第322回

Intel Mac投入で分岐路に立つMacintosh



 1月のMacWorld Expoで発表されたIntelプロセッサ搭載Macintosh。予想通りYonah改めIntel Core Duoの発表から間をおかずに発表されたが、そこで披露されたのはある意味予想通り、別の切り口では予想をさまざまな意味で裏切る製品となっていた。

 予想通りだったのは、プロセッサアーキテクチャを変更する最初の製品として、大きな冒険をせずに既存のフォームファクタをそのままに、中身だけを変える手法を採ったこと。一部には従来機との代わり映えがしないとの声もあるようだが、プロセッサアーキテクチャの変更という大きな変革期に冒険をするのは好ましいとは言えない。すでに競争力が乏しくなってきていたPowerBook G4をIntel化するだろうというのも、大方の見方通りの結果。

 また“Intel Inside”などのマーケティングプログラムを利用せず、あくまでも“MacはMac”として売り出しているのも予想された通りだろう(もっともIntelプロセッサへの移行には、かなりIntelの協力があるようで、発売に際してかなりIntelへの配慮は見られるが)。

 一方、個人的にデスクトップ機のファーストモデルはMac miniと予想していたのだが、見事にはずれてiMacが先に発売された。が、一番予想外だったのは、PCアーキテクチャとはやや異なる周辺チップの構成を採用した点。Appleはプロセッサとチップセットこそ、Intelが提供するコンポーネントを利用しているものの、その周辺インターフェイスやマザーボードデザインに関しては、独自性を保ち続けるようだ。

●従来機をほぼそのまま踏襲したデザイン

 写真を見ればわかることだが、Intelプロセッサ搭載の新型機は外観デザインに関して従来のPowerBook、iMac G5とほとんど変化していない。PowerBookに関しては、それでも厚みやバッテリ形状、ACアダプタ、iSightカメラの追加といった変化があるが、iMacに至ってはほぼ区別が付かない。

従来モデルとほぼ同じ筐体の新型iMac(左)と15.4型液晶を搭載したMacBook Pro(右)。MacBook Proは同じクラスのPowerBookと比べ、液晶が薄くなっている コードを引っかけても簡単に外れる磁石式のマグセーフコネクタを採用。その横にはExpress Cardスロットも見える。PCカードスロット廃止でPHS通信カードなどが利用できなくなるため、Bluetoothなどでカバーしなければならない

 この2機種が同時に開発されたのは、言うまでもなくモバイル向けプロセッサのCore Duoにピッタリと合った製品だったからだ。iMacは形状や採用するHDD、メモリモジュールこそデスクトップ向けを利用するが、中の作りはほとんどノートPCと同じである。

 登場のタイミングまではわからないが、このデザイン(設計)を基礎にiBook、Mac mini、そして他サイズのMacBookが開発されていくことだろう。現行Core Duoのシステムバスプロトコルは、そのままMeromやConroeといった世代にも引き継がれる予定というから、少しづつ改良やインターフェイスの追加(今回のモデルにはFireWire 800が装備されていない)を行なっていくことになるだろう。

 元々、消費電力の大きかったPowerPC G5向けにデザインされていたiMacは、Core Duoになってもファン騒音などは大きくなっておらず、メインプロセッサとGPUの両方に強い負荷(たとえばiMovieのレンダリングを行なったり、「Quartz Composer」でリアルタイムのエフェクトをガンガンかけるなど)をかけても、冷却ファンが騒々しくなったりはしない。見た目だけではなく、ユーザーが受ける体験としても従来機同様の品質を保っているようだ。

 一方、MacBook Proに関しては、外見以上にさまざまな変更が加えられているようだ。ただし、以下の話はまだ最終製品のものではない。現時点では日本には試作機しかなく、バッテリ持続時間や発熱に関してはチューニングを行なっているところである。

 MacBook Proは同じ15型クラスのPowerBook G4と比較すると、やや薄くなり、やや重くなっている。この主な理由は重量物かつ厚みに影響を与えるバッテリパックが更新されているためだ。新型バッテリは安価で高容量な丸形の18650タイプではなく、角形のセルを用いている。角形セルは同容量を実現する場合、丸形に比べて重量が重くなる上、新型バッテリの方が若干ながら容量が増加しており、主にこの部分で全体の重量が増加しているようだ。

 また、PowerPC G4とCore Duoでは後者の方が最大消費電力が大きいため、ACアダプタも85Wの新型アダプタ(サイズももちろん大きくなる)になっていた。

 ほかにはカメラ装備やリモコン操作用受光部などもあるが、ノートPCを狙っているユーザーにとって気になるのは発熱とバッテリ持続時間だろう。

●バッテリ持続時間は従来機並に?

 試作機ではプロセッサが搭載されていると思しき、キーボード左下に大きな発熱がある。ファンノイズは従来機と同程度で、高負荷時に気になる程度だが、発熱に関しては気になるレベルで増えているようだ。

 ただしアップルコンピュータ プロダクトマーケティング PowerBook/AirMac担当課長 福島哲氏によると「廃熱に関しては最終仕様で下がる予定」とのこと。

 実際の温度は一般的なノートPCに比べさほど高いわけではないが、アルミ外装のMacBook Proはプラスティック外装の一般的なノートPCに比べ、同じ温度でも体感温度が高くなる。特に底面はかなり熱く感じた。たとえば、同等のプロセッサを搭載するソニーの「VAIO type S(SZ)」などは、より薄くコンパクトな筐体でも発熱をほとんど意識させないレベルにまで抑え込んでおり、よりサイズの大きなMacBook Proも同等レベル以下に抑え込むことは可能だろう。製品版での改善に期待したい。

 バッテリ持続時間に関しても、同様にまだ公開できないとのことだが、試作機からACアダプタを取り外すと、4時間半前後の数字が出てくる。最終的な数字がいくつになるかはわからないが、スティーブ・ジョブズCEOが米紙とのインタビューで「従来機種と同程度になると思う」と応じており、おそらく“最長5.5時間”といった表記になりそうだ。

 実際にはデュアルコアのCore Duoになり、GPUもパワーアップしたことで、システム基板上に配置されたチップの消費電力は確実に増えている(発熱が増加していることが、それを端的に示している)。バッテリ容量増加もわずかなもので、本来ならばバッテリ持続時間は短くなるはずだ。

 そうした不利をカバーし、従来機と同等のバッテリ持続時間を実現できそうな理由は、主にディスプレイにあるという。液晶パネルが新型に変化し、バックライトの効率アップと液晶開口率のアップで、最大の明るさが70%向上。最大輝度時は従来よりも消費電力が大きくなるようだが、同程度の明るさならば新型の方が低消費電力となる。

●パフォーマンスは良好だが……

 筆者がIntelプロセッサ搭載Macintoshに興味を持っているのは、仕事で使っているデスクトップPCをPowerMac G5へと完全に移行させてしまったからだ。別段、Windowsに失望したわけでも、Windowsが嫌いなわけでもないが、デスクトップ機での主な作業になっているカラーイメージング処理を行なうにはMac OS Xの方が便利なことが多い。利用頻度の高いWebブラウザに関しても、互換性はともかく表示の見やすさではSafariの方がいいとも思う。

 しかし、日常的な業務を行なう上ではサーバ上で動作するミドルウェアを通じて、Windows機同士で連携させた方がずっと便利だ。現在は、なんとかMac OSとWindowsを共存させて使っているが、どちらか一方に統一した方がやりやすい。

 こうした複数台のコンピュータを連携させるアプローチとして、Appleは比較的個人ユーザーにフォーカスした機能の実装を行なっている。新型Macと同時に発表された「iLife '06」と、それに伴う.Macサービスの強化がそれに当たる。4GB容量のサーバを介して、個人ユーザーレベルで複数台のMacを簡単に連携させることができる。同様のアプローチをWindowsで行なうことも不可能ではないが、Mac OS Xと.Macの方がずっと楽に同じ事を実現できるのだ。

 もしMacBook Proのデキが良いのであれば、いっそのことノートPCもMac OS X環境に移行してもいいとも考えている。パフォーマンスの面でも、ハードウェアレベルでの障害はなくなった。あとは重量の重いAppleのノートを許容するかどうかだけだ(Windows機のような軽量ノートPCは、Appleには望めない)。

 しかしx86コードを含むユニバーサルバイナリでは高いパフォーマンスを示す新型Macだが、PowerPCエミュレータの「Rosetta」を通した時のパフォーマンス低下、互換性、それに消費電力(コードの翻訳時に電力を使う上、生成されたコードも最適化レベルが低いと考えられる)といった点で懸念が残る。

 たとえば互換性に関しては、普段利用している日本語入力プロセッサの「ATOK」がRosettaでは動作しない。すでにユニバーサルバイナリ版のテストが開始されている「EG-Bridge」を使うという手もあるが、互換性のために道具を変えるほど、WindowsノートPCに困っているわけではない。

 今後、AppleはIntelプロセッサでも、互換性やパフォーマンスに問題がないよう努力を続ける必要がある。おそらく時間が解決する問題ではあるが、互換性やパフォーマンスを証明する期間が長くなるほど、消費者の印象は落ちていく。

 加えて「積極的には取り組まないが、邪魔をするつもりもない」というWindowsとの互換性も、今後は話題になっていくだろう。Core DuoではIntel Virtualization Technologyが利用可能なため、Mac OS X上でVT対応PCエミュレータが走るようになれば、PCとMac、両方のアプリケーション環境を1台でカバーできる。すでにVMwareが対応の意向を示しているようだが、これらの評価が確定するまでには今しばらくの時間が必要だろう。

 純粋にハードウェアの魅力だけで比較すると、MacBook Proよりも各社気合いの入った新製品を並べたCore Duo搭載機の方がずっと魅力的だ。

 Macintoshが現在と同じ、デザインプロフェッショナル向けのニッチなコンピュータのままになるのか、それともWindows機とは異なる切り口でパーソナルツールとしてコンシューマ市場に一定の地位を築くのか。今、Macintoshは大きな分岐路にさしかかっている。

●前回の追記

 今回の話とは関係がないが、前回お伝えしたH.264HPデコード負荷の重さ問題に関し、いくつか質問が来ていたのでお答えしておきたい。

 まず“フルHDのH.264デコードが現行プロセッサでは間に合わない”というのは、GPUのH.264再生支援を用いての話だ。もちろん、フルソフトウェアデコードは行なえない。GPUの支援を用いてもギリギリというわけだ。

 H.264デコードで処理が重くなるのは、“算術符号化”されたストリームをデコードする時。算術符号を元に戻す場合、処理はシリアルに行なう必要があり、SIMDなどの並列化テクニックを利用できない。このため専用デコーダでは問題ないものの、ソフトウェアでループを組んでのデコードが厳しいという。動き予測モードが劇的に増加し、さらに同一画面内での動き予測も加わっている。

 情報によると、メディア転送レートのピークを20Mbps程度まで抑えれば、PCでのデコードも可能とのこと。このとき、バッファ内の読み取りピークレートは50Mbpsとなる。しかし、たとえば12Mbps平均とすれば8Mbps、16Mbpsの場合は4Mbpsしかピークで使える余裕がない。たとえばシーンチェンジなどで絵が切り替わった瞬間、圧縮歪みがパァーッと出てフレームごとにスッと収束していく、といった振る舞いになりやすい。

 一方、算術符号化を初期タイトルで使わないでほしいといった要望もあるようだ。ところが算術符号化を行なわないと、同程度の品質を保つために平均ビットレートは30%も高めなければならない(あるいは画質を落とす)そうだ。

 DVDが登場した当初も、PCでのデコードは厳しく、ほとんどの場合はコマ落ちしていた。しかしそれもすぐに収まり、今ではDVD再生の負荷が高いなどと思っている人は誰もいない。PCでの再生はそのうち問題なく可能になるだろう。対して一度発売されたパッケージソフトは、ずっとそのままの状態でユーザーが持ち続ける。どちらを優先すべきか、その答えは明白ではないだろうか。

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【1月20日】【本田】プロセッサパワーと次世代光ディスクソフトの気になる関係
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【1月11日】アップル、Intel Core Duo搭載の「iMac」
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【1月11日】アップル、Intel Core Duo搭載の「MacBook Pro」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0111/apple1.htm

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(2006年1月26日)

[Text by 本田雅一]


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