな課題だ。 Windows Vistaになったことで、求められるCPUはより高度化している。今回の新製品で、全モデルをCore Duoとしたのも、Vistaを快適に動作させるためである。 だが、トレードオフとして、長時間駆動を犠牲にしなくてはならない。 R6では、既存製品で達成していた10.5時間の連続駆動時間を、8時間にせざるを得なくなった。 「インテルとの協力関係を活かして、低消費電力の技術を開発。これを採用した。今後、Rを進化させる上で、改めて10時間以上の駆動時間を実現するには、最低でも1年は必要になるだろう。低消費電力化は、次のLet'snoteの進化に向けて、最も重点的に取り組んでいかなくてはならない部分」と高木事業本部長は語る。 これに対して、インテルのマーケティング本部 阿部剛士本部長は、「インテルは、低消費電力化において、パナソニックと協力関係にあるが、むしろパナソニックに教えていただくことの方が多い。これからも両社の関係は、より緊密になるだろう。2007年には、新たなモバイルプラットフォームとして“Santa Rosa”が発表される。ここでもパナソニックとの協業の成果が活かされることになるだろう」としており、次世代の低消費電力技術の開発についても、両社の協力関係を強めていく姿勢を見せている。 ●ワイドスクリーン化への対応は? そして、もう1つの課題がワイドスクリーン化だろう。 Windowsサイドバーの採用など、Vistaはワイドスクリーンに最適化した仕様となっている。 では、これまで、国内のビジネスユーザーの希望を反映して、4:3のスクリーンにこだわってきたLet'snoteはどうなるのか。 高木事業部長は、「12.1型や10.4型という液晶サイズでは、ワイドスクリーン化した際の文字の見やすさの問題や、縦方向が小さくなるといった問題、重量増加の問題もあって、すぐにやることは考えていない」と断言する。つまり、W5やT5、R6の次期製品では、ワイドスクリーン化の計画はないといっていい。 では、14.1型液晶を採用しているY5ではどうか。 高木事業部長は次のように語る。 「もし、ワイドスクリーン化を検討するならば、14.1型液晶搭載モデルということになるだろう。国内というよりも、海外向けモデルで検討してみることも必要だと考えている。だが、これも具体的な話が進んでいるわけではない」。 Vistaの登場によって、主要PCメーカー各社は、ワイドスクリーン搭載の企業向けモデルのラインアップ強化に乗り出している。この波が大きくなれば、当然、パナソニックのワイドスクリーンの搭載を前向きに検討しなくてはならないだろう。 「いま、ユーザー企業の話を聞くと、ワイドスクリーンが欲しいというケースは極めて少ない。すぐにワイドスクリーン搭載モデルを投入する必要はないと考えている」として、具体的な製品企画はないものの、いつでも参入できる準備は怠ってはいないようだ。 ●生産体制の強化でトップシェア維持へ
パナソニックは、2006年の国内モバイルノート分野において、22%のシェアに到達するとの見通しを示した。 この分野におけるトップシェアとなり、'96年にLet'snoteの投入時点で掲げた「トップシェア獲得」の夢を実現したことになる。 だが、手綱を緩めるつもりはない。NEC、ソニーなどがこの分野に戦略的製品を投入してきたが、同社では、さらにシェアを引き上げる姿勢を見せている。 それを下支えする準備にも余念がない。 Let'snoteの生産拠点である神戸工場において、すでに増産体制に向けた準備が進めてられているからだ。 まだ公式な発表はないが、2007年3月には、生産棟にあった部品倉庫を、敷地内に新たに設置する部品倉庫に移転。生産棟にできた空きスペースを活用するとともに、生産体制の効率化によって、現在70万台といわれる生産能力を、年間100万台を超える生産体制へと拡大する計画なのだ。 これらによって、国内戦略の加速とともに、海外における需要拡大戦略も推進されることになるだろう。 もはや、ビジネスモバイルは、ニッチと言われる領域を抜け出ようとしている。Let'snoteの拡大戦略は、Vista時代になって、さらに加速することになりそうだ。
□パナソニックのホームページ (2007年1月25日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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