第361回
2007年、業界への期待



一般/個人向けリリース間近のWindows Vista

 2005年末に「2006年は“モバイルPCベンダーの意気を感じる年”に」と題してコラムを書いた。Windows Vistaなどは、結局、コンシューマ向けリリースが2007年に延びてしまったのだが、しかしPCベンダーがIntelの新プロセッサやWindowsのバージョンに依存しない、独自性の高いPC作りに取り組んできているな、という実感は感じられるようになってきた。

 結果だけを見ればWindows Vistaのリリース延期や、Vistaに合わせて提供されるMedia Centerの仕様変更(結局、日本のデジタル放送への対応はVistaの初期版には提供されなくなったことが大きい)など、メーカー側では制御不可能な事象により、新型PCの開発への影響もあったが、各社とも「Vistaさえ出てくれれば」の思いがある。

 その片鱗は1月30日のコンシューマ向けWindows Vista発売とともに発表されるだろう、いくつかの新製品で垣間見ることができるはずだ。Vistaの出荷で幕を開ける2007年のPC業界は、その後どんな動きがあるのだろうか。こりもせず、2007年に向けてのいくつか気になっているテーマについて記しておきたい。

●“プロセッサ・ブランド”に対する見方の変化

 デスクトップPC向けプロセッサの視点で見れば、Intelが製品の機能と性能で巻き返しを図った1年と言えるだろうが、モバイル向けプロセッサという視点で見るとIntelは以前のPentium Mから盤石の地位を築いており、2006年はその足場をさらに固めた年となった。

2006年のCESで紹介されたYonah(左)とMerom(右)

 特にCore Duoに関しては、改良型Dothanをデュアルコア化したものといった、実に簡略化されたイメージが持たれていたものの、実際に登場した製品を見ると、その後のCore 2 DuoよりもCore Duoの方が、より実質的なメリットをもたらしたように思う。Core 2 Duoのアーキテクチャは大変に素晴らしいものだが、単純にコアの数が2倍となり、その上電力効率も上がったCore Duoのインパクトには及ばなかった。

 Intel幹部のムーリー・エデン氏に話を聞いたとき「Merom(Core 2 Duo)はすごく良くできたアイディアの固まりのようなプロセッサだけど、ユーザーが得られる性能という意味ではYonah(Core Duo)の方がインパクトは大きいと思うよ」と言っていたのを思い出した。そのときは、先に出るYonahの印象を悪くしないためのコメントかなという印象を受けていたのだが、実際には“本音”だったのだろう。

 こうした印象は、消費者も有形/無形のかたちで感じていたのかもしれない。たとえばアップル広報によると、2006年年末商戦におけるCore 2 Duo搭載ノートPCの販売でMacBookが40%近いシェアを獲得したという。

 Vista発売前であることや、Core 2 Duo搭載機としては最廉価クラスで全モデルがCore 2 Duoで統一されているMacBookゆえの数値とも言えるが、一方でCore Duoでも十分に高性能という意識が、販売店、メーカー、消費者に少しずつあったのだろう。プロセッサのブランドを気にするユーザー層、特に消費電力を気にするモバイルPCのユーザーが、店頭よりもWebでの販売を好むという傾向にも後押しされている面はある。

 このように振り返ってみると、Intelはモバイル市場での足場を固めたものの、プロセッサブランドに対する消費者側の見方は、やや冷めてきているのかもしれない。Core 2 Duoへの移行も、Vista登場を契機に加速していくだろう。

 しかし、プロセッサ・ブランドとモバイルPCの距離が拡がることは、IntelやAMDなどプロセッサベンダーにとってもマイナスではないと思う。ノートPCの中でも付加価値の高い、軽量/長時間バッテリ駆動型のPCは、プロセッサのブランドを離れ、各社製品各々が製品トータルの魅力を訴えかけ、ブランドとしての構築を行なっていった方が、製品として工夫が進み、発展が望めるからだ。

 2007年は中に使っている主要部品のスペックにこだわるのではなく、製品として使いやすいものであればいい、という時代に少しずつ移り変わっていくのではないだろうか。それこそがPCという製品が改善する道ではないかと思う。

●異業種間の相互理解

 2006年前半から取材、記事の執筆といった仕事とは別に、ことあるごとにいろいろな人と話をしてきた個人的なテーマがある。それが異業種間の相互理解を深めることだ。

2006年1月に登場した、Viivのロゴ

 たとえば2006年1月にIntelがViivを発表したが、Viivに対する家電業界、それにコンテンツ業界の反応は冷ややかなものだった。日本はともかく、家庭内でPCを使うことへの抵抗感が少ないと想像していた米国では、Viivという切り口に対して、それなりに大きな反応があるだろうと思っていた。

 ところがCESでの発表後、毎年訪ねているハリウッド映画スタジオの技術動向担当や新規事業開発担当たちに訪ねても、ほとんどの人が興味を持っていない、あるいは話題にもなっていないという状況だった。

 映像や音楽などの流通が、放送と光ディスクの組み合わせから、ネットワークへと変化していくというシナリオは、'90年代後半から継続的に唱えられてきたものの、比較的軽い音楽に関してはともかく、動画配信はまだまだ混迷を極めている。ストリーム配信とレンタル型、ダウンロード販売型などは分けて考える必要があるが、その前に業界内での相互理解が必要だろう。

 Viivに関して言えば、提案そのものの甘さがあったことは否めないが、DLNAなどの相互接続規格も含めて、プレーヤー全員が他業種への理解ができていないことに、この分野の歩みの遅さの原因があるように思う。

 PC業界も家電業界も、放送局もポータルサイトも、目指している環境は同じだ。ユーザーに対するアプローチのベクトルが異なるだけで目的地は同じといえる。目的地が同じならば、もっと協力関係を築くことができると思うのは筆者だけだろうか。

 各業界のキーマンに話を聞いてみると、争うよりも協力できる事柄の方が現在は多いように思える。デジタル放送コンテンツのコピー運用に関しての協議や提案に関しては、もっと各業界で協力できるところもあるだろう。

 ところが家電業界はPC業界の企業に対して根強い不信感があり、その逆もまたある。同じテーブルの席に着いても、実際の決断や協議以外の場では反目し合う場合もあるというのは残念だ。

 まずはエンドユーザーに娯楽や利便性を提供する環境を整え、その後、同じ土俵の上で消費者の興味を引く競争をすればいい。環境を整える段階からイニシアティブの取り合いしているようでは、ユーザーだけでなく業界を構成する各企業にとっても不利益だ。

 この点では、各企業のアライアンス担当者たちの意見は一致している。あとは“同じ言葉”で話せる場と信頼関係の構築ができれば、話は一気に進むかもしれない。これは予想ではなく希望だが、ぜひとも2007年は異業種間での相互理解が深まる年になってほしいものだ。

●“セキュリティ”対策への回答を期待

 最後に2007年、モバイルPCベンダーに期待することについて書いておきたい。

 2006年は高性能なプロセッサが登場し、ノートPCへの指紋認証機能やFeliCaポートなど認証デバイスの搭載が当たり前になった。従来からセキュリティ機能の搭載に積極的だったベンダーはもちろん、企業向けにPCを売り込むほとんどのメーカーが、何らかの認証デバイスとそれに対応するソリューションを提供しようと試みた。

 PCを介した情報漏洩などのセキュリティハザードに対して、企業が“モバイルコンピューティング”という利用スタイルに“ノー”を突きつけ始めたからだ。しかし情報をHDDに詰め込み、PCとして持ち歩くこと。あるいはPCを使って外部から社内情報にアクセスすることによる利便性よりも、それによるリスクを避けるユーザーの指向を変えるには至っていない。

 このことはコンシューマユーザーにも少なからず影響を与える。企業がモバイルコンピューティングにノーを突きつけ続ければ、いずれは小型軽量なPCの開発に対してブレーキがかかる。あるいは開発のペースが落ちたり、本来は生まれるハズだった新しいアイディアがメーカーの中で死蔵してしまう。個人ユーザーも、その影響からは逃れられない。

BitLocker

 この点に関してはWindows Vistaと、Vistaを取り巻くセキュリティ製品(認証デバイスやソフトウェア)に期待したい。ご存知のようにVistaを使えば、HDD全体を暗号化する「BitLocker」が利用可能になる。

 BitLockerがもっとも理想的に動作する環境は、TPMチップ(セキュリティチップ)とBitLockerに対応したセキュアなBIOSが必要だが、その準備は既に整っている。TPMチップが搭載されている場合、マスターブートレコードなどのローレベルなシステムファイルから生成した暗号鍵と、HDD個別に生成される暗号鍵をチップ内に保管。オペレーティングシステム、ページファイル、ハイバネーション用ファイル、など、あらゆる情報が暗号化される。

 ただし、BitLockerそのものがいくら強力な機能であったとしても、鍵を解除する認証部分のセキュリティが弱ければ意味がない。PCベンダー、セキュリティベンダーが協力して、業界を挙げてこの機能を本当に有益なものとしていけるかどうか。

 必要な道具は揃った。あとは、いかに企業ユーザーに使ってもらえるよう、使い物になるソリューションに仕上げていくか。Microsoftだけでなく、PCベンダー自身の取り組みに注目したい。

□関連記事
【2006年11月22日】マイクロソフト、Vistaの数々の新機能を総括
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1122/ms.htm
【2006年2月23日】【本田】Viivはチッチキチー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0223/mobile326.htm
【2006年8月7日】「Windows Vistaは史上最強のセキュリティを実現」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0807/ms.htm
【2005年12月27日】【本田】2006年は“モバイルPCベンダーの意気を感じる年”に
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1227/mobile319.htm

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(2007年1月5日)

[Text by 本田雅一]


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