アップルコンピュータは8月8日、米国で開催されたWWDC(世界開発者会議)において発表されたプロ向けデスクトップ製品「Mac Pro」を国内でも発表した。同日から出荷が開始されている。 既報のとおりMac Proの基準モデルは、デュアルXeon 2.66GHzを搭載する単一仕様だが、Apple StoreによるCTO(Customize To Order:注文仕様生産)によって約500万通りのカスタマイズが可能とされる。 今回は、現行の最上位プロセッサであるデュアルXeon 3.0GHzにカスタマイズされたMac Proを試用してレビューを行なった。試用モデルのスペックは下記のとおり。この仕様をApple StoreでCTOした場合の価格は770,670円となる。ちなみに、この価格で特に大きなウェイトを占めているのはビデオカード。標準品のNVIDIA GeFroce 7300 GTを利用するなら、おおよそ21万円ほど安くなる計算だ。
【表1】スペック比較
到着したMac Proの外箱は予想以上に大きく、約710×580×320mm(幅×奥行き×高さ)の外寸があった。アップル自身が『ワークステーション』と呼ぶように、ホームユースではなくあくまでも法人需要をメインとする製品だが、デザイナーやカメラマンなど個人のクリエイティブ職を中心にして、SOHO環境において導入する層も多いと予測される。 米国などでは人口密集地にApple Storeなどの拠点が多いことと、基本的にクルマ社会のため、Apple Storeへの問い合わせや修理依頼にPowerMac G4クラスの製品をむき出しのまま抱えてくるという光景に何度も出くわしたことがあるが、さすがに日本ではそうもいかないだろう。そうなると、搬送のための外箱の保管にも工夫が必要になる。 同梱品はApple KeyboadとApple Mighty Mouse。さらにUSBキーボード延長ケーブルと本体用の電源ケーブル、ディスプレイの変換アダプタが2種。ほかはシステムのインストール/リストア用のDVDが2枚と各種ドキュメント類と、極めてシンプルな内容だ。 本体サイズは高さ511×475×206mm(同)で、PCで言うならタワークラスに匹敵する大きさ。机上に置くよりも床面に直接設置する方が無難だ。ちなみに、本体内部へアクセスできるカバーは正面に向かって右側に位置するので、机の下などに納める場合は左側に寄せたほうがいい。メモリやHDDの増設、拡張カードの追加時はもちろん、本体内のホコリ清掃などの際にも利便性が高まるはずである。
動作音はかなり小さい。従来モデルのPowerMac G5では9個だったファンがMac Proでは4個になっていることに加え、大型の冷却ファンを低回転で回す工夫がされている。ノイズとしては、ファン音よりもHDDの回転音のほうが耳障りに感じる。個人としては原稿執筆などの作業時は、極力生活ノイズを排して集中したい性質だが、現状の作業環境においてMac Proがノイズ源となることはなかった。 プリインストールされているのはIntel対応版のMac OS X "Tiger"。10.4.7があらかじめ導入されており、レビュー時点ではソフトウェア・アップデートを利用してもOSのマイナーバージョンは変わらず、Security UpdateとiPod Updaterのみが実行された。ただし同じ10.4.7でも、MacBookやMac Miniのビルドが「8J2135」であるの対し、Mac Proでは「8K1079」のビルドが表示された。 EM64T搭載のXeonを採用することによって、Intel版Mac OSとしてはMac Proが初めて64bit対応することになる。アップルによればTigerにおける64bit対応は、PowerPC版、Intel版ともに同等の対応を実現しているということで、メモリ空間、データバス、レジスタ、マスライブラリなどがOSレベルでは64bit化されているという。 とはいうものの、これらはユーザー環境では実感する機会がほとんどないのも事実である。先日のWWDCにおいて、次期Mac OS X "Leopard"では、CocoaそしてCarbonのアプリケーションレベルでも64bit化が実現することが明らかにされている。Xeon搭載による64bit化の実質的なメリットはLeopard待ちということになるわけだが、言い換えればMac Proはすでに『Leopard Ready』であり、Leopardでさらにその性能を発揮するハードウェアということになる。 何かとXeon搭載がクローズアップされがちだが、PowerPC搭載のハイエンド機であったPowerMac G5 Quadと比べて、拡張性が増している点は見逃せない。内部増設のHDDベイが2から4へ、光学式ドライブベイも1から2へとそれぞれ倍増した。USB 2.0は正面に2基、背面に3基。FireWire(IEEE 1394)は400(1394a)、800(1394b)が1基ずつ正面と背面にそれぞれ用意されている。うち正面に用意されたUSB2.0 1基とFireWire 800が実質的な追加分にあたる。もちろんキーボードやiSightカメラなど、取り外すことなく使う機器は背面ポートへ接続するのがいいだろう。一方前面は、各種ドングルやポータブルな記憶デバイスなどでの利用が想定されている。
また、Gigabit Ethernetも従来モデル同様に独立した2基を搭載している。主にXsanでの利用を想定したものではあるが、変わった使い方としてはMac Proをルーター代わりにもできる。とはいえ昨今の低価格ルーターでさえセキュリティ機能がかなり充実していることを考慮すれば、こうした使い途はあくまで緊急避難的な用途に過ぎないかも知れない。 PCI Express拡張スロットでは、最下段のx16レーンがあらかじめ2スロット分のスペースを確保している点が、PC製品ではあまり例がない特徴といえる。大型のグラフィックカードを取り付けても他のスロットをふさがず、残り3本の拡張スロットが確実に確保できる優位性がある。 今回試用したQuadro FX4500では、DualLink DVIを2つ搭載するビデオカードのため、30型のApple Cinema HD Displayを2台接続することが可能。標準搭載品であるNVIDIA GeForce 7300 GTも2つのDVI出力をもっているものの、30型への出力は1台まで。マルチディスプレイ化する場合は、GeForece 7300 GTを最大4枚利用することで、30型ディスプレイ4台への同時出力が可能となる。 アップルで同製品を担当する鯉田潮氏によると、Quadro FX 4500ともう1つのグラフィックカードオプションであるATI Radeon X1900 XTを使った複数枚利用は、内部電源容量の関係から不可ということだ。またSLIやCrossFireへの対応も、米国担当者の発言と同様に、想定するユーザー層に対して、そうした技術の需要がないといったことを主な理由として、現時点では対応する予定がないとしている。 ビデオカードに限らず、複数枚のPCI Express拡張カードを利用した場合、それぞれに割り当てられるレーン数はOSの起動時に最適な状態で設定される。また「拡張スロットユーティリティ」がOSには含まれており、実際に割り当てられたレーン数を視覚的に確認できるほか、ユーザーがいくつかの選択肢の中から設定を変更することも可能だ。ちなみにこのユーティリティは、通常の[アプリケーション] - [ユーティリティ]ではなく、[システム] - [ライブラリ] - [コアサービス]下にある。 さてCTOによってカスタマイズされ、現状では最速と目されるMac Proがどれだけ速いのかベンチマークによって比較してみよう。ベンチマークソフトは「Xbench 1.3」を利用。これはMac Proの発表直後にリリースされたばかりの最新版である。Mac Proの発表でMac製品のラインナップすべてがIntel化されたタイミングでもあることから、今後のレビューの基準とすべくMac mini(Core Duo 1.66GHz)とともに計測を行なってみた。 Xbench 1.3では基準となるマシンとして『Power Mac G5 Dual 2.0GHz/2.5GB RAM/GeForce 6800 Ultra』が利用されている。この機種のベンチマーク結果がスコア100だ。ベンチマークのスコアをそのままグラフにすると下記のような結果となる。
また、Mac miniを基準とするとこうだ。
XbenchはPowerPC、Intel Coreともにネイティブなベンチマークである。ベンチマークソフト自体が基準としているPower Mac G5に比べると、ほぼ期待通りの数値を出していることが分かる。いっぽうで3Gbps シリアルATAの採用によって、本来高速であるはずのDisk Testの結果がかなり見劣りしている。この結果は他の環境でも同じような状況のようで、ベンチマーク自体の不備か、あるいは機器やMac OSのドライバ周りの不備か、さらに検証を続ける必要がありそうだ。何か続報や情報があれば、機会を見つけてお知らせする。 ●最速のMacは、最速のPCへもあと一歩 もう1つ、最速のMacは最速のXeon搭載PCとなるのか? という点も興味の1つ。Mac Proの登場にあわせて「Boot Camp」もアップデートされている。8月16日に更新されたバージョンは1.1β。既存のIntel搭載Macでドライバのアップデート作業を行なったユーザなら気がついているかも知れないが、パッケージファイルのサイズが200MBへと大幅に増加。実際にインストールを行なうと、NVIDIA製のグラフィックドライバをはじめとして明らかにMac Pro向けと思われるドライバ類が数多く含まれていた。 そこで、期待を込めて64bit版Windowsである「Microsoft Windows XP Professional x64 Edition」のインストールを試みたものの、実用には至らなかった。x64 Edition自体のインストールは特に問題なく終了するのだが、Macintosh DriversのインストーラーがOSのチェックを行ない、インストールを中止してしまうため、各種ドライバ類のインストールができないのだ。実際、64bit対応のドライバなどもまだ含まれてはいないのだろう。 このままでは高度なグラフィック機能やEthernetが利用できないため、実際の利用はかなり難しい。しかしOSとしては基本的なインストールができていることを考えれば、64bit版ドライバの準備が整い次第、x64 Editionが使えるようになる可能性もある。β版ではあるが、Boot Campの今後のアップデートに期待しよう。
Boot Camp1.1βの詳細については、すでに元麻布氏の記事で詳しく紹介されている。Mac Proへのインストールについても他機種同様、SP2適用のWindows XPが利用できる。 XP ProfessionalとMacintosh Driversインストール後、デバイスマネージャを開いてみると、Bluetoothや2つのGigabit Ethernetなどが正しく認識されている。CPUもデュアルコアが2個で、計4個のコアが表示されている。一方で、MacBookなどでは1.1βから使用可能になったiSightカメラが未対応。iMacやMacBookでは内部でUSB接続されているが、Mac Proでは外付けのFireWire接続の機器を使っているのが要因かも知れない。Windows側からは汎用のPCカメラとして認識されてはいるが、輝度調整などがきちんと行なえないため、現時点では使えないようだ。
Boot Camp環境下での、ベンチマーク結果は下記のとおり。既存のPC製品と比較しやすいように、本誌連載である「多和田新也のニューアイテム診断室」で使われているベンチマークソフトをいくつか使用している。ちなみに、8月1日掲載分に、今回紹介したMac Proと同じXeon 5160を使ったPCのベンチマーク結果が掲載されている。 同一人物が同一環境下で比べた結果ではないので、数値の併記は行なっていない。興味のある方は、ぜひ当該記事と見比べてみていただきたい。
【表2】Boot Camp環境下でのベンチマーク結果
パーツ単位で見れば、CPU、チップセットはまったく同じ。メモリもメーカーこそ異なれど同容量で、HDDもメーカー違いの同容量となっている。ビデオカードのみ、Quadro FX 4500とQuadro FX 4400という違いがあるが、非常によく似た(比較しやすい)機器構成となっている。結果、ベンチ結果もほぼ同じようなスコアが出た。3D Mark関連で少し差が出たのは、ビデオカード分のアドバンテージというところだろう。数値だけで見るならば、十分にPCとしてのパフォーマンスを果たしているといえる。 いっぽうでBoot Camp自体がまだβということで、必ずしもWindows環境での安定した動作が保証されているわけでもなく、ドライバ類が充実してもいない。数値としてはあらわれていないが、Mac OS環境でのベンチ結果にもあったようにHDD周りの速度には不安要素があるのも事実だ。このあたりはβ版のバージョンアップやLeopardの登場で順次改善されていくものと期待されるが、周辺環境も含めて参考の1つとしていただきたい。 □アップルコンピュータのホームページ (2006年9月4日)
[Reported by 矢作晃]
【PC Watchホームページ】
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