Macの上でWindowsを動かすという行為は、しばらく前なら考えられないことだった。MacのプロセッサであったPowerPCでは、Windowsを直接動かすことができない('97年2月7日にWindows NT 4.0におけるPowerPCサポートの打ち切りが発表された)し、PowerPC上の仮想マシンで実行されるWindowsは、アプリケーションによっては使えるかも、という程度でしかなかった。
ところがAppleがプロセッサをIntelに乗り換えたのをきっかけに、Macの上でWindowsを動かすことがにわかに現実味を帯びた。最初はインターネット上の有志により、そしてついにはApple自身によるBoot Campの提供により、Mac上に直接Windowsをインストール、起動することが可能になった。 またIntelプロセッサの採用は、そのままx86互換仮想マシンの性能向上にもつながり、Parallelsに代表される仮想マシンマネージャ(VMM)ソフトでWindowsを利用することもすっかりおなじみになっている。残念ながらMicrosoftはVirtual PC for MacのIntel Mac対応を行なわないことになったが、年内にはVM WareもMac対応VMMをリリースすると言われており、仮想化によるソリューションもますます充実することだろう。 実際、両方を使い比べると、仮想マシン上でWindowsを動かすのは便利だ。システムを再起動することなく、Mac OS XとサイドバイサイドでWindowsを利用できる。性能も、3Dゲームのような特別なものでなければ、それなりのものが期待できる。ただ、メモリだけは大量に必要になるので、少なくとも1GB、できれば2GBのメモリを実装しておきたい。 一方、Boot CampによるWindowsの利用は、OSの切り替えにシステムの再起動が必要になるのが最大の障害だ。しかし、起動してしまえば、通常のPCと同じレベルの性能(ハードウェア構成に見合った性能)が期待できる。また、基本的に動かないソフトウェアはない(仮想マシンでは、どうしても動かないソフトウェアや周辺機器が今のところ存在する)。同時に2つのOSを動かすわけではないから、それほど大量のメモリが必須でもない。 Boot Campで残念なのは、β版のソフトウェアということもあって、デバイスのサポートが必ずしも十分ではないことだ。とりあえずIntel Macであれば、Windowsが動作する最低限のデバイスはサポートされているものの、未サポートのデバイスも少なくない。 また、ハードウェアとしてはサポートされているデバイスであっても、キーボードのようにMacとWindowsでキーマップが異なるものは、キーボードとしては使えているんだけれど、特定のファンクションが利用できない、といった問題も残されている。特にわが国では、日本語の入力に関連したキーの問題もあり、キーボードサポートの充実が待たれている。 ●大幅に改良されたBoot Camp 1.1
そんなところにBoot Campバージョンアップの報が飛び込んできた。このVersion 1.1では発表されたばかりのMac Proに対応したのをはじめ、多くの改良と機能の追加がほどこされている。添付のドキュメントによると、1.1での改良点(解消された問題)は、 ・オーディオ出力のLEDランプが、未使用時にも点灯する問題の解消 の5点。一方、追加された機能としては、 1. 最新のIntelプロセッサ搭載Macに対応 の7点があげられている。1と2は明らかにMac Proを意識した機能だ(現時点で複数の内蔵HDDを持てるのはMac Proだけ)。 とりあえずこのBoot Camp 1.1をMac miniにインストールしてみた。 インストールを始めると、いきなり上の3について確認できた(画面2)。初期設定値はこれまで通り5GBだが、パーティションサイズのオプションとして、均等に分割と32GBを使用が用意されている。言うまでもなく前者はMac OS XとWindows XPで、HDDを半分ずつ利用する設定、後者はMac OS Xから読み書き可能なFAT32でフォーマット可能な上限(Windows XPでの)である。均等に分割を選ぶなどして、パーティションサイズが32GBを超えると、FAT32でフォーマットできない旨の警告まで表示してくれる(画面3)。
Boot Campのインストール(正確にはそのユーティリティであるBoot Campアシスタントのインストール)が終わると、Windows XP用デバイスドライバのディスク作成(CD-R)がスタートする。今回のバージョンアップではこのドライバの更新が大きな変更点の1つなので、必ず作成しておきたい。 ドライバディスクの作成が完了すると、設定したパーティションへのWindows XPのインストールが始まる。インストール途中でメディアの交換ができない点(MCEなど2枚組になるバージョンやオリジナルの確認を行なうアップグレード版は不可)は、これまで通りだ。またMac Proは64bit拡張に対応したXeonプロセッサを採用するが、Boot Campはx64版のWindowsはサポートしていない。 画面4は、Mac miniのBoot Camp環境にWindows XPをインストールした直後の状態をデバイスマネージャーで表示したものだ。当然のことながら多くのデバイスが、対応するドライバがない状態になっている。ここで、上で作成したドライバディスクをセットすると、セットアップが自動実行されドライバのインストールが始まる。ドライバはシステムに組み込まれるほか、C:\Program Files\Macintosh Drivers for Windows XPフォルダの下にデバイスごとのパッケージが展開される(画面5)。展開されるのはドライバディスクに含まれる全デバイス分のドライバで、実際に利用しているデバイスのみではないようだ。
ドライバのインストールが完了した状態をもう1度デバイスマネージャで確認してみる(画面6)。画面5と比べて動作しないデバイスの数が激減しているが、まだ3つのデバイスが動作していない。その他のデバイスにあるPCI DeviceはどうやらSpeedStepのようで、Windows XP実行中のMac miniは常時最高クロック(1.66GHz)で動作している。今回のVer 1.1でスリープ状態のサポートが加わったが、SpeedStepが動かない状態では、ノートタイプのMacでWindows XPを運用するのはかなり厳しい。バッテリの持ちが極端に悪くなるし、発熱も心配だ。一刻も早いサポートが望まれる。 その下の不明なデバイスはLPCインターフェイスとなっている。LPCはISAバスの代替で、通常のPCではここにSuper I/OチップやBIOS ROMが接続されているが、レガシーI/Oをサポートしておらず、ファームウェアがEFIになったMac miniでは利用していないようだ。残る!マーク付きのUSBヒューマンインターフェイスデバイスは、Apple RemoteのIR受光部で、今のところ付属のリモコン(Mac OS XではFront Rowで利用)をWindowsで利用することはできない。この3つ以外のデバイスはちゃんと動作しており、無線LANもWindowsで利用できるようになった。 このドライバのインストール過程で、Apple Keyboard Supportが組み込まれたことを確認できた(画面7)。Apple Keyboard Supoortはデバイスドライバ本体に加え、タスクトレイ常駐部もあり(画面8)、必要に応じて有効と無効を切り替えることができる。
●キーボード周りにやや難あり ただ困ったことに、このApple Keyboardがどのようなサポートを行なうのか、付属のドキュメントに書かれていない。触ってみると、どうやら、Mac固有の特殊キー(音量小、音量大、ミュート、光学ドライブのイジェクト)が、Windows XPでも正しく動作するようになる。その他のキーについては、キーボードの物理的な配置にほぼ準じるらしい。 写真1は今回用いたApple日本語キーボードだが、カーソルキー上部のブロックにF14~F16のファンクションキー、Deleteキー(returnキーの上のdeleteキーが実際はBackspaceであるのに対し、こちらはカーソル位置の文字を消去する)の上にhelpキーがある。Apple Keyboard Supportを組み込むと、F14はPrintScreen、F15がScrollLock、F16がPauseキー、helpがInsertとしてそれぞれ利用可能になる。また、テンキー部のclearキーもNumLockキーとして利用可能になるが、PC用キーボードと異なりロック状態を示すインジケーターがないためちょっと戸惑う。 このように、Appleキーボード側に相当するキーがあるものは良いのだが、問題は該当するキーがない場合だ。写真3はApple日本語キーボードの左側だが、1キーの隣に~キーがない。Windowsで使われる日本語キーボードでは、このキーが漢字キーになっており、Alt+漢字キーでIMEのON/OFFを行なう。Apple日本語キーボードの場合、これが利用できないから、IME側で割り当てを変えるなどして回避しなければならない。Apple英語キーボードには~キーが用意されており、デフォルト設定でIMEのON/OFFができることを考えると、Boot Campで日本語版のWindowsを利用するのであれば、やはりApple英語キーボードを選んだ方が無難だ。 逆にApple日本語キーボードには、日本語に対応したキーとして、英数キーとカナ/かなキーが用意されているのだが、Boot Camp 1.1でもサポートが行なわれていない。正式リリースでは、こうした部分のサポートも是非お願いしたい。 もう1つサポートをお願いしたいのは、ワイヤレスキーボードのサポートだ。まだβ版であるBoot Campのシステム要件には、内蔵キーボードもしくはUSBキーボードが必須となっている。Windows XPのセットアップさえ終われば、通常のBluetoothキーボードとしてAppleワイヤレスキーボードを利用することができるものの、Boot Camp 1.1に付属するApple Keyboard SupportはApple製のキーボードとして認識しない。 こうした改善が望まれる部分が残されているとはいえ、Boot Camp 1.1は、Boot Camp 1.0xに比べ、着実に進歩している。思った以上に仮想マシンソフトのParallels Desktop for Macが使いやすく、米国のApple Store(店頭およびオンライン)でもパッケージ販売が始まったことを受けて、Boot Campの将来を危ぶむ声もないではなかったが、LeopardでBoot Campを正式提供するというAppleの方針に変わりはないようだ。Parallelsによる仮想環境とBoot Campによるネイティブ環境は、互いに補完し合う関係であり、どちらかだけで十分ということは(少なくとも今のところ)ない。すべてのアプリケーションに対応できて、性能に妥協のない環境として、Boot Campの改良を進めて欲しい。
□アップルコンピュータのホームページ (2006年8月23日) [Reported by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
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