Intel Developer Forum (IDF)等のイベントで告知されてきたとおり、4個のコアを持つ“クアッドコア”CPUとなる「Core 2 Extreme QX6700」が今月登場する。昨年4月に初登場したデュアルコアから1年半余りでコアの数は倍増することになる。すでに、IDFレポートでその性能の一端を紹介しているが、ここでは評価キットを利用したベンチマークレポートをお届けしたい。 ●B3ステッピングのコアを採用するCore 2 Extreme QX6700 Kentsfieldの開発コード名で呼ばれてきたクアッドコアCPU「Core 2 Extreme QX6700」(写真1)の主なスペックは表1の通りだ。基本的にはCore 2 Duoのダイが2つ乗せられた仕組みになっており(写真2)、L2キャッシュ容量は4MB×2個で計8MBとなる。動作クロックは2.66GHzで、Core 2 Duo E6700が2つ搭載されていると考えれば分かりやすいだろう。TDPは130Wへとアップしている。 CPU-Zの情報を見ると、CPUIDは「6F7」となっており、これはB3ステッピングであることが確認できる(画面1)。このほか画面では確認できない点を述べておくと、Enhanced SpeedStep、C1Eステート、XDビット、EM64T、Viretualization Technologyといった各機能も有効で、最大コア電圧は1.35Vとされている。
【表1】デスクトップ向けCore 2シリーズのラインナップ
このCPUとともに評価キットを構成しているのが、Intel 975Xを搭載する「D975XBX2」である(写真3)。このボードは、IDFのレポートでもお伝えしたとおり、DDR2-800に対応するIntel 975Xの新リビジョンを搭載したボードリビジョン「303」のものである。 ただ、今回の評価キットに添付されてきた資料によると、このボードはDDR2-800を非公式サポートとしている。実際にBIOSの挙動も、DDR2-800モジュールを装着した時にDDR2-667で動作するよう設定されており、製品として出荷される場合にどうなるか現時点では不明である。もっとも、従来製品どおり手動でDDR2-800動作へ切り替えることは可能で、動作上、特に問題も見受けられなかったので、テストはDDR2-800動作をさせた状態で行なっている。 Conroe対応のD975XBXと、今回のD975XBX2の比較を写真4に示している。大きく変わった点は拡張スロット周りのコンデンサである。D975XBX2では、このコンデンサが大幅に増やされているのが目に留まるが、CPUソケット周りのVRM部には大きな手が加えられていない。この製品はクアッドコアへの対応を1つの目的としたマザーボードとなるが、拡張スロットへの電力供給を安定させることで、結果としてCPUの電圧も安定させるというアプローチなのかも知れない。 このほか、今回の評価キットに付属してきたCPUクーラーも、これまで採用されていなかったタイプのものであった(写真5、6)。ヒートシンクの銅部分のサイズが以前のものとは少し異なるほか、5枚羽根のファンが特徴的だ。このファンは5,000rpmを超える回転数で回り続けるため、非常にうるさく、従来のCPUクーラーの方が遥かに静かだ。Core 2 Extreme QX6700のリテールパッケージにどのタイプのCPUクーラーが付属するかは不明だが、できれば今回の評価キットのものは避けてほしい。 ●クロックの影響で苦戦が見られるベンチマーク それでは、Core 2 Extreme QX6700のベンチマーク結果をお届けしたい。用意した環境は表2の通りである。Intel環境にはIntel 975Xを使用しているが、先述の通り、メモリはDDR2-800に設定してテストを行なっている。
【表2】テスト環境
では、順に結果を見ていこう。まずは、「Sandra 2007 SP1」の「Processor Arithmetic Benchmark」と「Processor Multi-Media Benchmark」である(グラフ1)。このテストはCPUのコア数によって数値がそのまま加算されていく傾向にあるが、Core 2 Extreme QX6700は同一クロックのCore 2 Duo E6700のおよそ倍といったスコアになっており、しっかり性能が引き出されていることが分かる。 マイクロアーキテクチャが変わらないので、整数演算でK8アーキテクチャに対して大幅なアドバンテージを持っている点は同様だが、コア数が増えた分、やや劣っていた浮動小数演算でも逆転しており、そのポテンシャルはより高まったといえる。
次に「PCMark05」のCPU Testであるが(グラフ2、3)、これはIDFのレポートでもお届けしたのと同様の傾向を見せている。シングルタスクテスト、2タスク同時実行テストにおいてはCPUクロックで勝るCore 2 Extreme X6800が、4タスク同時実行テストではCore 2 Extreme QX6700が良いスコアとなっている。 今回はCore 2 Duo E6700との比較でも分かりやすい結果が出ており、シングルタスクや2タスク同時実行までの性能でいえば、Core 2 Extreme QX6700は同等かそれ以下に留まっている。
続いてはメモリ性能を見てみたい。実施したテストは、Sandra 2007 SP1の「Cache & MemoryBenchmark」(グラフ4)と、「EVEREST Ultimate Edition 2006 Version3.5」に含まれるCache & Memory Benchmarkからレイテンシの結果を抜き出したものである(グラフ5)。この結果も、これまでの傾向から見て自然な印象で、理屈通りの数字が出ているといえる。 目立つのはL1/L2キャッシュの範囲内でCore 2 Extreme QX6700の数字が飛び抜けている点だが、これもCore 2 Duo E6700の倍程度といったところで、Sandra 2007 SP1の結果としては妥当なものだ。またL2キャッシュとメインメモリの境界についても、16MBのテストでCore 2 Extreme X6800などより若干良い数字を残しているあたり、4MBを超える領域でもL2キャッシュがしっかり働いていることを確認できる。
次に実際のアプリケーションを利用したベンチマークの結果を見てみたい。テストは、SYSmark 2004 Second Edition」(グラフ6)、「Winstone 2004」(グラフ7)、「CineBench 9.5」(グラフ8)、「動画エンコードテスト」(グラフ9)である。従来の本連載で利用していたベンチマークから、DivXを6.2.5から6.4へ変更したほか、H.264のエンコード条件を若干変更している。 結果を見ると、全体にCore 2 Extreme QX6700の苦戦を感じさせる結果だ。マルチコアが有効に働いている場面と、そうでない場面の差がはっきりしており、発揮されない場面では、PCMark05同様にCore 2 Duo E6700よりも遅めの結果となっている。誤差の範囲とも言えるが、2つのダイ間の調停などが入ることにより、若干動作上のレイテンシが増して、不利になっている可能性もありそうだ。 一方、マルチコアの良さが発揮された場面では、Core 2 Extreme X6800と比較しても大きいところで50%程度の性能向上を見せている。PCMark05の4タスク同時実行テストでは80%を超える性能向上を見せており、“ハマった”ときの性能の良さには目を見張るものがある。
次は3Dアプリケーションによるベンチマークだ。テストは「3DMark06 CPU Test」(グラフ10)、「3DMark06」(グラフ11)、「3DMark05」(グラフ12)、「3DMark03」(グラフ13)、「DOOM3」(グラフ14)、「Splinter Cell Chaos Theory」(グラフ15)である。 3DMark06のCPU Testと、その結果が反映された3DMark06のトータルスコアは、マルチスレッド化がしっかり行なわれていることが功を奏してCore 2 Extreme QX6700の性能が発揮されている。一方、そのほかのシーンでは、クロックの高さの方が活きて、Core 2 Extreme X6800に軍配があがっている。3Dゲーム用途においては、後者の方が活きる場面が多いだろう。
最後に消費電力のテストである(グラフ16)。ワットチェッカーを用いてシステム全体の消費電力を測定した結果であるため、Athlon 64 FX-62環境のみマザーボードが異なる点にご注意いただきたい。なお、今回よりCineBench 9.5実行中の消費電力もテストに加えている。 結果を見ると、Core 2 Extreme QX6700の消費電力がはっきり出ている。こちらの記事で、NetBurstアーキテクチャのPentium Extreme Edition (XE) 965を用いたテストを行なっている。Core 2 Extreme X6800、Core 2 Duo E6700との比較から判断すると、Pentium XE 965と同等といっても差し支えない消費電力となっていることが分かる。 もちろん、パフォーマンスには大きな差があるのでワット当たりの性能という観点ではPentium XE 965と比べると優秀なのだが、絶対的な消費電力ではNetBurst時代に戻ってしまったわけで、本製品を利用したシステムを構築する際には、この消費電力に注意が必要だろう。
●PCの使い方に変化を生む可能性を持った製品 以上の通り、改めてテストを行なってみたものの、同じ製品について触れているので当然のことではあるのだが、IDFレポートでお届けしたのと同じ結論になる。マルチスレッドアプリケーションやマルチタスク状態を多用する人なら大幅なパフォーマンスアップが期待できるが、そうでないならCore 2 Extreme X6800という選択肢の方が無難であるという結論だ。 IDFレポートではIntelが用意したベンチマークテストの結果となっていたが、今回の結果では、その時よりもCore 2 Extreme QX6700の性能が活きにくいテストといえるだろう。いいところばかりではなく、シングルタスク/スレッドで使うにはCore 2 Duo E6700程度の性能に留まるということも、はっきりした。 コア数が少ないがクロックの高い製品がラインナップされている現状では、そのクロックの高さが活きる場面のほうが多いだろう。クアッドコアの導入を検討していた人も、これならより購入しやすい価格帯で登場する来年のCore 2 Quadまで待とうという結論を下すと思われる。 ただ、数値には出しにくい印象なのだが、同じ論理4CPUであったPentium Extreme Edition 965や今回の比較対象と比べて使ってみても、複数アプリケーションを立ち上げて動作させたときのスムーズ感は一線を画しており、そのインパクトは大きかった。CPUリソースは相当に余力があるのだろう。 動画エンコード中にほかの作業をするとか、これまでよりも多くアプリケーションを走らせるといった具合に、よりヘビーなPCを使い方を当たり前に行なえるのである。スペック面やベンチマーク結果のインパクトが小さかったのは事実だが、実使用の面ではユーザーにとって数字上の効果をもたらす製品といえるだろう。 □関連記事 (2006年11月2日) [Text by 多和田新也]
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