山田祥平のRe:config.sys
【IDF編】

拝啓、ソフトウェアベンダー様、さあ、その先へ。




 当たり前の話だが、パソコンを使うにはソフトウェアが必要だ。Intelは、次世代のマイクロアーキテクチャとしてCore Microarchitectureを発表したが、ソフトウェアの対応が進まなければ、ハードウェアの性能をフルに発揮することはできない。

●マルチコアの恩恵をフルに被るために

 ソフトウェアベンダーには何もしないという選択肢も残されてはいる。Core Microarchitectureに実装されたMacro-Fusionなどに処理をゆだねることで、それなりにマルチコアの恩恵を被ることができるからだ。

 とはいうものの、新たなアーキテクチャの性能をフルに発揮するには、ソフトウェアのマルチスレッド化を積極的に進めるのが望ましい。だからこそ、Intelは、まるで媚びを売るかのように、ソフトウェアベンダーに対して、ソフトウェアの書き換えを要望する。

 IDFで披露されたデモンストレーションでは、6月に全米で公開されるアニメーション映画「Cards」の制作で使われたPixar Animation StudiosのレンダリングソフトRenderManが紹介され、マルチコア対応によって、シングルコア、シングルスレッドに比べて、実に5倍のレンダリング速度を実現できることが誇らしげに語られた。

 2時間のアニメーション映画は、1秒24コマとして、24×60×120=172,800コマのレンダリングが必要だが、その処理が5倍の速度で実行できることによって、過去においては時間の束縛の中で監督がやりたくともできなかったことができるようになり、それは、結果として、アニメーション映画の本質まで変えてしまうことになるとまでいう。HT投入の際にも言われていたことだが、今回は、マルチスレッド対応の恩恵はさらに大きい。そして、積極的な対応をするアプリケーションが多ければ多いほど、Intel製プロセッサの付加価値は高まる。Intelが、ソフトウェアベンダーのリクルーティングというか、説得に躍起になるのは当然だ。処理速度が2倍になったところでさして感動はないが、5倍となれば話は違う。それこそ劇的という言葉が似合うというものだ。

●燃費のいい高級車

 IntelのCTO、ジャスティン・ラトナー氏は、同社のテラスケール・コンピューティング・リサーチ・プログラムの概要説明で、今後、5年から10年で10個から100個のコアを持つプロセッサを使ったテラスケールコンピューティング時代の到来を予言、マルチコアのシリコンと最適化されたプラットフォームに、スレッデッドソフトウェアを投入することで、テラスケールコンピューティングを実現するべく、内外の研究期間や業界をまたいだプロジェクトを推進していることを明らかにした。

 もちろん、エネルギーも重要なテーマだ。ラトナー氏は、これまでのプロセッサをクルマにたとえ、高級車ではないが燃費がいいから軽自動車に乗る、燃費は悪いが乗り心地はいいといったパターンを掲げ、常に何かが犠牲になっていたことを強調した。そのパワーとパフォーマンス両立のジレンマからユーザーを解放するのがCoreだ。

 ラトナー氏は、1回のインストラクションで消費される電力はこれまで高まる一方で、エネルギー効率が悪く、間違った方向にトレンドが高まっていたとする。イスラエルのモバイルチームが開発したモバイルプロセッサが、エネルギーを食わないプロセッサとして、これからのIntelを支える製品となり、次世代のマイクロアーキテクチャである「Core Microarchitecture」の実装により、今、モバイルからデスクトップ、サーバーまで、全プラットフォームで使われるシフトが起ころうとしている。

 ラトナー氏によれば、シングルコアでは、ちょっとオーバークロックしただけで、パワー消費がグンと上がるとし、それは、パフォーマンスとパワーの良好なトレードオフではないとする。逆に、アンダークロックした場合、20%遅くするだけでパワー消費は半分になるという。さらに、デュアルコアでは、1.03倍程度のパワー増加で、実に性能は1.73倍になるのだ。ただ、Intelは比較的保守的な企業であるとラトナー氏はいう。だから、いたずらにコアを増やしていく方針はないとし、重要な命題として、マルチスレッドソフトを増やしていくために、その開発をサポートするための一連の技術を提供し、デベロッパーを支援していくという。

●ブロードバンドがもたらす飛躍

 一方、同社上席副社長兼モバイルプラットフォーム事業部長のショーン・マローニ氏は、現在のインターネットにおけるトップ16サイトの分析結果を披露、ビデオが非常に伸びていることに言及した。ステージ上におけるiMacを使ってのデモンストレーションは、今更驚くべきことではないが、マローニ氏の慣れないMac OS操作は笑いを誘っていた。

 マローニ氏は、ビデオのサーチ技術、そして、パーソナル化されたサーチ技術が確立し、人々は、XMLの技術を使って既存のウェブを革新していくという。次に、インターネットで起こる現象は、すべての事象のパーソナライズであり、トレンドは、その離陸寸前まできているとする。

 ただ、今の時点で、誰もがブロードバンドを手にしているとはいえず、成長はこれからだと釘をさす。今から40年前にスタンフォード大学周辺で起こったムーブメントによってマウスが登場し、parcがそれを洗練し、MacとPCの登場につながっていく流れがあったわけだが、現在のインターネットはモバイルからはほど遠く、モビリティの実現によって、新たな次元に突入するというのがマローニ氏の考えだ。

 人々は、さらにオーセンティックなインターネットを求めるようになり、ソフトウェアが毎日のようにリフレッシュされていく世の中では、新しいソフトに柔軟な適応性のあるPCに、アプライアンスに対するアドバンテージがあり、その付加価値はますます高まっていくと予言する。かといって、2時間程度しかバッテリが持たないウルトラモバイルPCでは勝負にもならないわけだが、基本的にはこの考え方には賛成だ。

 デジタルホーム事業部長のドン・マクドナルド氏も、コンシューマーの考えを取り込むことが重要であることを強調、単一の技術に基づいて構築された一貫性のあるプラットフォームの必要性を説く。シンプルであること、使い勝手がよいことが求められることをアピールするために、ボタンの数が少ないリモコンや、音声認識によるボタンのないリモコンなどをデモンストレーションした。これも当たり前だ。50個を超えるボタンがついたリモコンなんて、ちっとも進化じゃない。

 また、家の外でも、リビングルームと同じようなエンタテイメント体験をしたいという要望が高まっていくトレンドを指摘、たとえば、ストリートで目についた映画のポスターを携帯端末でスキミングすると、その予告編がダウンロードされて見ることができ、自宅に戻って、その端末をViiv機にかざすだけで、ネットワークから、関連コンテンツを探してくるようなユーザー体験がごく当たり前のものとして現実になっていくという。

 現在は、エンタテイメントにフォーカスしているViivも、将来は、ヘルスケアなど、もっと広範囲のジャンルに対応していくプランも明らかにした。マクドナルド氏は、今後、5年から10年をかけて、人々が映像コンテンツを見るためのメディアは、電波を使った放送から、IPテクノロジーを使ったコンテンツ配信に置き換わっていく可能性もあるとする。ちょうど、電波を受信するアンテナが、CATV会社によって敷設されたケーブルに置き換わったようなことが、インターネット的に実現されるということだ。

●さあ、その先へ

 Intelは、以前、インターネットを支援するビルディングブロックを供給する企業になるという宣言をした。メモリメーカー時代がIntel 1.0だとすれば、プロセッサベンダーとしての同社はIntel 2.0、インターネットに積極的に関わるようになったのは、Intel 2.5。今回の新アーキテクチャの投入と、それをとりまくさまざまな施策動向は、まさにIntel 3.0への移行であり、明らかに、メジャーバージョンアップだといえるだろう。

 新ロゴにも添えられているように、その先にはいったい何が待ち受けているのだろう。少なくとも、Intelは、すでに純粋なハードウェアベンダーではなくなっている。PCの世界が再び面白くなるなら、そこに身をゆだねてしまうのも悪くない選択だ。

□関連記事
【3月9日】【IDF】マローニ氏が超小型PC「UMPC」をデモ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0309/idf06.htm

バックナンバー

(2006年3月10日)

[Reported by 山田祥平]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.