デルの“XPS”シリーズは、ハイエンドユーザーをターゲットにした高級路線のPCで、前回の記事ではそのデスクトップPC版である「XPS 700」を紹介した。XPSシリーズには、ノートPCも用意されているが、その中でもっともハイエンドに位置付けられるのが今回紹介する「XPS M2010」だ。 XPS 2010は、ノートPCとしては最大級となる20.1型という超大型の液晶ディスプレイを搭載しており、取り外しが可能なBluetooth接続のキーボードを採用することでノートPCとしての使い方も、省スペースデスクトップとしての使い方も可能なユニークなデザインを採用しているのが特徴だ。 ●液晶一体型PCっぽくもあるXPS M2010 デルのXPS M2010(以下本製品)は、冒頭でも述べたように、デルのハイエンド向けPCブランド“XPS”シリーズの製品で、ノートPCとしては最上位モデルに相当する。ただし、本製品を純粋にノートPCと位置付けられるかと言えば、それには異論が出るだろう。 なぜかと言えば、本製品は一応ノートPCのように折りたたんでしまうこともできるが、20.1型ワイドという巨大な液晶を採用しており、大きさはほとんど液晶一体型PCと言って良いサイズだからだ。実際、キーボードはBluetoothで接続されており、本体から取り外して利用できる。キーボードを外してしまうとほとんど液晶一体型PCという趣で、これがノートPCかと言われると正直考えてしまう。つまり、ノートPCとしての顔と、液晶一体型PCとしての顔、そうした2つの顔を兼ね備えているのが本製品と言えるのではないだろうか。 キーボードを取り付けているとき、つまりノートPCライクな状態の時には、ノートPCと同じように液晶ディスプレイを折りたたんで、持ち運んで利用することが可能だ。折りたたむと、ちょうど液晶を支える部分が持ち運ぶとってのようになっており、8kg強という重量を考えると手軽に持ち運べるとは言えないが、それでもなんとかポータブルの範囲内に入ると言えるだろう。 キーボードは特にボタンなどなく、本体側の軽いロック機構を利用して接続されている。取り外しはワンタッチで、単にキーボードを持ち上げるだけではずれるようになっている。ただし、液晶を閉じた時にはキーボードには液晶側のツメで固定されるようになっており、液晶を閉じて持ち運ぶ時にはしっかり固定されるので心配する必要はない。キーボードは充電式になっており、充電は本体に接続された状態で行なわれるようになっている。 なお、キーボードにはタッチパッドも用意されており、キーボードだけでほとんどの操作を完結できるのはよい。別途、Bluetooth接続のマウスも用意されているが、ほとんどの場合、操作はキーボードとタッチパッドだけですんでしまうだろう。
●GPUにはMobility Radeon X1800を搭載し、高い3D性能を実現 20.1型の液晶ディスプレイは、1,680×1,050ドット(WSXGA+)のワイド液晶で、最近増えつつある16:9のアスペクト比のコンテンツを閲覧するのに適している。視野角は左右170度、コントラスト比は300:1と、ノートPCとしては十分すぎるスペックとなっている。実際、左右から見てみたが、ノートPCにしては割と横から見えるなという印象だった。最近の液晶TVのように真横からでも見えるとまではいかないが、本製品がパーソナル向け(つまり1人で見ることが前提の製品)であることを考えると十分だと言える。 ユニークなのは、一般的なノートPCとは異なり、液晶の角度をかなり自由に設定できることだ。これは、液晶が液晶下部に用意されているヒンジで支えられているのではなく、液晶の背面にヒンジがついているためで、ヒンジと本体部分、ヒンジと液晶部分の2カ所で角度をつけられるため、見やすいように設定できることは特筆に値する。 GPUは、ATI TechnologiesのMobility Radeon X1800のみが選択できる。デルと言えば、BTOが特徴的なダイレクト販売のメーカーだが、本製品ではCPU、メモリ、HDDなどは選択できるものの、残念ながらGPUに関してはX1800のみの選択となる。とはいえ、Mobility Radeon X1800はバーテックスシェーダエンジンが8つ、ピクセルシェーダエンジンが16個も搭載されており、ビデオメモリも256MBが搭載されているなど、デスクトップPC向けGPUも顔負けのスペックで、よっぽど重たい3Dゲームを走らせない限りは十分な仕様といえるだろう。もちろん、Windows VistaのUltimate EditionやPremium Editionなどでサポートされる予定の3D効果を利用したユーザーインターフェイスの“Aero Glass”を利用するにも十分すぎるスペックだ。 CPUはIntelのCore Duoが採用されており、T2600(2.13GHz)/T2500(2GHz)/T2400(1.83GHz)を選択できる。チップセットはIntel 945(PMかGMかはスペックからはわからなかったが、GPUがMobility Radeon X1800のみであることを考えると、PMと考えるのが妥当だろう)で、メモリはSO-DIMMを最大2つ搭載することができ、512MB/1GB/2GB/4GBから購入時に選択できる。 HDDは、2.5インチドライブを2台内蔵可能になっており、Intel 945のサウスブリッジであるICH7MのRAID機能を利用してRAID 0ないしはRAID 1構成で利用できる。選択できるHDDは80/100/120GBの容量で、RAID 0構成にした場合には最大で240GBとノートPCとしてはかなり大容量にすることが可能だ。
●ExpressCard、Bluetooth 2.0など最新の技術を採用 本体サイズがかなり大きいこともあり、I/Oポートなどは十分なものが用意されている。USB端子は背面と左側面に2つずつの合計4つ、IEEE 1394ポート(4ピン)×1、Gigabit Ethernet、モデム、ヘッドフォン/マイク端子、DVI-I出力、ビデオ出力、IRブラスタ(メディアセンターのリモコンによる外部機器操作用IR端子)などが用意されている。なお、ビデオ出力に関しては、付属のアダプターを利用することで、Sビデオだけでなくコンポーネント出力としても利用することができる。 カードリーダに関しては、メモリカードリーダが2つと、ExpressCardスロットが用意されている。メモリカードリーダは、SDカード(SDIO対応)/MMC/メモリースティック(PRO)/xD-Picture Card対応のスロットと、CF(Type2対応)用の2つが用意されており、ExpressCardスロットは34/54の両方に対応している。なお、本製品ではPCカードスロットは用意されていない。現状ではExpressCardスロットに対応したカードがほとんどないことを考えると、PCカードスロットがあったほうが良かったと思うが、実際にはメモリカードリーダでほとんどのメモリーカードが対応可能であることを考えると、あまり気にする必要はないだろう。 無線関連に関してはIntel Pro/Wireless 3945ABGないしはDell Wireless 1390が選択できる。前者を選択すると、IEEE 802.11a/b/gのトリプル対応、後者はIEEE 802.11b/gのデュアル対応となる。なお、前者を選択した場合はCentrino Duoブランドとなり、後者を選択した場合にはCore Duoブランドとなる。両者の差は千円程度なので、特に理由がなければIntel Pro/Wireless 3945ABGを選ぶのが良いだろう。標準搭載されているBluetoothはBluetooth v2.0 +EDRに対応した最新版で、v2.0対応としては標準的な東芝のソフトウェアスタックが採用されている。
●Windows XP MCEの採用で、マルチメディアマシンとしての活用が可能に 本製品はOSとしてWindows XP Media Center Edition 2005(Update Rollup2適用済み)かWindows XP Professionalを選択することができる。デルは本製品を“プライベートシアター”と呼んでマルチメディアマシンと位置付けており、そうした使い方で本製品を購入するのであればやはりWindows XP MCEを選択したい。 本製品はTVチューナを内蔵していないため、Windows XP MCEを選択した場合、USB接続のTVチューナキットが付属してくることになる。付属のUSBチューナは、高画質化機能として3D Y/C分離、デジタルノイズリダクションが実装されており、最高画質とはいかないまでもそれなりの画質でアナログTVの視聴/録画を楽しむことができる。 リモコンには、一般的なMCEリモコンの他、3Dマウス機能付きMCEリモコン“Dell Premium Remote Control”が付属してくる(なぜかデルのWebサイトにはそのことに関する言及が全くないのだが……)。Dell Premium Remote ControlはGyrationの“GO 2.4Ghz Media Center Universal Remote Control”が元になっている。Gyrationは上下左右への移動を検知し、それをポインターの動作に変える3Dマウスで有名なベンダだが、Dell Premium Remote Controlにもマウスボタンがついており、それを押しながら上下左右に振りまわすと、その方向にマウスポインターを移動させることができる。また、MCEの緑のスタートボタンや再生や停止、数字ボタンといったWindows XP MCE用のボタンも用意されており、単なるMCEリモコンとして利用することも可能だ。 また、メディア関連の操作(再生、停止)などは、光学ドライブの手前に用意されているボタンを利用しても行なうことができる。光学ドライブはDVD±RWへの書き込みに対応したTEACのDVW28SLZが採用されており、DVD±R 8倍、DVD+R DL 2.4倍、DVD+RW 4倍、DVD-RW 2倍で書き込むことが可能になっている。ボタンはこれの手前に用意されており、ボタンを押すと青く光るのがアクセントになっている。よくありがちだが、リモコンが見つからないという事態になっても、すぐに手軽に操作できるという意味でも本体にこうしたボタンが用意されているのはありがたい。
●起動時間にやや難ありの“Dell Media Direct” 本製品のもう1つの特徴として、OSが起動していなくてもHDD上にあるメディアファイル(音楽、ビデオ、静止画、DVD)が再生できる“Dell Media Direct”という機能が用意されていることだ。これは、Windows Embededを利用して実現している機能で、Windows XP MCEを搭載しているモデルでは、PCの電源がOFFになっている状態かハイバネーションしている状態でホームボタンというボタンを押すと、起動するようになっている。 こうした機能は日本のコンシューマ向けPCで多くみられる“インスタント機能”と呼ばれるものと同じだ。ただし、日本のコンシューマ向けPCのインスタント機能が、その名の通り数秒で起動するのに対して、本製品のDell Media Directは起動に74秒もかかっていた。正直に言って、これだけ待つのなら、もうあと1~2分待ってOSを起動させた方が便利だ。また、Dell Media Directでは、日本でもっとも利用率が高いであろうライブテレビの機能も用意されていないのも惜しい。 そうした意味では、正直言って日本メーカーのコンシューマPCのインスタント機能に比べるとやや物足りないと感じてしまう。もっとも、デルの製品にこうしたインスタント機能が搭載されたのは、ごく最近のことでまだまだ第1世代と言って良い。すでに日本のPCメーカーはそうした機能を搭載してから数年たってこなれてきていることを考えると、ある程度は致し方ないと言えるだろう。今後の改善に期待したいところだ。
●Core DuoとMobility Radeon X1800の採用で高い処理能力を実現 本製品のパフォーマンスを検証するため、本連載でノートPCに対して行なっているベンチマークプログラムを実行してみた。利用したのは、FuturemarkのPCMark05と3DMark03、スクウェア・エニックスのFINAL FANTASY XI Official Benchmark 3だ。結果は以下の通りだ。
【表】ベンチマーク結果
他のマシンがいずれもチップセット内蔵GPUを利用したマシンであるのに対して、本製品のみがATI TechnologiesのMobility Radeon X1800という単体型のGPUを搭載しており、その差は歴然と現れている。 Intelの最新チップセットIntel 945GMシリーズに内蔵されているIntel GMA 950は、DirectX 9に対応するなど従来の内蔵GPUに比べると高い描画性能を実現しているが、それでも、専用のビデオメモリを持ち、ピクセルシェーダーのパイプ数が16(GMA 950は4つ)にもなるMobility Radeon X1800にはかなわないということだ。 また、PCMark05の結果を見てわかるように、CPUに関してもCore DuoとしてはハイエンドのT2600を採用し、HDDもRAID 0になっているなどから、他の製品とは比べものにならない性能を発揮しているのがわかる。 ●これまでのノートPCの小さなディスプレイに満足できないユーザーにお勧め 以上のように、本製品はCPUにCore Duo、GPUにMobility Radeon X1800などといったノートPCとしてハイエンドのコンポーネントを採用し、ノートPCとしては比類無い性能を発揮しているだけでなく、20.1型というもはやノートPCと呼ぶのにふさわしくないほどの大型の液晶を採用するなど、スペック面ではけちのつけようが無いぐらいだ。 惜しむらくは、Dell Media Directの起動時間が遅いなど、日本市場向けのコンシューマPCとしてはまだまだ改善してほしい部分があるところだが、それでもOSにWindows XP MCEを採用し、3Dマウス機能を備えたリモコンや光る再生ボタンといったユニークな機能により、これまでの日本のコンシューマPCにはない魅力も備えている。 価格は30万円台半ばからと決して安価な製品ではないが、これまでにはないユニークなPCを探していたユーザーや、ノートPCであるという特性を生かして家の中で場所を移動して使いたいがディスプレイは大きいものがほしいというユーザーなどにお勧めだろう。
□デルのホームページ (2006年7月26日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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