GUIで操作するパソコンにポインティングデバイスは欠かせない。それでも、モバイル用途のパソコンでは、モビリティのために操作性が犠牲になってきた。好みにもよるが、スライドパッドやスティックなどのデバイスは、マウスよりも操作性がよくないと感じることが多いからだ。 ●ノートPCはマウスがあればもっと使いやすくなる モビリティの条件として、軽薄短小に加え、「強」「長」が挙げられるようになってきている。「強」はもちろん堅牢で丈夫であること、「長」はバッテリで長時間運用できることだ。松下のLet'snoteなどは、まさに、ここにフォーカスして作られている製品だといえる。 個人的には、これらの要素にさらに加え、立ったままで操作できることを重要視するようになってきている。都市生活における移動では、座席を確保できることはそれほど多くはない。満員電車までとはいかなくても、平日の昼間に地下鉄に乗ったとしても、座席を確保できない場合がある。また、移動先への途上、受付の前でミーティングの場所や、訪問先相手の正確なセクション名、内線電話番号などを調べたいときもある。さらには、地下鉄を待つ列に並び、ちょっとした合間にホームで何かをする場合も立ったままだ。そういう場所で、立ったままパソコンを開いて操作する際に、いかにその操作性を確保するかは重要な課題だ。 そうはいっても、文字通り、腰をすえてノートPCを使う場合は、限りなく普段のデスクトップPCに相似した環境がほしくなる。机上にスペースがあるなら、やっぱり、マウスを使いたくなるわけだ。 最近になって相次いで登場したモビリティ指向のマウス2製品を試す機会があったので、ここで紹介しておこう。 1つは、ロジクールの「VX Revolution」、もう1つは、マイクロソフトの「ワイヤレス ノートブック プレゼンター マウス 8000」だ。 双方ともに、ワイヤレスのモバイルマウスで、携帯性を重視した作りになっている。単4電池で利用でき、使わないときには電源をOFFにすることができる。デスクトップ用のマウスを携帯してもいいのだが、大きさはともかく、電源スイッチがついていないことが多く、いざ使おうとするとバッテリが空になっているというのを何度も経験しているので、電源スイッチは必須だ。 ●スルスルとクルクルを自在に切り替え ロジクールのVX Revolutionは、2.4GHzのワイヤレスマウスで、本体にレシーバーを収納するスロットが装備されている。ここからレシーバーを取り出すと電源がONになり、PCのUSB端子にレシーバーを装着して使う。 最たる特徴は、MicroGearプレシジョンスクロールホイールと呼ばれる技術によって、ホイールの回転をフリースピンモードとクリック・トゥ・クリック モードに切り替えられる点だ。マウスのホイールは、マイクロソフトがクリック感のない“スルスルホイール派”、ロジクールがクリック感のある“クルクルホイール派”で製品が作られてきていたが、ここにきてロジクールが両方をサポートするようになったわけだ。底面のスライドスイッチを操作することで、スルスルとクルクルを自在に切り替えることができる。デスクトップ用のMX Revolutionでは、フォーカスのあるアプリケーションによって、スルスルとクルクルが自動的に切り替わるが、モビリティを重視した結果、そのためのクラッチ機構を持たせるのは難しかったようだ。 ブラウザなどで文書を読み進める際はスルスルがいいし、PDFをページ送りしながら読んだり、パワーポイントのスライドを1ページずつみていくときには、明確な単ページ送りができるクルクルが便利だ。 また、昨今のモバイルマウスは、本体左側面の戻る、進むボタンが省略されていることが多いが、この製品にはきちんと装備されている。マウスにやたらとたくさんのボタンがあることは賛否両論だとは思うが、個人的にはこの2つのボタンのあるとないでは、ブラウザの使い勝手が大きく違う。欲をいえば、各アプリケーションが、ページ送りを進むと戻るでできるようになっていれば、ホイールはスルスルだけでもいいのかなと思っているくらいだ。 この製品に欠点があるとすれば、使うためにどうしてもレシーバーが必要になる点だ。ワイヤレスマウスなので当たり前のことなのだが、USB端子から出っ張るレシーバーは、思った以上に邪魔になる。特にノートPCでは余計にうっとおしく感じる。以前、ロジクールの担当者と話をする機会があったときに、PCカードスロットに収納できるレシーバーは実現できないのかと聞いてみたことがあるのだが、コスト的に難しいという話だった。最近は、PCカードスロットを使うことがそれほど多くはないので、悪くないアイディアだと思っていただけに残念だ。レシーバー単体として数千円で販売するようなことができれば、意外に需要があるんじゃないかと思うのだがどうだろう。 ●プレゼンターとして使える多機能マウス 一方、マイクロソフトのワイヤレス ノートブック プレゼンター マウス 8000は、商品名から想像できる通り、プレゼンテーション用途のリモコンとマウスを融合させた製品だ。ホイールの手前にプレゼンターモードとマウスモードを切り替えるボタンが用意され、マウスの底面にはプレゼンテーションスライドやマルチメディアを操作するためのボタンが装備されている。また、レーザーポインタも内蔵され、スクリーンに投影されたスライドをポイントすることができる。PowerPointでは、スライドに記入ができるデジタルインク機能も利用できるので、プレゼン用途には実に便利だ。 マイクロソフトマウスなので、ホイールはスルスルのみだし、戻るボタンは左側面にあるものの、進むボタンは右側面に配置されている。このあたりの使い勝手は慣れるしかなさそうだ。 ワイヤレス方式はBluetoothだ。製品にはUSBのBluetoothアダプタが添付され、それをUSB端子に装着すればすぐに使えるようになる。残念ながら、Bluetooth内蔵のノートPCは、それほど多くはないのだが、内蔵PCのユーザーであれば、添付のアダプタを使うことなくマウスが使える。マウスを使うたびに、アダプタを装着するのは、意外にめんどうだ。この点はロジクールの製品に対する大きなアドバンテージとなるだろう。モバイル指向の強い製品こそ、Bluetoothに対応してほしいものだ。実際、手元の環境では、市販のBluetoothアダプタ経由で正常に使えている。 なお、製品添付の携帯用ケースは、ストラップつきのプラスティック製で、アダプタとマウス本体を収納でき、持ち運び時にも安心感がある。 ●高付加価値マウスへの期待とドライバへの要望 この2つのマウスを評価するために、手元では、Windows VistaのRC2を使って検証している。残念ながら、両製品ともにまだVista用のドライバがリリースされていないため、本来なら使えるはずの機能の多くが使えない。 ただ、ノートPCには、内蔵のポインティングデバイスがあり、それを使うためのドライバがインストールされている。外付けポインティングデバイスのためのドライバを入れると、それと競合する可能性があるため、インストールをためらってしまう。そんな理由から、個人的にはノートPCで外付けマウスを使うときには、WindowsのHIDドライバのみで使うことが多い。ちょっともったいない話だ。ポインティングデバイスの数だけデバイスドライバを稼働させ、それぞれ独立して制御できればいいのにと思う。欲をいえば、ポインティングデバイスの数だけポインタが表示されるくらいでもいいくらいだ。 携帯を考慮してサイズが制限される上に、ドライバ等の関係で、最低限の機能しか使えなくなってしまうモバイルマウスだが、標準的なHIDとして使っても、運用次第で便利なデバイスとなる。ただ、HIDでは、ホイールの横チルトがサポートされないなど不便な点も多いので、ここはなんとかしてほしいところだ。せっかくのVista移行のタイミングなのにと思うと惜しいところだ。 ちなみに、Vistaの標準ブラウザIE7では、マウスのホイールクリックがバックグラウンドのタブでリンクを開く機能に割り当てられている。これは、XPでIE7を使う場合も同様だ。Ctrlキーを押しながらのクリックでも同じことができるが、片手でできるのと、両手が必要なのとでは、ずいぶん使い勝手が違う。 裏タブで開くこの機能をうまく使うと、マウスに戻るボタンがなくても、それなりに、効率よくブラウズしていくことができる。ぼく自身は、複数ページを同時に閲覧できないことが理由で、タブを頻繁に使うようなことはないのだが、たとえば、大量の検索結果を順に見ていくような場合、過去においてはリンクをクリックしては戻るボタンで元のリストに戻っていたのだが、どんどん裏のタブをたてて開いていき、順に読みながら、いらないページはタブを閉じるという使い方をすれば、戻る操作はあまり使わなくてすむ。 もし、同時に参照する必要があれば、Ctrl+Nでそのページを別ウィンドウで開くこともできる。特に、モバイル環境で、3G携帯などでインターネットに接続しているような場合は、帯域が狭いため、表示がもたつくことがあるが、この要領で転送中のページを裏のタブにおくようにすれば、見えないところでページが転送されるため、いらいらすることも少なくなる。 モビリティとは無縁なようでいて、ノートPCをより使いやすくするマウスは重要なデバイスだ。メールを書いたり、文書を編集したりといった作業に加え、モバイルでは何かを読むだけ、ブラウズするだけといったキーボードを使わない作業が意外に多い。もちろん、このことは、デスクトップ環境でも同じかもしれない。インターネットの普及がもたらした副作用であるともいえる。だからこそ、こうした使い方を想定したもう1つのポインティングデバイスとして、意欲的な機能を持つ高付加価値マウスが登場することに期待したいものだ。 □関連記事
(2006年11月20日)
[Reported by 山田祥平]
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