ノイズキャンセルヘッドフォンがトレンドのようだ。各社のデジタルオーディオプレーヤーに標準装備されることが多くなってきたとともに、単体でも、いろいろな製品が出てきている。今回は、オーバーヘッド型の新製品2機種を試してみた。 ●ポリシーが異なる2製品を試す マイクで拾った音を逆位相にして再生することで、ノイズを打ち消すというのが、ノイズキャンセルヘッドフォンの基本的な原理だ。電車や飛行機、雑踏といった場所はもちろん、今、こうして仕事をしている部屋にしても、騒音にあふれているが、ノイズキャンセルヘッドフォンを使うことで、静寂を手に入れるとまではいかないまでも、耳障りな騒音を和らげることができる。 今回試用したのは、東北パイオニアの「SE-MJ7NS」(12月中旬発売/8,800円)と、日本ビクターの「HP-NC80」(発売中/オープンプライス)だ。オーバーヘッド型のヘッドフォンというと、携帯するにはかさばりそうなイメージがあるが、両機種共に、携帯性はかなり工夫されていて、本当にコンパクトに折りたたむことができる点は好感が持てる。また、使用電池は単4で、ビクターが1本、パイオニアは2本だ。電池の入手は容易だが、ノイズキャンセル機能をOFFにしたり、電池が切れたりときでも、通常のヘッドフォンとして機能するのは嬉しい。ノイズキャンセルの効き具合は、パイオニア製品の方が高いように感じる。ただし、効き具合を高めたことの反作用で、無音時のサーッというヒスノイズが大きくなってしまう傾向があるようだ。ビクターはそれを嫌ってノイズキャンセル効果を抑え、パイオニアはノイズキャンセルを優先したようだ。音楽が入力されていれば、ほとんど気にならないレベルだが、音楽は聴かず、ノイズをキャンセルするためだけにヘッドフォンを装着する使い方では、ちょっと耳につく。ちなみに、メーカー公表のノイズキャンセル効果は、300Hzにおいて、ビクターが1/4、パイオニアが1/5となっている。これは、製品作りのポリシーなのだろう。 パイオニアのSE-MJ7NSは、SRS Headphone搭載でサラウンドを実現、この機能をONにすると、頭の中心に音が集まらない自然で広がりのある音場で音楽が聴けるというふれこみだ。集音用のマイクをハウジング外側と内側の2カ所に装備、内側のマイクで補正をかけるフィードフォーワード方式が特徴だ。ヘッドフォン本体にボリュームを持ち、音量をアッテネートできるようになっている。ヘッドバンド部とイヤーパッドにやわらかなレザーが使われ、長時間の使用にも疲れないように工夫されている。そのおかげでコンパクトさや重量の面が多少犠牲になってはいるが、確実に装着感を高めることができている。個人的には、ヘッドフォン側のボリュームを最大位置にし、SRS Headphoneはオフの状態の音色がもっとも好みだ。ケーブルは左イヤーパッド部にジャックがあり、そこにケーブルプラグを装着するようになっている。プラグも通常のステレオミニなので、自前で好みの長さのケーブルを調達することもできそうだ。音楽を聴かないときには、ケーブルレスで使える点も好ましい。 一方、ビクターのHP-NC80は、パイオニアのものより、ほぼ一回りコンパクトだ。騒音の種類に合わせて2種類のキャンセルモードを持ち、飛行機などでの騒音低減にはワイドモード、地下鉄など低域の騒音低減にはローモードを切り替えられるようになっている。ケーブルは0.8mと短く、オーディオプレーヤーを胸ポケットに入れたような場合にも、邪魔にならない。さらに0.7mの延長コードがついているので、長いケーブルが必要な場合は、延長すればいい。ケーブルは左右のハウジングからY字に出ていて取り外すことはできない。また、イヤーパッドはけっこう小さめで、耳全体をパッドが覆うことはないため密閉感は希薄だ。 ●定番の不満を解消する魅力的な製品 個人的にはノイズキャンセルヘッドフォンの定番として、ずっとBOSEの「QuietComfort2」を使ってきた。41,790円という価格には、やはり疑問を感じるが、その圧倒的なノイズキャンセル機能は満足できるものだ。サーッというヒスノイズもほぼ感じられないので、音楽を聴かない耳栓としてのノイズキャンセル専用機として使うときにもストレスがない。 ただし、いくつか不満があった。まず、必ず電源を入れてノイズキャンセル機能をONにしないと音楽を聴けない。したがって、電池が切れた場合には、ヘッドフォンとしては使えなくなってしまう。また、折りたたみに関しては、イヤーパッド部が回転するだけなので、フラットになるだけで、あまりコンパクトにはならない。 こうした理由から日常の携帯にはちょっと大仰で、持ち出すとすれば、片道10時間近く飛行機に乗る海外出張時くらいになってしまった。飛行時の騒音をキャンセルできるだけで、機内での疲労は格段に少なくなる。これにアイパッチを併用すれば完璧だ。 ただ、耳栓的な機能を持つカナル型のヘッドフォンを普段から常用するようになってからは、そちらですませてしまうことも多い。それでも、ぼくの仕事をしている部屋は、数台のデスクトップ機のファンがゴーゴーと音をたてているので、その部屋で深夜に落ち着いてビデオを見たり、音楽を聴いたりするときには、重宝している。この手の連続した定在音をキャンセルする力は絶大だ。 今回試用した2機種は、双方ともに、QuietComfort2に対するいくつかの不満を解消してくれる。価格的にリーズナブルな点も嬉しい。なお、音に関しては、好みの問題だし、十分なエージングをしている時間の余裕がなかったこともあり深く言及はしないが、両機ともにノイズキャンセルOFFのときの音がいちばんいい。やはり、ノイズをキャンセルするとはいっても、別の言い方をすれば、音楽に音楽以外の音を加えるということでもあるのだなということが実感できる。BOSEのQuietComfort2が、ノイズキャンセル機能をOFFにできないのは、そのあたりの心理的な嫌悪感を抑制するためなのかもしれない。 ●電車の中には誰もいない 音楽が演奏されるよりも、再生される機会が増えたことで、「場」の共有感はずいぶん希薄になったように思う。もちろん、演奏会、すなわち、コンサートは、今もあちこちで開かれてはいるが、音楽を消費するという意味では、圧倒的に演奏よりも再生の機会が多い。かつては聴衆が場を共有し、周囲の人の気配を感じながら聴くのが当たり前だった音楽は、複製技術の誕生によって再生が可能になり、音楽を個人が独占できるようになった。そして、誰にも邪魔されず、たった1人で音楽の世界に没頭することを可能にしたのだ。もちろん、その変化は音楽そのものにも影響を与えたに違いない。 ウォークマンに代表される携帯プレーヤーは、音楽の世界への没頭環境を、外界に持ち出すことを可能にした。そして、ノイズキャンセルヘッドフォンは、群衆の中の個人を、さらに個人化する。カメラに手ぶれ補正が当たり前になろうとしているように、ヘッドフォンやプレーヤーにノイズキャンセル機能が当たり前になる日は近いのかもしれない。それはバーチャルな個人空間につながるどこでもドアである。 □関連記事
(2006年11月10日)
[Reported by 山田祥平]
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