今回は、日本HPの小型PDA「iPAQ rx4240 Mobile Media Companion」(以下rx4240)である。以前紹介した「rx3115」と同じく、HPの個人向けのPDAで、Windows Mobile 5.0を採用し、メディア再生を重視している。この機種は、直販サイト「HP Directplus」専用のモデルで、直販価格は32,550円だった。 ●派手ではないがちゃんとデザインされた筐体 筐体自体はプラスチックだが、全体が銀色、側面の一部が銅色である。光沢はあるものの、金属感は弱く、プラモデル用塗料のシルバーやカッパーという印象である(さらに細かく言えばレベルカラーの感じ)。全体に丸みを帯びた矩形だが、上と右側の銅色の部分は、切り落としたようになっていて、軽くへこむようなカーブが付いている。あまり派手ではないが、ちゃんとデザインしましたという感じはある。PDAというよりは、MP3プレーヤーなどに近いデザインだ。 サイズは、102×17.×63.5mm(幅×奥行き×高さ)。名刺やクレジットカードよりは少し大きく、2.5インチのHDDを2つ重ねたぐらいのサイズである。PDAとしては小さな方になるだろう。持った感じは、厚めの定期入れ程度。重量は、バッテリ込みで127g。シャツのポケットに入れても問題ない重さである。 本体正面にはボタン類はなく、すべて本体側面にまとめられている。ボタンは、全部で5つ(電源ボタンを除く)で、このうち右側面の4つが、長押しを区別でき、2つの機能を割り当てることができる。残り1つは、本体上部にあり、デフォルトで録音ボタンになっているが、このキーだけは長押しを区別できない。また、Windows Mobile 5.0でPocket PCに導入されたソフトキーがないが、上記5つのボタンに割り当てることは可能である。 また、本体右上の角の丸くなっている部分にジョグダイヤル(HPの正式な呼び方はスクロールホイール)を装備している。これは、通常のWindows Mobile 5.0機の上下カーソルキーと実行キーの役割を果たすもの。 ロゴの印刷などからみると横型だが、画面は縦横表示を切り替えて利用することができる。ジョグダイヤルも角にあるため、どちら向きでも使うことができる。 スタイラスは、本体左下側に格納されており、縦に持ったときに下向きとなってしまう。軽く本体に引っかかるようになってはいるが、少し不安である。また、横向き表示の場合は、利き手と反対側になり、取り出しにちょっと不便。 ジョグダイヤルは、回転させると、しっかりとしたクリック感があり、使い心地は悪くない。押し込むと実行ボタンとなるが、少し固く感じることがある。これは、押し込み軸の方向が本体に対して垂直ではなく、本体の短辺の側に少し寄っているからだ。横向きに持ったときには、ダイヤルの上側から押さえてそのまま下に押し込む感じで、縦向きの場合には、下半分を押さえてそのままHPロゴの方向に押すといいようだ。 なお、ジョグダイヤルで、操作できるのは上下カーソルキー(スクロールキー)と実行のみなので、なるべく画面タッチを使わないように操作するためには、デフォルトのボタン設定をある程度カスタマイズする必要がある。
●ハードウェア
詳しいスペックなどは、日本HPのWebサイトを見ていただくことにして、概要だけ述べておこう。CPUは、400MHzのARM9コア(SamsungのSC32442)で、フラッシュメモリが128MB、RAM 64MB。IEEE 802.11b/g無線LANとBluetooth 2.0+EDRを装備している。また、SDカードスロット(SDIO対応)も持つ。液晶は2.8型のQVGA(320×240ドット)で透過形のTFTである。透過形なので、バックライトOFFにはならないが、明るさの調整が21段階もある。光源は、LEDのようだ。さすがに直射日光に直接照らされると表示がほとんど見えないが、そうでなければ、バックライト輝度を上げれば、屋外でも視認は可能だ。 駆動時間は、非通信時で最大11時間。音楽再生などには十分な時間。試しに無線LANをONにし自宅のアクセスポイントと接続、Skypeを待ち受け状態として、ときどき予定などを見るといった使い方をしてみた(実際には、操作したのは合計で5分以下)。オートパワーOFFはもちろん切ってある。1回限りの結果だが、4時間ほど利用できた。PDAとしては普通だが、コミュニケーション端末として、待ち受けなんかをするには少し短い感じである。前回紹介したソニーの「mylo」だと、同じような条件で8時間動作した。これぐらいの長さがあると、待ち受け用にスタンバイ状態のまま、Skypeの着信待ちに十分利用できるのだが、もう一息というところだ。 液晶の解像度がQVGAということもあって、体感速度はそれほど遅くない。実質の処理速度もそんなに遅くなく、付属のPhotosmart Mobileでは、デジカメで撮影した500万画素程度のJPEGファイルを表示させても、数秒以内に表示が行なわれる。また、拡大縮小もほとんと待ち時間なしで行なわれる。JPEGからのデコードと表示用のリサイズ処理を行なってこの程度の時間なので、実用上十分な速度はあると思われる。 ●ソフトウェア 搭載しているOSは、Windows Mobile 5.0 software for Pocket PCで、MSFP(Messaging and Security Feature Pack)が組み込まれている。これは、Exchange Serverと組み合わせてサーバー側に着信したメールをリアルタイムに受信(ただし、パケット通信などで常時接続されている必要がある)する機能である。まあ、個人で使う分にはほとんど関係ない機能ではある。バージョンは、最新の日本語版Windows Mobile 5.0(OS 5.1.195 build 14989.2.6.0)だ。 標準的なWindows Mobile 5.0のソフトウェアに加えて、HP独自のソフトウェア(ROM内蔵および付属CDからのインストール)が追加されている。 最初からROMに組み込まれている独自ソフトとしては、メニューソフトの「QuickLaunch」、無線ユーティリティ「iPAQ Wireless」、画像ファイルビューアー「Photosmart Mobile」、オンラインマニュアル「HPヘルプとサポート」があり、付属CDには、Bluetoothユーティリティの「BT PhoneManager」がある。また、サウンド機能が強化されており、本体側の設定として5バンドのイコライザや3Dサウンド機能ON/OFFなどが行なえる。 ただ、付属ツールは、かなりオマケ感が強い。Windows Mobile標準の画像表示ツールである「画像とカメラ」に比べればPhotosmart Mobileはかなりまともだが、メニューソフトであるQuickLaunchは、ユーザーがアプリケーションをメニューに登録することもできない。また、BT PhoneManagerは、筆者の持っている携帯電話(旧ボーダフォンの702NK)では、ネットワークキャリアの設定を何回も要求し、Bluetoothで接続することができなかった。 ただし、Windows Mobileが標準で持っているBluetooth機能やiPAQ Wirelessによる設定などは可能で、Bluetooth機能は問題なく利用できる。このソフトは、付属のCDからインストールするものなのだが、ソフトを最新状態に保つためのLive Update機能も、うまく動いてくれない。以前使っていた同じrxシリーズであるrx3115は付属していたバックアップソフト(Sprite BackupのOEM版)の出来がよく、iPAQシリーズの独自ソフトには、いい印象を持っていたのだが、この機種は独自ソフトという点では少しがっかりした。
●シンプルで小型化に徹したハードウェア
というわけで、お約束の分解である。本体は、バッテリケース内にある5本のねじで固定されている。うち1つは保証シールの下なので分解するともう保証は受けられない。また、目隠し板の下にスピーカー接続コネクタがあり、これをあらかじめ外しておく必要がある。 筐体の液晶側とバッテリ側および銅色の側面部分の3つのプラスチック部品がハメ合わせてある。ねじを外したあと、バッテリ側の筐体をUSBコネクタ側にスライドさせて外す。こちら側ははめ込みではないので無理に割ろうとしないこと。 中身はバッテリ、プリント基板、液晶という3層構造。ただし、プリント基板は、SDカードスロット部分が切り抜いてあり、実質の面積はかなり小さい。SDカードスロット部分を切り抜いてあるのは厚さを押さえるためだと思われる。 また、部品は、ほとんどプリント基板の液晶側にまとまっており、バッテリ側は、コネクタやスイッチ類などかさばる部品が大半。構造的には、バッテリがプリント基板とシール1枚を挟んで重なり、その外側にスイッチやコネクタが並ぶという構造。このようにして、厚みをできるだけ押さえている。側面にスイッチを集中させているのは、こういう構造だからだ。 CPUのSC32442は、ARM9コアで、フラッシュメモリとDRAMをフリップチップとしてパッケージに組み込んである。CPUとメモリが1つのパッケージになるため、プリント基板が小さくなっているわけだ。あとは、無線LAN/Bluetoothモジュール、電源管理、USBコントローラ、オーディオチップなどだ。部品配置や回路など全体として、筐体をコンパクトに、薄くするような設計がなされている。このサイズも設計時の優先的な要素であったことがうかがわれる。 無線LAN/Bluetoothは、SyChipの「6101」というもの。同社のサイトに情報はないものの、シールド板を取ると、中にMarvellのベースバンドプロセッサ、RFトランシーバデバイスがある。ちなみにSyChipは、SDIOの無線LANデバイスなどで有名だが、2006年4月に日本の村田製作所の子会社になっている。写真では、無線LAN/Bluetoothモジュールのシールド板が外れているが、はんだ付けされていて普通は取ることができないものなので、外さないほうが無難だ。 USB 2.0をサポートするためか、PLX TechnologyのUSBコントローラ「NET2272」が搭載されている。NET2272は、Hi-Speed(480Mbps)をサポートする周辺機器用のUSBインターフェイスデバイス。物理層(PHY)を内蔵しているため、USB 2.0を実現するためのフットプリントを小さくできる。このデバイス自体も6mm四方と非常に小さい。 サウンドデバイスは、PDAでは、毎回おなじみのWolfson Microelectronicsのもので、アナログオーディオの入出力が可能なCODECデバイスWM8983G。入力はモノラルだが、出力はステレオである。なお、iPAQオーディオ機能で設定している5バンドイコライザや3Dサウンドは、このデバイスの機能だ。メディア再生を重視しているようなので、この程度の差別化は必要だろう。 プリント基板上には、メモリ増設用と思われるパターンがあった。上位機種のrx4540は、同じ筐体、CPUでありながら、追加で1GBのフラッシュメモリを搭載しているので、プリント基板を共用しているのだろう。
●コンパクトで携帯性は高い 個人向けのエントリーレベルのPDAだが、意外に使い勝手は悪くない。ボタンをカスタマイズすると、ジョグダイヤルと合わせて、片手でかなり操作できるようになる。予定やメールを見たり、音楽を聴くなんて使い方なら問題はないだろう。 また、Bluetoothがあるので携帯電話と組み合わせて、通信できるのは当然として、連絡先の電話番号を使ってダイヤルすることもできる(通話は携帯電話で行なう)。 性能的にはエントリーレベルであり、高性能なものを求めるユーザーには満足できない点もあるだろう。しかし、rx4240は、持ち運びに苦にならないサイズ、ジョグダイヤルでの簡単な操作などで、比較的外出中に使い勝手のいいPDAだ。また、ファイル保存容量の不足は安価になったSDカードでなんとかまかなえる。無線LANもBluetoothも内蔵しているこのrx4240では、SDカードスロットをほかのI/Oデバイスなどに使う必要がないからだ。電話機とPDAが合体したスマートフォンもいいが、こういう組み合わせも悪くない。 日本HPのホームページ (2007年1月11日) [Text by 塩田紳二]
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