●アーキテクチャの時代に入るCPU CPUはアーキテクチャ競争のステージに入る。Intelは、2006年中盤から「Core Microarchitecture」のCPU群を投入し始める。さらに、2008年には「Nehalem(ネハーレン)」、2010年には「Gesher(ゲッシャ)」と、2年置きに新マイクロアーキテクチャを投入する計画だ。 AMDもコアアーキテクチャの拡張で対抗する。2007年には、サーバーとデスクトップ向けの「Hound(ハウンド)」コアと、モバイル向けの「Mobile Processor」の2種類のコアを導入する。さらに、2008~2009年にはさらに改良したモバイルコアをリリースする予定だ。 CPUのコアアーキテクチャは、ここ3年ほど足踏み状態にあった。AMDのK8とIntelのBanias(Pentium M)以来、両社とも基本アーキテクチャの進化は止まったままだった。マルチコア化による進化はあったが、CPUコア自体のアーキテクチャ拡張は比較的小幅に留まっていた。だが、今後は、停滞から打ってかわってアーキテクチャの拡張が続く。 その理由はいくつかあるが、特に大きいのは、CPUの消費電力の増大だ。一定の消費電力の枠の中で、パフォーマンスを上げるためには、アーキテクチャを改良する必要がある。以前のように、一度新アーキテクチャを導入したら、あとはプロセスの微細化による、動作周波数の向上に頼って、性能アップを図るというわけに行かなくなった。そのため、CPUではアーキテクチャが強調される時代になったのだ。 ●エマージング市場を含めた4市場へと届かせる
アーキテクチャ競争時代に入るCPUベンダー。AMDは、そのアーキテクチャ戦略を、6月頭に開催したカンファレンス「Analyst Day」と、先週の「COMPUTEX」などで明らかにした。AMDのPhil Hester(フィル・へスター)氏(Senior Vice President & Chief Technology Officer)へのインタビューなどをベースに、AMDの戦略をまとめてみた。 AMDは、CPUの開発戦略を大きく転換、市場セグメントに合わせたコアを開発することにした。Analyst DayでPhil Hester氏は、戦略の概要を明らかにした。 「我々は、1つのコア設計を、サーバー、デスクトップ、モバイルそれぞれの市場にモディファイする戦略から離れた。3つの伝統的な市場それぞれに、より最適化した設計にする。さらに、エマージング市場(Emerging Market)、我々はイノベーティブソリューションと呼んでいる市場にも対応する。例えば、50×15イニシアチブ――教育用ラップトップ、パーソナルインターネットコミュニケータなどだ。Microsoftとの“FlexGO”での提携もこれに入る」 エマージング市場は、これまでのPCが届かなかった新市場を指す。従来、PCを購入しなかった層に、コンピューティングデバイスを提供することで市場を産み出す。AMDは「50×15」イニシアチブで2015年までに世界人口の50%に、安価なインターネット接続とコンピューティングを提供するビジョンを掲げている。 同じようなビジョンは、IntelやMicrosoftなど、他の多くのIT企業が語っている。各社で、エマージング市場の定義は微妙に異なるが、目的は同じだ。要は、コンピューティングデバイスをより安く、使いやすくして、PCが浸透していない市場を開拓し、産業規模を広げようという話だ。そのため、この市場向けのCPUには、安価、低消費電力といった要素が求められ、コンピューティングパフォーマンスはそれほど追求されない。 ●AMDは2種類のコアで4市場をカバーする 伝統的な3市場に、エマージング市場が加わったことで、市場はより範囲が広がった。AMDはこれらの市場に、2系統のCPUコアを投入することで対応する。 「この4つのセグメントを見ると、2つの重要なセグメントがドライブしていることがわかる。ハイエンドデスクトップとサーバーでは、パフォーマンス、スケーラビリティ、パフォーマンス/電力が要求されている。一方、モバイルとエマージングエリアでは、非常に高い電力効率が求められている。この2つのエリアは、ちょうど真ん中でオーバーラップしていることに気づくだろう。それが意味するのは、我々が2つのフォーカスエリアからキーテクノロジ要素を引っ張ってこれるということだ」(Hester氏) つまり、市場自体は4つに分かれているが、実際には必要とされるキーテクノロジは、大きく2つのフォーカスエリアに分けられるとAMDは見ている。1つは、パフォーマンスオリエンテッドなエリア、もう1つは、低消費電力のエリア。だから、この2エリアそれぞれに最適化したコアを開発すれば、4市場全てをカバーできるというのがAMDの戦略だ。
実際、AMDは2つのフォーカスエリアに対して、2種類の異なるCPUコアを開発している。「サーバーエリア向けのコアでは、パフォーマンス、パフォーマンス/電力、スケーラビリティを狙う。モバイルスペース向けのコアでは、特に高い電力効率を狙う。これら(2つ)のコアテクノロジで、サーバーとモバイルの両エリアに加えてデスクトップエリアも対応できるだろう」(Hester氏) 面白いのは、AMDとIntelで、ちょうど戦略が逆転することだ。Intelは、これまで、サーバーとデスクトップにNetBurst(Pentium 4)、モバイルにBanias(バニアス)/Yonah(ヨナ)アーキテクチャと、2本立てアーキテクチャで来た。しかし、2006年中盤からは「Core Microarchitecture」で、モバイル、デスクトップ、サーバーの3市場をカバーしようとしている。対するAMDは、これまでの単一コア設計から、2コア設計の併存へと進む。 ●CPUの機能ブロックのモジュラー化でコアの分化を実現 もっとも、AMDの戦略は、Intelとはかなり異なる。Intelは、全く異なるマイクロアーキテクチャの2種類のCPUコアを併存させていた。それに対して、AMDの2種類のコアは、どちらもK8コアアーキテクチャから派生したものだ。CPUコア自体の機能を変えた上に、I/Oブロックなどの機能や構成も変えることで、性格の異なるコアに仕立てている。Intelと比べると、ずっと少ない労力で、2系統のコアに作り分けたことになる。Intelより少ない開発リソースで、市場のバラエティに対応しようという戦略だ。 さらに、AMDは、それぞれのコアからの派生コアも用意する。具体的には、サーバーとハイエンドデスクトップ向けにはクアッドコアの「Hound」ファミリを用意し、その派生でデュアルコアをデスクトップ向けに提供する。一方、モバイルではデュアルコアの「Mobile Processor」を開発しているが、さらに派生でシングルコアも検討している。 AMDは、Rev. GまでのK8ファミリでは、キャッシュサイズとCPUコア数の違いしか、設計上のバリエーションを作って来なかった。しかし、2007年以降は、より多くのバリエーションを作ることになる。そのため、AMDはCPU設計を完全にモジュラー化したという。Hester氏は、Analyst Dayで次のように説明している。 「重要な点の1つは、我々はソリューションを広げた開発のために、(CPUの)設計をモジュラー化したことだ。CPUの中には、10~15の主要な機能グループがある。過去には、かなりモノリシックな設計を行なっていた。個々の機能ピースを(ダイ上で)識別することはできるが、インターフェイスは全然クリーンではなかった。そのため、(コンフィギュレーションを変えた場合は)各ピースが動くようにモディファイするには、多くのエンジニアリングリソースが必要だった。 しかし、我々はそれを変えつつある。次世代の設計では、それぞれのビルディングブロック間のインターフェイスをよりよく定義した。そのため、異なる市場に向けて最適化した設計を非常に簡単に構成できる」 またHester氏は、インタビューで次のように語っている。 「機能ブロックのインターフェイスの定義のために、膨大な数のエンジニアを動員した。(インターフェイスの定義によって)パフォーマンスが損なわれないようにした」 これまでも、AMDのCPUでは、各機能ブロックは明確に分かれているのが見て取れた。しかし、各ブロック間のインターフェイスが一定化されていなかったために、機能ブロックの組み替えを行なうには、膨大なエンジニアリング労力が必要だったという。しかし、2007年のCPUからは、インターフェイスが明確に定義されたため、各ブロックのインターコネクトが容易になり、コンフィギュレーションが比較的簡単にできるようになった。 また、AMDは、個々の機能ブロック自体をモジュラー化するだけでなく、ブロック自体も改良した。「改良のある程度は業界の標準的なCADツールの改良で、それ以外は、我々が内部的に開発したメソドロジーでなされた。ソフトウェアはどんどん機能が進化しており、2~3年前ならできなかったような、より洗練された設計や進んだ最適化ができるようになった」。「これは、最初のステップで、一種の証明だ」(Hester氏) ●同じ機能ブロックで2種類の派生コアを作り分ける AMDがモジュラー設計の例として示したのが下のコンセプトチャートだ。このスライドでは、さまざまな機能ブロックを組み合わせることで、2種類の異なるコアを作り出している。図の右側がサーバーとハイエンドデスクトップ向けのクアッドコアのHound、左がデスクトップ向けのデュアルコアだ。 「この例では、サーバー向けとデスクトップ向けの2つのコアを設計している。これらは、同じ基本ビルディングブロックを使うが、アレンジが異なる」(Hester氏)
図の左側のデスクトップ向けコアは、今のデュアルコアK8と構成が似ている。CPUコア自体は拡張されているが、CPUコア数は2個。HyperTransportは3リンク、キャッシュはL1とL2の2階層、メモリコントローラを内蔵する。ちなみに、「IO」となっているのは、HyperTransportとメモリインターフェイス以外の各種I/Oバスで、新しい高速I/Oが加わったわけではない。 また、デスクトップ向けコアの図には、現在のK8には存在する「クロスバースイッチ」が入っていないが、これは単に図の都合上だという。「これはコンセプトチャートで、あまり深読みをしてはいけない。クロスバーも、デスクトップ向けコアの図に入っているべきだろう」とHester氏は言う。 右側のサーバーとハイエンドデスクトップ向けコアは、見ての通り4個のCPUコアを備え、L3までのキャッシュ階層、4リンクのHyperTransportなどを備える。こちらのクロスバースイッチは、デュアルコア版より拡張されたものとなる。このチャートからは、構成がかなり異なる2つの設計コンフィギュレーションが、モジュラー化によって実現することがわかる。ちなみに、このチャートにあるのは、あくまでもサーバー/デスクトップ系のコアだ。モバイルコアでは、サーバー/デスクトップ用とは一部異なる機能ブロックを使うことで、さらに性格の異なるコアを作り分けている。 また、この図でもう1つ重要なのは、図中右上にあるグレーの「Other」ブロックだ。 「我々が将来必要とする他の機能ブロックを加えることができるように、チップの内部を設計する。グレーのブロックは、それを示している。オンチップのコプロセッサなどがそうだ」とHester氏は説明する。 インターフェイスのクリーン化は、システムオンチップ(SoC)型の設計の基本でもあり、そのために、AMDは、将来、コプロセッサコアといった、異なるIPも、簡単に統合できるようになった。Hester氏によると、コプロセッサは、インターナルのCoherent HyperTransportリンクでCPUの機能ブロックに接続されるという。その場合は、クロスバースイッチに接続しているHyperTransportリンクが、チップ外だけでなく、オンチップのコアも接続すると推測される。 こうして見ると、AMDの次世代コアは、設計のモジュラー化によって、根本から変わり始めたことがわかる。
□関連記事 (2006年6月16日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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