ソニーの「VAIO type U VGN-UX50」は、2年前に登場した「VAIO type U VGN-U50」の後継となる超小型PC(UMPC)だ。 フルスペックのWindows XPが動作するれっきとしたPCでありながら、ほぼ文庫本サイズで重さ約520gという、高い携帯性を実現していることが魅力だ。サブノートPCよりももっと小さくて軽いPCが欲しいという人には、待望の製品といえるだろう。早速、レビューしていきたい。 ●ソニーのUMPCとして第3世代にあたる製品 ソニーの「VAIO type U VGN-UX50」(以下UX50)は、4.5型ワイド液晶を搭載した超小型PCである。最近はこうした製品をUMPC(Ultra Mobile PC)と呼ぶことが多くなってきたが、ソニーは以前からUMPCには積極的に取り組んできており、2002年4月に「バイオU PCG-U1」を発売している。PCG-U1のサイズは、184.5×139×30.6~46.1mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約820g、Windows XP搭載PCとしては、当時の世界最小最軽量を実現していた。 PCG-U1の後継として、2003年5月に登場したのが、CPUとして超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzを搭載した「バイオU PCG-U101」だ。PCG-U101では、筐体デザインも変更され、サイズは178.8×139.5×34.1~37.6mm(同)、重量は約880gと、重さは多少増えたが、性能も大きく向上しており人気を集めた。 PCG-U1やPCG-U101は、一般的なノートPCをそのまま小さくしたような形状をしており、スタイラスではなく、キーボードで操作する製品であった。しかし、PCG-U101の後継として2004年5月に登場した「VAIO type U VGN-U50」(以下U50)では、キーボードがなくなり(外付けの折りたたみ式キーボードが付属していたが)、タブレットPCのようにスタイラスで操作を行なうマシンへと、コンセプトが一新された。U50は、筐体がかなり小さくなり、サイズは167×108×26.4mm(同)に、重量は約550gに削減された。U50も、フルスペックのWindows XP搭載PCとして、当時の世界最小最軽量を実現した製品である。ただし、キーボードが廃止されたことについては賛否両論で、商業的にはあまり成功しなかったようだ。
今回登場したUX50は、2年前に登場したU50の後継製品であるが、再び筐体デザインが大きく変わり、スライド式キーボードを搭載することになった。もちろん、タッチパネルも搭載しているので、スタイラスでの操作も可能だ。キーボードがスライドするギミックは、ウィルコムの「W-ZERO3」にも似ている。初代バイオUから数えると、第3世代のUMPCと呼べる製品であろう。 UX50のサイズは、150.2×95×32.2~38.2mm(同)で、ほぼ文庫本サイズだ。重量は約520gで、U50に比べて30gほど軽くなっている。ソニーは、UX50を「Intel製CPUを採用したWindows XP搭載PCとして世界最小最軽量」と謳っているが、わざわざ「Intel製CPU」と断っていることには注意が必要だ。 実は、OQOから2004年末に登場した「OQO model 01」のサイズは125×86×23mmで、重量も約400gしかない。だから、単にWindows XP搭載PCということなら、OQO model 01のほうが小さくて軽い。ただし、OQO model 01は、CPUにTransmetaのCrusoeを搭載しているため、Intel製CPU搭載マシンとしては、UX50が世界最小最軽量となるのだ(日本国内では、基本的にOQO model 01は流通していないので、見かけることは少ないが)。 UX50の厚さはU50に比べて増えているが、フットプリントは小さくなっており、携帯性は高い。W-ZERO3のサイズは130×70×26mm(同)、重量は約220gなので、W-ZERO3に比べれば一回り以上大きく、重量も2倍以上になるが、フルスペックのWindows XPが動くPCとしてはやはり驚異的な小ささといえる。ただし、U50に比べて、厚みが増えており、ぼてっとした印象になってしまった。
●1,024×600ドット表示対応の高精細液晶を搭載 なお、今回試用したUX50は店頭モデルだが、それ以外に、ソニースタイルなどの直販サイトで購入可能なVAIO・OWNER・MADEモデルの「VGN-UX90PS」、「VGN-UX90S」も用意されている。VAIO・OWNER・MADEモデルでは、BTOによってCPUやHDD容量などをカスタマイズできることが特徴だ。 UX50ではCPUとして、超低電圧版Core Solo U1300(1.06GHz)を搭載している。代表的なサブノートPCである松下の「Let'snote R5/T5/W5」でも、同じ超低電圧版Core Solo U1300が搭載されており、性能的にはサブノートPCにもひけをとらない。チップセットには、グラフィックス統合型チップセットのIntel 945GMS Expressを採用。メモリは標準で512MB実装されているが、残念ながら増設はできない。ただし512MBあれば、Windows XPもそこそこ快適に動く。UMPCとしては十分な性能であろう。 HDDとしては、1.8インチ30GB HDDが搭載されている。HDD容量については2003年5月に登場したPCG-U101でも、同じ30GB HDDが搭載されていたので、2年経っても増えてないことになる。サイズや重量の制限から1枚プラッタの製品しか使えないのであろうが、1枚プラッタでも40GBを実現した1.8インチHDDが登場しているので、できれば40GB HDDを搭載して欲しかったところだ。また、落下や振動を感知すると、自動的にヘッドを退避させる「VAIOハードディスクプロテクション」機能も搭載されている。 液晶パネルのサイズは4.5型ワイドで、解像度は1,024×600ドットである。サイズと解像度からわかるように、かなり高精細(ドットピッチが小さい)な液晶だ。精細度は265ppiに達する。ちなみにU50では、5型液晶が搭載されていたが、その解像度は800×600ドットであった。標準ではかなり文字が小さくなるが、小さくて見にくいという人には、ズーム機能が用意されている。液晶右側に用意されているズームボタンを押すことで、1.5倍/2倍/2.5倍/3倍に画面を拡大し、スクロール表示が可能だ。液晶の輝度は高く、発色も良好であり、表示品位には満足できる。
●キーボードはやや慣れが必要だが、ポインティングデバイスの出来は秀逸 U50は、キーボードを搭載していなかったが、UX50ではスライド式キーボードを搭載したことが特徴だ。キーボードは全69キー(Fnキー含む)だが、一般のキーボードのように、アルファベットキーなどが斜めに配置されているのではなく、全てのキーが格子状に並んでいる。また、キートップの出っ張りがあまりなく、ストロークが非常に短い。キーが小さく、キータッチが固めなこともあって、かなり強めに押さないと入力されない。基本的に本体を両手で持って、両親指で入力するスタイルになるだろうが、長文を入力するにはあまり向かないと思われる。ただ、キーボードの使い勝手については、個人差もあるので、実際に店頭などで試されたほうがよいだろう。
それでもキーボードがあるとないとでは、使い勝手には大きな差がある。UX50のOSはTablet PC Editionではなく、通常のWindows XPだが、手書き入力ソフト「NextText」が導入されており、手書き文字認識が可能だ。しかし、URLなどの入力は、やはりキーボードのほうが楽だ。 なお、VAIO・OWNER・MADEモデルでは英語キーを選択することも可能で、その場合、キーの数が一列分減り、全64キー(Fnキー含む)となる。英語キーでも、キー配置はやはり格子状だがキーピッチは多少広くなる。日本語キーでも、隣のキーを間違って押してしまうことはあまりなかったが、少しでもキーピッチが広いほうがいいというのなら、英語キーをお勧めする。 ポインティングデバイスとしては、スティック状のスティックポインターが採用されている。ThinkPadシリーズに使われているTrackPointなどに比べると、指と接触する部分の面積が大きく、力を入れても指が痛くなるようなことはない。液晶左側には、左ボタンや右ボタン、センターボタン、ランチャーボタンが用意されている。スティックポインターの操作感はなかなかよい。スティックポインター自体を垂直に押すことで、左クリック操作を行なうことも可能だ。
ランチャーボタンを押すと、「VAIOタッチランチャー」が起動する。登録しておいたアプリケーションをワンタッチで起動できるほか、液晶の表示方向を縦画面に切り替えることも可能だ。
●指紋センサーと2つのWebカメラを搭載 UX50は、バイオU/type Uシリーズとして初めて、指紋センサーを搭載している。指でなぞるだけで個人認証が可能であり、セキュリティを高めるのに役立つ。また、前面と背面にそれぞれCMOSカメラ「MOTION EYE」を搭載していることも特徴だ。前面カメラは約31万画素、背面カメラは約131万画素となっており、静止画や動画の撮影が行なえるほか、ビデオチャットにも利用できる。マイクも内蔵されているので、Skypeなどを使うにも便利だ。また背面カメラは、マクロ撮影にも対応する。 通信機能としては、IEEE 802.11a/b/g対応無線LAN機能とBluetooth機能を搭載。ワイヤレスON/OFFスイッチやワイヤレスインジケーターも用意されており、使い勝手はよい。
●ポートリプリケーターやディスプレイ/LANアダプターが付属 UX50は、筐体が小さい割には、インターフェイス類も充実している。本体に、USB 2.0ポートとメモリースティックDuoスロット、CFスロット、マイク入力、ヘッドフォン出力が用意されているほか、底面にI/Oコネクタが用意されている。I/Oコネクタに付属のポートリプリケーターやディスプレイ/LANアダプターを接続することで、インターフェイスを追加できる。デジカメのビューワとして使うことを考えると、メモリースティックデュオスロットよりも、SDメモリーカードスロットを搭載してくれたほうがありがたいのだが、ソニー製品なのでまあ仕方ないだろう。CFスロットがあるので、CFタイプのカードアダプタを使えば、他のメモリカードの読み書きが可能だ。
ポートリプリケーターには、USB 2.0ポート×3とAV出力、IEEE 1394(4ピン)、外部ディスプレイ出力、Ethernetの各コネクタが用意されているほか、FeliCaポートも搭載されている。FeliCaポートは内部に収納できる構造になっており、側面をプッシュすることで、引き出すことができる。なお、ポートリプリケーターを利用する場合は、ポートリプリケーターにACアダプタを接続して、電源を供給する必要がある。
ディスプレイ/LANアダプターは、コンパクトで携帯しやすい。こちらには、LANとD-Sub15ピン、AV出力が用意されているので、プロジェクターなどに接続してプレゼンを行なう際などに便利だ。ディスプレイ/LANアダプターとACアダプタを一緒に持ち運ぶのに便利な「アダプタホルダー」も付属している。
本体上部にはストラップホールが用意されており、ストラップも付属している。また、本体を収納して持ち歩くためのキャリングポーチも付属している。
●大容量バッテリを使えば、最大約7時間駆動が可能 ACアダプタはほぼ名刺サイズで、携帯性は良好だ。DCプラグ部分にはLEDが入っており、ACコンセントに接続すると緑色に点灯する。バッテリは7.4V/2,600mAhの2セルタイプで、公称駆動時間は最大約3.5時間とされている。2セルではかなり頑張ったと評価できるが、1日持ち歩いて使うには心許ない。 ただし、オプションとして用意されている大容量バッテリ(7.4V/5,200mAh)を利用すれば、最大約7時間駆動が可能になる。大容量バッテリを装着すると、本体右側がやや出っ張り、重量も約620gとなるが、外で長時間利用するのなら、大容量バッテリを装着すべきであろう。
参考のために、いくつかベンチマークテストを行なってみた。ベンチマークプログラムとしては、PCark05、FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3を利用した(電源プロパティの設定は「常にオン」で計測)。 なお、今回試用したのは試作機であり、製品版とはパフォーマンスが異なる可能性がある。結果は下の表にまとめたとおりだが、液晶の解像度が1,024×600ドットであるため、1,024×768ドット以上の解像度が必要なテストは動作しなかった。比較用に「Let'snote CF-Y5」や「FMV-BIBLO MG75S」、「Lenovo 3000 C100」の結果もあわせて掲載した。さすがに、Core Duoや2.5インチHDDを搭載しているCF-Y5やMG75Sに比べればスコアは低いが、重さが3倍以上違うわけであり、約520gのUMPCとしては健闘しているといってよいだろう。
【表】ベンチマーク結果
●高い携帯性と汎用性が魅力 UX50は、サイズはPDAに近いが、中身はれっきとしたPCであり、Windows XP用としてリリースされている豊富なアプリケーションやサービスを全て利用できることがウリだ。これ1台で何でもやるというのはさすがに無理があるだろうが、その高い携帯性には魅力がある。 静かな場所で使っているとファンの騒音が多少気になることがあったが、本体が熱くなりすぎるといったことはなかった。店頭予想価格は約17万円ということで、Origami準拠マシンに比べれば高いが、携帯性はもちろん、液晶解像度やカメラ搭載など、スペック的にもUX50のほうが充実している。出先でのWebブラウズマシンやBlog更新用マシン、マルチメディアプレーヤーとして使うのも面白いだろう。 □ソニーのホームページ (2006年5月18日) [Reported by 石井英男]
【PC Watchホームページ】
|
|