大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

NECパーソナルプロダクツ、群馬事業場見学記
~生産拠点から大きく変貌


群馬事業場
 NECパーソナルプロダクツは、報道関係者を対象に同社の群馬事業場を公開した。

 もともと同事業場は、NEC群馬あるいはNECカスタムテクニカ群馬事業場として、PC-9800シリーズ時代からデスクトップPCの主力生産工場として位置づけられていた拠点だ。

 その後、NEC米沢および海外拠点へとPC生産の主力機能を移管するのに伴い、NECカスタムサポートとして、PC修理拠点へと大きく業態を転換。今年7月の組織改革では、NECカスタムサポートをNECパーソナルプロダクツへと吸収し、現在は、NECパーソナルプロダクツ群馬事業場として、NEC製PCの修理および、中古PCである「NEC リフレッシュドPC」の再生、また、電話によるサポートサービスである121コンタクトセンターの一拠点としての役割を担っている。

 「デスクトップ生産で培った生産ノウハウや、生産革新への経験などによって、生産拠点ならではの修理体制を整えているのが特徴」(NECパーソナルプロダクツ 片山徹社長)という。

 また、今回のNECカスタムサポートの吸収により、NECパーソナルプロダクツ自身が、購入前の相談から設計、開発、調達、生産、マーケティング、営業、サポート/保守までの一貫体制を確立したことも、大きな動きだといえる。

 「単なる修理、診断だけにとどまらず、故障の要因分析、修理統計解析を行ない、早期の問題発見と、徹底的な検証が行なえる。企画、開発、生産にこうした情報をすぐにフィードバックすることができ、より信頼性が高い製品を提供できるようになる」(NECパーソナルプロダクツ保守サービス担当、群馬事業場責任者 加藤秀章執行役員)という。

 実際に、一部のHDDなどは群馬事業場での情報を基に、調達先の変更を実施した例などが出ているという。

片山徹社長 約8万7千平方mの敷地に約550名の従業員が勤務する 群馬事業場は、ここ数年で大きな変遷を経てきた

●保守サービス拠点への転換後、初の公開

 生産拠点から修理拠点へと転換してから、こうした形で報道関係者に内部を公開するのは今回が初めてのことだ。かつての群日(ぐんにち=群馬日本電気)と呼ばれていた頃から知るものにとっては、施設内の変化の差は、隔世の感があるともいえる。

修理フロアのレイアウトと作業のようす

 デスクトップPCの主力生産拠点時代に構内全体に張り巡らされていたベルトコンベアはすべて撤収され、騒音のない静かな環境が実現されているのを見てまず驚く。また、PC1台ごとに修理内容が異なるために、それぞれの机の上で個別に修理作業が進められており、このレイアウトを見ても、工場という雰囲気はかなり薄れているといっていい。

 そして、かつては外国人労働者の姿が目立ち、構内の張り紙にも2カ国語が併記されていたほどだったが、いまではこれも無くなっている。修理という特殊なノウハウを必要とされる分野では、やはり日本人ならではのきめ細かさが求められていることの証だといえるのかもしれない。

 社員は最盛期の900人から550人へと減少したが、そのうち85%が保守・サポートを行なう直接要員となっている。従業員の平均年齢は38~39歳。男女比は9対1だという。

 「ここ数年で最も苦労したのは、社員のスキル転換。PCの生産はできても、日常的にキーボードが打てなかったり、専門的知識を持たないという社員もいた。徹底した教育を行ない、生産とは異なる修理のための知識、電話サポートのための知識などを修得させ、スキルアップを図った」(加藤執行役員)という。

 そのほか、成果主義の導入により、業績ダイレクトリンク処遇制度としたほか、表彰制度による社員のモチベーションを維持し、引き続き能力/スキルを向上させるためのプラクティス向上委員会の設置などによって、修理スキルを高めることに取り組んでいる。

通路に掲示される各種活動の報告 表彰制度も整備されている

●月間3万台の修理を24時間365日体制で実施

群馬事業場だけで、全国の約50%をカバーする 修理業務の分担体制

 現在、同事業場では、月間2万7千台~3万台の修理が、24時間365日の体制で行なわれている。

 修理品の構成は、デスクトップが約45%、ノートPCが55%。台風の後には、停電などの影響もあるせいか、修理件数が増える傾向にあるという。

 同事業場では、主に北海道を除く東日本地区の修理を請けおっており、西日本地区と北海道に関しては、NECフィールディングが複数の拠点に分散させて修理を行なっている。

 同事業場が修理拠点に転換した2002年7月当初には、わずか7%のエリアカバー率だったものを、徐々に体制を拡充することで、2003年1月には28%、2003年7月には50%へとカバー率を引き上げてきた。

 だが、最終的に国内すべての修理を同事業場で行なうという考えはないようだ。

 「災害時のリスク分散などを考えると、現在のようにNECフィールディングと修理体制を分散する体制の方が得策だと考えている」(加藤執行役員)ためである。

 一方、同社にとって今後の1つの目標が他社製PCの修理の実施である。

 現在のところ、NEC製のPCだけが修理の対象となっているが、群馬事業場を修理の拠点へと転換して以来、他社製PCまでを含んだ事業展開は大きな目標となっていた。

 現時点では、具体的な商談があるわけではないが、「他社から委託があれば、対応できる体制はすでに整えている」(加藤執行役員)として、今後の他社製PCの修理を視野に入れた事業拡大に対して強い意欲を見せている。

●PCの修理の仕組みは?

 では、NECパーソナルプロダクツ群馬事業場における修理の仕組みを見てみよう。

 まず、PCが故障した場合、ユーザーは、121コンタクトセンターに連絡することが推奨されている。

121コンタクトセンターの業務。ここ群馬のほか、東京/大阪/沖縄に拠点がある。相談員数は全体で850名、1日に8千件を処理する。登録ユーザー数は700万人

 従来は、商品の問い合わせや、使い方相談(操作上の問題解決)、修理依頼などの窓口がバラバラになっていたが、2002年7月にこれをワンナンバー体制に移行しており、ユーザーは、Tel.0120-977-121に連絡すれば修理の依頼も使い方相談もすべて済むようになっている。同センターの運営も24時間365日の体制である。

 ここで、修理が必要と判断された場合には、実際に修理の手続きを行なう。もちろん、最初から修理が必要だとわかっていた場合には、121コンタクトセンターに連絡せずに、そのまま修理受付をすればいいが、問い合わせただけで修理に出さずに解決してしまうということも意外に多いという。

 実際に修理が必要になった際には、修理の受付窓口は3種類ある。

 1つは、「あんしんサービス便」と呼ばれる同社独自の制度を利用する方法。修理の場合は保証期間であるかいなかに関わらず、すべて集配料は無料。PCの梱包用の箱も無料で提供される。

 2つめは、NECの製品を取り扱っている販売店に持ち込む方法。そして、3つめが同社の営業所に持ち込む方法だ。

 現在、販売店経由のものが約45%、営業所経由のものが25%、あんしんサービス便利用が30%になっているという。

 群馬事業場に持ち込まれた修理用PCは、着荷受付後に添付品の確認などの作業が行なわれ、受付けデータとの照合/入力が行なわれる。

パーツセンターの一部。向こうの壁までパーツが並ぶ 家電製品の修理も行なっている 電話対応部署にも人が割かれている

梱包部門 ノートPCの修理 分解したパーツを並べながらの修理。分解/組立は迅速

 その後、修理品は、2階に設置されたノートPCとデスクトップに分けられた修理ラインにエレベータで運び込まれる。同事業場ではPC以外に、同社製のプリンタや、かつてNECホームエレクトロニクスで生産されていたTVなどの家電製品の修理も行なっているが、これらは1階の家電修理ラインで修理が行なわれる。

 PCは、修理ラインに運び込まれた段階で、外観の傷、欠落部分のほか、修理の申告状況の再現確認、ウイルスの感染有無などをチェック。同時に必要な部品の引き当てを行なう。

 部品に関しては、部品庫のほか、パーツセンターと呼ばれる別棟のスペースに必要量が常時ストックされており、ここから必要な部品を入手する。これらの部品は倉庫にストックされている段階で、すでに群馬事業場の資産となっており、生産工場の多くがラインに投入された段階で資産になる仕組みを導入しているのと比較すると、在庫負担が大きくなるという問題がある。生産とは異なるため所要量が読めないなどの問題から、この仕組みの変更は難しいともいえるが、在庫負担の削減という意味では改善の余地がありそうだ。

 診断から修理、完了作業までは、最後まで1人が担当する形で行なわれる。2002年の修理拠点への転換時点では、社員のスキルがそこまで高まっていなかったたため、1つの製品を診断、修理、完了作業と3人体制でそれぞれ分業して作業を担当していたが、これも担当替えなどを経験させながら、1人で最初から最後まで行なえるように転換した。修理作業に関しては、機種ごとに用意されたウェブメンテナンスマニュアルを参考に進めることになる。

修理作業の変遷。ラインで行なっていたものを、ラインの短縮を行なうとともに複合業務を習得し、1人で作業できるようになった

 作業が完了すると、同社独自の定型プログラムを利用することで自動的に完了検査が行なわれ、修理の合否判定とともに完了報告書が作成される。その後、本体は清掃、梱包工程へと入る。梱包が終わると1階の出荷口へと搬送され、ここで出荷方面別に仕分けされて、トラックで配送されることになる。

 修理の受付から手元に届くまで約120時間というのが現在の無償修理に掛かる日数。有償サービスの場合は、見積書の送付や返答待ちなどの時間を含めて160時間が現状の日数。無償修理で100時間にするのが今後の目標だという。

修理作業の流れ
着荷 診断 部品配膳
交換 完了検査 連絡
完了報告 清掃/梱包/出荷

●中古PCの再生拠点としての役割担う

 一方、群馬事業場のもう1つの柱である中古PC「リフレッシュドPC」の再生作業についても、その手順を追ってみよう。

 第一テクニカル部が修理部門であるのに対して、第二テクニカル部が中古PCの再生を担当する。

リフレッシュドPC
パッケージと内容 作業工程 出荷形態の詳細
受け入れ エアガンによる内部清掃 機種に合わせて生成されるバックアップCD

 PCの再生は、まず、ユーザーのPCの買い取りから始まる。買い取りは、同社のウェブサイトである121wareを通じた申し込みが可能だ。ユーザーは、そこで、買い取りの申し込みを行なえば、委託運送会社である日通の「パソコンポ」による戸口回収によって、群馬事業場の1階に設置されたリフレッシュドPCセンタで査定が行なわれる。

 査定価格は、ウェブに公開している買い取り上限金額から査定項目ごとに、それぞれのランクをチェックすることで査定結果が得られるような専用システムを開発、これによって短時間に査定を完了させることができる。

 査定結果の通知を受けたユーザーが、その価格で納得すれば、買い取りのための手続きに入る。査定価格に納得しない場合にはユーザーの手元に商品が送り返される。

 買い取りのためには、古物営業法で定められている譲渡証明書などの提出が必要なことから、譲渡証明書用の用紙を本人限定受け取り郵便(特殊型)で送付、これをユーザーに記入してもらい、返送されたのちに、代金がユーザーのもとに支払われるという仕組みだ。

 これらの一連の仕組みは、買取工程管理システムによって行なわれており、申し込み後の引き取り手配から譲渡証明書発行、振り込みデータ作成、チェックシート出力などの工程を一元管理している。

 再生の工程では、装置構成情報データベースをもとに、型番情報から診断項目を自動的に絞り込み、同時に検査用のFDを機種ごと作成する同社独自の仕組みを採用。これを利用した診断が行なわれる。

 ハードディスク情報の消去に関しては、米国防総省NSA規格に準拠した専用ソフトを開発。これによってデータを消去する。

 かつての生産工場として蓄積したデータやノウハウなどをもとに、新品PCとほぼ同様の形に再セットアップを行ない、一部アプリケーションソフトの削除や電子マニュアルのインストールを行なったのちにリフレッシュドPC用の専用バックアップCDを作成し、これを同梱する。CDライターは、8台が用意されており、一日800枚までのバックアップCDの作成が可能となっている。

 また、電源ケーブルはすべての製品で新品に交換するとともに、筐体を清掃して、梱包される。梱包箱は青を基調にした専用のダンボールを用意。手作業で詰め込まれる。

 PCの再生ラインでは、現在20人が、午前8時30分から午後5時15分まで勤務。1日90~100台、月間で1,000台~2,000台規模の再生が可能となっている。

 再生され梱包されたリフレッシュドPCは、その後、配送口から出荷され、全国の量販店店頭などで展示販売されることになる。

●NECのサポートの高評価を支える群馬事業場

 このように、NECパーソナルプロダクツの群馬事業場は、デスクトップの生産工場から一転して、保守・サービスの一大拠点に変化している。

 群馬県太田市の地域周辺では、かつては国内最大シェアを誇る「PC-9800」の生産拠点として親しまれてきたが、ここ数年の業態転換で、まったく別の印象を持つ拠点となった。

 それは、製品そのものを生産するのではなく、保守・サービスといった付加価値を生み出す拠点へとの転換だといえる。

 PCの普及率が高まり、初心者購入比率が高いといわれる同社においても、すでに60%が買い換え需要だという。それだけにいかに保守・サービスを強化するかが、リピーターを確保するための重要なポイントだというわけだ。

 調査会社の調べなどでは、同社の顧客満足度は年々上昇傾向にあり、保守・サポートでの評価は、業界内トップレベルのものだという認識が定着しつつある。

 こうした評価をしっかりと下支えしているのは、保守サービスのための一大拠点である群馬事業場である。同社は、CSナンバーワンの維持を今後の最重点課題の1つとしている。そうした意味でも、群馬事業場の存在は欠かすことができないといえるだろう。

□NECパーソナルプロダクツのホームページ
http://www.necp.co.jp/
□関連記事
【2月17日】【大河原】NEC米沢事業所はどう変化したか
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0217/gyokai87.htm
【2003年6月30日】NEC、パソコン新会社「NECパーソナルプロダクツ」を設立
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0630/nec1.htm
【2002年5月21日】NEC、群馬事業場のPC生産を停止アフターサービスの拠点へ転換
http://www.watch.impress.co.jp/pc/docs/2002/0521/nec.htm
【'97年12月24日】PC98-NXの故郷 NEC群馬工場見学記
http://www.watch.impress.co.jp/pc/docs/article/971224/gunma.htm

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(2004年7月28日)

[Text by 大河原克行]


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