いよいよ姿を現してきたIntelの次世代コア。米サンフランシスコで開催中の「Intel Developers Forum Spring 2006」では、新Intel Coreはもちろん、さまざまなモバイルPCに関連した情報が開示されてきている。 IDFも2日目を終えた。ここでは、これまでに明らかになった情報をまとめてみよう。 ●“クロックを下げること”に注力した新Intel Core 新Intel Coreのマイクロアーキテクチャについては、多くの技術セッションがあり、その内容を詳しく説明する記事も別途紹介されているため、ここでは少し異なる切り口でIntelの新しいアプローチを見ていきたい。 今回のIDFでIntelが今後のプロセッサトレンドを語るとき、特に強調しているのは“クロックを下げる事が良い”としている事だ。消費電力や発熱に関して懸念する質問が出ても、“GHzこそすべて”と語り続けていた2003年ぐらいまでと比べると、まさに隔世の感ありといった感がある。 少しフラッシュバックし、プロセッサの過去の歴史を振り返ると、'90年代後半にはクロック当たりの性能を重視したPowerPCと、クロック周波数上昇を重視したAlphaのどちらがアプローチとして正しいかといった議論があった。これはそのまま、その後のAMD系アーキテクチャとIntel系アーキテクチャの考え方の違いにもつながっていったと思う。 この論争に決着をつけたのは、結局のところ半導体技術トレンドの変化だ。 以前は配線幅を狭くし、ダイ面積を小さくし続け、それに合わせて動作電圧を下げていけば、自然に消費電力も下がっていった。ところがある時点からこのルールは成り立ちにくくなってきている。ご存知のように、配線から電子が漏れるリーク電流の問題が出てきたからだ。 非常にザックリと言えば、高速なスイッチが可能なプロセスはリークが多くなり、リークを抑えたプロセスはスイッチングが遅くなる。電力をいくらでも無駄にし、プロセッサ負荷がゼロでも電気を捨て、電力増加による熱はなんとかして排除するといった力技の手法をとらない限り、高クロック化による性能向上は望めない。 これは法則であって、どんな半導体メーカーも逆らうことができない。そこで考え方を変える必要があったわけだ。クロック周波数当たりの性能を、工夫によって改善していくこと。これはBaniasに始まるPentium Mの考え方でもある。AMDのAthlonやAthlon 64なども、モバイル向けに最適化された設計というわけではないが、基本的な方向性は同じだ。しかし、クロック周波数当たりの性能を改善しても、徐々に性能を上げていけば、いずれは消費電力の問題を避けられなくなる。 マルチコア化の考え方は、クロック周波数当たりの性能を改善するだけでなく、より電力効率の良い、低いクロック周波数でプロセッサを動作させる事で電力効率を上げ、クロック周波数を下げた分、デュアルコア、マルチコアとすることでプロセッサ全体の性能を積み上げていくというものだ。 この考え方はなにもIntelだけのものではない。世の中のプロセッサがマルチコアへと同時期に進んだ事が、それを証明していると言えよう。ただ、単に“電力を効率改善のためにクロックを下げ、コア数を増やしました”だけではダメだ。その上で走るソフトウェアが、クロック周波数が高まっていく事を前提に組まれているようでは性能がスケーリングしない。 まずはマルチコア化で性能が向上するようなソフトウェアの作り方をすること。ここから開始する必要がある。この点、Hyper-Threadingを導入後、マルチスレッドプログラミングのツール提供や教育プログラムの実施を行なってきた事が、ここに来て生きてきている。 もう1つはクロック周波数に強く依存するアプリケーションへの対策も必要となる。動画のエンコードは、その代表的な例だろう。クロック周波数が下がるとSIMD演算パイプのスループットが落ちるからだ。「Advanced Media Boost」と名付けられた、SSE演算の強化は、クロック周波数低下のトレンドの中でもマルチメディア処理のスループットを下げないために実施されたものだ。 Advanced Media Boostとは、128bit長のSSE演算用レジスタを用いる演算で、内部処理を2回に分けていたものを1回で済むように幅を拡げたもの。これにより2サイクル必要だったSSEの演算は1サイクルで終了する。実際にはもっと複雑な話になるが、ピークスループットは2倍になり、クロック周波数を下げても(あるいは上昇させなくとも)性能が上がる。
●新Intel CoreとUMPC 新Intel CoreのTDPは、現行Yonahに比べて20~25%ほど上がると言われている。加えて来年登場のSanta RosaはNapaよりも(プロセッサ以外の)TDPが高いと言われている。最終的には製品が出てこなければわからない(計画時、サンプル時、製品出荷時でTDPが変化するのはよくある)が、現在と比較してファンレス機や小型機の設計が難しくなるとだけは言えそうだ。 ただし“熱く”なるかどうかと言えば話は別だ。Intelの見積もりが正しければ、新Intel Coreを採用するMeromは、機能の拡張や64bit化などによりトランジスタが増える反面、より省電力の工夫を推し進め、トータルではYonahと変わらない平均消費電力になる。 製品を設計する際の制限は厳しくなるが、エンドユーザーが感じる発熱は、Yonahと同程度になるだろう。ただしSanta Rosaにおいては、チップセット内蔵のGPUがどれだけ省電力設計になっているかに強く依存する。 超低電圧Pentium Mを使ってギリギリの小型化やファンレス化を行なってきたメーカーは、超低電圧版のシングルコアYonahは搭載できるが、(現時点で)デュアルコアしかないMeromの搭載は絶望的という弱音も聞くが、こればかりはその時になってみなければわからない。
この点に関しては既報したように、現行機では超低電圧版Dothanが搭載されており、その後、シングルコアの超低電圧版Yonahへと置き換えられるようだ。これはIntel副社長でモバイルプラットフォーム事業部長を兼任するムーリー・エデン氏が話したものだが、そのエデン氏にもう一度話を聞く機会があった。 エデン氏によると、現在TDPを低く抑えたシングルコア専用版のマスクを用意しているのはYonahだけだが、新Intel Coreに関してはまだわからないという。ただ、同氏は「それは良い視点だ」と話しており、まだ最終決定がなされていないという印象を持った。 おそらくUMPCや、シングルコア版の超低電圧版Yonahを使う製品がどれぐらい出てくるか、それらがどれだけ市場で成功を収めるか、といった要素が、新Intel Coreのシングルコア版を作るかどうかの意思決定に関わってくると思われる。
ともあれ、当面、そうした分野はシングルコア版Yonahが担当する事になるだろう。そして、Yonah世代で実績を作れなければ、シングルコア専用版のマスクを作成するという決断は、新Intel Coreではなされない可能性が高いと見られる。 ●デュアルコア世代のプロセッサとマッチするVistaの省電力機能 エデン氏にはデュアルコア世代のプロセッサとOSの省電力機能との関連についても訊いてみた。興味深いのは、同氏がMac OS Xの省電力制御を高く評価している点だ。 「Macの場合、業界標準のACPIでどのように省電力制御を行なうのかを考えるまでもなく、独自に省電力機能を実装し、OSからコントロールしている。だから彼らのサスペンド・レジューム速度は速いし、省電力という観点でも良い」とエデン氏。 Mac OS XはAppleのコンピュータでしか動作しないため、独自に理想を掲げて作ることが出来てしまう。これは以前からMacにある本質的な優位点(欠点でもあるが)だから、驚くべきことではない。しかし、Appleの製品をIntelの幹部が褒めるようになるとは。 それはともかくWindowsに関してはどうなのかというと、これも改善が進んでおり、Windows XPとWindows Vistaでは新世代コアとのマッチングが異なるという。IntelはMicrosoftと共同でWindows Vistaの省電力機能実装を進め、ACPI 3.0をベースにした業界標準を整備しているところとの事。 「VistaではWindowsの省電力機能やサスペンド・レジューム速度などは、かなり素晴らしいレベルにまで達する(エデン氏)」 Microsoftが出張で講演したVistaの省電力機能に関するセッションの資料によると、サスペンドやハイバネートからの復帰時、まずは画面の描画から行なうように変更することで、完全に復帰前から内容を把握し、部分的に操作が開始できるようにしているようだ。またサスペンド(S3ステート)から完全復帰までの時間が2秒以下になる事を目指して、それが可能なPCに対してのみVistaのロゴを発行するようになる。 また、特定のボタンを押した時、復帰や起動と同時に特定のアプリケーションが起動させる仕組みも提供される(再生ボタンを押すとプレーヤが起動して光ドライブのコンテンツを再生するなど)そうだ。
□IDF Spring 2006のホームページ(英文) (2006年3月10日) [Text by 本田雅一]
【PC Watchホームページ】
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