第362回
VAIOのWindows Vista対応が目指すもの



VistaではMedia Center機能を利用

 ソニーの「VAIO」シリーズがWindows Vistaに合わせてフルモデルチェンジを果たした。丸形デザインのリビングPCなど、ハードウェア面にも注目が集まっているが、個人的に興味深く感じたのが、それまで採用してこなかったWindows Media Centerへの対応だ。

 Windows VistaではMedia CenterがHome PremiumあるいはUltimate Editionに添付されていることもあり、ソニーに限らず独自ソフトからMedia Centerへの切り替えを試みるメーカーが少なくない。

 そう考えれば“既定路線”とも言えるが、“独自のAV機能にこだわり続けてきたソニーのVAIO開発部隊がMCEを使う”インパクトは小さなモノではない(ソニーは以前から、日本以外ではWindows XP Media Center Edition搭載PCを発売していたので不思議ではないが)。

 新VAIOのAV機能に関して商品企画や開発に携わったメンバーからの話を交えながら、そのコンセプトなどについて掘り下げてみたい。

 また今回のVAIOを見てみると、Windows VistaのMedia Centerに存在する問題点についても、朧気ながらに透けて見えてくる部分がある。

●Windows Media Center内のVAIO新機能

Media Centerの右隅にVAIOの文字

 VAIOがMedia Centerを使う。このことは自動的に「Do VAIOを捨てる」ことも意味する。ご存知の通り、Do VAIOはVAIO第2章として大々的に立ち上げた時にフィーチャーされた機能で、VAIOが持つAV機能を統合し、リモコンだけで快適にPCからリーチできるメディアを操るためのソフトウェアだ。

 しかし、そのDo VAIOはユーザーインターフェイスの面でやや中途半端という指摘も少なくなかった。一通りの操作は全てリモコンで行なえるものの、細かな設定は通常のダイアログボックスで行なわなければならない。キーボードが必要というのは仕方がないにしても、急に小さな文字のダイアログが現れることはなかろう、と当時思ったものだ。

 継続的にDo VAIOの進歩を見ていたわけではないが、当時と今とで大幅に変化したかと言えば、そうは思えない。加えてデジタル放送対応では、他社製チューナカードとソフトウェアに依存するなど、Do VAIOですべてが完結できていなかったという点でも物足りなかった(ただしデジタル放送対応という面は、新しいソリューションでもある事情により未解決。その事情については後述する)。

 「まずMedia CenterがWindows Vistaにおいてある程度以上の版に標準搭載されていることが事実としてあります。その上でDo VAIOが提供していた機能の範囲を、かなりの部分でMedia Centerがカバーしているため、VAIOでもMedia Centerをユーザーインターフェイスの中心とし、そこにAVコンテンツをよりVAIO的に楽しめるようアレンジを加えるというアプローチを取りました。具体的にはMedia CenterのメニューにVAIOカテゴリを作り、その中からさまざまな切り口でコンテンツにアプローチできます」(ソニー VAIO事業部門 企画部 小沢賢二氏)

 では“さまざまな切り口”とは何か?

 従来、VAIOでは独自のソフトウェアにより、ユーザーインターフェイスや再生時のコントロールといった部分などでソニーなりの味付けを加えていた。しかし、こうした部分をあえてMedia Centerに明け渡し、その一方でコンテンツの中身を分析したり、あるいは多数のコンテンツが保存されている中から適切なものを抽出するといった、よりインテリジェントな機能に、他社との差別化の力点を置くようになった。

 その象徴が録画番組からのメタ情報抽出だ。Media Centerに組み込まれたVAIOプラグインは、そのバックグラウンドで動作するメタ情報抽出ソフトウェアが作ったデータベースをもとに、手早く好みの録画番組にアクセスできる。

CM抽出はカテゴリごとに行なわれ、ビデオクリップのように再生できる

 たとえばそれは、CM位置の判別だったりするのだが、今回のソフトウェアではさらに踏み込んで、各CM 1個づつを切り出せるようになっており、さらに各CMがどんなCMなのかを判別。その商品のWebページにアクセスしたり、BGMとして使われている音楽の情報を取り出したり、さらには出演しているタレントや俳優名などを参照できる。

 こうした、単純に番組表データを引っ張り出すだけでは不可能な情報を、TV録画に付随して分析、抽出してメタ情報として付与するというのは、なかなか面白いアプローチではないだろうか。

●PCならではの良さを活かすVAIO Video Explorer

 上記ではCMの例を挙げたが、もちろん、録画番組の分析はCMだけを抽出するだけに留まらない。

VAIO Video Explorer

 可能な限りのメタ情報をコンテンツから抽出し、10フィートユーザーインターフェイスにおけるイージーなコンテンツアクセスへと繋げるのがVAIO独自のMedia Center拡張プラグインならば、同じ情報を多視点でブラウズしながら、より深い情報へと掘り下げていくために開発されたのが「VAIO Video Explorer」である。

 「簡単に言えば、VAIO Video Explorerは10フィートではなく、目の前にスクリーンがある2フィートユーザーインターフェイスで、より深くTVを楽しんでもらおうというコンセプトで生まれたソフトウェアです。リモコンだけでコンテンツを見るのであれば、専用のレコーダがあれば十分という考えもあります。ではなぜPCを使う必要があるのか? と言えば、コンテンツ解析を行なえるCPUパワーとともに、マウスを駆使した高解像度ディスプレイ上での使いこなしに(家電製品との)差別化のポイントがあると考えたのです」(小沢氏)

 2フィート、10フィート。両ユーザーインターフェイスともに、録画されている動画の中からCM抽出、テロップ抽出、それにダイジェスト分析という3つの切り口でのメタ情報追加が用意されている。

 テロップ再生は、TV番組中でテロップが流れている場面を識別。そのテロップ部分だけをサムネイル表示し、ニュース番組やバラエティ番組など、テロップが多用されるコンテンツの視聴を助ける。ダイジェスト再生は、一部のレコーダにも採用されており、こちらはお馴染みの機能だ。

 また意外に興味深く使えたのがCM抽出。その内容は前述した通りだが、CMに使われている楽曲の名前やアーティストなどを知ることが可能という面以外にも、自分が録画している番組をスポンサーしている企業の傾向を、企業名、業種別の本数などから読み取れる。また、興味のある分野のCMだけを選択的に見るといったことも可能だ。

 HDDへの録画では、飛ばし見されることが多いCMだが、それをエンターテイメントの一部にしてしまう発想は面白い。CMは従来“強制的に見せられる”映像だったが、この手法ならば“見たい情報だけを取り出せる映像カタログ”にできる。

 さらにVAIO Video Explorerでは録画番組ごとのメタ情報から、関連する情報を引くこともできる。関連するあるいは類似するインターネット上の動画配信サイトへのリンクが自動的に張られるのである。

 「今後もメタ情報の抽出にさまざまな形で取り組んでいきたいですね。メタ情報の活用を進めれば、忙しくTVを見る時間のない人が、もっと手軽に目的のコンテンツに出会え、しかも短時間で内容を把握できます」(小沢氏)

●今後の課題

Xビデオステーション

 ただし、まだまだ課題もある。たとえばVAIO Xビデオステーションとの連携だ。DLNAサーバとして映像配信を行なうことは可能だが、XビデオステーションのコンテンツをVAIOで分析することはできない。「やろうという意志はある」というが、ネットワーク上にあるコンテンツに、PCならではの分析能力を適用するには、ネットワーク帯域などさまざまな問題がある。

 ただし、最終的にはVAIO側からアクセス可能な、すべてのデジタルコンテンツに対してメタ情報抽出の分析を行なうという、開発の方向性は見えているということなので、今後の開発に期待したいところだ。

 さらにデジタル放送への対応も課題の1つだ。デジタル放送のダイジェスト再生は、専用のレコーダでは行なっている製品があるものの、VAIOでは行なえていない。現世代のVAIOでも、相変わらず内蔵デジタル放送チューナとソフトウェアはピクセラから供給を受けており、これを解決していかなければならない。

 ソニー自身は語らないが、おそらくデジタル放送に関してはMedia Center側の対応遅れが、現在の中途半端な状況を生み出しているとも言える。Media Centerのデジタル放送対応は、Vistaのタイミングで検討されていたものの、さまざまな事情により仕様から外れてしまった。では、Microsoftが対応するまでの間を、どのようにつないでいくのか?

 またソニーグループ内の製品との整合性なども、今後は意識していかなければならないだろう。たとえば抽出したメタデータを、HDDレコーダ「スゴ録」でも共有したり、テロップ再生の情報をPSPやPS3、あるいはロケーションフリークライアントからも活用できるようにするなど、VAIO部隊だけに留まらない広がりを作っていけないだろうか。

 デジタル放送対応に関しては、VAIOの開発チームだけでは対応できない面もあろうが、それ以外に関しては継続的に取り組んでいけば解決できるテーマだろう。しかし、その場合、今回の新機種を購入するユーザーは、その恩恵を被ることができるのだろうか? 大幅なアップデートはともかくとして、メタ情報抽出の切り口や精度を高めるといったことはできそうだ。「アップデートは継続して提供していく」という言葉を信じるなら、バグフィックスだけではない進化に期待できるのかもしれない。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
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【1月16日】ソニー、HDMIを搭載した円形デスクトップPC「VGX-TP1」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0116/sony1.htm
【1月17日】VAIO新展開。PC録画対応地デジチューナなどをチェック(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070117/sony.htm
【2006年3月14日】【笠原】Xビデオステーションから見える“PCと家電の融合”の姿
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0314/ubiq149.htm

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(2007年1月24日)

[Text by 本田雅一]


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