2005年に引き続き、NECのPC生産の唯一の拠点であるNECパーソナルプロダクツ米沢事業場に訪問する機会を得た。 2005年のレポートでは、RFIDを活用した生産システムの導入によって、工場全体に渡って、大規模な変更を加えた直後だったこともあり、生産効率が大幅に改善されていた。 今回の訪問では、生産工程そのものに大きな変化はないものの、これまでの取り組みを着実に現場に浸透させようとしていることが伝わってきた。また、細かい部分ではあるが、米沢事業場自身の努力による、新たな機器、設備の導入にも意欲的に取り組んでいることもわかった。最新の米沢事業場の取り組みについて報告する。 米沢事業場は、NECのPC生産のマザーファクトリーと位置付けられる拠点だ。 中国、台湾では、ベースユニットなどのコモディティ化された部分の調達、生産を行なうが、クローバルSCMの中核拠点として、あるいは戦略的商品の開発、生産、先進技術の開発、品質保証は、すべて米沢事業場が行なうことになる。 現在、NECでは、ビジネスPCだけを例にとっても、半期で2万モデル以上の組み合わせがあり、1台だけを生産するという仕様の受注製品が、1日の全生産量の50%以上を占めるほか、10台未満という仕様の製品受注比率も約80%を占めるという。また、一日の受注数量が、200台から7,000台と、30倍以上にも広がる需要変動にあわせた生産体制の構築も重要な鍵になる。 これにWeb直販の「NECダイレクト」によるBTOや、コンシューマ向けPCの通常モデルおよび量販店向け特定モデルなどが加わるのだから、ますますモデル数は増加し、需要変動は大きく変化することになる。 米沢事業場では、こうした多品種少量生産や、細かな需要変動に対応できる体制を整えているのだ。 それを実現するのが、トヨタ生産方式を軸にした生産革新と、グローバルSCM体制の構築、そして、RFIDの導入に代表される先進ITを活用したスピード化、効率化ということになる。 とくに、グローバルSCM体制では、国内の部材メーカーとの間で実現している「かんばん方式」と、中国のODMとの連携によって保税状態で日本国内に輸送し、必要な量を必要なタイミングで課税し、倉庫から調達する「保税JIT」、主要な部品に関しては生産工程に入る直前まで部品メーカーの在庫として管理する「VMI調達」の3種類の調達体制を導入。これらはいずれも30分単位で調達できる体制としている。 さらに、2005年12月には、国内の部材メーカーから調達する部品のうち、約4割を電子かんばん方式へと移行。より効率的な調達体制とした。
「電子かんばん方式は、より対応範囲を広げていきたいと考えている。こうした調達体制の効率化とともに、RFIDを活用した生産の効率化、それを背景とした物流体制の効率化も進化を遂げている。完成品を30分単位で出荷できる体制とし、さらに全国基幹物流網の利用と、最終ターミナルでの周辺機器とのセット化などによって、全国物流センターの廃止や製品在庫の半減、納期遵守率100%を達成している。店頭向けPCでは、翌日配送カバー率が80%弱、ビジネスPCでは、一部機種に関しては、受注からわずか1日での納期を実現した。生産体制の強化が、経営体制の強化に直結するという考え方を具現化している」(NECパーソナルプロダクツSCM改革推進部 森下照正氏)と語る。 米沢事業場では、RFIDの導入によって、生産の迅速化、管理の可視化を実現することで生産リードタイムを半減、工場内部在庫を半減することに成功している。また、トヨタ生産方式の導入を背景に、自働化、生産の平準化、リレー生産方式の強化を進めることで、2000年に比べて、生産性を7倍に高めている。
だが、NECパーソナルプロダクツPC事業本部開発生産事業部 松原清隆事業部長は次のように語る。 「ものづくり改革には終わりがない。これまでの実績と成果によって、思い立ったらすぐに実行に移すという姿勢が米沢事業場内に広がっている。これからも改革は続いていく」。 これまでと同様に、米沢事業場のものづくり改革は進められることになる。 その言葉を裏付けるように、米沢事業場では、いま、2つの新たな設備を生産ラインに導入しようとしている。 1つは、異音検査システムの導入である。 2005年9月の段階で箱形の異音検査装置を導入し、主に、静音性が求められる水冷PCの抜き取り検査などに利用されていたが、NEC生産技術研究所の協力を得て、新たな異音検査システムを開発。今後、これをラインの中に組み込んで、将来的には全数検査を行なう考えだ。 新たに開発した異音検査システムは、赤外線センサーあるいは振動を検出するパッドをPC本体に張り付け、音が発する振動を捉えて、周波数ごとに分類。これにより、工場内の作業している音が混入しないような工夫も凝らされている。音を振動として捉えることで、内部のHDDやドライブ、ファンといった音を識別して表示することが可能だ。この検査によって、組み立てられたPCが目的とする静音基準に達しているかどうかを確認するとともに、PCの内部から異音が発生した場合には、どこかに不具合があると判断。早期に対策を講じるといったことにも応用できる。ネジによる部品固定の不具合なども発見できるという。 「従来の箱型の異音検査装置では、ラインの中に組み込むことは不可能だったが、新たな異音検査システムではインライン化を前提として開発した。赤外線センサーはコストが高いため、全ラインに導入するのは現実的ではないが、特定の箇所にセンサーとなるパッドを張り付けて検査する方式であれば、早期の導入も可能。異音検査システムは、より高い品質の製品をユーザーにお届けするという点でも大きな効果を発揮する」(NECパーソナルプロダクツPC事業本部開発生産事業部テクノロジー推進グループ 渋谷俊明主任)としている。
もう1つは、レーザーマーキング装置である。
レーザーマーキングは、レーザーを使用し、ノートPCの天板をはじめとするPC本体の筐体に、文字や図形を書き込むことができる技術。「官公庁、自治体からは、県のマークや市のマークを入れてほしい、あるいは企業からはコーポレートロゴを入れてほしいという要望もある」。 「従来から採用しているシルク印刷ならば、大量の受注であれば対応できるが、10台や20台といった少数ロットでは、版下製作などのコストが高くなり、注文には対応できなかった。だが、レーザーマーキングであれば、版下製作を不要にし、乾燥などの工程も必要なくなることから、短期間に、低コストで、少量の受注にも対応できるようになる」(NECパーソナルプロダクツPC事業本部開発生産事業部モバイル商品開発部 神尾俊聡主任)としている。 また、シルク印刷は、使用環境によっては印刷部分が剥げてしまう場合もあるが、レーザーマーキングでは長期間の使用でもマーキングされた文字が消えることがないというメリットもある。 だが、この開発には困難がつきまとった。マグネシウムの天板の場合には、レーザーで削り取った「削りかす」が、熱により爆発を起こす可能性などがあるからだ。また、より滑らかな曲線が、鮮明に描けるような工夫を凝らしたり、彫った後の堅牢性を維持するといった必要もあった。米沢事業場では、天板表面部分の加工工程で工夫を加えたり、レーザーに改良を加えたりといった繰り返しによって、こうした問題を解決。先頃、ようやく実用化の段階に至ったところだ。 10月21日に同事業場で開催されたノートPCの組立教室では、参加者への特別サービスとして、自分の名前を天板に書き込めるようにした。自分で作った自分のPCに自分の名前が入る、というサービスに、参加した小学生、中学生は大喜びだった。 現時点では、レーザーマーキングによる商用サービスは、まだ始まっていないが、NECならではの特別なサービスとして、2007年にも実用化されることを期待したいところである。
「現在、技術者からPCの生産に生かすことができる技術を、自己申告してもらうようにしている。異音検査システムもレーザーマーキングも、その成果の1つ。こうした取り組みの繰り返しによって、NECらしいPCを世の中に送り出せると考えている。NECのPC生産の拠点である米沢事業場が、元気であることを証明する取り組みの1つ」とNECパーソナルプロダクツ開発生産事業部 小野寺忠司事業部長代理は語る。 こんなところでも、NECのPC生産の新たな挑戦が始まっている。 一方、NECパーソナルプロダクツ米沢事業場では、プリンタの生産も行なっており、ここでもいくつもの生産革新が行なわれている。 ドットプリンタおよびラベルプリンタの生産を行なう同工場では、ここ数年に渡って、トヨタ生産方式を導入し、かんばんによるプル型の生産体制へと転換。在庫の削減、ラインの効率化などによって、従来は中国で生産していた製品も、積極的に同事業場内に取り込んだ。
「生産コスト、品質といった点でも、日本に取り込んだ方が生産効率を高めることができる。生産革新による効果といった点では、NECグループナンバーワンを目指す」と、NECパーソナルプロダクツプリンタ事業部 佐藤之則事業部長は意気込む。 このように、米沢事業場の生産革新はPCだけに留まってはいない。 PCでの成功体験、プリンタでの成功体験を横展開して、お互いに改善を加えているのである。これが、NEC全体の生産革新へと波及すると、NECのものづくり競争力はさらに高まることになるだろう。 □NECのホームページ (2006年11月15日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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