●2台目のPCをめざすUMPC
すでに先進国においてPCは一通り行き渡っており、PC市場全体の成長は発展途上国、中でもここ最近の経済発展がめざましいBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)にゆだねられている今、先進国での新たな需要を掘り起こす「2台目」のPCの有力候補と見られているわけだ。 しかしこのUMPC、わが国ではあまり評判がよろしくない。UMPCの仕様自体は、決して固定的なものではないというものの、ミニマムの要求が低すぎて、本気で取り上げてもらえないという感じである。 難しいのは、この種のデバイスの利用モデルをどう考えるか、という点だ。あくまでも補助的な役割のデバイスとして割り切るのがUMPCのアプローチで、だからこそハードウェアの最低仕様として800×480ドットのディスプレイが許容されているのだと思う。バッテリ駆動時間のミニマムが短いのも、補助的な役割のデバイスとして価格を優先した結果だろう。 こう書くと、おまえは発表済みのUMPCの価格(一例として99,800円)が安いと思っているのか、と言われそうだが、決して安いと思っているわけではない。ただ、想定される市場規模の現状での小ささを考えれば、おそらくあれでも安くしてあるとは思う。 現状のUMPCはその理想よりはるかに手前に止まっているものの、目指しているのはPCよりスペックは落ちるが、PCを補完するコンパニオンデバイスとして、安価に(500ドル程度で)買えるもの、というところのハズだ。つまりPCとしての機能性を犠牲にしても価格を優先し、機能性の劣る部分(画面解像度が低い点など)は、専用のソフトやスキン、専用のサイトを用意するなどして補うデバイスという方向性である。基本的にはPCと同じアーキテクチャ(ハードウェア、OSとも)だから、通常のPC用アプリケーションも実行可能だが、その快適性までは考慮しない、という考えだ。
こうしたコンパニオンデバイスにおいて、価格と消費電力の面で有利とは言えないx86互換プロセッサを採用する意味があるのか、というのが難しいところだが、PCとの連携のしやすさ、開発ツールの充実、CODECなど画面解像度等にとらわれないミドルウェアやライブラリがそのまま使えることでペイする、と考えているのだろう。またIntelは現状はともかく、将来的には500ドルUMPCを実現できるプロセッサの提供を行なう予定があるようだ。 ●ミニマムで完全なPCをめざすtype U UMPCの動きと似て非なるものがソニーのVAIO Type Uだ。筆者には、Type Uが目指しているのは、あくまでも完全な機能を持ったPCを極限まで小さくする、という方向性なのだと感じられる。 前作、2004年に発表された3代目U(初代Type Uだが、最初のバイオU、PCG-U1から筐体の変化をベースにして数えると3世代目のUシリーズ)は、ソニーの意気込みとは裏腹に不評だった。それまでのバイオUに比べて小型・軽量化を図ったものの、内蔵キーボードを失い、ディスプレイ解像度を800×600ドットに落としたことにブーイングが集中した。今時800×600ドットでは、Webもロクに見れない、というわけだ。 PCのソフトウェア資産は、x86のプロセッサとWindowsがあればOKというわけでは決してない。実際にはXGAクラスのディスプレイとキーボードがなければ、資産を継承する完全なPCにはなり得ない。Tablet PCもキーボードを持たないピュアタブレット型(スレート型)が、基本的にバーチカル向けとなってしまうのも、結局はこれが理由だ。日本のユーザーが超小型PCに求めている(特にこの価格帯のデバイスに対し)のは、小さくても完全なPCだったのだろう。
この5月に発表された4世代目U(2代目Type U)は、こうした批判を払拭すべく、おおよそXGA解像度(実際には縦が少し足りない1,024×600ドット)のディスプレイと、QWERTY配列の内蔵キーボードを復活させた。ミニチュアとはいえ、フル機能を備えた完全なPCだ。バッテリ駆動を配慮し、性能が犠牲になった部分もあるが、基本的にはPCの資産がすべて利用できる。 当然、ハードウェアとしてはUMPCより上になるが、通常のPCに比べれば失ったものも少なくない。その最大のものが入出力の快適性だ。いくら見やすさや入力のしやすさに配慮したといっても、物理的なサイズの小ささは、完全にカバーできるものではない。Type Uの小さく高精細なディスプレイと豆粒のようなキーボードはそれだけでユーザーを選ぶ。許容できるというユーザーであっても、ビュワーとしてはともかく、これで長時間の作業を行ないたいとは思わないだろう。製造コストもUMPCよりは高くなるハズだ。 UMPCのアプローチとソニーのアプローチのどちらが正しいのかは、現状では必ずしも明らかではない。少なくとも過去を振り返る限りは、両方のアプローチとも、それほど大きな成功はおさめていない。ただ、ソニーには初代Type U(旧Type U)の経験をふまえて新Type Uを作った、という自負があるハズだ。旧Type Uというのは、いわば早すぎたUMPCだったわけで、そのアプローチはすでに1度試してみたよ、と笑っているかもしれない。
UMPCを軌道に乗せるには、不退転の決意とそうとう規模の投資が必要になると思うのだが、MicrosoftとIntelにその覚悟はあるのだろうか。それができればUMPCは大化けする可能性を秘めているが、そうでなければコツコツ積み重ねているソニーのアプローチの方が、爆発的な成功はないにしても現実的かもしれない。 【お詫びと訂正】初出時にUMPCのディスプレイの最低スペックを800×600ドットしておりましたが、800×480ドットの誤りでした。また、「PCG-U1」の型番を「PCG-C1」と誤って記載しておりました。お詫びして訂正させていただきます。
□関連記事 (2006年6月6日) [Reported by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
|
|