第338回
13.3型ワイド液晶の「MacBook」
ファーストインプレッション



MacBook ブラックモデル

 “12型モデルの後継として、ワイドスクリーン13.3型のディスプレイを搭載した小型のMacが出てくる”

 そんな噂は昨年(2005年)ぐらいからあったものの、それがiBookの後継とされるMacBookとして投入されると言われ始めたのは比較的最近のことだ。そして登場した初代MacBookは、iBookの後継というよりも、MacBook Proの別バージョンといった雰囲気である。

 しかし近付いたのは見た目の雰囲気だけではない。機能面でも性能面でも、PowerBook、MacBook Proのラインにかなり近い印象を持った。“低価格なコンシューマモデル”というよりも、MacBook Proとは異なるユーザーを対象に味付けを変えた“もう1つの選択肢”という印象が強い。下位機種と言うには少々もったいないレベルの完成度だ。アップルコンピュータへの質疑応答を交えながら、MacBookのファーストインプレッションをお届けしたい。

●“低価格モデル”であることを感じさせない洗練された設計

 MacBookはIntel Core Duoを搭載しながら138,000円から、と低価格なことも魅力の製品だが、しかし実物を見る限り、ローコストモデルという印象はほとんど感じさせない。MacBook Proと同様に底面を含む6面がフラットな表面に仕上げられ、余分な凹凸が一切ない。全体的な筐体のコンストラクションはMacBook Proそっくりだ。もちろん、底面にシールを貼らず、規制クリアのマークなどを直接シルクプリントで印刷しているのも同じ。

 今回試用したのはマット仕上げのブラックモデルだが、手触りなどはむしろMacBookの方が好きだと感じたほど仕上がりはいい。アルミ外装のモデルにあった液晶部のソリや、全体の微妙な歪み感はなく、筐体の精度はMacBookの方が上に感じられる。

 このブラックモデルは、アップルによると塗装ではなく、黒いポリカーボネイトの表面に透明なマット調のコーティングを行なったものだという。コーティングはかなり丈夫で爪で擦っても傷が付かず、指紋もあまり付かないものだった。使っているうちに角の塗装が剥げ落ちることや傷が入ることもあるだろうが、地の色が黒であるため、いくら使い込んでも“黒さ”を失うことはない。なお、ホワイトモデルは従来通り、白のポリカーボネートをツヤありにしたものだ。

 15型MacBook Proとの違いは外装素材の他、スピーカー位置、キーボード、キーボードライト、液晶パネル部の留め、ExpressCardスロットなど。ExpressCardスロットはMacBookではサポートされていないがMacBook Proには装備される。

【お詫びと訂正】初出時に、MacBook ProはFirewireを装備しないとしておりましたが、装備しております。お詫びして訂正させていただきます。

 このほかバッテリは角形セルを採用した薄型の55Wタイプで、ワイヤレス機能(IEEE 802.11b/gとBlutooth 2.0)も同じ。クロック周波数を除けばプロセッサも同じといった具合。ExpressCardスロットの有無を除けば、MacBook Proを狙っていたユーザーにも十分に満足できる仕様である。

【お詫びと訂正】初出時に無線LANはIEEE 802.11a対応とありましたが、対応は802.11 b/gのみです。お詫びして訂正させていただきます。

左側面のインターフェイス類 こちらは右側面

 iBookでは外部ディスプレイ出力がミラー出力のみのサポートだったが、セカンダリディスプレイとして接続し、デュアルディスプレイを本体だけで構成できる点も上位機種との差がなくなったところである。

 1,280×800ピクセルの13.3型液晶パネルは、いわゆる“ツルツル”の光沢がある反射軽減コート付きフィルムを貼り付けたもので、近年の国産PCと同様に高輝度で色純度が高く見えるタイプ。光学補償フィルムとしての効果もあるようで、上下方向の視野角は狭いが左右方向には比較的広い。

 なお、MacBookの発売に合わせ、15型、17型のMacBook Proでもオプションで光沢液晶パネルの選択が可能になっている。

●意外にスムーズなマグネットラッチの使い勝手

 実際の使い勝手で比較すると、マグネット式のラッチシステムの使いやすさを最初に感じた。MacBook ProではPowerBook G4から引き継いで自動的にフックが隠れるタイプのメカニカルなラッチを採用していた。これはこれでスマートだが、マグネットの方が故障しにくく信頼性が高い。

 心配なのは液晶パネルを開きにくくないか? という点だが、机の上に本体を置き、指を引っかけて持ち上げると本体がバウンスすることなくちゃんと開いてくれる。液晶パネルのホールド性と開きやすさのバランスは良い。ただし膝の上など不安定な場所で開くときには、もう片方の手で本体部を支えてあげた方が良いだろう。全体には満足のいく作りだ。

 またスピーカーは、本体背面/左右にステレオで小型スピーカーが取り付けられ、液晶パネルを開くと、液晶画面下部のフレーム部分に音が当たるように作られている。小径スピーカーの音はどうしても高域寄りで耳への刺激が強い。また音圧も確保しにくいため音量を上げると歪みが多くなり、特に中高域から上の歪み感、ノイズ感が激しくなりがちだ。

 もちろん、反射させたからといって質が高まるわけではないが、耳への刺激が和らぎ、“意外にまともな音”がしてくれる(良い音という意味ではない)。FrontRawで音楽やビデオを手軽に楽しむ際に役立ってくれるだろう。

 MagSafe電源アダプタ(消費電力の違いからMacBook用はより小型化され、PowerBook G4に採用されていた正方形のアダプタと同サイズになった)やiSightカメラの標準装備など、実に洗練されて上手に製品全体の質を高めている。

 底面のフラットなデザインにしても、メモリスロットを塞ぐ穴を見せないために、バッテリを取り外した中にメモリ増設のスペースを設けている。このあたりの徹底したこだわりは、国内のモバイルPCベンダーも見習うべき点が多いように思う。

iSightカメラを標準装備 バッテリを外すとメモリ増設スロットが見える

●賛否両論のキーボードデザイン

キーボード部分

 一方、キートップが筐体に開けられた穴から顔を出す独特のキーボードデザインには、賛否両論がある。パッと見た感じは、昔のNECの「PC-6001」あるいは三菱電機の薄型PC「Pedion」を思い起こさせるデザインだ。

 このため、ゴムっぽい質感の低いキータッチを想起させるが、キートップそのものはパンタグラフ式のきちんとしたメカで支えられており、適度なクリック感が与えられてタッチそのものは上質に演出しているように感じる。と、個人的には思ったのだが、このキーボードが嫌いという声も決して少なくはない。

 アップルによると、このキーボードは子供がいる家庭や学校で使うことを想定し、キートップが簡単に外れないよう配慮した結果生まれたデザインだという。確かにキートップのスカート部が指の腹や爪に引っかかる感じがない。爪を伸ばしている女性などにも使い勝手がよさそうだ。見た目よりもキーストロークはあり、またキー間には適度な空間があるため、ミスタッチはしにくい。

 また以前にテストで試用した15型MacBook Proに比べると、今回のMacBookは格段に“熱さ”を感じない。もちろん、グラフィックスにチップセット内蔵回路を利用しているとはいえ、同等の薄さと同等のプロセッサを搭載しているのだから、それなりの熱は発生する。だが、これは外装がアルミからポリカーボネートに変更され、体感温度が下がったためだろう。使用中に手元が熱くなり不快と感じる場面はなかった。

●15型PowerBookユーザーに

 アップルではこのMacBookをiBookだけでなく、12型PowerBookの後継としても位置づけているという。実際、iBookとともに12.1型PowerBook G4もカタログから消えている。しかし、日本でのモバイルPC事情や2.3kgを超える重さや大きめの筐体を考えると、必ずしも12型機の代替として適しているとは思わない。車移動が中心のユーザーはともかく、電車での移動が多いのであれば、別に軽量なノートPCを用意する方が楽だ。せめて2kgを切る製品が、将来は登場して欲しいものだ。

 むしろ、日本の場合は15型PowerBookユーザーの買い換え対象として面白いのではないだろうか。PowerBook G4との比較でもパフォーマンスは大幅に向上しており、今後、Intelネイティブのアプリケーションが増加していくならば速度面での不安はない。ディスプレイ解像度も1,280×800ピクセルならば満足できるデスクトップの広さを確保できる。

 キーボードライトが必要、あるいはExpressCardがどうしても使いたいといったニーズないのであれば、15型MacBook ProよりもMacBookの方がお勧めだ。個人的にもMac OS Xが動作するノートPCを選べと言われれば、やや中途半端な15型は避けて、MacBookか17型MacBook Proのいずれかを用途に応じて選択するだろう。

 また3つ用意されている構成のうち、明らかにお買い得なのはもっとも廉価な1.83GHzモデルだ。このモデルはDVDへの記録ができないが、プロセッサは十分に強力で2GHzとの差はほとんど感じない。必要に応じてHDDとメモリを追加するだけで、十分に処理能力の高いMacを手に入れることができる。一方、2.3kg以上でも持ち歩くつもりならば黒がいい。黒の方が白(iPodのような仕上げ)よりも傷が目立ちにくいからだ。

 試用期間が非常に短かったため、バッテリ持続時間に関しては想像でしかないが、無線LAN ONでも輝度を落とせば5時間ぐらいは使える。あまりバッテリを気にせずに使っても4時間、省エネを心がければ5時間半ぐらいだろうか。

●シェア拡大の起爆剤

 本音を言えば、今回の新製品がiBookの後継機種と聞かされ、さらに価格の安さを示され、実物に触れるまでは「所詮は低価格普及モデル」と思うところがあった。しかし、その仕上がりの良さには正直、驚かされた。

 このマシンを「重すぎる」と切って捨てるのは簡単だ。

 しかし、この価格で販売されているノートPCを見回して、MacBookと同程度に美しくまとめた製品があるだろうか。しかもこの製品を製造、供給しているのは台湾系企業の中国工場だと言われている。言い換えれば設計さえ上手にまとめれば、このぐらい洗練された製品を中国生産でも可能ということだ。

 アップルのマネをすべきと言うつもりはないが、エレガントさと機能性を同時に意識した設計を行ない、それを安価に生産できる可能性があることをMacBookは示している。

 iPodが快進撃を続けた頃、iPodと同時にiBookを購入する人が少なからずいたという。iBook無き今、同様のパターンでMacBookに興味を持つユーザーは少なくないはず。そして手にした廉価モデルがこれだけ優れていると、やがては“アップルのPC分野におけるシェア拡大の起爆剤”となるかもしれない。

□関連記事
【5月19日】MacBookファーストインプレッション
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0519/macbook.htm
【5月19日】【元麻布】価格を超えたMacBookの魅力
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【5月18日】【大河原】MacBookキックオフインタビュー
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【5月17日】アップルストア銀座、MacBookのブラックモデルが早くも売り切れ
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【5月17日】アップル、13.3型ワイド液晶のCore Duoノート「MacBook」
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(2006年5月22日)

[Text by 本田雅一]


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