山田祥平のRe:config.sys

晴れ時々曇り、ところによってにわか雨




 気象庁のスーパーコンピュータが更新された。3月1日から従来2.5km四方メッシュだったレーダー・アメダスの解析雨量が1km四方の格子に精微化され、1日8回の計算を実行することになったようだ。新しいスーパーコンピュータシステムを導入することで、天気予報や季節予報の精度を向上させ、当たる天気予報を目指すという。

●天気予報が当たらない

 平成の大合併によって、日本各地の市町村は新たな市町村となった。その是非に関しては賛否両論はあるが、天気予報的にはとても困る事態が起こっている。

 個人的に身近に感じる例では、冬になると頻繁に訪れる長野市がそうだ。長野市は、2005年1月に、更級郡大岡村、上水内郡豊野町、上水内郡戸隠村、上水内郡鬼無里村と合併し、新たな市として生まれ変わった。それはいいのだが、このあたりは、地域ごとに、かなり天候に違いがある。だから、“長野県北部”という予報がちっともあてにならない。

 Yahoo!天気情報のピンポイント天気を見ると、長野市には288件のピンポイントが設定されている。ただし、実際には、これらはすべて同じページにリンクされている。これではちっともピンポイントじゃない。

 合併以前は、長野市、大岡村、豊野町、戸隠村、鬼無里村、それぞれがピンポイントとして設定されていたので、実際に当たるかどうかは別にして、それなりに予報にも説得力があったのだが、合併後の天気予報に関しては退化だといえる。

 ご存じの通り、行政的な市町村の区分と、天候の傾向区分には食い違いがある地域は少なくない。川を1つ越えれば、あるいは、トンネルをひとつ抜ければ天気がガラリと変わったりするものだが、同じ市町村であるというだけで十把一絡げにされてしまうというのは理にかなわない。もともと市町村は、地理的な状況で成立することが多かったはずだが、交通機関の発達などで、かつてはありえなかったような往来が可能になった現代社会はそれを許さなくなってしまった。

 気象庁だって、そんなことはわかりきっているはずだが、現在のリソースでは、すべての地域の予報を出すのは難しいというところなんだろう。それが無理だとしても、せっかく新しいコンピュータシステムを入れたのだから、せめて、民間に頼ることなく、全国を行政区分ではないメッシュに分割して、個々の予報を出すくらいのサービスは提供してほしいものだ。

●意識を改革しなければ世の中は変わらない

 映画「県庁の星」を見てきた。民間との人事交流で三流スーパーに出向している県庁のエリートキャリア公務員、野村聡(織田裕二)は、レジでの接客で、クレジットカード決済がはじかれた女性に、そのことを正直に伝えようとする。だが、それに気がついた年下のパート店員の二宮あき(柴咲コウ)は、あわてて野村を制止するというシーンがあった。

 二宮は、機械の調子がおかしいから、今日は現金でお支払いくださいと客にお願いし、それが当たり前だと野村を諭す。機械は正確で、何も間違ったことはしていないと野村は主張するが、二宮は、カードが当月限度額を超えているのはわかっていても、客にイヤな思いをさせないために、機械のせいにするのがサービスというものなのだと野村をたしなめる。

 予告編でも挿入されているシーンなので書いてしまうが、主人公の野村は、ラストシーン近くで、行政改革は、組織や制度を変えることじゃない、そこに生きる人間たちの意識を改革することなのだと訴える。

 適正なデータさえ与え、適切な処理さえ命じれば、コンピュータがはじきだす結果は、正確だ。でも、それをどう生かしていくか、それをどう判断するかは、人間に委ねられる。これは今も昔も変わらない。

 ピンポイント予報でいえば、行政区分が変わったとしても、予報は以前のままにしておくことだってできたはずだし、その方が住民にとっては便利だったはずだ。それができないところに問題がある。要は、どうすれば人が喜ぶのかを考えなければならないことが徹底されていない。

 もっとも、ピンポイント予報は気象庁のデータに基づき、民間の気象会社(Yahoo!の場合は財団法人日本気象協会)が分析した結果をあわせて提供するものであり、有料を覚悟すれば、本当にピンポイントの予報が得られるサービスも用意されているようだ。

 ただ、今回のスーパーコンピュータシステムの刷新で、気象庁から得られる情報の付加価値が増加したのであれば、予報の負担も少なくなるはずだ。それにともなって、もう少し合理的なスタイルの天気予報を提供できないものかと思う。Webで得られる無料のサービスだから、そこまでする必要はないというのは考えものだ。多くのポータルサイトが気象情報提供を受けている日本気象協会は公益法人で、国家公務員出身者もたくさん理事として迎えられている。だからというわけではないが、さらに公共の利益を考慮したビジネスを展開してほしい。まさか、過剰なサービスで民間を刺激してはならないという不文律があるわけでもなかろう。

●オリンピックは終わったけれど

 デジタルがもたらすことのできる改革を、法律や制度が通せんぼ。そして、人の意識も変わらない。放送と通信の融合から、天気予報に至るまで、暮らしをコンピュータに支えられながらも、こんなはずではなかった世の中を、ぼくらは生きている。

 オリンピックは終わったけれど、荒川静香の金メダル獲得滑走の興奮を、今もう1度、インターネットで見られない世の中なんて、なんのためのブロードバンドなんだか。いったいこんなことを、10年前に誰が想像したろうか。実にもどかしい。

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(2006年3月3日)

[Reported by 山田祥平]


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